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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第39話 おっさんズと軍事ライターの決戦 その3

 真っ先にゲパルトを始末しようとする召喚軍大戦型戦車隊。

だが、敵もさる者、ゲパルトと村の間に煙幕を展開し、視界を阻害する。

ゲパルト自身はレーダーを使うので、煙幕があっても空を狙う分には全く問題ない。


 このため、97式もバレンタインも思う様に射撃できないでいた。

さらに護衛の戦車隊が村の南壁を次々と砲撃し、隠れる所も無くなりつつあった。


 一方、現用戦車2両は機動力に難のあるチーフテンが機動戦をする羽目になっている。

チーフテンは村の壁に隠れつつ、時折村から出てヒットエンドランを繰り返す。

74式は専用の「人工の丘」に隠れながら、姿勢制御で俯角をかけて砲塔を覗かせつつ発砲、後退して隠れる。


 チーフテンは防御にならない木の壁の陰で、位置を常に変える戦い。

74式は位置は固定でも、120ミリ砲も通らない丘の陰という、似てはいるが別の戦い方で対応する。


 2両が違う戦法を取るなど、西夏の知る「軍事常識」の外であり、M1への指示は混乱する。

しかも、森の中に潜むM113からでは戦場の全体も把握しずらい。

各車からの無線通信だけが頼りという状態だ。



「これは判りにくいですね。 貴方、基地まで走ってマリエルさんまで伝言お願いします。 戦場の映像をこちらに出せるようお願いしてください」


「了解いたしました」



 西夏は車内にいるアメリカ歩兵を伝令役にして送り出す。



*****



「煙幕か……」



 対空戦車撃破が思うように進まない状況を見て、大英は新たな指示を出す。



「アンバーにいるパーシングと60式無反動砲2両に出撃命令だ。 側面から攻撃させよう。 悪いがパーシングは囮で、本命は60式な」


「なるほど」


「まぁ、気づかれなかったら当然パーシングも攻撃してもらうけど」


「了解しました」



 意図を理解したロンメルは通信をアンバーに送り、直ちに出撃となる。


 現在戦場中央にゲパルトを中心とした敵防空隊が居て、東側ではチーフテンと74式がM1と戦っている。

そこで、西側から攻撃させようという話だ。


 煙幕はゲパルトを包んでいるのではなく、村とゲパルトの間に展開されている。 発煙弾には限りがあるので、無駄遣いはできないのだ。

このため、横からなら煙幕の影響を受けないと考えた訳だ。


 アンバーからの部隊は15分ほどで到着すると見込まれた。

だが、この状況での15分はかなり長く感じる事となる。


 村の南壁はほぼ壊滅状態となり、97式は隠れる所が無いまま逃げ回る有様。

そして低速のバレンタインは撃破されてしまった。


 チーフテンは被弾し炎上、74式も炎上こそしていないが、被弾により戦闘不能となった。

つまり、戦車隊は事実上壊滅した事になる。



「み使いさんよ、俺らの準備は出来てるぜ」



 第2騎士団団長のパガンは笑顔を見せる。

この状況下で笑顔とは違和感半端ないが、ここで笑えるのが彼ら強者(つわもの)なのかも知れない。

そして、その肩にはいつものハルバードではなく、バズーカ砲があった。



「それは良いけど、敵が村に突入してからお願いするよ。 南に飛び出して行っても的にしかならないから」


「もちろん、わかってさぁ」



 第2騎士団の戦士達はバズーカやパンツァーファウストで武装している。

だが、実際に射撃した経験はほとんどない。

まぁ、パンツァーファウストは撃ったら無くなるから仕方ないのだが。



 間もなく、97式が撃破され、大英達の戦車隊はヤークトティーガーを残して全滅した。

こうなると、土嚢に囲まれた小屋の中とはいえ、ヤークトティーガーが撃破されるのは時間の問題だ。

一方、西夏の戦車隊は被弾自体は数発あるものの、一番大きな損傷はM60のリアクティブアーマーに掠って、また減ったというぐらいなワンサイドゲームである。


 これが軍事ライターの実力なのか、第3世代戦車の力なのかは、ここでは評価しないでおこう。


 だが、直後ヤークトティーガーは初めてその128mm砲を命中させた。

ゲパルトを守るため周辺を走り回っていたレオパルド1A4は、車体後部に被弾し、煙を上げて停止する。

乗員は脱出し森へと向かい、やがてレオパルドは炎に包まれていった。


 M1が反撃し、小屋はその防御能力を失っていく。

だが、残敵掃討状態で油断した訳では無いのだろうが、前しか見ていなかった彼らは、側面からの接近に気づく事が出来なかった。

指揮官たる西夏が現れた映像に食い入って、周辺の警戒を怠ったのが問題なのだが。


 放たれた90mm砲弾はゲパルトのすぐ横を抜け、数百メートル先の地面をえぐる。

これに気づいたM60A1が砲塔を向けた先にはM26E2パーシングが居た。


 新手の登場だが、西夏はM60A1とM48A3を向かわせただけで、その意味を深く考える事は無かった。

目前に迫った勝利に興奮し、レオパルドを倒した強敵の始末に集中したのだ。


 そして西夏にとっての悲劇が起きる。


 パーシングから南に離れる事500メートル。 ゲパルトまでの距離900メートル。

戦場を南西から見るその場所に、2両の60式自走106mm無反動砲が射撃体勢を整えていた。


 数回の射撃で各々スポッティングライフルの曳光弾が命中したのを確認し、2両から放たれた105mmの砲弾はゲパルトへと向かう。

1発は砲塔に、もう1発は車体に命中。

この瞬間、西夏の無敵の防空体制は終焉した。



*****



「閣下! 閣下! 大変です!」


「な、なんだ、何が起きた?」



 突如爆発したゲパルト。

双眼鏡で戦場を見ていたアメリカ兵が西夏に報告する。

空中に浮かんだモニターにはゲパルトは映っておらず、車内で見ていた西夏は報告を受けて慌てて外を見る。


そこには、遠くで炎上するゲパルトの姿があった。



「馬鹿な、一体どこからの攻撃だ」


「判りませんが、村や敵戦車から撃たれたようには見えません」



 実際、モニターに拡大されて映っている小屋の中にいる戦車(ヤークトティーガー)の砲撃範囲には入っていないし、西に現れた新手は今もM60達と戦闘中だ。



「周りを調べろ、おい、お前、森から出て周辺に敵が潜んでいないか調べてこい」



 西夏はアメリカ歩兵に命じると、戦車隊に急いで既知の敵を始末しろと指示を出した。

指示を受け、ゆっくり射界外から小屋の破壊を目論んでいたM1は被弾覚悟で正面へと移動する。

敵が撃って来る窓を砲撃すれば、こちらの弾も当たるという訳だ。

現用戦車ならではの「狙撃」だ。


 だが、その直後、上空に何機もの航空機が姿を現した。



「閣下、飛行機です。 敵機です!」


「なに、心配無いでしょう。 各々対空機銃で応戦すれば、大丈夫」



 第二次大戦期の航空機なら、車載機銃で撃つだけで敵パイロットは恐怖で照準が狂い、弾は外れる。

対空放火は敵機を撃ち落とすためではなく、空爆を失敗させるために行う。 妨害がメインで、当たればラッキー程度の行為。


そんな言説もあり、西夏もその説を支持している。

現用戦車がなぜ砲塔上にM2を装備しているのか。 ヘリの装甲は抜けず、ATMを撃ち落とす精度も無い。 もちろん、戦闘機には届かないし、低空に降りてきても速すぎて当たらない。

それでも、対空機銃は無くならない。

敵機を落とす事は期待されていなくても、意味はある。


 とはいえ、10両も20両もあればそれなりに意味はあろうが、4両しか残っていないのである。

そして、西夏が想像するよりも、攻撃隊は強力だった。



*****



 ブレニム、P-39、P-63、それにモスキートが加わり、4両の戦車に襲い掛かる。

ブレニムは爆装しているが、残りは機関砲だ。


 低空からの爆撃であったが、緩降下爆撃はそうそう当たるものでは無い。

ブレニムがM1を狙って投弾した爆弾はどれも外れ、ただ地面をえぐっただけに終わった。

だが、その飛行に迷いはなく、外れたのは西夏が期待した効果ではなく、単に精度の問題だ。


 P-39、P-63はその37mm砲をM60に向かって撃つ。

とはいえ、やはり現代的な戦車を倒すには火力不足のようだ。 だが、M60のリアクティブアーマーはもうほとんどが失われた。

そして、横にいたM48が爆発し擱座する。


これは空襲によるものではなく、M26の砲撃だ。

その直後、M60はM26を撃破する。 ちょっと遅かった。 もう少し早ければM48を失わずに済んだのだが。


しかし、そのM60もすぐ後を追う事になる。


 西夏はゲパルトを破壊した相手を見つける事が出来ないでいた。

そしてその牙は、今度はHEAT対策を失ったM60へと向けられたのだ。


 周辺の状況が見えず、うるさい戦闘機に機銃掃射で追い回されて混乱状態の中、60式に撃たれたM60は爆発・炎上し機能を停止した。


 残るは2両のM1。

こちらを狙うは57mm砲を装備するモスキート。

如何に第三世代戦車と言えども、天板まで複合装甲ではない。


1両がエンジン上部を撃ち抜かれ、停止する。

それを見て、脅威と認識し、残った1両は強力なガスタービンエンジンに物を言わせ、急加速・急停止・急発進など回避運動をしつつ、ヤークトティーガーに向かって120mm砲を放つ。


その異様な機動性のため、57mm砲は中々当たらない。

そして、そんな動きをされては、ヤークトティーガーの128mm砲は照準すらまともに付けられず、撃つ機会は訪れない。

もっとも、M1もこれでは砲安定装置の限界を超えているのか、当たらなかったり、狙えなくなったりだが。


 この千日手ではないが、互いに決定打に欠く状態は、長く続けられない。

こんな無茶な機動をしているのである。 たとえ被弾しなくても履帯が切れたりすれば、それで動けなくなる。

もっとも、60式ではM1に近づくのは難しいだろうし、モスキートの残弾もそう多くは無い。

射界外で停止した場合、ヤークトティーガーで止めを刺すのも難しい。

砲塔が生きていれば、小屋から出て姿を出した時点で瞬殺されるだろう。


そもそも、止まっているM1も砲塔は生きているようで、乗員は脱出していない。

電源喪失すれば人力での運用なんて無理だから、APUが生きているのだろう。


 結局、4機の航空機は弾を撃ち尽くし、撤収していった。 ちょーっと、最新戦車を相手にするには力不足だったようだ。

そして、新たな動きがレリアル軍飛行場に起きていた。

用語集


・105mmの砲弾

106mmの間違いではなく、105mmで正しい。

実は先に別の105mm無反動砲があり、砲弾の互換性が無いため、106mmを名乗っているとのこと。

詳しくは「M40 106mm無反動砲」を調べると宜しい。



・対空放火は敵機を撃ち落とすためではなく、空爆を失敗させるために行う。

これは結果論。 撃つ側は落とすつもりで撃っている。

あれです。 1番を狙うから2番になるのです。 初めから2番を狙っていたら、5位以内にも入りません。

(1番狙いがハイリスクで、2番狙いがローリスクになるケースは除く)


落とされた機数より、攻撃を外した機数の方が多いというだけの話。

その外したものも、対空砲火が無くても当たらなかったケースも普通にあるだろう。

目標が撃ってこない訓練でも、100%の命中率にはならないのだから。


なお、コレは対空砲が少ない陸戦の話。

船がハリネズミになる海戦の場合は、また少し違う。

弾幕を展開するなど数に物を言わせる撃ち方もするが、墜とす気で撃たないと妨害にすらならないのは同じ。


つまり、正しくは

対空放火は敵機を撃ち落とす事だけが戦果ではなく、空爆を失敗させるだけでも御の字である。

という事。



・APU

補助動力装置。 要は発電機。



2022-12-03 脱字修正

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