第38話 おっさんズと決戦準備 その1
敵が去った村で、大英は「うーん」と唸っていた。
秋津も周りを見渡し、コメントする。
「派手にやられたな」
「全くだ」
「戦力もぼろぼろだしな」
「そうだな、90式は逆召喚で修理するしかないから、使えるのは実質74式とヤークトティーガーの2両しか残らない」
「まずは戦車対策か」
「またかー」
以前名も知らぬ敵の戦車隊と戦った後も、戦車対策に追われたが、それが再来した格好だ。
そして、今度は守るべき場所も増えている。
大英は手帳を見ながら、困り顔だ。
「アンバーはパーシングとファイアーサポートだから、あっちも2両か」
もちろん他にも戦車はあるのだが、現用相手では戦力外だろう。
というか、M113A1って、戦車じゃないだろ。
HESHが使えるから攻撃だけは出来なくは無いが、76ミリじゃ第3世代には通じないんじゃないかな。
「どうする、61呼ぶか」
「いや、直接都を強襲される可能性もあるから、それは出来ない」
「だよなぁ」
戦車は馬より速い。
いつぞやの様に「村に居て気が付いたら都で戦闘が始まっていた」なんて事になる可能性は十分ある。
「とにかく、対戦車能力を高めて時間を稼ぎ、反撃は空から……かなぁ」
と語る秋津に対し、大英は懸念を示す。
「相手に飛行機や対空戦車が無ければな」
「そうか、それはマズいな」
「レオパルド2が走ってたくらいだ。 ファントムやミグ23とかが飛んできてもおかしくない」
「どうするよ」
「まずは偵察機を飛ばそう。 飛行場が無けりゃ飛んでこない」
「そうだな、だけど見つかるかな」
「あんなデカい構造物、上から見ればすぐ判るんじゃないか?」
「いや、近くにあるとは限らん」
「そっか、現用機なら航続距離もかなりあるか」
「レーダーが常設ならなぁ」
「ずっと動かしてたら燃料が持たんよ」
現状、燃料の供給はジェリカンやドラム缶の召喚に頼っている。
タンクローリーも2両(いすず TX-40 , GMCタンクローリー)あるが、そちらは非常用として手を付けていない。
幸いな事に逆召喚で満タンに出来るので、時間さえかければ燃料が尽きる事は無い。
ただ、消費量が供給量を上回れば、当然いずれ枯渇する。
シルカ1両だけなら大丈夫かも知れないが、飛行機を飛ばし、車両を走らせるし、それもいつ大規模に動かすか判らない。
常に余裕を求める大英的には、ぎりぎりを攻めるつもりは全く無いのである。
とりあえず、村の復旧はロンメルに任せ、大英達は都に帰って行った。
都に着くと、さっそく報告会となる。
領主達やリディアとパルティアも待ち構えていたが、一番聞きたそうにしているのはハイシャルタットであった。
一通りの報告を受け、事態を把握した領主と新執政官はアラゴンとも相談し、マカン村の復旧に第3騎士団から人員を投入する事を決めた。
とりあえず、この日、早急な対策として60式自走106mm無反動砲を2両召喚した。
「まずはコレをマカン村に派遣しよう」
「続きはどうするんだ?」
「こうなったら仕方ない。 明日村へ行って90式の回収がてらチーフテンを召喚する」
「そうか、遂にか」
有力な戦車であるが、何か未知の問題で召喚済み戦力が機能不全を起こした時のための保険として、召喚を保留していたのだが、今回の事態を受け、召喚する事を決めたのだった。
続いて航空基地のマッカーサーに南方500キロ程度までの偵察計画を立てるよう指示した。
敵の航空基地の存在をチェックするためだ。
もっとも、専任の偵察機が無いので、他の機体で実施する。
爆弾倉が空のウエリントンや97式重爆なんかが妥当という事となった。
そして大英は模型制作計画を組み直し、スコーピオンと81式短SAMを先に作る事とした。
実はもう有力な戦車や対戦車車両の在庫が無いのである。
最先端の1/35が2010年代に到達すれば、10式や16式があるが、現状ではまだ無理。
それなら、軽戦車と対空車両が良いという判断だ。
対空レーダーもシルカだけでは、故障したり撃破されたらレーダーが無くなるので、予備は必要だ。
なお、81式は一式揃っているので、ちゃんと機能する。
制作スペースに積まれた箱と意外と冷静な大英を見て、秋津は質問する。
「なんか落ち着いてるな。 それと対地用の飛行機は無いのか?」
スコーピオンと81式の2つと一緒に積まれていたのは、J-35とシーベノム、それにモスキートの夜戦型である。
どの機体も対地用では無い。
「飛行機はちょっと難しいが、もっと使える奴がある」
「使える奴?」
「AH-1Sだよ。 相手にSAMや戦闘機が無いなら、コレ1機で戦況を逆転できる」
「そうか、そっちか。 そういやもう出来てたか」
「ああ。 チーフテンと共にこいつを召喚すれば、大体なんとかなるだろう。 コブラならアンバー村も守れるし」
対戦車ヘリなら大体15対1の比率で戦車を圧倒出来るという
相手に満足な対空装備が無いなら、これだけで安心である。
だが、「無い」という保証が無いので、戦車や対戦車車両も必要なのである。
翌日、朝の召喚として、マカン村でチーフテンMk.5とAH-1Sが召喚された。 そして逆召喚で90式が回収される。
ちなみに逆召喚する前に地雷処理ローラーを装着した。 基本的に召喚時と同じ状態にしないと逆召喚に差し支えるためだ。
続いて飛行場へ行くと、P-61 ブラックウィドウとホーカー テンペストを召喚する。
この日は一休みの後、3回目の召喚を行った。
グロスター ミーティアとデ・ハビランド バンパイアである。
「とりあえず、ジェット化だけでもしとこう。 燃料違うから、今のうちに慣れといてくれ」
「お任せください」
マッカーサーも事情は理解している。
ざっくり言うと、レシプロ機はガソリン、ジェット機は軽油という事だ。
大英は都に戻ると家にこもる。 模型制作をスピードアップするためだ。
一方秋津は再度マカン村へと行き、ロンメル、アラゴンと打ち合わせを行う。
昼過ぎに到着したアンバー村からの伝令も参加した。
「アンバーに奴が出たのか?」
「はい、昨夜レイスが放浪しているのを騎士団で確認しました」
それを聞き、秋津はロンメルに指示を出す。
「参ったな、それじゃ60式2両はアンバー村に送ってくれ。 でも昨日の敵より新しい戦車が来たら撃破は難しいから、あんまり期待はしないでくれよ」
「そうですね、時間稼ぎをしている間にAH-1を派遣する形ですね」
「それで頼む」
打ち合わせを終えた秋津は、都に戻るとパンチャーラの元を訪ねる。
「どうだい、進捗は」
「ダンナ、丁度いいところへ、ついさっき3発目が出来た所でさぁ」
「おお、ナイスタイミング」
「まだ材料はあるんで、4発目もいきますかい」
「頼む。 余って困るものじゃ無いからな」
「承知!」
秋津は対レイス用の弾3発を受け取ると、その足でアメリカ歩兵の所へ行く。
「対レイス弾だ。 使い方は小銃擲弾と同じだ。 今夜アンバーに向かう。 準備してくれ」
「了解しました」
一端家に戻った秋津は、大英に対レイス戦に向かう事を告げる。
「なんと、それは見てみたい」
「お前はキット制作に専念せい」
「ちぇ」
その場にいたティアマトに対レイス弾の完成を告げるとアキエルに通信をつないでくれた。
「どうしたのティアちゃん」
「アレが出来たって」
「?」
話が飛び過ぎているので、秋津が説明する。
「対レイス用の弾が出来たぞー」
「おー、それは朗報ね」
「今夜から対処に向かうわ」
「そう、じゃ使う時呼んでね」
「うん? どうやって呼べばいい?」
秋津は天使や神と違い、自分で通信を開く事は出来ない。
み使いには通信回線の発信権限が無いのだ。
「エミエルと一緒に行って」
「おお、判った」
夕方食事の後、秋津とエミエル、それにアメリカ兵はアンバー村へ向かう。
そして深夜、予想通りレイスが現れた。
用語集
・逆召喚で満タンに出来る
これはタンクローリーも同じだが、生憎両方とも1/72なので、再召喚まで時間がかかる。
ジェリカンやドラム缶は1/35なので、1月ちょっと待てばいい。
・一式揃っているので、ちゃんと機能する
この手のキットでは目玉になるランチャー車しかないものも珍しくない。
大英の在庫にも12式地対艦誘導弾があるが、これはランチャー車のみなので、運用は出来ない。
まぁ、現状対艦ミサイルが必要になる事態ではないがな。
一方、81式はレーダー車1両とランチャー車2両の3両セットなので、ちゃんと使える。