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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第35話 おっさんズ、海軍を創設(?)する その1

 その日午前、大英達は飛行場に来ていた。 ハイシャルタット参加の効果を大型機の召喚で確認するためである。

彼が召喚に参加するのはこれが初めてであるし、召喚を目にするのも初めての事であった。


無事召喚されたのはB-24。

以前B-17を召喚した際は、大英もパルティアもそれなりに疲労感があったが、今回はほとんど疲れを感じなかったようで、続けてA-26も召喚し、こちらも問題は起きなかった。 もちろん、ハイシャルタットも元気である。


 2機並ぶ爆撃機の巨大な姿に、ハイシャルタットは驚きを隠せない。



「天使様から説明は受けましたが、本当にこんな事が出来る魔法があるとは……」



 ハイシャルタットは戦場で遠くに双発機(九七式重爆撃機とビッカース ウェリントン)を見た事はあっても、間近で見た事は無い。 ましてや、四発機など見た事も無かった。

小さな、と言っても絶対的大きさでは馬どころか馬車よりも大きな単発機(Ju-87)でさえ、自身が太刀打ちできない力を発揮したのに、目の前にはそれよりずっと大きな双発機と四発機が並ぶ。

しかも、それを生み出したのに使った魔力は、他の者と協同したとはいえハイシャルタットにとっては僅かなものなのだ。



「いかがかな、ハイシャルタット卿。 神獣とはかくも大きなものまである」


「ゴート殿、私は自分の見識が如何に狭量なものであったかと、反省しております」



 幼い時分よりずっと王都とその周辺しか知らなかった「スーパーエリート」のハイシャルタット。

辺境には見るべきものは無く、気にすべき人物は居ないとの思い込み、それが視野を狭めていた。

魔法についても、自分の知るものが全てであり、仮に自分が知らない魔法があったとしても、大した意味は無く、取るに足らない物だと思っていた。


しかし、今は違う。


世の中は広い。 ハイシャルタットは今それを実感していた。



 翌日、一行はザバック辺境伯領の都にやって来た。

ハイシャルタットの参加による効果が事前の予想通りである事を確認できたので、今度は海に行こうと考えたのである。

前日午後に伝令を走らせ、ザバック側の受け入れ準備も万端である。 いや、いずれ行くことはもっと前に通知済みだけどな。


 ハイシャルタットにとっては前日の飛行場までの道のりも、この港町までの道のりも驚きであるのだが、まぁ自動車に驚く話はこれまで何度か書いたので、省略しよう。


 一行はザバック第1騎士団団長のバンホーデルと合流し、城の近くで街の港からは距離のある領主専用の小さな船着き場に到着した。

バンホーデルは一行を桟橋に案内する。



「ここなら、民も近づきませんので、そう目立つ事は無いでしょう」


「ご配慮痛み入る」



 ゴートが謝意を示し、大英達は召喚準備に入る。

この間の零観の時もそうだったが、水に浮かぶ物だからといって、水に入れる事は無い。


 実は神獣騎士隊について、先の戦いの結果、変わった事がある。

これまでは「スブリサ辺境伯直属の神獣騎士隊」だったが、今は「女王直属の神獣騎士隊」となっている。

そして、神獣騎士隊顧問として事実上の表向き指揮官であったゴートは、正式に隊長に就任していた。


そんな事もあり、召喚行為は機密事項であるが、もはやスブリサ辺境伯領内に捕らわれず、大英達はここザバックでも召喚を行う事が出来るようになったのであった。



 こうして初の「船」が召喚された。


それは LCM[3] という上陸用舟艇。

戦車を1両搭載し、海岸に乗り上げる事で上陸させる機能を有する小型の船だ。


そしてこのとき、もう一つの装備も同時に召喚された。

それは M4A1 という戦車で、変わった点として「潜水渡渉装置」を装備していた。


 別に上陸作戦を考えていたのではなく、この2つが一つのキットだったので、まとめて召喚したのである。

そして何より、このキットが1/72なので、現時点では召喚可能なフネがコレしか無かったというのもある。


大英は大発レベルの小型艇を見て「流石にこれで『海軍創設』は看板に偽りありじゃないかな」と感想が出る。

それに対し秋津は応じる。



「良いんじゃないか、この船でもガレー船相手なら戦えるんじゃないか」



 LCMは機銃を2門搭載しているので、一応「海戦」も可能である。

まぁ、海戦するための艦艇ではないがな。

とはいえ、その固定観念のために召喚が遅れ、「海戦」が発生する状況になったとき、フネが1隻も無いという事態になっていたことは、反省すべき点では無いだろうか。


 召喚されたLCMはそのまま船着き場の桟橋に留め置かれ、M4A1は予め直ぐ近くに建てられていた小屋に収められた。



 一行は城へと移動し、歓待を受ける。

ゴートはそのまま領主と会談する。 議題は今後の海軍創設に向けての、ザバックの協力体制などだ。



「将来的には、このザバックに海軍を配置する事になり申す」


「スブリサには海がありませんからね。 この地が選ばれたのは誠に光栄の至り」



 海軍となると、陸軍・空軍とは少し事情が変わってくる。

陸軍は城の敷地や騎士団の詰め所で召喚し、村に派遣したり、村はずれで召喚しているため、民衆は「神獣がやって来る」所しか見ていない。

そして多くの車両は普段小屋の中に置かれているため、民衆が日常的に多くの車両に囲まれているという感じにはならない。


 空軍は人が居ない砂漠の入り口に飛行場を建設し、そこで召喚している。

民衆は飛んでいる飛行機を見る事はあっても、召喚する所は見ていない。


 だが、海軍はそうはいかない。


 基本的には召喚元キットから、そう離れた位置には出現できない。

そのため、車両も航空機も召喚したい場所に完成したキットを持って行っていた。

しかし、艦艇の場合「その艦艇が存在可能な位置」まで離れた位置に出現する。

それは海岸傍に出現したら、いきなり座礁しかねないからだ。


出現可能で距離的に近い場所が自動的に決定されるので、港から離れた人目を避けた場所……という訳にはいかない。

出現位置は、港に居る人々が目にする事が出来る位置になるだろう。


結局、召喚すれば、遮る物の無い海上にいきなり巨大な艦船が出現する事になる。

そして小型の駆逐艦ですら、この地の人々にとっては「巨大軍船」なのだ。


 このため、人心の動揺が危惧される。



「そんなに大きな軍船が現れるのですか」


「我輩も現物を見た事はあり申さず。 それ故想像でしか語れず、明確な説明は如何ともし難し」



 こんな調子の会談が済むと、ゴートは領主を連れ、大英達に合流する。



「では、いささか大きな神獣の召喚を行う事に致す。 民衆の目にも触れる事となります故、今後の施策の参考になるやもしれませぬ」


「ほほう。 いや、神獣召喚をこの目で見られるとは、楽しみですな」


「では、皆の衆、よろしく頼み申す」



 これまでよりハイペースな召喚だが、ハイシャルタットの参加がそれを可能としている。

そして海岸から20メートル程離れた位置に大きな航空機が出現した。


それは九七式飛行艇と呼ばれる、水上で運用される航空機だ。

大きな四発機であり、その姿は港からも見えるだろう。

まぁ、港の近くでは無いため、気づくのには時間がかかるだろうけどな。



「素晴らしい。 斯様な大きな神獣が、あっと言う間に現れるとは」



 初めて召喚を見た領主は感嘆の声をあげた。

ゴートは、領主に向け頭を下げつつ語る。



「今後、ここでの召喚も増えると思われます故、宜しくお願い申し上げる」


「承知しました。 お任せくだされ」



 こうして、ザバック辺境伯領での初召喚は無事完了したのであった。



*****



 同じ頃、西夏は倉庫に並ぶ戦車群を見て、頭を抱えていた。

マリエルには、彼が何を悩んでいるのか判らない。



「どうされました? 西夏様」


「確かに、模型から召喚されるとなれば、仕方ないのは判りますが……」



 そこに並んでいたのはM41、M48A3、T-55A、M60A1、そしてメルカバ。

見事にバラバラである。

戦車小隊を組むなら4両をまとめて運用する事になる。

だが、速度・加速能力など機動性がバラバラの戦車では、同じ小隊で活動させるのは難しくなる。


 大英は性能の違いなど気にせず、というか、むしろ相互にカバーする運用をしているし、小隊編成には全く拘りが無いが、ただのミリオタでしかない素人の大英と違い、仮にも軍事ライターとして「玄人」を自認する彼にとって、小隊編成は絶対の常識であり、同じ車種で4両揃うべきという固定観念があった。


 とはいえ、元が模型では同じものが4つもある訳もなく、頭を抱えるのであった。



「なんとかしなければ……」



 これ、なんとかなるものなのだろうか?

用語集


・2機並ぶ爆撃機

一方はA-26なので「攻撃機」だが、そういった些細な事を気にしてはいけない。

巨大なについても、B-24の方がA-26の倍くらいありそうだが、A-26の時点で既にハイシャルタットにとっては「巨大」なのである。



・このキット

北京ドレイクの

LCM[3]LANDING CRAFT + M4A1 w/DEEP WADING KIT



・いきなり座礁

実は港でも事情は変わらない。

都の港湾施設には、近代艦艇が安全に入港できるだけの水深は無い。

なので、少々遠くで錨をおろす事になるだろう。


なお、こんな逸話がある。


ある港に「はるな」が入港したが、大きすぎて桟橋に接弦できず、岸から離れた所で錨をおろした。

乗員の移動は小型艇で行われたという。

これに対し、ある人はこのような事を語ったという。


「はるな」は海自の戦艦だ。 戦艦だからコレでいいのだ。


五千トンの護衛艦はるなでも、接弦できない港が現代日本にあると考えれば、この地の港では同じ対応を取る事になるのは、ある意味当然と言えるだろう。



・九七式飛行艇

元キットは HUGE BIRDS という食玩シリーズ。

塗装済み1/144キットで、「九七式飛行艇 第九〇一航空隊」となっている。

1/144の四発機召喚はこれが初めてだ。



・同じ車種で4両揃うべきという固定観念があった

だから、車種バラバラで小隊も編成せずに勝利している某戦車アニメを彼は「くだらない」と考え、それを支持するファンたちを見下している。



・元が模型では同じものが4つもある訳もなく

飛行機モデラーや艦船モデラーの世界では、同じもの(同型艦や別塗装を含む)が4つあるのはそう珍しい事では無かったりしますが、戦車ではあまり聞かないですねぇ。

タイガー1や4号で間違い探しレベルの違いしかないキットをいくつも並べている人は居る気がしますが。

とはいえ、用途が違う4号Dと4号Hを同じ小隊に編成するのは、たとえ機動性が似ていても、やっぱりダメでしょうねぇ。



2022-08-20 誤字修正

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