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模型戦記  作者: BEL
第1章 異世界へようこそ
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第5話 おっさんズ、反乱に対処する その2

 すぐに会議が開かれた。

メンツは昼と同じである。



「では話してくれ」



ウエルクに促され、偵察に参加した騎士が発言する。



「大きな魔物でした。

坂を結構な速さで降りてきて、前衛後衛に分かれた8名の騎士が近づくと、止まりました。

そして口のような所が大きな音と共に光ると、前衛の4名と乗っていた馬が大きな火と煙に包まれました。

煙が晴れた時、4名の騎士と4匹の馬は倒れ、動かなくなりました。

後衛の4名が駆け寄ったのですが、既に息は無かったようで、『ダメだった』の符牒(手ぶり符牒)を行いました」



それを聞いた執政官は



「4人もの騎士が即死したというのか」



騎士は答え、話をつづけた



「はい。

あんな攻撃は見た事がありません。

弓ではありませんし、魔法としても、あんな凄いものは見た事がありません」



それを聞いた神官は



「防具を付けた4名が即死する魔法など、王直属である近衛魔法団の魔術師でも使える者はあまり居りませんぞ」



と驚いた。

話は続く



「魔物は再び動き始め、駆け寄った騎士に近づいていきました。

そこで騎士たちは剣を抜き、突撃しました。

すると魔物は騎士の突撃に恐れをなしたのか、道を外れ動かなくなりました。

そして好機と見た騎士たちが斬りかかったのですが、どうも効果が無かったようで、魔物はびくともしません」


「その魔物は固い鱗に覆われているのか」



執政官の問いに騎士は



「残念ながら判りません」



と顔を伏せた



「どうした?」



執政官の問いにはウエルクが答えた



「その4名も帰らぬ人となったのであります。

直接対峙した者が戻らなかったため、詳しい事は判らないのです」


「なんと」



執政官も気を落とす。

ウエルクに促され、騎士は続きを話す。



「彼らは何度も切りつけましたが、効果が無く、そのうち魔物の影より人のような物が現れたのですが、何か不思議な力で次々と騎士は倒れたのです。

3人が倒されたところで、残った一人が撤退を試みましたが、少し走ったところで倒れてしまいました。

このため、魔物と直接戦った者は全滅してしまいました。

私は遠くから見ていたのですが、魔物が再び大きな咆哮を上げ、火煙を周りにまき散らし始めたため、街の城門まで撤退しましたが、その城門付近まで魔物の火煙は届きました。

その後も魔物は動くことなく、我々が撤退すると咆哮を上げるのを止め、その場に居座っています。

監視の兵を残してありますので、動きがあれば報告します」


「そうであったか」



執政官の声に騎士は声を震わし



「申し訳ありません。情報収集の偵察に出たのに、無様な失態を晒し、8名もの騎士を失ってしまいました」



と謝罪した。

それを聞いた領主は



「ああ、まて、泣かないでくれ。そなたらはよくやった。ありがとう。下がってくれ」


「はっ」



敬礼すると騎士は部屋を後にした。


執政官は腕を組み



「しかし、魔物か」



とつぶやく。



「英ちゃん、どう思う」



秋津の問いに大英は



「音と共に光って、離れたところで爆発。

そんなブレス聞いたことないな。

ファイヤーボールでも吹くのか?」


「だよなぁ」



大英は執政官に問う。



「今のお話に合致するような魔物に心当たりはありますか?」


「いや、全くありません。

というか、そもそも魔物と呼ぶような存在は最近出没するようになったものですから、誰もなじみは無いのです」


「なら決まりだね。

これは邪神が関わっている」


「私もその見解に賛成です」



神官も賛同の発言をし、それが統一見解となった。


第3騎士団の謀反には邪神が関わっている。


召喚も成功した以上、謀反を鎮圧するのは「み使い」の使命である。



「魔物がどんなものか直接確認したいな」


「危険です、魔物の咆哮は城門そばまで届きます。

それとて、魔物の全力かどうか判りません」


「しかし、見ない事には対策もピント外れになりかねないし」



情報は大切である。


「戦いは始まる前に勝敗が決まっている」


これをモットーとする大英にとって、情報は何よりも重要なものなのだ。


とはいえ、ここの騎士達は情報より武力を重要視している。

長らく戦が無かったことや、戦う相手が何であれ、することは変わらないという事が彼らの情報軽視に繋がっている。

偵察を出したまでは良かったが、切りかかった上全滅という結果も、この考えと無関係ではない。


そこで秋津が発言する。



「城門に近づかないでその魔物を見る方法はないのか?

多少遠くても望遠鏡があるから問題ないだろ」



そにはウエルクが答えた



「あります。

反対側の東門から出て北に向かい、街を迂回して西に進めば、間に丘があるため気づかれないでしょう。

ただ東門からの街道から北の街道に進むにはかなり遠回りになりますが、クルマの速度ならそう気にしなくても良いかもしれません」


「よし、それで行こう」



だが既に日は傾き、これから夜になる。

今から出かけても、真っ暗で何も見えないだろう。

偵察は明日行う事となった。



 翌日


例によって秋津の運転で大英、それに護衛役のビステル、それに昨日報告に来た騎士の4人で向かった。


助手席に座るビステルの気分は沈んでいる。



「私にはまだ信じられません」



秋津は運転しながら話をする。



「ビステルさんはボストル団長と親しかったのか」


「ええ、私が幼少の頃より指導を受けてきました。

近衛騎士隊に入れたのも、ボストル卿のおかげです」


「謀反を起こしたようなのに、ボストル団長の事を悪く言う人は居ないよな、相当人望がある人なんだな」


「ええ、何かの間違いではないかと思いたいです」



とはいえ、送られてきた書状はしっかりゴート=ボストルの名で出されている。

実体はともあれ、少なくとも見た目にはボストル団長率いる第3騎士団の謀反である。



「まもなく頂上です、超えると間もなく第3騎士団の詰め所が見えると思います」


「じゃ、ここで止めて」


「うん?なんでだ」


「こっちから見えるという事は、向こうからも見えるだろ。

迷彩してない銀色のクルマは目立つかもしんない」


「おお、そうか」



大英の提案を受け、秋津は車を止め4人は歩いて先に進む。

やがて第3騎士団の詰め所が見えてきた。

その詰め所から西の城門までの道の途中に、何やら箱型の物体が鎮座していた。



「あれです。あの四角いモノが魔物です」



昨日さんざん騎士たちを苦しめた「魔物」。

その四角い姿は、どう見ても生き物ではない。


大英は地上望遠鏡で見てみる。

四角い物体の上に短い棒が突き出た箱が乗っている。

地面近くには小さな丸い物が並んでいる。



「戦車…だな」



魔物とは戦車の事だったようだ。

大英の記憶によれば、合致する戦車は4号D。

戦車についてより詳しい秋津に双眼鏡で見てもらう。



「間違いない。4号Dだ」


「でも何か違和感があるな」


「そうだな……」



4号は全く動く気配を見せない。

昨日の話からすると、盛大に発砲していた事になるが、今日はまるで死んだように固まっている。


騎士たちはあの4号を魔物と呼んでいた。

戦車タンクという概念すらない。

したがって、あの4号は本来この土地、いやこの世界には存在しないものだ。

しかし、当然ながら二人が感じている違和感はそこではない。

そこで秋津が気づいた。



「あれだ!」


「ん?」


「砲塔横の部隊マークが傾いとる」


「おお」



4号は坂の途中やや下向きに止まっている。

砲塔はやや左というか、当人にとってはやや右を向いている。

その側面の部隊マークが、やや傾いて描かれているのだ。



「ありえると思うか?」


「ありえないな」


「だな。アレは『ドイツ軍』の戦車じゃない」


「それはどういうことなのでしょう」



ビステルの問いに大英は説明する。



「あれは、ウチらの6ポンド砲と同じ、模型から召喚したものだと思われます」


「!そんな、ボストル卿の元にもみ使い殿が?!」


「可能性は高いと」



秋津も確認する



「となると、邪神のみ使いと言う事になるのか?」


「だろうね……」



これは参りましたね。

大英はオークとコボルトを相手に方針を立てていて、戦車を相手にする事は予定外。

これまでに召喚したものも、最初の2門の対戦車砲と、同じく2門のバズーカ砲(M21と機関銃チームに付属)を除き、戦車と戦う事には向いていない。

だが、敵に「み使い」が居るとなると、当然の懸念がある。


大英がつぶやく



「アレ1両じゃないよな」



秋津も



「だろうな」



と応じる。


大英は三脚を立てて地上望遠鏡を固定し、第3騎士団の詰め所を見る。

明らかに戦車と思しき車両が3両見える。



「居やがりますよ」



倍率を30倍までズームし、よく見る。



「マズイ。あんなのが相手かよ」


「どうした」


「見てくれ」



秋津の双眼鏡は召喚した兵士から借りてきたもので7倍固定のため、30倍にセットされている地上望遠鏡をのぞき込む。



「うお、冗談だろ」


「いきなりアレだもんなぁ」


「どうされたのです?」


「いやー、敵は非常に強力です。見てみますか?」



ビステルも地上望遠鏡をのぞき込む。

そこには、昨日猛威を振るった「魔物」と同様の物が3つ程並んでいるのが見えた。



「あ、あんなのが3つも……」


「しかも、あれらはそこに止まっている4号よりも遥かに強力なのです」


「そ、そんな……」



そう、それは5号パンテルと6号ティーゲルI、それにティーゲルIIまで居たのだ。

話を聞いて昨日4号と対峙した騎士は腰を抜かしてしまった。

3両の中には色がライトグレーの車両もあった。ドイツ軍の戦車でそんなライトグレーのものなど聞いたことが無い。

どんな趣味か知らないがライトグレーに塗ったか、無塗装で地色がライトグレーなのだろう。

やはり模型で間違いない。



「今すぐ用意できる戦車はあるか」


「T-34/85ならすぐ用意できる」


「T-34じゃ厳しいな。他は?」


「一応61がいけると思う」


「え、戦後のもいけるのか?」


「60年代ならなんとか。伊達にいくつも召喚してた訳じゃない。経験値もそれなりに稼いでる」


「そうかぁ、だけど厳しいな。数的劣勢じゃ、61じゃ質的優位だって無いし。もう2~3両欲しいな」


「うーん、これ以上は難しいかな。いわゆるMP切れだ。61だって本当は怪しいくらいだ」


「うお、そうか、無限じゃないもんな」


「だけど、それだけが問題ではない」


「他にもあるのか?」


「もう呼べそうな完成している1/35の戦車は無い」


「え?ヤークトティーゲルは?」


「あれ重すぎ。あれを召喚したら、それだけで終わる。34&61のほうがマシ」



どうやらサイズというか重量も召喚コストに影響があるようだ。

ちなみに61とは陸自の61式戦車の事。

90ミリ砲ならティーゲルも撃破できるが、それは向こうも同じこと。

いくら戦後の戦車といっても、88ミリロングが直撃すれば無事では済まない。

なにしろ、真偽はともかく61式は戦時中のドイツ戦車に劣るとか言う主張も見たことがあるし。



「厳しいな」


「全くだ。いくら61でもティーゲル2両はきついのに、34が負けたらパンテルの相手までやらされる事に……」


「砲はどうだったかな」


「6ポンドとPak40がある。ちょっときついがパンテルやティーゲル1くらいならやってくれるかな。でも厳しいなぁ」



ビステルは尋ねる。



「そのロクイチと言うのは、あの3つの魔物より強いのですか」



大英が答える。



「うーん、ある面では強いのですが、別の面では弱いですかね」


「という事は互角ですか」


「まぁ、向こうはこっちに戦車や対戦車砲がある事を知らないから、そこがねらい目ですかね」


「ならば勝てそうですね」


「それがそうとも言えないのです」


「というと?」


「そうですねぇ、100vs100でやりあえば、結果は予想できますが、2・3両同士の戦いでは、何が起きるか判りませんから」


「ああ、なるほど」



ビステルは仮にも戦いに通じた騎士である。

戦車戦の事は知らなくても、集団戦と個人戦の違いは判る。


ちなみにコレはさいころでも説明できる。

1個振って、どの目が出るかは全く予想できない。1~6で6倍も違う。

だが、10個振れば、合計は35前後になると予想できる。

10や60になる可能性はほぼゼロで、数回繰り返しても最小と最大の差は2倍も違わないだろう。

(ほぼ30~40の間に収まる[約69%]。25~45まで範囲を広げれば95%収まる。それでも、2倍以内。)

つまり数が増えると、結果は予想がつきやすいが、少ないと予想できないという事なのだ。


なお、「西暦一万年」という本でも同様の事を説明している。

一人の人間が行うことを予想することはできないが、何億人が行う事なら予測できるという話。


それに多数対多数なら戦術の幅も取れる。

一部を機動戦に回したり、囮にして十字砲火に誘ったりという事も出来るが、2両ではそうもいかない。



「戻ったら、速攻で戦車を用意しよう。敵がいつ動き出すか判らんからな」


「そうだな」


「だけど、その前に作戦を立てておこう」



大英の言葉に秋津は



「え、今か?」


「そう、戦場はそこになるから、見ながらのほうがいい」


「なるほど」



二人はその場で作戦を協議する事とした。


用語集


・西暦一万年

西暦一万年までに起きる出来事を科学的に予想した本。上下巻に分かれている。

その中には金星のテラフォーミングや、木星を解体してダイソン環天体を建造などの様々な未来計画が書かれている。


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