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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第38話 おっさんズと決戦準備 その2

 夜のアンバー村。

例によって周辺の様子には無頓着にレイスは浮遊している。

連絡を受けたアキエルも注視する中、攻撃準備が行われる。



「よし、攻撃用意」



 秋津の命でアメリカ兵はM1ガーランドの銃口に対レイス弾を装着する。

そして、丸太を地面に置き、それに銃床を当てる形で地面に付ける。

その状態で銃口をレイスに向け固定する。


 対レイス弾は空砲を使って撃ちだす。

普通に射撃すると、反動が大きいため、このような運用となる。



「用意ヨシ」


「よし、撃て」


「ファイアー!」



 空砲の圧力で撃ちだされた対レイス弾はレイスに向かいつつ、淡く発光する。

そしてレイスを「通過」していく。

レイス自身は実空間に居ないため、そこに見えるのは射影と呼ばれる影。 そのため見た所では弾はそのまま通り過ぎるのだ。


だが、その直後、レイスに異常が発生する。


弾に埋め込まれたナノマシンが攻撃効果を持つ重力子を4次元方向に放出していたのだ。

それをレイス本体が浴びたのである。

これ、ナノマシンの動力源はヒヒイロカネ自体の運動エネルギーのため、剣を振るうような使い方では速度が足りず、そのため銃で撃つ形にしたのである。

影を撃たれたレイスはバランスを崩し、実空間に「墜落」する。


 それまでと違い、はっきりした姿を表したレイス。

以前はやや透けていたが、今は不透明だ。



「よし、現れたぞ、撃て!」



 秋津の号令で3名のアメリカ歩兵が小銃や短機関銃を発砲する。

多数の銃弾を撃ち込まれたレイスは、動かなくなった。



「どうやら、うまく行ったようだな」


「成功ね」


「ああ、おかげで助かった」


「想定通りの動作をした様で、一安心だわ」



 シミュレーションでは当然うまく行っていたが、実際の弾丸は地上製造だし、発砲も小銃からなので、やってみるまでは確かな事は言えなかったのである。



「あの弾って再利用できないのか?」


「そうね、潰れてたりしなければ5~6回は使えると思うけど、いずれ重力子の放射能力が無くなるわ。 ただ、見た目は変わらないから、撃ってみるまで生きてるかどうかは判らないんじゃないかな」


「それだけ使えれば十分か。 弾はあと2発あるし、もう1発追加されるから、そのうち向こうもレイスを送るのが無駄だと思うだろうな」


「でしょうね」



 こうして憂いの一つは無事除去されたのであった。



*****



「これは……、ふむ、中々良いぞ」



 倉庫に新たに現れたブツを見て、西夏はほくそ笑む。

戦車隊の再建はなかなか進まないが、飛行機は順調に数を増やしていた。

飛行場の工事もピッチが上がっており、上機嫌になりつつあったが、今日登場したブツはさらにその機嫌を向上させた。



「これならリベンジの機会はそう遠くないですね」


「そうなのですか」


「ええ、戦闘記録から、向こうの戦車はまともに使える物は2両しか無い事が判っています。 そして懸念事項だった航空機による対地攻撃も、無力化する術が手に入りました」



 そう語る西夏の目の前には、巨大な砲塔の左右に35ミリ機関砲を備えた「ゲパルト対空戦車」が鎮座していた。



「敵のセンシャが増える事は無いのでしょうか」


「敵戦車で最強なものは、90式戦車であることが判っています。 途中で被弾してからは後退しており、出て来ません。 爆発炎上こそしていませんが、何か致命的な損傷を受けたのでしょう」


「なるほど」


「で、重要な点は、90式が最新最強だという点です」


「なぜです?」


「90式より新しい戦車は用意できないのでしょう。 わざわざ旧式戦車を最初に用意する意味は無いでしょうから、強い物から召喚しているでしょう。 となれば、今後戦車が増えるとしても、より旧式な弱いものになるハズです」


「そうなのですか?」


「有力な物から召喚するのではないですか?」


「そうでしょうか、これまで戦った限りでは、もっと小さなセンシャから登場していた気がします」


「それは不思議ですねぇ。 なぜ性能の低い物を……」



 西夏はリアライズシステムについて詳しくないため、年代が新しいほうが召喚負荷が高いという事が理解できていないようだ。

だが、最初に現れた戦車が何であったかを思い出す。



「そういえば、ここで最初に現れた戦車はM41やM48でしたか。 古い方から調達するべき理由が何かあるのですかね」


「だと思います」


「となると、最新型が新たに登場する事もありうる訳ですか。 航空隊の充実と飛行場の一刻も早い完成が望まれますね」



 そう語ると、横に並ぶ航空機に目をやる。

そこには MiG-21 が駐機していた。



「工事の状況を見てみたいですね」


「では、参りましょう」



 マリエルは飛行場へのゲートを開く。

ゲートを抜けると、森の中を切り開いた飛行場に着く。


 滑走路は200メートル程の長さになっており、その先は300メートル程伐採が進んでいた。

滑走路のこちらの端には格納庫用の土地が確保され、整地されている。

滑走路とこの格納庫用地は舗装が施され、石ころ一つ落ちていない。



「ふむ、よい仕事ですね。 依頼した通りしっかりやられているようで、何よりです」


「意図通りのものになっている、という事でしょうか」


「ええ、上出来です」



 滑走路の向こうの端では、数人のコボルトを指揮しつつ、工事に熟達した天使が作業をしている。

舗装作業はこの天使の魔法で実施されているようだ。



「あとどのくらいで完成するでしょうかね」


「そうですね、聞いてみましょう」



 マリエルは200メートル先の天使に通信をつなぐ。



「お疲れさまです、オノエル棟梁。 作業の進捗について伺いたいのですが」


「おお、何だい」


「この飛行場の完成まで、あとどのくらいかかりますでしょうか」


「そうさな、順調ならあと30日くらいで出来るんじゃねぇか」



 それを聞き、西夏は驚く。

彼の設計では滑走路は長さ1500メートル、その先500メートルの木を伐採する事になっている。

しかるに、天使達の作業は手作業で、工事車両と言えるのはトラック風のものが1台見えるだけだ。



「本当にあと30日で1300メートルもの滑走路が作れるのですか?」


「勿論だ」


「それは心強い。 よろしくお願いします」


「任せときな」



 流石は天界の天使である。

ダンプ1台とG40ブルドーザー1台と人力で舗装滑走路を造っている大英達とは比較にならないスピードだ。


 その時、警報か鳴り、一瞬で飛行場上空が何かカバーの様なもので覆われ、辺りが真っ暗になる。



「これは、一体何事ですか」


「確認しますわ。 ミシエルさん、隠蔽システムが起動しましたが、何かありましたか」



 いつもの管制室で、レイスが倒された事について調べていたミシエルに通信をつなぐ。



「え? 何だろ。 自動起動だそれ。 ちょっと待って、調べる」



 確認すると、航空機接近を探知したというアラートが出ていた。



「何か飛行機が接近してるのを光学監視システムが見つけたんだ」


「それはいけませんね、直ちに退避いたしますわ」


「そうだね、直接こっちに来てよ」


「そうしますわ」



 マリエルはゲートを開き、西夏と共に管制室へ行く。

オノエルと作業員たちも基地の中へと退避した。



「映像出た、こいつだ」



 そこには、双発のプロペラ機が飛行している姿が写っていた。



「これは、向こうの飛行機ですね。 西夏様、これが何だか判りますか? 」


「うーん、これは……旧帝国陸軍の九七式重爆撃機の様ですね」



 腐っても鯛。 流石は軍事ライター。

西夏の専門は現代戦だが、第二次大戦の航空機についてもそれ相応の知識がある。



「何をしに来たのでしょう」


「この機体は爆弾倉があるので、見ただけでは爆装しているかどうかは判りませんが、飛行場に向かっているのですか?」


「いや、すぐ近くを通るけど、進行方向自体は違うね。 見えてはいないんじゃないかな。 こっちの光学監視システムの方が目は良いだろうし」


「光学……レーダーは使っていないのですか?」


「うーん、向こうの飛行機は魔法で飛んでないから、魔力検出が出来ないんだよね」


「??」



 話がかみ合っていない。



「魔力? いえ、レーダーは電力で動くものですが」


「デンリョク? 聞いたこと無い用語だけど……翻訳が間違ってる?」


「どうも話がズレてるようですが、それは後でお話ししましょう。 あの機体の進む先に何か爆撃されるような目標はありますか」


「爆撃というと、ああ、飛行機から攻撃されるって話だね。 うーん、何もないはずだけど」


「となると、偵察飛行かも知れませんね」


「偵察……そうか、こっちの施設を探してるのか」


「見つかる事は無いのですか?」


「この基地は地下にあるから見つかる事は無いと思うよ、上から見てもただのジャングルだし」


「飛行場と西夏様のお屋敷だけですね。 地上にあるのは」


「そうか、それで隠蔽ですか」


「ええ、上から見れば、周辺のジャングルと同じに見えると思いますわ」



 上から見れば森、下から見れば空、通過するのに何の障害も無いという常時隠蔽のシステムも用意できるけど、消費魔力が無駄に大きいので、必要な時だけ稼働し、下から見ても森で、光も遮断してしまう簡易型が設置されている。

飛行場として利用しているときに隠蔽が発動すると危険なので、使えるのは完成するまでとなる。


 そして、彼らの指摘通り、飛行場のすぐ横、もし隠蔽していなければ上空から見えたであろう位置を通過した九七重爆は、そのまま気づく事無く通り過ぎていった。



「敵軍には結構な数の航空機があるのかもしれません。 空軍の整備は重要ですね。 飛行場の完成、急げるなら急いでください」


「判りましたわ」


「それと、敵飛行場の情報を頂けますか。 作戦として航空撃滅戦を行う必要がありますので」


「判りました。 以前偵察した時の情報と、私が訪問した際の情報を照合して作成した報告書がありますので、後ほどご覧いただきますわ」


「敵飛行場に行かれたのですか?」


「ええ、停戦中に訪問いたしました」


「なるほど、機密情報を安易に開示してしまうとは、やはり所詮素人ですね」


「そうなのでしょうか」


「そうですよ」



 こうして航空基地捜索は失敗する事となるのだが、そんな事で「敵に飛行機は無い」などという結論を出す程、大英達は間抜けではない。

両軍は互いに情報不十分なまま、準備を進める。

そして、例によって準備が整わぬまま、次の戦いに突入する事となる。

用語集


・このような運用

実際の小銃擲弾も反動が大きくなるため、普通に肩に当てて射撃する事は無いと聞く。

また、銃への負担のためか、使用する銃を専用として扱うらしい。

「M7グレネードランチャー」について検索すると、詳しい説明が見れる。


ミヤタのWW1イギリス歩兵に小銃擲弾を装備した小銃を持つ兵が居て、膝まづいている。

実際の運用では塹壕の中で、迫撃砲のように地面に置いて斜め上に向けて撃ったらしいので、その準備をしている姿勢だろう。



・比較にならないスピード

参考資料

米海軍 与那原飛行場は約2か月で2千メートル弱の舗装滑走路を造成している。

ただし、元の土地は最初から平地。

伐採の手間の有無、長さの違い、舗装の品質の違い、投入された機械力と人員を考えると、天使の工事は結構早い。

なお、大英達の第2滑走路は場所が元からほぼ平らな土地なのに、2か月以上かけてまだ半分も出来ていない。

まぁ、半分あればジェット戦闘機の運用も出来るけどな。



・確認すると、航空機接近を探知したというアラートが出ていた。

ちゃんと設計された基地システムとして統合されている訳ではないため、各々のシステムは連動・連携していない。

偽装システムと対空監視システムは繋がっているけど、管制室に自動的に警報が出て映像が出るようには出来ていない。

まぁ、基地というモノ自体、天界には無い施設だから手探り・手作りなのだ。



・必要な時だけ稼働

「第21話 おっさんズと空の攻防 その2」で常設は非効率とティアマトが発言している。

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