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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第42話 おっさんズと海の戦い その2

 その日、契丹はリサエル達と港町を散策していた。 ふと、ボトエルが立ち止まって、ある一団に目を向けた。

契丹はボトエルに聞く。



「どうしました、ボトエルさん」


「いえ、あちらに魔術コンバーターの反応があります」


「魔術……なんです?」



 契丹には聞き慣れない言葉で、リサエルは驚く。



「そんなまさか、本当ですか」


「はい、あちらに居る傭兵と思しき集団です」


「おかしいでは無いですか、魔術コンバーターは魔獣の固有スキルを世界適応改造で魔法変換するために使う装置。 人間には固有スキルなんて無いはず」


「その通りですが、実際反応が出ています」



 ボトエルは手にした端末をリサエルに渡す。



「……本当ね。 わかったわ、貴方はあの一団について調べてください。 契丹様、しばらくこの町に滞在する事になると思いますが、構いませんね」


「ええ、もちろんです」


「それにしても、遠目には見えない小型魔獣でも連れているのかしら」



 バジリスクならバッグの中に潜ませることもできるかもしれないし、もっと小さな魔獣もいるかも知れない。

リサエルはキリエルに、他に魔獣狩りをしている天使が居ないか聞いてみる事にした。

要は「ム・ロウ陣営」で魔獣狩りが行われた形跡が無いかという事だ。


 人気のない所に移動し、通信のウインドウを開く。



「え? それは無いと思うけど。 ちょっと待って、マリエルに聞いてみる」



 衛星や基地局のログを調べた限りでは、ここ最近既知の異世界への扉を開いているのはマリエルのみで、他に形跡は無かった。



「そうですか、ありがとうございます」


「何かあったの?」


「それが……」



 リサエルは事の経緯を説明する。



「何だろ。 魔獣はみんな揃ってるから、逃げ出したものは居ないはずだけど、後で確認してみるわ」


「お願いしますね」



*****



 今日も大英達は飛行場に来ていた。

今回は本当に飛行機の召喚である。



「1/350の召喚も大分慣れてきたと思う。 そこで、今日は一気に10機召喚してみたい」



 日々経験を積んで召喚可能数は増えている。 この間は車両4両だったが、昨日は6両まで増えており、まだ余裕も感じられていた。

そして、大英が地に置いたのは双発爆撃機が10機だ。



「おいおい、B-25じゃないか。 軽戦車より重いだろコレ」



 秋津の指摘の通り、12トンクラスであり、九七式中戦車よりは軽いが、10トンに満たない九五式軽戦車と比べればずっと重い。

召喚負荷は年代が同じならサイズと質量の影響を受ける。

複数同時召喚なので、単体召喚より負荷は大きくなるが、単純計算なら120トン越えだ。


もっとも、駆逐艦と比べれば桁が違う「軽さ」だがな。



「まぁ、大丈夫じゃないかな。 午後の召喚は休むかもしんないけど、経験獲得なら、回数より負荷の方が効果大きいし」



 要は、簡単な事を2回やるより、難しい事を1回やる方が成長を望めるという話。


 かくして、召喚は実施された。

大英、パルティア、ハイシャルタットの3名は意識を失うことなく、召喚を完遂した。

大英とパルティアは以前61式召喚を経験しているので、それと比べれば大した事無いという感想。

一方、ハイシャルタットはこれまでにない疲労を感じたようで、「とても疲れました」とふらふらした足取りで語ったという。


 とりあえず、予想通りという訳では無いが、午後の召喚は休む事にした。


 さて、現れたのは10機のB-25B。

元キットはHORNISTの1/350「North American B-25B Mitchell」。

本来は空母ホーネットの付属品を単体販売したものらしい。

なにしろ、シリーズ名は「1/350 SCALE AIRCRAFT SETS FOR AIRCRAFT CARRIER」というので、空母の搭載機だ。


 大英は整列するB-25を見て「何とかなったね。 これならそう遠くないうちに初月に挑戦できそうだ」と安心した様子を見せる。

初月は1/200の駆逐艦。 1/350より負荷は低いが、基準排水量2千7百トンのデカブツである。

実際は色々積んだ状態だから、もっと重い。


そういう意味では、双発機10機程度でフラついている場合ではない。

とはいえ、これまで1/72や1/144の機体を1機ずつ召喚していたのとはかなり違う。

「爆撃機が爆撃」から「爆撃隊が爆撃」になりつつある。


……のだが、実は1/350の航空機セットはそんなに多くない。

そのほとんどは艦載機セットだ。

なので、他にも双発機が次々と登場する事は無い。 残念至極。



*****



 勇者一行は教会に来ていた。



「ここが教会……信じる対象が違っても造りは同じか」


「そりゃそうでしょ。 宗教としては一緒なんだから」



 ロンデニウムの感想にルテティアが突っ込む。 いつもの光景だ。

そして、一行は中に入る。

シスターが彼らを見つけ、話しかけてくる。



「どうされました」


「はい、私たちは旅の商会に付き従う傭兵隊です。 行く先々の教会で説話を聞いているのですが、こちらで何か独特なお話などありましたら伺いたいのですが」


「承知いたしました。 しばらくお待ちください」



 シスターは奥へ下がると、まもなく司教が現れた。

そして、司教はこの港町に伝わる「昔話」を語った。



「……という事です。 如何ですかな。 お役に立てましたかな」


「はい、大変勉強になりました。 私たちは武芸を磨くばかりで、こういったお話を聞く機会が少なかったもので、助かります」


「それはよかった。 また、いつでもいらしてください」


「はい」



 一行は教会を後にすると、夕食を摂るべく酒場へと向かう。

すると、ウィンドボナが足を止めて皆に語り掛ける。



「ちょっと待って、あたしは少し用事が出来たから、後で合流する」


「どうした? 用事って何だ?」


「あたしの勘違いなら良いんだけど、誰かに付けられてる気がする」


「おいおい」


「何処の者だろうな。 やっぱり王国の関係者かな。 だけど領主も居る地で中央から来るかな」



 テノチティトランは頭をひねる。

まだ何も怪しい事はしていない。 まぁ商会は大公国の関係者という点からすれば、何らかの監視はあるかも知れない。



「どうだろうね。 こっちにもニンジャみたいな者が居るのかどうか。 とにかく軽く見てくるよ。 店はいつものだよね」


「ああ、早く来いよ。 ボナの分は取っておかないから」


「やれやれ、それじゃ手早く済ませてくるか」



 ウィンドボナは一人別れると、雑踏の中に消えた。



*****



「契丹殿、リサエル、ただ今戻りました」



 調査をしていたボトエルは契丹達の宿へ姿を現す。



「ご苦労様です。 どうでした」


「はい、コンバーターがあるのは間違いありません。 各人に一つ反応が確認できましたが、その反応は体内ではありませんでしたので、各々が何か魔獣を連れているのかも知れません」


「そうですか」



 魔法には詳しくない契丹が問う。



「質問なのですが、そのコンバーターというものは、生体に埋め込むものなのですか」


「ええ、魔獣は人間のように道具を使いませんので……って、ちょっと待ってください。 ボトエル、コンバーターって『体外』にあっても使えましたっけ?」


「!! そうでした。 人間ならアイテムとして持つ事が可能。 魔獣を連れているのではなく、コンバーター自体をアイテム化している可能性があります」



 そこへ、キリエルからの通信が届く。



「魔獣舎調べたけど、行方不明な魔獣は居なかったわ」


「ありがとうございます。 それで、確かこの間トウリでガルテアの人間を見たと言われていましたよね」


「ええ、そうだけど。 それとこの話に関係が?」


「大ありです。 地上にガルテアの人間が来ている可能性があります」


「まさか!」



 キリエルはマリエルを呼び、リサエルは二人に事情を説明する。



「そうか、天使ならコンバーターは使わないものね」


「ええ、リサエルさんの言われる通り、コンバーターを必要とする人間は異世界人だけですわ」


「でも、早くない? ついこの間見かけたばかりなのに」


「初めからレムリア(地球)に送るつもりで準備していたのかも知れません」


「やはりマリエルさんもそう思いますか。 キリエルさん、映像を送るので確認してもらえますか」



 ボトエルが撮影した「傭兵の映像」を見て、二人は確信する。



「間違いない、この五人だよ」


「すぐにレリアル様に報告しましょう」



 報告を受けたレリアル神は、リサエルに当該集団の監視と目的の調査を命じたのであった。


用語集


・魔術コンバーター

コカトリスなら石化スキルをこの地の石化魔法に変換するのが世界適応。

この世界適応を実現するために、魔獣の体内に組み込まれる。 小型の魔獣にも入れられるので、サイズとしては非常に小さいものである。

(必要な出力次第で大型化もするが、当然大型が必要なのは大型の魔獣になる)


なので、スキルや変換の必要がある「別法則の魔法」を持たない「この地の人間」や「召喚天使」に組み込まれているとは考えられない装置だ。

なるほど、リサエルが「そんなまさか」と言うはず。


なお、この地の大気中にはマナの類は存在しない関係で、魔法やスキルの類を使用中か否かに関わらず、常時稼働している。

ボトエルの端末が反応を検知したのは、このため。



・10機のB-25B

某wikiによると、別型(B-25J)だが、戦闘重量:27,400lbs (12,428kg)とある。

なお、キットには下部銃座が存在しているので、「普通の」B-25Bとして召喚されている。

(本来のドーリットル攻撃隊の機体は下部銃座は撤去されているという話)


リサーチミスなのかも知れないが、合致する機体が実在するのと、1/350のためマーキングが汎用のものしか無い事もあり、ドーリットル仕様ではなく一般仕様のB-25Bが出現した次第。

おかげで通信機やノルデン爆撃照準器完備である。



・HORNIST

中国の模型メーカー。 WR社と提携していた事でも知られる。



・ニンジャ

ファンタジー世界恒例の諜報員。

忍者とは違うと思う。

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