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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第40話 おっさんズと戦いの後始末

 敵のM1が朽ち果てて2時間が過ぎた。

新たな敵の出現も無く、今回の戦いは終了したものと判断し、大英はマッカーサーに空中哨戒の解除を指示した。

とりあえず、日が暮れるまでは対地・対空用航空機の緊急発進態勢は維持するとしても、最上級の警戒体勢は必要なくなったとの判断だ。


 同じく、アンバーからの部隊に帰還命令を出した。


 一通りの指示が終わると、大英達は村の様子を見て回る事にした。

まずは前線になっていた南に向かう。 秋津の口から周りの様子を見た感想がこぼれる。



「こりゃひでぇな」


「ああ、全くだ」



 榴弾による攻撃を散々受け、南壁と付近の民家はほぼ壊滅していた。

事前に引っ越しさせて無人だったため村人に人的被害は出ていないが、一帯は廃墟と化している。



「コンクリートブロックをもっと量産できないかな。

木の板とコンクリートブロックのペアを5重くらい重ねれば、榴弾には耐えられるだろうし、徹甲弾なら抜かれても被害は局所的だろうと思うんだけど」


「難しいな、コンクリートは滑走路の工事でも使ってるからな」



 大英は南壁をただの木の板から、コンクリートブロックを使った戦車砲の直撃にも耐えられるものに変えたい意向だが、製造能力の関係で難しいようだ。



「それに、余り壁に期待するのもどうかと思うぞ、マジノ線はフランスを守れなかったからな」


「そうかぁ、そうだね」



 方々では火災の跡がくすぶっているが、人が住む区画との間にスペースを作っているので、延焼することはない。

この地では本来水による消火という考え方は無いが、先ほどからハイシャルタットが水魔法を駆使して消火活動を行っており、鎮火するのは時間の問題だろう。


 74式を見ると、車体の外見は無事に見えるが砲塔に大きなダメージを受けており、回らないどころか発砲も不能。 乗員も2名が戦死しており、車内は誘爆は免れたものの、被害は大きい。 かろうじてエンジンは動くが武装無しのただの装甲車状態となっている。



「こいつは再召喚だな。 ちょっと時間かかりそうだけど」



 ダメージが大きいためか、1/35だが35日では無理そうだ。

チーフテンは砲塔車体共に被弾して炎上しているため、再召喚は無理なので除籍となる。


 ヤークトティーガーの小屋は崩壊状態だ。

コンクリートの破片や土砂に埋もれているため掘り出す必要があるが、中の車両自体は無事だった。

如何に重装甲を誇るヤークトティーガーと言えども、それは第二次大戦レベルの装甲。 現用の120mm砲に撃たれれば耐えられない。

撃たれる前に戦闘が終了したのは幸運だったと言えるだろう。



「全く、短砲身の旧型戦車でも戦える相手の次に来たのが最新鋭戦車とか、やめてくれ」


「ま、ゲームじゃないからなぁ。 そうそう都合よく階段状にレベルアップした敵が来るとは限らんて」



 ヤークトティーガーが出張るまでも無い敵の次が、ヤークトティーガーでは戦いにならない相手という困った事態なのであった。


 大英は一通り村の様子と残存戦力を確認するとため息をつく。



「しかし、どうしたものかな」


「というと?」


「戦力の再建が大変だ」


「今回は派手にやられたもんな」


「あーWTCが使えれば」


「なんだ? WTCって」


「ワールド・タンク・コレクション、食玩で1/144の戦車が入ってた」


「ん? 食玩ならいけんじゃね?」


「それがダメなんだ。 ほとんど完成品ばかりだから、シリーズとして召喚不可。 まぁ工作する部分があるものも、機銃つけて終わりだから」


「それじゃダメか」



 とりあえず、再建計画は帰宅後に考える事とし、祝勝会に出席して、翌朝都に帰るのだった。



*****



 基地の倉庫。

今はがらんとなり、何も置かれていない。

赤土の家は主不在のまま、レリアル神が日本へ返した。


神による干渉の影響を最小限に留めるためであり、以前ゴートに斬られた男の家も、日本に戻している。


 現代日本にも神が居る。

その神の「センサー」に引っかかると、色々と面倒な事になる。


 事情は西夏の家も同じ。

だが、こちらはやや状況が変わってくる。

単なる一般市民の赤土と違い、西夏は毎月全国で販売されている雑誌に記事を載せている人物だ。


一部界隈では有名人であり、その失踪は後々ネットをざわつかせることになる。

とはいえ、神の気を引く程の事は無い。


 家が突然消失したら物理的に大問題だが、人が失踪するのは、現象として発生しうる話。

なので、召喚天使が事故死したり処刑されても遺体を戻すことはしないが、建物は律儀に戻すのだ。


というか、西夏の遺体は何も残ってないし。

赤土も家の中で爆死していたらオカルト現象になってしまう。



 後始末を終え、神と天使は会議室に集まる。 今回はモリエルもやって来ている。

会議はレリアル神の発言より始まる。



「さて、今回の敗戦について、皆はどう思う」



 ミシエルが口を開く。



「召喚天使がダメだった。 二人がバラバラで勝手に動いて上手くいく訳ない」


「そうじゃな。 司令官のあやつは余計な話を聞こうとしない。 仕事に関係する事しか話さなかったな」



 一見無関係なことまで話し込んで、この世界(地上)のことだけでなく、天界のことまで理解しようとした契丹と違い、西夏は戦いの事しか話さず、その上人を怒らせる才能でもあるかの様な印象があった。


 モリエルも発言する。



「私たちの失敗で、彼を追い込んだ事が間違いの始まりだったのでは無いでしょうか。 一つのミスが連鎖し、起きなくていい問題を生み、それが更に事態を悪化させる。 あの彼は失敗から立ち直れなかったのだと思います」



 あれです。


間違って棚に足をぶつけると、痛いだけでなく、棚から箱がバラバラと降ってきて散らかり、さらに姿勢を崩して床に手をつくと、そこに箱があって潰して、中身を壊したうえ「痛い」と離れたら、別の棚に頭をぶつけて、さらに物が落ちて散らかる。

しかもそんな時に限って電話が鳴って、慌てて立ち上がったら散らかった物を踏んで滑って前のめりになり、「おっとっと」と姿勢が崩れたまま電話を取り、上げた受話器を落として電話を切ってしまう。

それがたまたま大事な相手で、「いきなり切るとは何事か!」と怒られる。


 みたいな感じで、悪い時には悪い事が重なる。


 確かに、生粋天使のミスで戦力の半数を失い、仲間の召喚天使のせいで意図しないタイミングでの決戦を余儀なくされ、このままいけば勝てると思ったら、最後はそいつが死んで、いきなり戦力喪失。

これだけ他人の行為で失敗が重なって実力が発揮できなければ……。



「自らに責の無い事で無念であったろうが、謙虚さの足りない男じゃったな」


「あれだけ威張り散らしていたら、誰も助けてくれないよ。 自業自得さ」



 ミシエルは冷たく言い放つ。



「何じゃ、助けなんだか」


「僕は心が広いから兵士提供の話をした事があるんだけど、『戦史にオークと協同戦闘した事例は無いので断る』とか言われた」


「なるほどの」


「戦士としての気概が無いのよ」



 キリエルの評価も辛口だ。



「そうなのか」


「指揮官なのに前線に出たがらない。 ミシエルと違って通信(映像通信)や戦場監視出来る訳じゃないのに、後ろに引きこもってうまくいく訳ないじゃない」


「まぁ、お主の様に最前線を飛び回る方がどうかしている気がするがの」


「それ酷くないですか、レリアル様」


「いや、これは失言じゃな。 天使には各々戦い方があるという事じゃ。 まぁ、確かに記録を見ると、かの者の戦い方は何か焦点が合わない感じがするの」


「それについてではありませんが、あの方の戦い方には、戦神パシフィア・バールバラ様の書に思い当たる事があります」



 今度はマリエルの発言だ。



「ほう、パシフィアの書にか」


「はい、あの方は直接事細かい指示を出されていました。 ですが、パシフィア様の書には『指揮官は末端兵士の行動を指示してはならない』とあります」


「うん? 指示しないとちゃんと作戦が動かないんじゃ」



 ミシエルは不思議顔だ。



「いえ、『現れた敵を倒せ』とか『目的は村の占領だ』というのは良いんです。 でも、ミシエルさんもオークに『次は槍で右の敵に突撃しろ』とか指示したりしませんよね」


「あぁ、そう言う事か」


「最前線に立って、リアルタイムで状況を把握して判断・命令されるなら良いのですが、結構やり取りにワンクッション・ツークッションあったり、情報も限定的な中では向いていない指揮方法な気がします」


「やっぱりアタシの言う通りじゃん。 後ろに隠れているなら、兵に任せるべきだし、いちいち指示出すなら最前線に立たないと」


「任せるやり方で進められていたら、最初の無断出撃の時も、もう少し被害を抑えられたかも知れません」



 これ、現代の組織で言う「マイクロマネジメント」の問題ですね。

本当の事か都市伝説の類かは不明ですが「失敗する組織の例」として「ベトナム戦争で大統領が最前線の小隊長に電話して指示を出した」なんて逸話もあったりします。



「なるほどのう、戦に長じた人物だと思って召喚したが、『知識はあるが実践には向かない』タイプの人物であったか」



 いわゆる「お勉強が出来る馬鹿」ですね。



「難しいですね。 人間の資質までは事前に調べるのは容易ではありません」



 モリエルも困り顔だ。



「順調に進んでいれば、うまく事を運べる方だったと思うのですが……」


「そうね、センシャの戦いもあと一歩という所までやってたんだしね」



 それが西夏の指揮の賜物なのか、M1エイブラムスの性能のおかげなのかは、彼らには判断できない。



「じゃが、何事も想定通りに進むとは限らん。 あと一歩ではなく、勝利して初めて『結果を出した』と言える」



 手厳しいレリアル神。



「そうですね。 私たちの戦力と協同作戦が出来れば、その『あと一歩』を超えられたかもしれません」


「そうじゃな。 となると、やはり召喚する者の資質は重要じゃな。 長い時間をかけて厳選する必要があろう」


「はい、そうですね。 拙速に決めず、候補について十分な調査期間を確保したいと思います」


「じゃが、これまでどうも資質に問題のある者が多かったな」


「はい」



 そこでレリアル神は暫し考えると、モリエルに質問を投げかける。



「ところでモリエルよ、もう少し時代を前にできぬか?」


「と言われますと?」


「21世紀の人物は戦の方法を知らぬ者が多い。 記録では世界的な大戦争があったという20世紀前半からの召喚は出来ぬか? 大きな戦があった時代の人物であれば、戦についても詳しかろう」


「難しいかと。 その時期の『ニホン』はアマテラスという神の勢力が強く、気づかれぬようにレリアル様を送り込むことが出来ません」


「そうか、さすがに他神の庭で派手な真似は出来ぬか」


「21世紀であっても、アマテラス神の隙を突くのは簡単ではないのです」


「アマテラスか、詳細は判らぬか」


「未来の事は確定的に情報を取れないため、はっきりとしたことは言えませんが、おそらくはレリアル様のご子孫ではないかと」


「ま、本物の神という事であれば、そうじゃろうな。 他所の星から来たのでなければな。 しかし、ワシの子孫という事は、ム・ロウめの子孫でもあるわけじゃな」


「そうなりますね。 こちらについても調査を進めましょうか」


「そうじゃな、頼む」



 するとキリエルが不思議そうに問う。



「そのアマテラス神って、この星全体を支配してんの?}


「いや、ニホンだけのようだよ」


「それじゃニホンの外から天使を呼べばいいんじゃない?」


「いや、他の地域では人工の神への信仰が強く、我々が干渉するのを阻んでいるんだ」


「そうなんだ」



 レリアル神も納得する。



「つまりニホンからしか天使は召喚できんという事じゃな。 やれやれ、たった3万年で神族の領域は小さな島国だけに押し込められるとはな」


「残念です」


「いや、既に純粋な神族が生まれる事が無くなった状況で、よくぞ続いたと見るべきかの」


「私には判断できかねます」


「それにしても、21世紀でワシとム・ロウは何をしておるのじゃろうな」


「調査した範囲では生存している事しかわかりません」


「二人とも隠居の身か。 この星の未来の責を放棄しているのかのう」


「いえ、未来は一つではございません故、たまたま召喚ラインが繋がっただけで、我らの未来とは限りませぬ」


「そうかもしれんし、そうでないかもしれん」


「はい」


「だが、その未来、ニンゲンしか居らぬようじゃな」


「ええ、エルフもドワーフも現時点まで存在が確認できておりません」


「我らの未来でない事を願うとしようかの」


「願うなどと、まるでヒトの様な事を」


「はっはっは、ワシも年かのう」


「いえいえ、レリアル様はまだ60万歳、まだまだ現役ですよ」



 モリエルの言葉にミシエルもマリエルも賛同し、キリエルも「そうそう、まだまだ若いんだから」と持ち上げる。



「ありがとうな」



 マリエルは天使召喚について意見があるようだ。



「ご提案なのですが、指揮官とモデラーでしたか? 模型を作る方は同じ方の方が良いように思います」


「そうじゃな、マリエルの言う通りじゃ。 今回の失敗の原因の一つがモデラーと指揮官が別々にいた事じゃ」



 モリエルも収集した情報を述べる。



「それについてですが、モデラーが作る合成樹脂製の模型は、20世紀後半に出現したもののようです」


「そうであったか。 そうなると、尚更20世紀前半の人物では具合が悪いのう」


「はい」


「よろしい、ではこれまで通り21世紀で天使を探すことにしよう」


「はっ」



 こうして、彼らの会議は一つの方向を決めた。

そして、それと並行して既存の戦力による新たな作戦についてプレゼンが行われ、レリアル神の了承を得たのであった。

用語集


・水による消火という考え方は無い

井戸水は消火に使える程多くは無い。ポンプも放水銃も無いため、基本は破壊消防。

水系の魔法が使えたとしても、燃え盛る炎に対処出来る魔法使いなど、各諸侯領でも一人いればいい方。

それも重要施設への延焼を止められれば御の字で、消火なんて概念は無い。

まぁ、ハイシャルタットならやれる(建物ごと破壊しそうだが)が、このクラスの人材は王国全体でも何十年に1人だ。


え?バケツリレー? 川が近ければやるかも知れませんがねぇ。



・ヤークトティーガーでは戦いにならない相手

M1の120mm砲がヤークトティーガーの装甲を貫く距離でも、ヤークトティーガーの128mm砲ではM1の複合装甲は抜けない。

もちろん距離が近ければ話も変わるが、相手も馬鹿じゃないからねぇ。



・このままいけば勝てると思ったら

西夏もマリエルも気づいていなかったが、あのままだとAH-1Sが飛んできてATMを撃ち込まれるので、本当に勝っていたかは判らない。

そりゃ旧式のTOWでM1の装甲を抜くのは一苦労だろうけど、戦車にとっての危険度は二次大戦型航空機の比ではない。



・戦史にオークと協同戦闘した事例は無い

そりゃあったらオカシイわ。

本に載っていない事を実践する器量は無かったという事だ。



・逸話

ちなみに、検索してもそれらしい話は見つからなかった。

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[気になる点] 召喚天使を斃しても次が召喚されるんじゃ、これ神側の勝利条件ってどうなってるの?
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