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模型戦記  作者: BEL
第7章 大公と勇者
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第41話 勇者登場 その2

 毎朝何がしかの物体が神殿部屋に届くが、その日届いたものは……。


 早起きな秋津が取りに行くと、神官は「今日の賜り物はとても重いようです」と告げた。

それはやたら重い段ボールの箱だったが、見慣れたロゴが付いていた。



「ほう、今日は缶コーヒーか」



 コーヒー好きな秋津だが、この地にコーヒーは無く、ここ暫く遠ざかっていた。

とりあえず、いつも通り会議の場に運び込む。

今日は先日までの戦いについて行われた後始末も一段落し、今後についての話もあり、リディアとパルティアを始め天界メンバーも含む多人数で長さも長い会議となった。


 とはいえ冒頭は普段通り「賜り物」についての事だった。



「これは秋やんが全部貰えばいいよ」


「そうか、すまんね」


「これは、何なのですか」



 ビステルの問いに秋津は「コーヒーという飲み物だよ」と応えると、箱を空けて1本取り出して彼に渡した。



「これは、この砲弾のようなものが飲み物?」



 幾度か砲弾を見た事のある彼の目には、金属製の筒は砲弾に見えなくも無い。

なにしろ、この地で飲み物は(かめ)に入っている状態で保管され、それを食器や携帯用の袋に取り分けるので、金属製の筒に入っていて周り全てが覆われているという物体には馴染みがない。



「こうやって開ける」



 秋津はもう1本取り出して、開けて一口飲む。



「おー、この味、久しぶりだ」



 ビステルも真似て開ける。



「うわ、こんな仕組みなんですか」


「飲んでみ」


「はい」



 飲んでみると、難しい顔になる。



「こ、これは、苦い……ですね」


「この苦さが良いんだよ」


「何かの薬なのですか」


「いや、そんな事は無いぞ」



 苦いと聞いて、ゴートも「なんじゃ、酒か?」と目を向ける。

ここで言う酒とはビールのようなものなので、確かに苦みもあるのだが、当然コーヒーとは違う。

ビステルは「飲んでみてください」と缶をゴートに渡す。 それを飲んで彼も納得する。



「ほう、確かに酒とは違うのう」



 まぁ、慣れない飲み物なので、「美味い」という感想は出ないが、口に含んでいきなり吹く様な事は無かった。

だが、大英は見てるだけなので、ゴートは問う。



「大英殿は飲まぬので?」


「あー、ブラックなんでね」


「ブラック?」


「ミルクが入っていないのは苦手なんですよ」



 そう、このコーヒーはブラックコーヒーだったので、ブラックが苦手な大英は全部秋津に渡す事にしたのである。



「なるほど、今日のはコーヒーという飲み物と。 嗜好品という事で良いのかしら?」



 会議室に浮かんでいる映像の主が大英に問う。



「そうですね。 その分類で合っています」


「了解」



 アキエル(映像の主)はデータベースを更新する。

天界は何も伊達や酔狂で現代の物品を送っているのではない。 もちろん、大英達の精神安定をサポートするというのが第一の目的だが、二一世紀の物品についての調査も兼ねているのだ。

それに、様々な属性情報(質量やサイズ、材質など。 直接聞いている「用途」もここに含まれる)を得る事で、現状はほとんど「あてずっぽう」になっている物品選別を、ある程度でも制御できる様にしたいという目標もあるのだ。



 さて、こんな感じで始まった会議だが、会議自体は真面目なものだった。

先日までの現用兵器との戦いと、それが消失した経緯から、レリアル陣営にモデラーが居て、それが何らかの理由で急死したという推測が行われ、この事を踏まえ今後の対策方針が話し合われた。


 ここではその話の中、リディアの質問について記そう。



「いまのお話だと、向こうのみ使いさんが死んだって事だよね。 また新しいみ使いさんが来るのかな?」


「そうであるな。 狭い定義のみ使いであれば、今回二人目となるが、以前現れたキッタンと申した司教も召喚された者であるから、広い定義ではかの者もみ使いと言って差し支えなかろう。 となれば、三人も居たのだから、四人目が現れる事は十分考えられる」


「倒したら次が来るって事かな」


「むう、最初の男は確かに倒したが、キッタン司教はどうなのだろうな。 スブリサでは最近見かけないが、遠くの諸侯領でその姿を見たという報告もある。 今回の者は死亡したという推測はあるが、本当に死んだのかどうかは判らないし、死んだにしても死因は不明。 我らが『殺した』という確証も無い」



 ゴートの見解を受け、何か疑問が浮かんだようだ。



「なら、『居なくなった』で考えてみるけど、何度居なくなっても次が来るって事よね。 これ、いつまでも終わらないんじゃ……」



 それを聞いたゴートは大英と秋津の方を向いて問う。



「ふむ、普通の戦では将の首を取れば決着が付くが、此度の戦いは(いくさ)ではあるが、将の首を取る事は出来ぬのでありましたな」


「そうだなぁ。 み使いや天使への直接攻撃は禁則事項だから……、まてよ、敵のみ使いが死んだとして、その原因がこっちの攻撃だとしたらどうなる? 飛行場攻撃のタイミングが近いみたいだが、もしかして爆撃に巻き込まれたとしたら……」



 その秋津の疑問にはアキエルが答えた。



「そうだとしても、事故は禁則に触れたとはみなさないから大丈夫よ。 もし引っかかっていたら、とっくに何かの処分が出されてるわ」


「そうか、そうだよな」


「ゴートさんも『知らずにやった事』だからお咎めなしだしね」


「おお、そうでありましたか」


「で、リディアちゃんの質問だけど、少し変わったルールはあるけど、コレは戦争。 儀式とかじゃないから、何かをすれば勝利といった決まりは無いわ。 どちらかが降伏する時が終わるときよ」


「そっかぁ、で、どうすれば降伏するのかな」


「そうね、前例も無いし、大昔の記録もあまり残ってないからはっきりしないけど、やっぱり『これは勝てない』と思った時じゃないかな」


「つまり、普通の戦と同じであるか」



 アキエルの説明を聞き、ゴートはそう理解した。 それはリディアも同じだ。



「という事は、沢山の神獣で圧倒すればいいのかな」


「そうかもしれぬ。 地道であるが相手の戦意を挫く事が勝利への道なのであろう」



 大英も補足する。



「数だけでなく質も大事かと」


「そうですな。 あの『びぃじゅうなな』などは、その巨体が空を飛ぶ様を見ただけで、絶望した者も多いと聞く」


「そういう意味では、まだまだ敵さんも『驚く』事はあっても、『勝てない』と思ってはいないって事ですよね」



 大英の問いに、アキエルは「そうねー、まだまだ先は長そうね」と答えるのであった。

撃退したとはいえ、マカン村はこれまで以上に大きな被害を受けており、向こうも「事態は改善している」と考えている可能性は高い。

その場合「押されている」のはこちらになるので、降伏など全く考えていないだろう事は予想できる話なのだった。



「これは、今後も驚く事が続くという事なのですね」



 ハイシャルタットは、現状でも戦いがもう想像すらできない領域に進んでいるのに、それをさらに超える事になると言う事に圧倒されていた。

秋津が「まぁ、そうだな」と答えると、ハイシャルタットは地上の民の感覚を示す。



「私であれば、いや、地上の為政者であれば、もう降伏しているでしょう。 神々の戦いはすごいものですね」



 だが、それには大英は一言あるようだ。



「そうかな、大公は降伏する気はないみたいだけど」


「そういえば、そうでしたね。 でも、あの方は海の向こうに逃げているので、神獣と言えども攻めては来れないと思っておられるのでは無いでしょうか」


「まぁ、飛行機は行けても帰らないといけないからねぇ」


「ですよね」


「でも、いつまでも海が自分の物だと思っているとしたら、それは間違いなんだがな」


「海ですか、海を行く神獣……そういえば、居ましたね。 大公自慢の船団の相手は厳しそうですが……」


「今はね」


「それは楽しみね」



 アキエルは「海を行く神獣」に興味を示す。 大英はそれに応える。



「間もなく召喚しますよ。 今は戦車不足の解消が先ですが、それが済む頃には行けるはずです」



 その語調から、大英自身も楽しみにしている様子が伺えた。



 その後、今後の方針について話し合いが行われたのち、食事の時間となったのであった。

この日は普段より長い会議となったたため、午前の召喚は無しで、午後のみであった。


 そして、午後の召喚は今までとは違う小さな物からとなった。



「うわーちっさー」


「これは、また随分小さな」


「本当ですね」



 リディア、ハイシャルタット、パルティアは各々感想を漏らす。

大英は皆に告げる。



「遂に1/350がいけそうなんで、まずは一つ試してみようと思う」



 こうして、召喚が実施される。

リディアを除く三人には大きな疲労感があったが、それでも意識を失ったりはしない。

そして出現したのはM5軽戦車。



「こんな大きな……いや、小さなというか、何と言うか複雑な気分です」



 ハイシャルタットは混乱している。

まぁ指の先ほどの小さな模型から現れたと思えば「思ったより大きい」のだが、戦車としてみれば「小さい」。

こんな小さな戦車一両の召喚でこんなに疲れるというのも、混乱に拍車をかけていた。


 元のキットは「WORLD AFV SERIES」という1/350キットで「アメリカ陸軍戦車-I」というセットだ。

外にM10や定番のM4が入っている。

今回は一番負荷が低い軽戦車を選んだものである。



「これなら、一回二両、一日四両のペースで召喚できそうかな。 大丈夫?」



 大英は実際に召喚した負荷から、ペースを計算し、パルティアの様子を聞く。



「はい、大丈夫です。 がんばります!」



 笑顔で応えるパルティアを見て安心する。



「1/350は制作期間も短いからすぐに数が揃えられる。 在庫自体はあんまり無いけど、一箱にたくさん入っているからね」



 「WORLD AFV SERIES」にはこのアメリカ陸軍以外に、ドイツとソ連のセットが各々1箱ある。

他メーカー製の日本陸軍1/350車両セットもあるが、確かに在庫数としては少ないだろう。

それにどれも第二次大戦の車両しかない。



「まずは数か。 現用戦車対策はどうする」



 秋津の心配はやはり現用戦車対策だ。



「そっちは空から叩くしか無いかな。 飛行機は一回使ったらおしまいなのが辛いけどな」



 戦車と違い、飛行機は一回の出撃で爆弾もロケット弾も使い切ってしまう。

本来なら補給して反復攻撃するのだが、ここでは載せるべき爆弾やロケット弾の在庫は薄い。

キット自体にバリエーション用に多数装備品が付属しているならともかく、1パターンしかないキットも少なくない。



「ま、地道に進めていくさ。 そのうち1/35の10式も召喚できるようになるだろうし、1/700が召喚可能になれば、現用を含む車両セットもいくつかあるから」



 真面目にやっていれば、時間が解決してくれるという訳だ。



 こうして、次への準備が進められているのだが、準備を進めているのは彼らだけではない。

そして、準備すべき相手もレリアル陣営だけでは無い事をまだ知らない。

用語集


・ブラックコーヒー

砂糖入りだと見た目は変わらないが、それはブラックコーヒーとは言わないと思うが、違う意見もあるかも知れない。

今回の缶コーヒーは無糖なので、細かく言ってもブラックコーヒーである。



・儀式とかじゃないから、何かをすれば勝利といった決まりは無いわ。

この戦いは「天使率いる軍団による『代理戦争』」で、戦闘用魔法を行使しての直接戦闘は禁止されていたり、直接天使(み使いを含む)を狙っての攻撃(暗殺等を含む)は禁止されているとはいえ、あくまで戦争。

ゲームではないので、ルールとして「勝利条件」は定義されていないのであった。


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