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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第35話 おっさんズ、海軍を創設(?)する その3

 その日、西夏とマリエルは広大な荒野に居た。



「確かに、ここなら申し分ありません。 ですが、どうやって戦車隊をここに運ぶのですか」


「ゲートを広げますわ」



 西夏とマリエルはマリエルの開いたゲートで、基地から遠く離れた大陸に来ていたのだ。

だが、そのゲートは人間が通るサイズ。 戦車はもちろん、普通の車ですら通る事は容易ではない。



「これは大きさを変えられるのですか」


「ええ、見ていてください」



 そう言うと、マリエルはコマンドを唱え、半径1.5メートル程度の半円形だったゲートは4メートル程に広がり、さらに中心部分が2メートル程上に移動した。

これにより、直径8メートル、高さ6メートルのトンネル風の形状・サイズとなった。



「おお、これなら通れますね」



 こうして、4両の戦車が地下倉庫からゲートを通り、自走して荒野に現れた。

西夏は乗員のホムンクルス達を集め、指示を出す。



「これから、君たちには小隊として活動出来るよう訓練してもらう」



 車種がバラバラの4両は、機動力もバラバラ。

そこで、小隊として統率の取れた行動が取れるよう、最も能力の低い車両に合わせて機動すべく、訓練をする事となったのだ。


 訓練を見ながら、マリエルは問う。



「能力を抑えてしまって宜しいのでしょうか」


「構いませんよ。 むしろ性能が高いからと突出していては、小隊として統率が取れません。 戦車一両の性能を追求するより、小隊としての総合力を追究するのが正しい戦い方です」


「なるほど、流石は一流の専門家ですね、勉強になります」


「いえいえ、これなどは軍事の常識。 軍事を知る者なら、誰でも心得ている物です」


「それでは、敵方の天使様も同様なのでしょうか」


「それは判りません。 専門家の常識と、ミリオタの常識は異なります」


「そうですか、これは心強いですね」


「いえいえ」



 嬉しそうに苦笑いする西夏。

日本では、編集部の人や取材先の自衛官には良い感想をもらっていたが、ネットには自身の事を非難する声が溢れていた。

マリエルの感心する表情を見て、やはりネット民のような偏った考えを持つ者たちと違い、真っ当な人は自分を評価してくれていると嬉しくなるのであった。


 その後も、新たな小隊を編成し、同様に訓練をする事となる。



*****



 同じ頃、基地から数キロ離れた海岸にミシエルとキリエルが来ていた。



「ここに軍船用の港と一緒に水棲系魔獣用の魔獣舎を作る感じでどうだろ」


「良いんじゃない、上から見てみたけど、問題無さそうよ」


「じゃ決まりだね。 工事部隊を派遣してもらおう」


「その工事部隊だけど、飛行場にも送って欲しいものよね」


「それが出来れば苦労は無いんだけどね」



 ミシエルの基地は別にミシエルが建設したわけではない。

ちゃんと土木工事に熟達した天使が建設したものだ。

その後の基地拡張も同様である。


 だが、専属では無いため、他の仕事が入っていたら作業できないし、そもそも2か所の工事を同時にこなす事は出来ない。

天界はインフラの新規作成はめったになく、通常は修繕がお仕事で、たまに建て替えといった感じ。 結局需要が乏しいから工事を得意とする天使は絶対数が少ないのだ。


 それで元々港建設は予定があったため、急に飛行場を作ると言われても対応できず、キリエルが伐採をしてミシエルがコボルト部隊を作業員として派遣する事態となっているのであった。



「これが出来れば、海を経由して連中の都を攻撃できる。 村に戦力を取られているから、横から攻められれば、脆いはずだ」


「そう上手くいくかなぁ、この間だって村を避けて直接都に派遣した部隊があっさり壊滅したじゃない」


「あれは、都ががら空きだと思ったのが間違いだっただけさ。 次は戦力がある前提で十分な戦力を用意するよ。 それに陸上からの陽動もかけるし」


「でも、飛行機はどうするの? アレは海の上にも出てくるんじゃない?」


「ふふっ、任せろ。 飛行機対策も考えてある」


「どうすんの?」


「そのための水棲系魔獣さ。 沿岸を離れて、外洋まで出てから海岸に向かう。 これなら相手が気づく前に陸に近づける」


「ああ、それで道案内しろと」


「そう言う事。 沿岸を進んでいたら、見つかっちゃうからね。 そして、いくら飛行機でも、見つからなければ飛んで来ない」


「外洋まで捜索に飛んで来たりはしないかしら」


「目印の無い外洋に飛んできたりしたら、迷子だろ。 いくらあいつらでも、そんな無茶はしないだろ。 それに理由なく飛ばすのも意味が解らないしね」


「それもそうね」



 次に備える彼らであったが、彼らを悩ませている「近代兵器」が海にも存在する事に、まだ気づいていないようだ。



*****



 この日も大英達は飛行場に来ていた。

飛行機好きの秋津は上機嫌で言う。



「最近飛行機ばっかりだな」


「そうだな、今は戦いも一段落してるから、戦術上の要請より、経験値稼ぎがメインだし」


「にしても、飛行機もここまで来るとは、感慨深いな」


「まだ滑走路が不十分だから飛ばせられないけどな」



 こんな話をする彼らの前には、今しがた召喚したF-104J、FS/T-2改の2機が駐機していた。

ジェット機に対応したコンクリート舗装の滑走路はまだ工事中であり、この2機はそのまま格納庫送りとなる。



「こちらの飛行機にはプロペラでしたか、前方の棒が無いようですが」



 幾度もプロペラ機の召喚を行い、説明も受けたため飛行機について多少の知識を得ているハイシャルタットが問う。



「これはジェット機と言って、プロペラ機とは違う方法で飛びます。 後ろの穴から火を吹いて飛ぶのです」


「なんと、そのような……」



 とは言うものの、イマイチ想像がつかないのであった。



「このまましばらくは飛行機が続くのか?」


「そうだな、1/72 はドラケンとA-4が終わったら、しばらく待ちに入るけど、1/144 はもう少しいけるかな」


「こりゃ格納庫の用意も大変だな」


「そうだねぇ」



 以前は1回の召喚で1機が普通だったが、今は複数可能になっている。

このため、召喚スピードが格納庫建設のスピードを上回っているのだ。

とはいえ、キット制作の都合もあるので、まもなく飛行機の召喚は止まる事になる。


 ところで、なぜ経験値稼ぎを優先しているのか。

答えは海軍建設のためだ。


 今のところレリアル軍が海から来た事例は無い。

だが、ファンタジーモンスターには海のものもある。 いずれ出てくることが予想される。

そして海の魔物を相手にするなら、船が必要だろう。


 もう一つは、1/700まで進めるためだ。

1/700は大英に言わせれば「三軍統一スケール」だ。

陸海空全てを揃え、推測可能なあらゆる事態に対応できるようにする。


 それはナッターV作戦がどうも実施困難な様相が見えてきているという背景もある。

上空から見ても、基地らしきものが見えず、目標が地下となれば爆撃は無理だ。

一応地下まで被害を及ぼす爆弾は用意できなくは無いが、何処に落とせばよいか判らなければ意味は無い。


 となれば、あらゆる攻撃を撃退し、戦意を喪失させるしか方法は無い。


 1/700まで進めば、艦船だけでなく、戦車隊も航空隊も大軍が用意できる。

そして、格納庫を含めた航空基地インフラも用意できるため、航空機に対する整備補給能力は一気に改善する。

質だけでなく量でも圧倒するためには、小さなスケールの開放が必須なのだ。



 こうして、各々次に備えた準備を進めていたのだが、戦いが常にコントロールされているとは限らない。

戦いは準備が整うのを待ってくれない事もあるのだ。

それは、お互いにその気が無くてもな。

用語集


・取材先の自衛官には良い感想をもらっていた

相手が誰でも好意的に接するのが自衛官です。

まぁ、中には外交辞令もあるでしょうけどね。



・直接都に派遣した部隊があっさり壊滅

オーガ部隊ですね。



・ジェット機に対応したコンクリート舗装の滑走路

戦闘機クラスなら隣の「均し滑走路(無舗装)」でも別に重量の問題は起きない。

だが、別の問題がある。

一つは長さ。 1000メートル級なので、ちと足りない。

もう一つはジェット機はデリケートという事だ。

これ、MiG-29のように石などを吸い込まないような機構のある機体なら大丈夫だと思うが、マルヨンやT-2ではやめた方がいいだろう。

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