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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第39話 おっさんズと軍事ライターの決戦 その4

 大英達は例の指揮所から様子を見ていた。 同行しているハイシャルタットも双眼鏡を借りて見ている。

彼は何か肩を落とし、溜息をついていた。

そんなハイシャルタットに秋津が声をかける。



「どうした、何かあったか」


「いえ、我が見識の狭さを、改めて恥じていた所です」


「うん?」


「戦車です。 巨体で走り回り、その攻撃は上級魔法さえ遥かに及ばない破壊力。 しかも、あの敵戦車は、そんな凄まじい攻撃を何度も受けているのに、全く意に介していない。 旧王家の軍に多大な被害を与えた爆弾すら、近くに落ちたぐらいでは効果が無い。 想像を超えた戦いです。 こんな戦争を戦っておられた方々に、私は勝てるなどと思い込んでいたとは……」



 敵のM1は74式やチーフテンの砲弾を何発も受けているのだが、その全てが装甲貫通を果たせずにいたのであった。

この至近距離からの砲撃を耐えているのだから、噂に違わぬ防御力である。



「あー、まーそうだな、アレがうち等の戦争だ。 だが、お前さんが恥じ入る事は無いと思うぞ」


「そうなのですか」


「ああ、誰だって知らない事は判らないんだから」


「そ、そうですね」



 思わず笑いがこぼれる。


 そんなやり取りを横目に、大英はロンメルに向けて口を開く。



「これだけ戦闘機が暴れても出て来ないって事は、敵さんには飛行機は無いって事かな」


「可能性は十分ありますね」


「これならAHを出せるかな。 止めだ」



 ロンメルは頷くと伝令に指示を出す。



「よし、AHに……」



 そこへフンクワーゲンからの兵が飛び込んでくる。



「報告します! 南方上空に航空機出現! マッカーサー航空基地司令は迎撃機を発進させます!」



*****



 話は数刻戻る。


 赤土はマリエルと共に戦況をモニター越しに見ていた。

戦場の映像では戦車隊に襲い掛かるP-39、P-63それにブレニムがスクリーンに映った。

カメラが地上に切り替わるとM60戦車が炎上していた。



「何だよ、こんなプロペラ機相手に苦戦してるのか、あの偉そうなオッサンは無能なのか」


「いえ、センシャで飛行機の相手をするのは難しい様ですわ」


「やれやれ、飛行機の相手は飛行機って事か」


「だと思います」



いや、M60は別に空襲で撃破されたのではないのだが、モニター越しに見た限りではそんな細かいことまでは判らない。


 さて、戦車隊を悩ませた飛行機だが、これはすぐ弾が無くなる。

爆撃や機銃掃射を終えた各機は帰途に就く。


 今度はカメラはM1を映す。

こちらでもモスキートから撃たれ、M1は逃げ回っていた。



「やれやれ、もういいや、あのオッサンが口だけ番長だって事がよーく判った」



 赤土はそう言うと、家に戻って行った。 マリエルもモニターを閉じると管制室へと戻る。



 マリエルが管制室に付いたころ、警報が鳴った。



「何だ、何があった?」



 ミシエルが確認すると、遠方に新たな航空機を探知したと言うのだ。



「うーん、遠すぎてよく判らないな」



 光学観測のためか、ただの点にしか見えない。

だが、速度と高度から、監視システムは鳥ではなく航空機と判断し、警報を出したものである。



「これ、マズイんじゃない? 大丈夫なの?」



 キリエルが心配するが、現状航空機をどうにか出来る戦力は無い。

一方ミシエルは楽観的だ。



「なーに、この基地の中なら問題ないし、前線は『専門家』に任せとけばいいじゃん」



 いや、楽観的というより、あまり西夏に好感を持ってないと言った方が良いかもね。

キリエルは外のメンツにも気を使う。



「ところで、誰も外にいないわよね」


「戦闘前に工事の方々には退避してもらっていますわ」


「あの坊やは大丈夫?」



 キリエルの指摘を受けマリエルは坊や呼ばわりされた赤土の現在位置を調べてみる。

基地内をスキャンするが、赤土は見つからない。



「ご自宅にいらしたはずなのですが、一体どこに行かれたのでしょう。 こんな事なら、発信器でもつけておくべきでしたわね」



仕方なく通信回線を開く。



「赤土様、赤土様、聞こえますか」



突然目の前に現れた映像スクリーンに驚く赤土。



「お、おう、……これって通信にも使えるのか」


「ああ、良かった。 今どちらですか?」


「ああ、飛行場だよ、格納庫に着いたところだ」


「飛行場! あぁ、外は検索範囲外でしたか……って、飛行場ですか?」


「そうだよ、敵が近づいてるんだろう? 迎え撃たないとなんないだろうに、全然準備が出来てないじゃないか。 オッサンは何をしているんだ!」


「いけません! 早くこちらにお戻りください」


「判ったよ。 戦闘機に命令したら戻るよ」


「それは大丈夫なのですか」


「ん? 問題無いだろ」


(確か西夏様は「まだ滑走路が短いからダメだ」とか言われてましたが……まぁ、飛べるかどうかは操縦士自身が判るでしょうから、無理はしないでしょう)


「判りました、早くお戻りくださいね」


「ああ」



 状況を確認したマリエルは通信を終了する。

西夏は滑走路がまだ短いため、飛べる機体が限られることを問題視していた。

ある程度数が揃わないと、戦力の逐次投入になってしまう。

そのため、航空隊に発進命令を出さなかったのだ。


 だが、ミリタリーの知識を持たない赤土は、そんな事はお構いなしに格納庫内のパイロット達に全機緊急発進を命じた。

その無理のある命令に、MiG23のパイロットが異議を唱える。



「お言葉ですが閣下、現在の滑走路では長さが足りず、私のMiG23はもちろんのこと、MiG21も飛べません」


「私共のF4も飛べません」



F4Eのパイロットも同じ意見を述べる。

それを聞き、赤土は驚いた。



「そんな馬鹿な」



 彼は以前まだ彼の兄が元気だったころ、航空祭とか言う行事に連れていかれた事がある。

飛行機の音はうるさいし、周りは軍オタばかりいて気分が悪かったが、戦闘機が滑走を始めたと思ったらあっという間に飛び立って、ほとんど垂直に空の上に飛び去って行った事は印象的だった。

今の滑走路はその時に見た滑走した長さくらいはあるように見える。

そしてこう思った。



(戦闘機って奴は短い滑走路で飛べるだろうに、何を怠けてるんだこいつらは)


「うるさい! 口ごたえしないで早く行け! 命令だぞ!!」



 しかたなく、パイロット達は発進準備を始める。

彼らが心配しているのは発進ではない。

増槽や爆弾を持たず、AAMだけ積んだ状態なら、なんとか離陸は出来るだろう。

だが、着陸は無理だ。

戦闘が終わったら、機体を投棄してパラシュート降下するしかない。

どう考えても理に合わない。

だが、それが「天使の命令」とあれば、召喚ホムンクルス達は従うしかない。


 MiG21、MiG23は増槽を外す必要があり、F4は多数の爆弾を降ろす必要があった。

そんな中、準備なく発進できる機体があった。

セスナA37ドラゴンフライである。


 A37のパイロットは、「A37は敵機の迎撃には向いておりません」と進言するが、赤土は「いい加減にしろ!」と激怒し「さっさと行け」と叫ぶだけであった。

この機体、爆装しているし、そもそも戦闘機ではないが、赤土から見れば「軍用機=戦闘機」なのである。

やむを得ず、A37のパイロットは出撃を了承する。



「では、離陸後装備を投棄します」


「馬鹿を言うな、せっかくの武器を捨てるとか、何を寝言を言ってるんだ」


「しかし、それでは空戦は……」


「いい加減な事を言うな! 敵はプロペラ機なんだぞ、ジェット機が負けるわけ無いだろ」


「……了解しました」



 仕方なく、爆装したまま出撃する事にした。

爆装しているとはいえ、軽攻撃機であるA37は短い滑走路でも問題なく発進し、上空へと姿を消した。



*****



 A37の発進は航空基地の存在と位置を暴露する行為だった。

都と村の間の上空を2機の夜間戦闘機が、昼間だと言うのに飛行している。

2機は長円のようなコースを飛び、連携して常にどちらかが、南の戦場からその先の森の上空をレーダーで監視しているのだ。


 そして、A37は哨戒中のP-61のレーダーに捉えられ、直ちに情報はマッカーサーの元へと届けられる。

思いの外速度が遅く、懸念していた超音速戦闘機では無いようだ。



「やはり基地があったか。 上空待機中のテンペストは直ちに現地へ向かわせろ。 基地の規模と防御戦力を確認し、火急なる対応の要あれば攻撃させよ」

「B-26と四式重爆撃機は直ちに発進。 テンペストに続け! スピットファイアIX、XIV、XVIIIは出現した敵機を始末、P-51Dとマスタング4は爆撃隊の護衛だ」



 迎撃と護衛が別々に用意されているのは、現れた敵機がこの1機で終わるとは思えなかったからだ。

そうして既に発進準備を整えていた各機は次々に離陸していく。



「続いて、P-80C、F-86F、ミーティア、バンパイアは発進準備急げ、完了したら別命あるまで待機」



 そして、P-61に敵機の速度を再確認して報告を求めると共に、後続が居ないか問い合わせる。

返答は、後続は無く、単機で、速度は測定誤差の範囲で変化を認めずであった。

マッカーサーは、F-104Jの発進は保留し、様子を見る事とした。

現状の滑走路長では離陸はともかく、着陸は難易度が高いため、無理に出す必要は無い。


また、F-100Dは対地ミサイル装備のまま待機とした。

強襲が失敗したら、相手の対空防御システムの能力によっては、スーパーセイバーはこのままブルパップ装備で出したほうが良いだろうという判断だ。



*****



 MiG21、MiG23は格納庫から出ると地上で増槽を投棄した。

様子を見ていた爆撃機パイロットがOKサインを出す。

地面に落ちた増槽から燃料が盛大に漏れ出るという事態は回避できたようだ。


兵員たちが集まって増槽を安全な場所まで移動させる。

増槽はものにもよるが1トンから2トン近くあるので人力で処理するには重すぎる。

ロープをかけ、空港に配置されていた小型の作業車両で引くが、自重と大差のない増槽を移動させるのはかなり困難を極め、安全圏まで動かすのには20分以上を要した。


 離陸したA37は、遠くに確認された航空機を目指す。

それは、やたら大きいP-61であった。 だが、この距離では爆撃機にしか見えない。

だが、その前に小さな航空機が急速に接近しているのが見えた。



「あれは……戦闘機か!」



 A37は脅威となる戦闘機を先に始末しようと向かって行く。

だが、その後ろから接近する戦闘機が2機。

スピットファイアXIV、XVIII は横から回り込んで後方に付いたのだ。


 A37のパイロットは空戦についての訓練はほとんど受けていない設定で召喚されている。

そもそもが、近接支援攻撃機なのである。

このため、目の前の敵機に気を取られて、他の機体の接近に気づく事が出来なかったのだ。

なお、低空を別のルートで飛んでいるテンペストにも気づいていない。


 A37のカタログスペックでは最高速度は770km/hあるとされている。

これはスピットファイアのそれを上回っているが、飛行機という物は常に最大速度で飛んでいる訳ではない。

しかも、爆装したままなのである。 当然、ずっと遅い速度で飛んでいる。


 こうして、気づいたときには3機の戦闘機との空戦となり、A37はその任務を全うすることなく、撃墜されるのであった。

というか、7.62ミリミニガン1丁しか持たない攻撃機で空戦をしようというのが、そもそもの間違いでは無いだろうか。



 そして航空基地ではF4も出撃準備を始めていた。


 F4については装備を簡単に落とす訳にはいかない。

F4が積んでいるのは爆弾であり、信管を抜かずに投棄するのは危険があると考えられた。

そのため、パイロットとナビの2名は爆弾から信管を抜くべく作業を始める。


 それを見た赤土は「何をしている!」と怒鳴り始めた。

重そうな増槽を皆が動かそうとしているのは、イライラしながらも何をしているのかは理解できたが、爆弾の信管を抜く作業は理解の外だったのだ。

しかし、そんな彼の小言が長く続く事は無かった。



「敵機来襲!!」



 警報システムが敵機接近を警告する。

航空機運用のため、偽装解除していたのが仇となった。



 上空に現れた3機のプロペラ機。

そのうち、単発エンジンの戦闘機(テンペスト)が低空で突入して、離陸滑走を始めた2機のミグにロケット弾を撃ち込む。


いかにジェット戦闘機と言えども、滑走中であれば「ちょっと速い」だけの「でかい車」である。

数発の直撃を受け、炎上する。


 だが、赤土が驚いたり、防空という任務を全うできなかったA37を罵倒する暇はなかった。


 間を置かず双発エンジンを持つ2機の爆撃機が投下した爆弾のうち、2発が格納庫を直撃、誘爆もあいまって中の飛行機・人員ごと全てを灰燼に帰した。

赤土自身も例外ではない。


 多少のけがを防ぐ権能も、近代兵器の爆発には対処できない。

赤土は何が起きたか認識する事も無く、その命を落とした。

苦しむことも無く、恐怖を感じる事も無かったのが、せめてもの救いだろうか。


 テンペストはその爆炎を避けるように左旋回しつつ高度を上げていく。

レリアル軍の航空基地を強襲した3機は、十分にその任務を果たし、帰途に就いたのだった。



 召喚者である赤土の死亡は戦場に大きな、そして致命的な変化をもたらす。


 そう、その個体性能によって大英達を悩ませていたM1が、いきなり動きを止めたのだ。

リアライズシステムの安全システムが起動し、搭乗していたホムンクルスは姿を消し、停止したM1は朽ち始める。

そしてそれは西夏が乗っているM113においても同じである。



「何だ、何が起こった!?」



 事態が呑み込めない西夏。


 彼の目の前でアメリカ兵士は動きを止め崩れ始める。

それはスプラッタ映画やゾンビ映画を思わせる恐怖の光景だ。



「う、うわぁぁ」



 慌てて外に出ようとする西夏。

だが、ハッチが錆びついてうまく開かない。

乗員だけでなく、車体も急速に朽ちているのだ。



「だ、出してくれぇ」



 泣き叫ぶ西夏。

取り乱してそこら中を叩いていると、壁が崩れる。

車体を構成するアルミ合金がその僅かな力にも抗し切れないほど、劣化が進んでいるのだ。


西夏は半狂乱になりつつ所かまわず殴り、穴を広げて遂にM113の外に出た。



「はぁ、はぁ、い、一体何が起きた、何があったんだ」



 異変は管制室でも捉えていた。



「おや? センシャが急に止まったぞ」


「どうしたのかしらね」



 ミシエルもキリエルも何が起きているのかイマイチ判っていない。

だが、マリエルは直ぐに何が起きたかを把握した。

通信回線を開いて赤土を呼び出す。



「赤土様、赤土様、聞こえますか」



 今度は誰も応えない。

青ざめるマリエルに、周辺を監視しているシステムから地上の航空基地が壊滅した報告が届いた。

用語集


・滑走を始めたと思ったらあっという間に飛び立って、ほとんど垂直に空の上に飛び去って行った

 コレ、F16ですね。 我輩も航空祭に米軍機が来ていたのを見た事があります。

こんな第4世代機と一緒にされてはたまりませんな。

世の中には「自分の目で見たモノしか信じない」という人も居ますが、それでは視野が狭くなるのではないですかね。

あ、もちろん「視野」とは「目に見える範囲」の事では無く「知識や考え方の幅」の事ですよ。



・やたら大きいP-61

爆撃機であるB-25より大きい。

そりゃ遠目には爆撃機に見えるだろう。



・スピットファイアのそれを上回っている

一応両方とも700km/hを超えている。

まぁ、実のところ最大速度より加速力がモノを言うのだけどね。

グリフォンスピットの加速力は極めて大きく、下手なジェット機では戦いにならない。


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