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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第39話 おっさんズと軍事ライターの決戦 その5

 話は数刻戻る。


 テンペストは指定された地点で航空基地と思われるものを発見した。 その敵航空基地上空を飛び、防空施設が無い事と、滑走路上に航空機が無い事を確認した。

格納庫前には戦闘機と思しき機体の存在と、兵員が集まって何かしている様子が伺える。

残念ながら何をしているのかまでは判らないが、少々滑走路の長さが足りない様に見える事と併せれば、何らかの方法で離陸準備をしているのではないかと推測出来た。


そして、警戒監視を続けつつ後続の2機の爆撃機と合流した後、急降下で攻撃態勢に突入する。

すると、先ほどの戦闘機が滑走路に移動して動き出しているのを確認。

直ちにロケット弾を発射したのであった。


 そこへ間髪を入れずB-26と四式重爆撃機は格納庫を爆撃し、2発の直撃弾を得た。



 そして現在。


 攻撃の様子を上空で確認したP-51Dは、攻撃は成功し、追加攻撃は不要である事をマッカーサーに伝えた。



「了解した。 ご苦労、攻撃隊は帰投せよ」



 その上で、P-61とモスキートには哨戒を継続させる。

航空基地が「一つとは限らない」と考えたためだ。



 敵機撃墜と航空基地爆破成功の情報は村にも届く。

大英はAH-1を出そうかと思ったが、敵戦車の様子がおかしい事に気づく。



「うん? どうしたんだろ。 動きが止まった……」



 移動しないだけでなく、砲塔も回らない。 もちろん、撃っても来ない。



「判らんな。 何かトラブルでもあったんじゃないか」



 秋津も首をかしげる。



「閣下、あちらの移動不能の敵戦車も発砲が止まりました」



 ロンメルの指摘を受け、二人は双眼鏡を向ける。



「おかしいな、二両同時にトラブルとか無いだろ」


「おい、よく見ろ、なんか朽ちてないか?」



 秋津の指摘を受け、大英は地上望遠鏡を向ける。 双眼鏡は7倍だが、地上望遠鏡は10~30倍だ。

これ、倍率を挙げると手持ちではブレてよく見えないが、三脚を付けているので問題ない。



「本当だ、あちこち錆びて……いや、今機銃が折れたぞ、朽ちてるというより、どんどん酷くなってるぞ」


「おい、つーことは、もしかして……」


「こんなに速いのか? 見る見るうちにスクラップを超えて残骸になっていくぞ」


「俺も朽ちるのをリアルタイムで見た訳じゃ無いから判らん」



 以前、敵の天使がゴートに斬れらた後も、撃破された戦車が朽ちていったが、秋津は朽ちるとか思ってなかったからよく見てはいない。

次の日に見たら残骸どころか、「原形不明の赤錆のカタマリ」と化していた。 という事だ。


 とりあえず、原因は不明だが、「召喚者」が死亡したと考えるのが妥当だろうという結論になった。

二人は、タイミングから考えて、敵航空基地に召喚天使(モデラー)が居て、攻撃に巻き込まれて死亡したと推測した。


流石に「戦闘機に乗っていて、撃墜されて死亡した」は無いだろうと。

まぁ、実際、大体そのとおりである。

(戦闘機ではなく、攻撃機な)


 場の雰囲気が暗くなる。

大英が呟き、秋津が応じる。



「まぁ、そういう事もあるだろうな」


「そうだな、戦争だから仕方ない」


「俺らも気を付けないとな」


「そうだが、状況が判らないと指示も出せないよな」


「そういう意味では秋やんと一緒に行動しない方が良いのかも」


「それはその通りだけどよ、いや、この場合前線に出るのは俺か。 英ちゃんが死んだら戦力供給が止まるもんな」


「うーん、失言。 秋やん任せは無責任だな」


「そんな事は無いぞ」



 このやり取りを聞いて、ゴートが問う。



「この場合、大英殿が倒れたら、神獣は朽ちてしまうのでは?」


「いや、それは無い」


「そうなのでありますか」


「召喚主体はリディアさんなんだ。 私は情報とワンタイム触媒たるキットと魔力を供給しているだけ」



 そう、実際に「召喚魔法」を行使しているのはリディア。

だから、仮に大英が死亡しても、召喚された装備はそのまま稼働を続ける。

なんなら、リディアの命令で行動する事だって出来る。

近代兵器どころか軍事知識ゼロのリディアでは指揮は困難なので、リディア自身にもこの事は伝えられていない。


 とはいえ、召喚できるのは大英が制作したキットのみ。

クリティカルな人材なのは間違いない。


 レリアル軍の召喚天使は「術者」「制作者」が一体なのに対し、大英達は分かれている。

要は


 赤土:術者・制作者・魔力供給者

 西夏:運用者

 オークマジシャンほか:魔力供給者


 大英:制作者・魔力供給者・運用者

 秋津:運用者

 リディア:術者

 パルティア、ハイシャルタット:魔力供給者


 (術者は運用者としても機能する)


という事だ。

(リディアは赤土と違って魔力供給者ではない。 だからどんなに召喚負荷が高くても、リディアは平気なのだ)


 大英は「情報」も提供していると言っているが必須ではない。 もちろん意味はあるが、無くても召喚は成立する。

兵器知識のない赤土でも召喚できているのはこのため。

なので、上の表には「情報」は含まれていない。


 さて、この「主体はリディア」だが、この事を把握している者はほとんどいない。

大体神獣騎士隊の隊長であるゴートが知らないだけでなく、当事者のリディアすら知らないのである。

少なくとも、レリアル陣営は大英達の状況については、誰も把握していない。


一応、堂々と戦う前提なので、「術者暗殺」は想定していないものの、今回の様な「事故死」はあり得るので、リディアを意味も無く無暗に前線に連れていくのは控えているのだ。

(別にリディアが女性だからではない)


まぁ、リディアとパルティアも自分たちが行っている事の成果などは知りたいだろうし、現地召喚を想定している場合は、当然話は別になる。

(大英一人では召喚は出来ない)


だから、安全の為にリディアを城に閉じ込めて……なんて事はしないし、それなりに連れ出す事もある。

今回はヤバそうだったから連れて来なかったという話。


 話を戻そう。



「なんと、そうでありましたか」


「あー、余り誰彼構わず語らないようにしてくれますか、リディアさんに暗殺者とか向かったら困るので」


「うむ、承知した」


「まぁ、私の所にだって暗殺者が来た事は無いので、表立って警備とか付ける必要は無いと思いますけど」


「そうですな。 如何に邪神とその配下と言えども、仮にも神と天使。 卑怯な真似は行わないでしょう」



 とりあえず、今回の戦いは勝ちで終わったと思われる。

それでも、打ち負かしたのではなく、その気は無くても死亡させたという結果は、あまり心地の良いものでは無かったようだ。

まぁ、「敵天使が死ぬ」ということは、「自分が死ぬ」という事もあり得るという現実を突き付けられた事が、戦勝気分を萎えさせていたとも言えなくはない。



*****



 激怒した男が指令室に向かっている。

M113は朽ち、危険を感じた西夏は脱出したため、マリエルとの通信を続けることは出来なくなっていた。

彼はその足で基地に入ると、指令室へと向かったのである。


 一方、指令室でも混乱が起きていた。



「センシャがポロポロになっていくぞ、何があったんだ?」


「ねぇ、マリエル、これって……マリエル?」



 キリエルが視線を向ける先、マリエルは青ざめて茫然としている。



「あ、あ、キリエルさん、これは、多分赤土様が亡くなられたのではないかと……」


「え? あ、そう、そう言う事か」


「そうか、それじゃ作戦は失敗だね。 所であの男は?」



 ミシエルが言う「あの男」は、その直後指令室に現れた。

自動ドアが開いて、部屋に入るなり叫ぶ。



「どうなっているのです!」


「あ、西夏様」


「私の目の前で兵士が溶けて死にましたよ! 敵は毒ガスとか使ったのですか!」


「落ち着きなさい、ホムンクルスは溶けてもアンタは平気だったんでしょ」



 キリエル、言い方。

まぁ、車両が錆びて人が溶ける毒ガスとか聞いたこと無いがな。



「しかし!」



 落ち着けと言われても、目の前で人が溶けるとか言うホラー体験をしたのでは、そうそう落ち着けるものでは無かろう。



「未確認ですが、赤土様が亡くなられました」


「えっ?」


「航空基地に行ってらしたのですが、その基地が攻撃を受けて破壊されました。 以後連絡が取れません」


「馬鹿な、基地は隠蔽されていたのではないですか? 見つかるはずが無いと聞きましたよ」


「飛行機を飛ばすため、隠蔽システムを停止していたのです」


「な、なぜそのような……」


「西夏様の苦戦を見て、助けようとされたのだと思います」


「そんな、無知な素人が手出ししては、かえっておかしくなるではありませんか」


「そうなのかもしれませんが、私共には止める権限はありませんので」


「何という事を、何と言う事をしでかしてくれたんだ。 大体飛べる機体は1機しか無かったはずだ。 まったく無意味な事を!」



 怒りを振りまく西夏を見て、ミシエルも口を開く。



「何だよ、仲間が死んだかも知れないってのに……」


「仲間? 散々かき回して足を引っ張った挙句、勝手に死んだ奴など、仲間なんかであるものですか」


「おい、それが死んだ奴に向かって言う言葉かよ」


「何ですか、若造がこの私に説教するのか!!」


「はぁ? ニンゲン如きが何言ってんだ!」



 西夏はミシエル達天使の年齢を聞いていない。

契丹が召喚された時と違い、そこまで細かいやり取りは無かったためだ。

その後も、仕事一辺倒で雑談などはほとんど無かった。


コミュニケーション不足による認識の誤り。

それは対立をより先鋭化させる。


 そこへ、レリアル神が現れる。

工事を担当していたオノエルの元に飛行場の異常について通知が届き、格納庫が爆撃を受けた事を知ってレリアル神へ事態を報告したためだ。

だが、ゲートが開いている事に気づかなかった西夏とミシエルの罵詈雑言合戦は続いていた。



「何事かの、騒々しい」


「あ、レリアル様、実は……」



 マリエルが報告をしようとしたのを遮り、西夏は文句を言う相手を天使から神へと変える。



「なんですか、あんた達の仕事は! 人の足を引っ張るばかりで! 使えない召喚者に使えない天使、使えない!使えない!使えない!」


「ちょ」



 レリアル神は文句を言おうとしたキリエルを制止し、話を続けさせる。



「この敗戦の責任はあんた達にある。 私は何も悪くない。 いくら私が万全の準備をし、すぐれた作戦を立て、高度な戦術を駆使しても、あんた等ゴミのせいで全部オシャカだ! 全く忌々しい! こんな屈辱は初めてだ! 謝罪しろ! 賠償しろ! 土下座しろ!」


「……」


「何が神だ! 何が天使だ! 無能の集まりじゃないか! 何で私の足を引っ張るんだ! 私に何の恨みがあるんだ! お前たちは私に不愉快な思いをさせるためにここに呼びだしたのか! いい加減にしろ! 黙ってないで何か言ってみろ!!!! はぁ、はぁ……」



 まくし立てて息を切らす西夏。


天界の天使の失敗のせいで戦力の半数以上を無為に失った。

素人の勝手な行動で予定外のタイミングでの決戦を余儀なくされた。

仕舞いには戦力そのものを全て霧散させられてしまい、敗北が決定した。

全ては他人のせい。

自分には何の落ち度もない。

その怒りを誰彼構わずぶつける。



「言いたい事はそれだけかの」


「ああ、もう一人馬鹿が居たよ。 無能な邪神の口車に乗った私だ。 私も馬鹿だ」


「そうか、ならばその無念を消し去ってやろう」


「ほう、戦争一つ満足にできないゴミでもそんな事が出来るのか」


「ふん」



 レリアル神が手を振ると、西夏の息が止まる。



「あっあっあぁぁぁ………」



 西夏は「何をした」と思うが、言葉にならない。



「死せよ。 さすれば全て忘れる事が出来よう」


「……」



 呼吸を止められた西夏は絶命する。



「邪魔じゃな」



 そう言うと西夏だったモノは炎に包まれる。 そしてその周りを何かバリアのようなものが包み込む。

これは強烈な高温の炎の余波が周りに影響を与えないようにするものだ。

間もなく炎は遺体を焼き尽くし、塵一つ残さず消滅する。



「今日はここまでとする。 後日報告を受ける。 今後の事も考えておけ、よいな」



 神の言葉を受け、3人の天使は指示を了承する。


 こうして、今回の天使召喚によって相手と同様の兵器を使って戦うという作戦は終了するのであった。


 神が去り緊張の糸が切れ、早速声を上げるキリエル達。



「はーっ、緊張したぁ」


「あんな冷たい目のレリアル様、初めて見たよ」


「無念ですわ」


「でも困ったな、こんなに早く終わると思ってなかったから、全然準備出来てないよ」



 困り顔のミシエルに対し、キリエルは違うようだ。



「なーに言ってるの、こっちの準備はもうすぐ出来るわよ」


「え、本当か?」


「ええ、任せなさい」



 キリエルには何か策がある様であった。

用語集


・戦闘機に乗っていて

そういう主人公の作品を見た事はあります。危ないって。

戦闘機に乗るのは専門のパイロットにまかせなさい。



・誰も把握していない

まぁ、落ち着いて考察すれば、もしかしたらマリエルは気づくかもしれないが、そのためにはモリエルの助けが必要なので、難しいかも。



・ミシエル達天使の年齢を聞いていない

ミシエル達は全員西夏より年上である。

まぁ、精神年齢的には年下だがな。

とはいえ、年齢で判断すべき案件ではない。

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