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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第39話 おっさんズと軍事ライターの決戦 その2

 敵航空基地捜索のために森に向かって飛行中の九七式重爆撃機。

森上空に入る前に、突如主翼が付け根から折れ、炎に包まれつつ墜落する。


 村でその様子を見た監視塔の兵は、曳光弾の軌跡を視認し、その出元を双眼鏡で確認する。

森の中に戦車のような影が複数見える。



「対空戦車だ! まだ森から出てはいない。 数は対空戦車を含む複数、詳細不明、直ちに将軍と閣下に報告を!」



 再建された監視塔には半鐘のような物が付けられており、伝令が走るのと同時に鳴らされる。

その音を聞き、村人たちも避難したり、戦支度を始める。


 報告を受けたロンメルは直ちに迎撃態勢を取る。



「対空戦車が居るとは、これではAHを出せないか」



 ロンメルは苦い顔だ。

村から森までの距離は2キロ未満。 これでは離陸と同時に撃たれかねない。

一刻も早く攻撃ヘリを投入できる様にと、AH-1Sをマカン村に配置したのが仇となった。


 だが、AH-1S の搭乗員は出撃を求める。



「将軍! 出撃をご命令ください。 匍匐(ほふく)飛行で一旦射程外へ退避してから、ATMを使います!」


「まて、敵の正体が不明な現状では、相手の射程が判らない。 それに君たちはこの辺りの土地で訓練飛行をしていないだろう」



 敵に現代兵器に関する知識がある人物がいる事が判っているため、ヘリだけは元々90式と74式が使っていた小屋に格納されていた。

ある意味、最高機密扱いだ。 それ故、飛行訓練も行っていない。

一方、チーフテンはこれ見よがしに村の中に置かれている。 この差は相手に誤認させる効果を狙っていた。



「問題ありません、この辺りの地形を把握すべく、バイクを借りて調査走行を行っております」



 地上から見るのと、コクピットから見るのでは大きく違うが、そこはそれ、プロのパイロットである。



「判った。 だが敵の概要を掴むまで待機だ。 なに、敵に侵攻の意思があれば森から出てくるだろう。 姿を表せば、何が来ているのかは判る」


「了解しました。 ありがとうございます!」



 そして、都では報告を受けた大英達が航空基地に指示を出し、村へと向かう。

今回はハイシャルタットとビステルも同行している。 このため、ジープ1台では足りないので、キューベルワーゲンも使い、2名の運転手の他、大英・秋津・ゴート・ハイシャルタット・ビステルの5名にアメリカ兵1名というメンツになっている。


 航空基地ではマッカーサーの指揮の下、皆が慌ただしく動いていた。



「よし、P-61は直ちに離陸、モスキート夜戦も続け!」

「続いてブレニム、P-39、P-63、発進せよ。 別命あるまで現地より5キロ以上の距離を取り空中待機」

「テンペストとモスキートFB、発進準備急げ。 スピットファイアIX、XIV、XVIIIも滑走路へ」

「P-80C、F-86F、ミーティア、バンパイア、格納庫から出せ」

「エンジン始動車の準備はどうなっている!」

「工事要員を退避、第2滑走路を使用体制に移行!」

「F-104Jは出動待機体制に入り別命を待て」

「F-100Dパイロットは私の元へ」



 矢継ぎ早に出される指示。 地上戦力では劣勢なため、航空戦力で対抗しようという話なのだ。

しかし、相手には詳細は不明ながら、高度1000メートルを飛ぶ双発機を一撃で落とせる能力を持つ対空戦車がある。

第二次大戦型の航空機を突入させても、的になるだけだろう。



「司令、F-100D操縦士であります」


「敵には対空戦車がある。 陸さんが処理できなかった場合、貴官に対処してもらう」


「承知致しました」



 F-100DにはAGM-12ブルパップ空対地ミサイルが2発搭載されている。

現状運用出来る唯一のASMとその運用母機だ。 つまり虎の子であり、使わずに済むならそれに越した事は無い。

そもそも、動かない目標を攻撃するために開発されたミサイルの為、移動する対空戦車を撃つのには本来向いていない。

だが、射程外から攻撃する方法は高高度爆撃かコレしかない。

現時点では高高度爆撃は命中が期待できない。


AH-1か地上軍が対応に失敗すれば、出番が回ってくる事になる。



 大英達が村に着くころ、敵の戦車隊は森から姿を現していた。



*****



「一体どうなっているのです」



 指令室に呼び出された西夏はモニターに映る戦車隊を見て驚く。

問われたマリエルも事情は把握していない。



「判りません、勝手に出撃したりはしないはずですが」


「しかし、現に出てしまっているではありませんか」


「とにかく、指揮をお願いします。 このままでは、また迷走しかねません」


「ううむ、判った」



 マリエルと西夏は倉庫へ向かう。

そこには M113 が鎮座していた。 砲が無いので召喚は後回しにされていたものだ。 つまり、コレが最後の陸戦兵器。

今回の出撃でも動かずここに居たのは、「連絡要員」としての任務が割り当てられており、護衛任務には就かなかったため。


ちなみにキットはミヤタの1/35であり、内装も再現されている。

公式サイトではカットモデルになっているが、普通に制作されている。 まぁ、カットモデルだったとしても、召喚すれば普通になるけどな。



「それでは、このセンシャで出てもらえますか」


「え、ゲートを開いて通信すれば良いのでは無いですか」


「先日は撤退命令だけでしたので、ゲートを開きましたが、戦闘指揮となれば長時間になりますね。 その間開きっぱなしという訳にも行きませんわ」


「そ、そうだな」


「それとも、撤退命令だけ出されますか。 まだ飛行機は実戦投入出来ませんし……」


「いや、こちらに対空戦車がある事がバレてしまった以上、ここは押し切りたいと思います。 完璧を求めて機を逃してはいけません。 兵は拙速を尊ぶのですから」


「判りました。 西夏様の護衛も、このセンシャの乗員が担ってくれるでしょう」



 M113に乗る5名のアメリカ兵が敬礼する。



「よし、行くとしよう。 では出してくれ」



 西夏はアメリカ兵と共にM113に乗り込むと、森へと出撃した。


 M113が森へと向かった後、家から赤土が出てきた。



「おや、マリエルさん、何してるの?」


「ああ、赤土様、今西夏様が指揮の為に出撃されるのを見送ったところですわ」


「ふーん、あれ、あの大砲積んでない戦車は?」


「あのセンシャは西夏様が乗り込んで行かれました」


「へー、何すんだろ。 大砲も付いてない欠陥品で」


「直接戦われるのではなく、指揮をとられるのですわ」


「そうなんだ、トロいオッサンも仕事する気になったんだ」


「トロい?」


「だって敵が来てるのに、何の命令も出さない奴じゃないか。 代わりに僕が命令してやったから良かったようなものの……」


「え? では、センシャが外に出ていったのは、赤土様のご命令でしたのですか」


「あー、お礼なんていいよ」


「あ、いえ……」


「そうだ、お礼じゃ無いけどオッサンの戦いを見てみたいな。 偉そうな戦争好きがちゃんと仕事出来てるのか見たい」


「あ、判りましたわ」



 マリエルは映像ウインドウを開いた。


 戦車隊は前進している。 なぜかゲパルトも一緒に。

マリエルは西夏と通信を開く。 映像の右下に西夏の顔が表示される。



「西夏様、飛行機と戦うセンシャも一緒に出ていますが、宜しいのですか?」


「おや、ああ、問題ありません。 M1が居るので、敵もゲパルトを撃っている余裕は無いでしょう。 そんな事をしていたら、敵の戦車隊は全滅してしまいます。 最も脅威度の高い目標に最優先で対応するのが軍事の常識です。 それに空襲に対処するには、傍に居る方が有効です」


「そうですか、ではよろしくお願いしますね」


「任せてください」



 通信が閉じられる。

だが、西夏は本当の理由を伏せていた。 それは……



(森には私と私の乗るM113が居るのです。 ゲパルトが森に居たら、森も空爆や砲撃を受け、巻き添えになり兼ねません。 それに二次大戦初期の戦車ならゲパルトで撃破出来ますしね)




*****



 大英達が村に着いたとき、森から戦車隊が姿を現した。

ゲパルト対空戦車を中央に、周りを M60A1、M48A3、レオパルド1A4 が囲み、それとは別に M1A1 と M1A2 が居る。

召喚軍はロンメルの指示でヤークトティーガーが偽装した小屋の中から砲を覗かせ、74式とチーフテンが機動戦に備え、九七式とバレンタインが物陰に控える。


 指揮所に入ると、秋津は早速状況を確認する。



「どうだ、敵の様子は」


「ただいま確認したところです。 敵の新戦力はゲパルト対空戦車と、M1エイブラムスの120mm砲搭載型が二両です」


「M1か、その二両だけで元の三両より脅威だな」



 大英の感想に対し秋津は「おいおい呑気してる場合かよ。 第三世代二両だぞ、こっちには第二世代しか無いのに」と嘆く。



「そうは言っても、無いものは無い」


「いや、ま、そうだな」



 そして大英はロンメルに向き直る。



「それにしても、前に出てくるか」


「はい閣下、自分も予想外です」



 本来対空部隊は相手の地上部隊とは距離を取るべきで、最前線に出てくるというのは、イミフな行動だというのが、大英とロンメルの見解だ。

だが、このゲパルトが前に出るという無謀な行為は、予想外の効果を示した。



「AHを待機させていましたが、これでは出撃できませんね」



 森の中にいるなら、 匍匐(ほふく)飛行で距離を取ってからと考えていたが、すぐそこに居たのでは、匍匐飛行でも見つかってしまう。



「よし、九七式とバレンタインにゲパルトを処理させよう。 車体は無理でも、あの巨大砲塔ならあれらでも撃ち抜けるんじゃないか」


「では、チーフテンにM1の相手をさせますか」


「七四式も支援させよう。 L7 105mm じゃ効果は薄いけど仕方ない」


「ヤークトティーガーは基本残りの三両を撃たせますが、撃てる機会があったらゲパルトもM1も撃たせます」


「それで頼む」



 戦力は集中が大事。

威力がちょっと足りないとか、射界に捉えるのが難しいと言っても、撃てるなら撃つ。

もちろん、オーバーキルとか気にしている場合でもない。

そこを「もったいない」とか言っていては勝てる戦いでも負ける。


 こうして戦車隊の対決が始まった。

用語集


・90式と74式が使っていた小屋

初めからヘリを入れる事を想定し、背の高い小屋にしていたので、入ったものである。

なお、74式は村の中央部に移動している。



・誤認させる効果

一つ目立つ違いがあると、それに気を取られやすくなる。

そしてソレが「デフォルト」になる。

本件なら、「格納施設を作る暇が無い」という事。

一つ「格納施設を作る暇が無い」事が判るだけで、他に新装備があっても「外に置かれている」と誤った推測(希望的観測)をしてしまう。

確証バイアスというやつです。


相手が陸自幹部や諸外国陸軍の指揮官なら、こんな手に引っかかる事は無く、新装備が既存の建築物に隠される事も想定するだろう。

大英は相手として「ミリオタモデラー」を想定しているので、効果があると踏んでいた。

では軍事ライターさんはどうなのか。

他の方だとどうなるかは知らないが、「その1」を見ると西夏は引っかかったみたいですね。



・唯一のASMとその運用母機

実際には同じAGM-12を装備した未召喚のF-105が控えている。(1/144)

こちらはいつでも召喚できる状態であるが、爆弾倉の中身をどうするか決めていないため、保留されている。

その爆弾倉、核爆弾を収納出来るのである。

ちなみに召喚情報を調べると選択肢は核爆弾か燃料タンクだという。 通常爆弾が選べないので、お悩み中。

普通の日本人なら迷わず燃料タンクなのだろうがね。



・兵は拙速を尊ぶ

一般的には西夏の言う通り、完璧を求めて機を逃してはいけないというニュアンスで使われます。

徹底的に準備を固める大英のやり方とは真逆の考え方です。

これ、AHを速攻で出撃させておけば良かったという意味でも使える言葉ですね。

正体を見極めようとしたために、ただ姿を現すどころか前線に付いてきちゃったので、AHを出せなくなったという状況ですから。

なお「勝った後、欲をかいて深追いせず、さっさと畳め」という意味に解釈する人も居るようですが、かなりレアな解釈。



・大砲も付いてない欠陥品

酷い言いがかり。 そりゃ戦場タクシーとか呼ばれてましたけどね。

後継のM2ブラッドレーは25mm砲を搭載しました。 残念ながらキットは制作されていないため召喚される事はありませんが。

とはいえ近代兵器の知識が無いマリエルと、そもそも軍事に疎い赤土。 しょうがないね。



・あれらでも撃ち抜けるんじゃないか

甘い。 ゲパルトの砲塔は10mmから40mmの装甲を持つとされている。 これ、M3軽戦車より厚い。

九七式の一式四十七粍戦車砲の場合、一番厚いところに当たったら、1km以内で無いと貫通できない可能性がある。(装甲の質次第だけどな)

バレンタインの2ポンド砲も使う弾次第だけど、似たような物だ。



・射界に捉えるのが難しい

ヤークトティーガーは砲塔ではなく固定戦闘室。

砲が狙える範囲は狭い。

砲が動く範囲を超えたら車体を動かして対応するのだが、偽装した小屋の中なので、余り大きく向きは変えれない。

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