第35話 おっさんズ、海軍を創設(?)する その2
その日、西夏に悩み事が一つ増えた。
マリエルと共に日課となっている装備確認のために倉庫に行くと、そこに新たに鎮座していたのは「飛行機」だった。
「これは、セスナA-37……。 航空機も調達できるのですか」
「そうですね。 飛行機も用意できる人物を選抜しました」
「なるほど、これが最初に現れたという事は、この機体が調達負荷が低い航空機という事なのでしょうか」
「その認識で合っていると思いますわ」
「そうですか、となると、近接航空支援を受けられる……そういえば、敵航空機の出てくる戦闘記録映像はありましたか?」
「そうですね、多少はあったと思います」
「では、さっそく拝見したいと思います」
「判りました、では会議室で見ましょう」
戦っておらず、偵察に飛んできたのを映しただけも含めればいくつかあるだろう。
王国内戦では結構飛び回っていたが、それらは勢力圏外で起きた事なので、いずれも詳細な記録が無い。
一番派手な戦いは、ヒポグリフとオークの空中機動兵団が壊滅した時の記録だろうか。 こちらも勢力圏外なので、全滅した時点で記録は途切れている。
数件の記録映像を見た所で、西夏は安堵の表情となる。
「どうでした、参考になりましたか?」
「ええ、ありがとうございます」
映像では複葉や固定脚の「大戦間タイプ」の旧式戦闘機が飛んでいた。
あのような骨とう品が相手なら、A-37の行動を阻害する事は出来ないだろう。
その気になれば、撃墜する事さえできるはずだ。
A-37はCOIN機であって、戦闘機ではないのだが、敵が弱すぎるのだ。
また、これまでに見た記録映像では地上戦力も第二次世界大戦レベルの旧式兵器だった。
今後第二次世界大戦レベルの航空機が現れるかもしれないが、こちらにもいずれ戦闘機が加わるだろう。
模型が元になっているとなれば、むしろ戦闘機のほうが多数派になるはずだと、西夏は思った。
先行きに明るい物が感じられたところで、ふと気づく。
「そういえば、飛行場はどこでしょうか。 一度見ておきたいと思うのですが」
「ひこうじょう?」
「はい、飛行場ですが、判りませんか?」
マリエルは暫し考え、大英達の「飛行場」の事を思い出す。
「ああ、ヒコウジョウですね。 失念しておりました。 確か飛行機が集まっている場所で、武具の製造も行う拠点ですわね」
(製造? まぁ整備補給拠点の事かな)
西夏はマリエルの言葉に引っかかるものがあったが、とりあえず話が通じたと理解した。
「もしかして召喚した飛行機を飛ばすには、あの細長い通路のような構造物が必要なのでしょうか」
「ええ、もちろん」
「そうだったのですか、これはいけませんわね。 速やかにヒコウジョウの建設を始めましょう」
「そ、そうですか、こちらでは飛行機は利用されていない……そういえば、ゲートがありましたね。 わざわざ飛ぶ必要は無いか」
「飛行機を利用する事はありますが、ヒコウジョウなる施設は使いませんね。 何処でも離着陸できますから」
「それは、ヘリのような垂直離着陸するという事でしょうか」
「ヘリというのは判りませんが、垂直離着陸という表現は当たりだと思います」
「そうですか。 あぁ、敵にはヘリコプターが無いのですね」
「ヘリコプター?」
「ヘリというのは略語で、正確にはヘリコプターと言い、回転翼機という表現もあります」
「うーん、ちょっと判りません」
「そうですね、後で書物をお持ちしましょう。 写真を見た方が判りやすいですし」
「ありがとうございます」
「とにかく、あのA-37や、今後現れるであろう航空機には、飛行場が必要です」
「では、何処にどの程度の規模で作れば良いか、決めましょう。 これは地上に作る必要がありますわね」
「そうですね。 候補地を選定するためにも、まずは地上に出ましょう」
各種モンスターや兵団、センシャなどは直接ゲートで森の出口に送るというか、自走して出撃できよう。
飛行型も同じくゲートをくぐって出る事が出来る。
だが、飛行機ではその手は厳しい。
そもそも地下倉庫に離陸滑走できるほどの長さは無い。
出口ゲートも、飛行機にとって都合の良い高度に開けるのは難しい。
そして、帰還時はもっと大変だ。
飛行生物なら、いったん着地したり、空中停止してからゲートに入れるが、飛行機では飛行場以外に着陸する訳にはいかない。
丁度いい高度に高速で飛びながら狭いゲートに突入するといった「曲芸飛行」など、超一流のアクロバット飛行が出来るレベルのパイロットで無ければ、無理な芸当だ。
つまり、地上に飛行場を建設する必要があるのだ。
とは言うものの、実際には候補地は全て森林の中だった。
それでも、何とか3キロ程度の平坦な地を確保できた。 多少の凸凹は工事で何とかできそうなので、最終的には5キロ程度の長さの滑走路と前後の空き地を確保できそうだ。
そう、森林の中なので、「滑走路終了即木々が茂る」では困るのである。
翌日、さっそく工事が始まった。
工事はキリエルの魔法で木を抜き、天界から持ち込んだ運搬車両で運搬、コボルト達の人海戦術で整地と舗装という流れで行われる。
なお、木は根っこごと抜くので、切り株と格闘する必要は無い。 代わりに地面にはクレーター状の穴ぼこが出来るので、整地は手間がかかるようだ。
「整地は魔法で出来ないのですか?」
「それが出来る天使も天界に居なくはありませんが、生憎私たちのスタッフには居ません」
「そうですか。 万能ではないのですね」
「そうですね、土木工事が得意な天使なら一人で両方出来るでしょうけど、この工事量では流石に魔力が持ちませんわ」
呑気に話す西夏とマリエルだが、キリエルは不満顔。
「何でアタシがこんなコトを……」
苦手でも、出来る者が他にいなければ、お鉢が回ってくる。 芸は身を滅ぼすっ奴ですな。
こうして、開始された飛行場建設であるが、キリエルも忙しいため遅々として進まないのであった。
*****
その日、アキエルはユマイ神にある許可を得ようと交渉していた。
レイス対策の装備を地上に送ろうと考えたのだ。
だが、その交渉は彼女にしては珍しく、うまくいかなかった。
「これは許可できないね」
「駄目ですか」
「うん、明らかに攻撃用武具だからね。 でも、ヒヒイロカネ自体を禁止している訳では無いよ」
「という事は……」
「自立機能を持つ素材を引き渡すだけなら、問題は無い。 もちろん、量的な規制はかかるけどね」
「なるほど、判りました」
アキエルは、ヒヒイロカネを利用し、かつ召喚兵器と地上の技術力で対応できるモノを考えるのであった。
*****
この日、大英達は再び飛行場に来ていた。
今回は大物ではなく、小さな機体の召喚を目的としている。
「えー、なにこれー、すっごい小さい」
リディアはその召喚対象を見て、歓喜(?)の声を上げる。
「これ、小さい飛行機が喚ばれるの?」
「いや、普通の大きさだよ」
大英の必要最小限な説明に、リディアは首をかしげる。
「えー? どゆこと?」
「姉様、縮尺の問題ですよ」
「そっかぁ……コレ、大変じゃない?」
「一応行けそうなんで、試してみようかと。 なに、気絶するほど大変じゃない」
「ははは(^^;)」
かくして召喚は実行された。
元キットはダイモのニンジャシリーズ。 スケールは 1/300 の航空機だ。
現れたのは九六式艦上戦闘機。
まぁ、小さいといえば小さいが、グラディエーターや97式戦闘機と比べれば、別に小さくない。
載せる空母はまだないが、今は鍛錬の時だ。
「これは、流石に疲れますね」
たかが小型機1機の召喚でハイシャルタットも疲れを感じている。
「ま、なんとかなったね。 今日はこれで終わりにしよう」
「は、はい」
大英もパルティアも疲労の色が濃い。
元気なのはリディアだけだ。 いや、リディアは召喚で疲れる事は無いから関係ないけど。
とはいえ、久しぶりの負荷の高い召喚で、結構成長できたような気もする大英達であった。
「あぁ、これあと5機あるから、明日からもそのつもりで」
「えっ」
「こ、これはきついですね」
海軍建設に向けた活動は続く。
用語集
・COIN機
軽攻撃機と言った方が判りやすいかもしれない。
厳密には軽攻撃機の一カテゴリー。 対ゲリラ戦用の軽攻撃機だ。
ちなみに大英の運用しているOV-10もこのカテゴリーの機体。
・詳細な記録が無い
衛星からの観測で地上で爆発が起き、多くの兵が倒れる様子の記録はあり、それはヨークが見ているので、当然マリエル達も閲覧可能である。
だが、その元凶となった爆撃機の姿は捉えられていない。
勢力圏下や、自軍の何かが参加していれば、脅威を追跡するといったカメラワークもあるのだが、残念ながらそういった細かい制御は出来ないのであった。
・敵にはヘリコプターが無いのですね
単に記録に無く、飛んでいるのも、地上に駐機しているのも見た事が無いだけ。
実際にはUH-1がありますね。
まぁ、この文脈だと、たとえマリエルがUH-1を見た事があったとしても、誰も説明しなければ、それが空飛ぶ機械とは気づかないし、ましてや「ヘリコプター」と呼ばれている事も判らないだろうけどな。
実はマリエルはセリフとして「ヘリ」という単語は聞いているのだ。
ちょっと記憶するには印象が薄い出番だったし、何の説明も受けていないけどな。
・芸は身を滅ぼす
普通に言われているのは「芸は身を助く」ですねぇ。
身を滅ぼすとは、どういう事かと言うと、
本人的には苦手でも、他の人よりうまく出来てしまうと、それが仕事として回って来て、本来業務に差し支えたり、過労になったり、得意な事をやらせてもらえなくなる。
という話。
ほら、よくあるでしょ。
剣士になりたいのに、魔法の才能が本職魔導士を超えているから……みたいな話。
酷い時には本来やりたかったことを、能力が低い他人がやるというオマケまで付く事も。
爆弾搭載能力が本職の爆撃機より大きいから、戦闘機なのに爆撃機の仕事をやらされ、制空はより性能が低い戦闘機にさせるという感じですね。
それで制空権を取られたら、本末転倒ですわ。
企画者なのにプログラミング能力がプログラマーの能力を超えて居ると、なぜかチーフプログラマーがやるハズのシステム設計までやらされるという「お前らそれでも本職かよと嘆く」なんてコトがあったという話は秘密だ。
・あと5機
ダイモ社の ULTRA-MICRO SERIES NINJYA というブランドの機体で、残りは
「紫電」「強風水戦」「零式三座」「彩雲艦偵」「紫電改」
となる。