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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第36話 おっさんズ、現用兵器と対峙する その2

 先行哨戒に飛び立つ2体の飛竜(ワイバーン)。 左右に分かれ、森の木々のすぐ上という低空を飛んでいく。

この後はしばらく進んだのち、北に向きを変えて戦闘機の襲来に備える事になっている。


 もう2体の飛竜は、時間が来るまで待機している。

と言っても、飛竜が時計を持っている訳では無いし、時間を計るスキルなどを持っている訳でもない。

また、キリエルが発進命令を出す訳でもない。


ここは作戦支援システムにより、出撃タイミングを知らせてもらうようになっている。

何しろ天使の人数は少ないのである。

自動化できる所は自動化が進んでいるのだ。


 そうして、待機する飛竜の横を9つの物体が通り過ぎていく。

飛竜はこれらに関心は無いし、言語によるコミュニケーションも取らないため、積極的に報告する事は無い。

まぁ、「何か通ったか」と聞かれれば、言語化されない何がしかの反応を返したかもしれないが。



*****



 マカン村。


 いつものように双眼鏡で森を監視していた監視塔の兵は、ここでは見慣れないが、よく知っている物体が森を抜けて出現した事を発見した。



「こ、これは、将軍を呼べ! 緊急事態だ!」



 監視塔の下に待機している連絡兵が詰め所へと走る。



「馬鹿な、こんな事が……。 もしや敵の幻術なのでは……」



 見間違いでは無いかと、何度も確認するが、そんな事は無いようだ。

そして、別の兵や、騎士団の騎士にも確認させたが、皆同じものを見ている様であった。


 報告を受け、ロンメルとパガンが駆けてくる。

ちなみに、ここの担当騎士団は先日第1騎士団の分遣隊が撤収し、第2騎士団に交代している。



「将軍、あちらをご覧ください」



 先入観無しに状況を見てもらうべく、兵は「何が見えたか」を言わずに、ロンメルに報告した。



「これは……、前例の無い事態だな。 戦車隊の襲来とは」


「はい」



 ホムンクルス達の会話を聞き、パガンも双眼鏡を借りて南方を見る。



「ありゃあ、ホントにセンシャじゃねーか」



 ロンメルは全戦車に出動準備を指令すると共に、情報を都へと通報した。

90式戦車、74式戦車、SU-85、ヤークトティーガー、ISU-122、バレンタイン、九七式中戦車”チハ"新砲塔。

数だけ見れば7両あるし、火砲として25ポンド砲と88mm FLAK37もある。


だが、召喚時に現代知識を得ているロンメルの見立てでは、勝てる見込みは薄いものだった。



 都では2つの通報が相次いて届いていた。

一つはマカン村からの戦車隊襲来、そしてもう一つは、シルカからの飛行物体を2機確認という通報だった。

森の上では探知されなかった飛竜だが、北に進路を変えたのち、レーダーに探知されたのである。

シルカがレーダーを動かすタイミングで飛んできたのは、必然だが不幸であった。


 だが、問題はそちらではない。



「戦車隊だと、そんなものがいつの間に」



 第一報を聞いた秋津は信じられない思いを口にした。

大英は冷静に分析する。



「またモデラーを召喚したのか、して、内容は?」



 だが、それを聞いて二人に戦慄が走る。



「はっ、報告いたします。 ロシア製T-54~T-72辺りと思われるもの3両、アメリカ製M60系列2両、同じくM41と推定されるもの1両、ドイツ製レオパルド1及び2各1両、イスラエル製メルカバと思しきもの1両、合計9両。 以上です」


「な、嘘だろ、何だよその現代戦車大行進」


「いきなりそんなモノを召喚? 解せんな」



 驚く秋津と不思議に思う大英。



「いや、分析は後だ。 ロンメルにはすぐ行くと伝えろ。 それからマッカーサーに指令、飛行物体には迎撃機2機で対応、それに加え、近接航空支援だ。 Ju-87とIL-2の発進準備を。 そして連絡が終わったら、モントゴメリーに報告して対策会議を開いてもらってくれ」


「はっ、了解いたしました」



 戦車の名前を言われても何の事かさっぱりなゴートは、状況を問う。



「これは、宜しくない事態ですかな」


「ああ、これが本当なら事態は深刻だ」



 そう語る秋津の顔を見て、ゴートも事態を理解した。



 マカン村へと向かうため、城の敷地に常駐しているジープの元へと向かうと、丁度召喚にやって来たリディアとパルティアと会う。



「すまん、緊急事態だ。 昼の召喚は中止」


「えー、どうしたの?」


「村に敵が来た」


「では、今から向かうのですね」



 心配そうなパルティア。



「付いては……いけないか」



 リディアは人数的な点で同行出来ないと判断した。

ジープの座席はドライバーを別にすれば4人分しかない。

大英・秋津・ゴートで3人だから、二人が同行するためには、別に車が必要になる。


 だが、秋津は別の理由を話す。



「いや、今回は危ないから、連れていけない。 後の事はモントゴメリーに任せるから、そっちに従ってくれ」


「そんなに危ないの?」


「ああ」



 いつもは余裕を見せている秋津の額に浮かぶ汗。

それを見て、リディア達も事態を理解した。


 3人が乗り込むと、ジープはいつもよりも速度を上げてマカン村へと急ぐ。

近代戦車が本気を出せば、森から村まで数分で突入してしまう。

自分たちが着くより先に市街戦になっているかもしれない。



 村へと向かう車内で、秋津はいきなり近代戦車の登場という事で、別の可能性を考える。



「もしかして模型召喚じゃなく本物だったりするか」



 大戦期をスキップして60年代や70年代の戦車が登場というのは、大英の召喚を横で見てきているだけに彼には信じがたい。



「それなら車種がバラバラすぎる気が」


「現役の陸軍じゃなく、博物館から持ってきたとか」


「そうか、それにどこからか戦車兵を調達してか。 なくは無いな……いやまて、確か神様が現物の召喚はコストが高いって言ってたよな」


「そういや、そうだったか」



 そもそも現代から戦車なんかを呼びだしたら、家ごとの天使召喚と比べても何倍ものコストがかかる。

まぁ、機械だから権能付与は要らないが、重量が桁違いだし、それが何両もあるとか無理難題。

それでも1か所に固まっているなら空間ごと持ってくる事で、やればできなくはない。

なので、博物館ごと召喚するなら、無い話ではない。


でも、米ソ両方の主力戦車が揃っている博物館はそう多くないはずだし、そんな事をすれば大ニュースになるだろう。


というか、実弾積んで無いだろ。

燃料と弾薬は何処から調達するんだ?



 とにかく、いつも以上の緊張と心配をしながら、ジープは村へと走るのであった。



*****



 この日も西夏はいつも通りに起き、いつも通りの朝食を摂り、そしていつも通りに迎えのマリエルと合流した。



「本日のご予定はどうなりますか」


「そうですね、第1小隊はほぼ連携も仕上がっていますし、燃料節約のため、今日からは第2小隊だけを訓練に出そうかと思います」


「承知いたしました」



 そんな会話をしながら倉庫に着くと、二人はそこで信じられない状況を目にする事となった。

そう、9両あったはずの戦車が、すっかり姿を消していたのである。


 そして同時刻、作戦室に居たミシエルは予想外の表示を目にしていた。



「なんだこれ?」



 部隊が出動すると、観測システムが自動起動・追従する。 すると、「中継あり」の告知が出る。

飛竜が2体別行動で出たので、2つの告知が出る所までは予定通りなのだが、なぜか3つ目の告知が出ていた。



「なんだ? キリエルが外に出たのか?」


「呼んだ?」



 丁度そこへキリエルが入ってくる。



「いや、呼んでない……って、じゃこの3つ目って何だ?」


「何々、何の話」


「いや、出動部隊が3つある事になってるんだ」


「何ソレ、見てみればいいじゃん」



 ミシエルは各中継をONにする。

3つの大型ウインドウが空中に現れ、それぞれ映像が出る。

一つ目、空を飛ぶ飛竜を追跡している映像。

二つ目、同じく飛竜を追跡している映像。

そして三つ目。


そこには余り見慣れない四角い箱……戦車が9両森の外に停車している様子が映し出された。



「な、なんだ、あれは」


「これって、センシャじゃないの?」



 二人が困惑している所へ、マリエルから通信が入る。



「ミシエルさん、倉庫のセンシャが全部消えていますわ。 何処に行ったか調べられますか」


「えっ、ちょっと待って、今外に出てる」


「外に? ミシエルさんが?」


「違う、センシャだよ、出動してるぞ。 現在位置はまだ確認してないけど」


「ええー。 ……ちょっと映像転送してくださいな」


「わかった、えーと、ホイ、繋いだ」


「ありがとうございますわ」



 倉庫に居るマリエルと西夏の前にスクリーンが開き、戦車隊の映像が出る。



「なんと、これは、9両ともありますね。 一体どうやって外に出たのでしょうか」



 倉庫の出入り口は基地側も外側も人間サイズの者が使うサイズだ。

大きさだけなら、全開すればジープとかも通れるかもしれないが、戦車は無理だろう。

ちなみに外に出る出口の先は廊下と階段。 車が出入りする想定は無い。 まぁジープなら上り下りできそうな気はしないでもないが。


 そうしていると、ミシエルから続報が入る。



「確認した。 センシャ隊は森の外、村に向かっている」


「!! なんと、どうしてそんな所に。 一体誰が命じたのですか」



 西夏の問いには現状誰も答えを持っていない。



「判りませんわ、ホムンクルスへの命令権を持つのは、司令官である西夏様と召喚者である赤土様だけです。 私たちは勿論のこと、レリアル様でも命令は出せません」


「となると、あの失礼な若造ですか、一体何を考えているのやら」


「追及は後です。 このままでは何も準備せずに戦闘になりますわ。 引き返すよう命令を出さないと……」


「あぁ、そうですね、すぐに命令を」


「……困りましたわね。 命令を出そうにも、それを届ける方法がありませんわ」


「え、このホログラムは戦車の中には出せないのですか?」


「出す事は出来ますが、命令は出来ません」


「それはどういう事です?」


「通信越しでは認証が出来ないため、天使命令と認識されないのです」



 大英が通信で命令を出せているのは「召喚した通信機」を使っているため。 それを使う事で「み使い認証」が通っているのだ。

一方、天界の通信システムを使っても、認証は出来ない。



「西夏サンが直接センシャに乗り込めば良いんじゃない? 連れてこっか?」



 キリエルの提案は即却下された。



「危険すぎますわ、戦いが始まったら、そのど真ん中に連れていく事になりますわよ」



 狙うのは禁止でも、流れ弾が当たる危険は残る。

戦車砲の流れ弾が相手じゃ、天使の防御結界など紙のようなもの。



「センシャ同士は通信出来るんじゃなかったっけ? 連携出来るんだろ」


「そうだ、そうです。 赤土に今すぐもう一両召喚させましょう」


「了解、召喚部隊を倉庫に送る」



 戦車の通信機での通信であれば、認証されるから、問題は無い。

唯一の問題は、全ての戦車が出払っていて、今ここに残っている戦車が1両も無い事だ。



*****



 森を出て500メートルほど進んだ所で、9両の戦車は停止していた。

各戦車の車長は「前方に見える施設は攻撃目標であるか」を判断しかねていた。


 第1小隊の1号車、M60A1の車長は、ハッチを開けて乗り出し、双眼鏡で村を見る。

そして、監視塔と思しき構造物に兵士らしき姿を確認した。


 彼は決断し、2号車以降と第2小隊、第3小隊に通信を送る。

なお、1個小隊は4両編成の為、第3小隊は1両しか配属されていない。



「前方軍事施設の可能性大。 我が1号車は接近し確認する。 2号車から4号車は我に続け。 第2、第3小隊は各々自らの判断で行動せよ」



 第1小隊1号車の車長は、第1小隊に対してしか指揮権を持たない。 なので、他の小隊には「好きにしろ」としか言えない。

そもそも全体指揮は天使が担うので、中隊の編成は行われていないのである。


 こうして、一時的に進軍を止めていた戦車隊は、北上を再開する。

用語集


・全戦車

いや、厳密には戦車じゃないものも混じってますよ。

駆逐戦車とか。

でも、この文脈なら、「全戦車」で良いでしょ。



・森の上では探知されなかった

シルカのレーダーは低空を探知するのが苦手。 森を出て相対的な高度が上がったのと、近づいてきた事もあり精度が上がったため見つかったようだ。



・レーダーを動かすタイミングで飛んできたのは、必然

キャラバンの到着タイミングに合わせて行動するという事は、レーダーが稼働するタイミングでもある。



・空間ごと持ってくる/そんな事をすれば大ニュースになる

個別の時空転移とは別の魔法を使う。

一括処理できるが、権能付与といった細かい調整を施す事は出来ない。

その代わり、重量制限は実質無くなる。 消費魔力量を決めるのは転送容積。

時刻同期転送が出来ないから、どんなにうまくやっても、元に戻す際に数秒から数時間の誤差が出るため、実際にやると仮に無事元に戻したとしても「一時的に博物館が消失」という事態まで発生する。

このため「そんな事をすれば大ニュースになる」のだ。


もちろん、レリアル神はそのような「博物館召喚」はやっていない。



・レリアル様でも命令は出せません

厳密には2つだけ出せる命令がある。

行動をやめさせる「止まれ」と、自決させる「滅びよ」だが、いずれも出撃させる命令ではない。



・1個小隊は4両編成

国によっては3両編成の事もあるが、西夏は4両編成を選んだ。



・我が1号車は接近し確認する

偵察部隊を持たない「戦車しかない軍隊」なので、自分で確認するしかない。

本来は西夏の指示で動く想定だから、わざわざ確認する必要は無いのだがね。

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