表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
123/237

第36話 おっさんズ、現用兵器と対峙する その4

 キャラバンを襲撃するための飛竜(ワイバーン)が目標地点に近づく。

そして、その飛竜に先行して空域に進出した飛竜が周辺に目を光らせる。


 自分たちの出撃に気づいた敵が、戦闘機を派遣するのを察知して、「早逃げ」を実現しようと言う作戦だ。

襲撃する飛竜は高度が低く、遠くが見えない。 そのため、別の飛竜を警戒用に飛ばし、ペアで作戦を遂行する。

だが、その作戦は机上の空論だったようだ。



 「さて、まずはこいつを処理するか」



 マカン村へ向かうキャラバンを襲撃しようとする飛竜の後ろから接近するMiG-3。 シルカからの連絡により、先回りしていたのだ。

飛竜はその戦闘機の接近に気づかない。

MiG-3は距離を詰め、有効射程に入る。


 不意に飛竜が向きを変える。

戦闘機のエンジン音に気づいて、後ろを見ようとしたのかも知れない。

だが、時すでに遅し。


 MiG-3は3門の機銃を発砲し、その弾丸が飛竜を襲う。


 飛竜はドラゴン程ではないが、一応鱗が体を覆っており、生半可な攻撃は通用しない。

そのためか、7.62 mm ShKAS 機関銃より放たれた弾丸は、有効なダメージを与えたとは言い難い状態だ。

もちろん、効果が無いわけではないが、かすり傷レベルが多く、痛い事は痛いだろうが、墜とすには至らない。


 しかし、MiG-3は 12.7 mm UBS 機関銃も搭載している。

1門しか無いが、その銃弾は飛竜の鱗を容易に貫通し、その飛行継続を困難な状態にする。


 血しぶきを上げながら高度を落とす飛竜。



「なかなか頑丈だな、本当に生き物か?」



 MiG-3のパイロットは改めてファンタジーモンスターの力に感心しつつ、確実に落とすべく追撃する。

さらなる銃撃を受け、遂に飛竜は地に落ちる。

まだ息はあるものの、回避運動のため街道を外れた場所に落ちたため、もはやキャラバン襲撃は出来ないだろう。


 MiG-3はそれ以上の攻撃を止め、もう一匹いる警戒用の飛竜へと向かう。


 空戦は先に発見した者に勝利をもたらす。

シルカのレーダーで位置を確認しているため、今度も後ろから接近する。

高速高高度戦闘機であるMiG-3にとっては、容易な作業だ。


 こうして、2匹目も血祭りにあげる。

今度は元の高度も高かったため、飛竜は不時着できず地上に激突して絶命する。


 そして事情はアンバー村へのキャラバンを襲うべく飛び立った飛竜達も同じだった。

そちらには Yak-3 が向かい、2体の飛竜を始末した。

違いは、20 mm ShVAK機関砲に撃たれたため、低空に居た襲撃担当も墜落死したと見込まれる所だろうか。



*****



「なんて事だ、どうして敵は後ろからやって来たんだ!」



 指令室で様子を見ていたミシエルは混乱している。



「というか、向こうがこっちの攻撃を事前に知って、待ち伏せていたって事よね。 そっちのほうが問題じゃない?」



 キリエルが根本的な問題を指摘する。



「うーん、魔法探知されてるのかな」


「それが出来るモノは無いはずよね」


「だよなぁ、飛竜に逆探は付けていたんだよね」


「ええ、魔力を探知しようとすれば、それを検出出来たハズ」


「となると、パッシブ探知かな」


「考えずらいけど、それしか考えられないわね」



 要は魔力を放射するレーダーは使われていないので、飛竜の発する魔力を「観測」する方法と考えた訳だ。

電磁波を利用しているレーダーという推測には至らない。


まぁ、推測が間違っていても、対策は変わらない。

ミシエル達には「魔法を使わず飛行する」手段は無いし「魔力の漏洩を起こさずに魔法を行使する」のも出来ない相談。

なので、これは「飛べば見つかる」と言っているのと同じ事なのだ。


 とはいえ、レーダーは四六時中稼働している訳では無いのだけどね。



 二人の天使が困っている頃、もっと困っている者がいた。



「何という事だ、9両あった戦車が3両になってしまうとは」



 撤収命令によって戻ってきた戦車を前に、愕然としている西夏だ。

その3両とは M60A1、M48A3、レオパルド1A4 だ。

M60A1 については、装備していたリアクティブアーマーの半数以上が失われており、防御力も低下している。


 その様子を見て西夏は「何で出撃したんだ」とこぼす。

別に問いただすつもりはなく、愚痴として出た言葉だ。

だが、それを聞いたM60A1の車長は驚くべき反応を返した。



「閣下、我々は敵と戦うためにこの地に現れたものです。 機会があれば間髪入れず出撃し、敵を殲滅します。 撤退命令を出されたのは遺憾です」


「何だと……」



 あと二人の車長も同じ事を語った。

これはおかしい。

召喚後、車長をはじめどの兵員も、そのような考えなしに敵に突撃するような様子は無かった。

だが、今の彼らは「なんで撤退を命じたのだ」と不満を示している。



「もしかして、お前たちは自分の意思で出撃したのか?」


「もちろんであります」



 そう、実は赤土は命令など出していない。

そもそも朝行動を開始した時点で彼は寝ていたし、前日に出撃を指示していた訳でもないのだ。



「これは一体、マリエルさん、どういう事ですか」


「おかしいですね。 モリエルに確認いたしますわ。 しばらくお待ちくださいませ」



 マリエルは通信を開き、モリエルを呼びだす。

間もなくモリエルが出る。



「おや、どうかしたのかい」


「モリエル様、ホムンクルスの行動制御に異常が見られますわ」


「なんだって、詳しく話してくれ」



 マリエルは今朝からの一連の出来事について報告・解説する。



「判った。 すぐに調べよう。 何かわかったら報告するので、しばらく召喚軍は動かさないでくれ、また、新規召喚もいったん止めてくれ」


「判りましたわ。 新規召喚はやりたくても出来そうにありませんが……」


「そういえば、そのようだね。 とにかく、急ぎ調べてみる」


「お願いいたします」



 とりあえず、西夏は各車長とA-37のパイロットに別命あるまで待機を指示し、本日は終了とした。


 一方天界では忙しい時間の始まりとなった。

とはいえ、もう見当は付いている。

昨日までと違う行動をしているなら、直近のアップデートに原因があるのは明白だ。


 モリエルの指示を受け、セキエルとマツエルは総点検を始める。


 戦闘時の思考と通常時の思考も同じ「思考」である。

思考を制御する部分は人格を構成するものであり、戦闘時と通常時で別々に用意されている訳ではない。


そしてリアライズシステムの「改良」によって、戦車兵達は元々持っていた判断力や思考能力を失い、「とにかく戦わなければならない」という強迫観念に捕らわれ、偶然訪れた外に出る機会を逃さず出撃し、この様な結果を招いたのであった。


 共通しているライブラリを変更すると、それを利用している「全く別の部分」に影響が出る。


 繰り返しテストと修正をやっているうち、戦闘能力を高め、効率を高めようとして変えてはいけない所まで変えていたのだ。

だが、戦闘開始後の状況だけをテストしていたため、「命令無しに勝手に出撃してしまう」という副作用が生まれていたのに彼らは気づかなかった。


ネトゲでも


 「アプデ入ったら、ちゃんと動いていたトコロがバグった!」

 「なぜ関係ない所が動かなくなる?」

 「一つ直すと二つ新しいバグが出る!?」


なんてのはよく聞くお話ですね。



 アキエルは「召喚元」の能力を出来るだけ忠実に再現するようシステムを設計していた。

指揮官として使えるホムンクルスや、エースとして活躍できるのは、元が「そういう人材」を再現したキットだった時だけ。

たが、セキエルはそれでは能力が低いと考え、全員が「指揮官でエース」の力を持つという「ぼくがかんがえたさいきょうのへいし」になるようにシステムを書き換えた。

この「余計な変更」が今回の事態を生んだのであった。


 より優れた判断をして、才能に溢れ、高い練度を発揮するクルー。

だが、「どんな人物がすぐれた指揮官/兵士なのか」を知らない者が設計したため、残念ながら指揮官としても、兵士としても3流なのであった。


 元々は人間としての能力も兵器同様にアカシックデータベースから取得し、不足分も同じ職種の兵士の能力を平均化して生成し、兵士として様々な能力を持たせていた。

それは単に戦闘技能だけでなく、あらゆる能力に及んでいる。

それをスクリプトキディよろしくAIのルーチンで置き換えたのだ。


 実戦では発生しなかったから表に出ていないが、料理をやらせたら、全く出来なくなっていただろう。

料理を制御するAIルーチンが組み込まれていないのだから。


 いちいち人が出来る事を全てやれるようにしていたら、膨大なコードが必要になる。

そこの部分を「召喚元」の能力に任せる形にしていたアキエルのシステム設計こそ正解で、個別にコードを積み上げて実装するのは、たとえ出来合いのコードを組み合わせる方式であっても、遠く及ばない。


 結局は、行うべきではない変更を行い、余計な副作用を引き起こして、重大な損害を出しただけに終わったのだ。



「……という訳だ。 申し訳ない。 すべては僕の監督不行き届きだ。 明日中には全て修正しテストを済ませ、システムを更新する」


「判りましたわ」


「西夏殿を出してもらえないか、僕から直接謝罪したい」


「少々お待ちください」



 マリエルは西夏を呼ぶと通信を再開し、モリエルは直接事情の説明と謝罪を行った。



「なるほど、事情は判りました。 再発も防止される事も」


「ご理解いただき、恐縮です」


「ですが、対策はどうされるのでしょうか」


「対策……と言われますと?」


「失われた戦力を取り戻す方法です。 言ってみれば『損害賠償』をどうするのかというお話です」


「残念ながら、リアライズシステムでは失われた戦力を再度生成する事は出来ません。 模型はワンタイム触媒のため、再使用はできないのです」


「ならば、天界から進んだ技術を使った『天使製の兵器』を送ってはくれませんか」


「それは出来ません」


「なぜですか、そちらの落ち度で生じた損害なのですから、そちらで補填するのが筋という物でしょう」


「しかし、天造兵装の投入はこの戦いにおける協定違反であり、認められません」


「本事態には特例を認めるべきでは」


「それでは、ム・ロウ陣営にも天造兵装が投入される口実を与えてしまいます」


「敵に判らない様にすれば良いでしょう。 現物をコピーするなり、外見だけ偽装して、中身は魔法兵器でも良いのでは?」


「判りました、レリアル様に相談します」


「よろしくお願いしますね」


「期待はしないで頂きたいですね」


「そこは貴方の頑張り次第でしょう。 ぜひ本気で賠償に当たって責任を果たしてください」



 モリエルは無言で一礼だけして通信を切った。



「さて、次はあの若造ですね。 どう騙すか……」



 それを聞いたマリエルは驚く。



「正直に伝えないのですか?」


「伝えませんよ、ああいう輩は調子に乗りやすい。 私の指摘が間違っていたなんて知ったら、増長して良くない流れになるのは明白。 マリエルさんも、彼には秘密でお願いしますよ」


「……」


「返事がありませんが、良いですね」


「承知しました」



 マリエルは見た。 復讐に燃える瞳を。

それはプロの軍事ライターとして、ミリオタ風情に後れを取る訳にはいかないという誓いでもあった。

そう、たった3両の戦車では、どう指揮しても敵に勝てない。

だから、ちゃんと勝てる戦力が必要なのだと。

用語集


・スクリプトキディ

ここでは、出来合いのコードを積み木の様に数件組み合わせただけで、完成品にする者をこう呼んでいる。

本来の意味は、組み合わせるどころか「誰かが作った完成品のツール」でクラッキングをする技術力も専門知識も無い者を指す言葉。

まぁ、セキエルもマツエルも軍事知識は無いから、専門知識の無い者には違いない。



・アキエルのシステム設計こそ正解

 これはAIに絵を描かせる時に、必要な技術や描画テクニックをすべてコーディングしていたら、何年かかっても完成しないが、ディープラーニングを使ってシステムを組めば、画家やイラストレーター並みのクオリティの作品を描けるものが、もう世の中に出現している。

という現実とも似ている。


個人が考えて実装するより、既にあるものを学習するのが近道という事。


ある作品で、「システムにチェスを教えたのは私なのに、勝敗は5分ではなく常に私が勝利している。 故にシステムに異常がある」という逸話があるが、これも「過去の棋譜をすべて学習させた」なら、教えた者も絶対勝てないシステムになった事でしょう。

まぁ、件のエピソードなら「最強のチェスプレーヤーになっているはずが、数回に1回は私が勝つ。 確率から言ってあり得ない。 非論理的である。 故にシステムに異常がある」に変わるだけでしょうけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ