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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第34話 ライターとモデラー、異世界に招かれる その6

 ティアマト神はハイシャルタットを連れて城に入る。

いつもの会議室に着くと、そこには領主(王太子)の他数名の人物が待っていた。

一番奥、向かってやや左には領主、右になる窓側には女性が一人、左になる反対側にはゴート・大英・秋津・リディア・パルティアの5名が座っていた。


 領主は立ち上がると、ハイシャルタットに声をかける。



「ようこそ、スブリサへ。 卿の到着を歓迎します。 事情は神や天使より説明されるでしょう。 まずはお掛けください」



 領主に勧められ、ハイシャルタットは示された席に着く。

ティアマト神は奥へと進み、領主の隣、一番奥やや右側に座ると、気怠く発言する。



「えーとね、ハイシャルタット、貴方は私たちの『み使い』に協力する事になったの。 普通は拒否権は無いのだけど、希望するなら協力をせずに死する判断をしてもいいわよ」



 ティアマトの不穏な発言に、奥の窓側に座る女性が目を閉じつつ、「うんうん」と納得の反応をしている。

ハイシャルタットは首を振ると、答えた。



「いえ、神の御意思に背くような不敬な事は出来ません。 この敗者にしか出来ない事があると言うなら、喜んで引き受けましょう。

それがどの敗者でも出来る事で、敗者を愚弄するような事であるならば、死をもって抗議いたしますが」



 それを聞き、女性が口を開く。



「大丈夫よ、み使いへの協力だから。 晒し者にする公開刑とか無いから」


「失礼ですが、貴方は?」



 ハイシャルタットは左に見える5名には、ほぼ見覚えがある。

秋津の印象は薄いが、以前王都で見かけた気がするという感じで、残り4名は王都で交戦している。

だが、右に見える女性に見覚えは無い。

席次的な事や、着ている見慣れない装束を考えれば、相当な地位の人物の様だと彼は判断した。



「そうね、自己紹介が必要ね、 私はアキエル。 天界の天使よ。 神々の戦いでム・ロウ様の陣営を統括している者です」


「これは、そのような方とは判らず、お恥ずかしい限り」


「気にする事は無いわ、見ただけで天使と判る事は無いものね」



 某宗教では天使の頭上には輪がある事がよくあるのだが、実際の天使は人と変わらぬ姿。

輪も翼も無い。

まぁ、エンジェルシステム起動時は輪と翼があるけどな。

アレは飛ぶためのものだし、部屋の中では普通使わない。

ティアマトが照明代わりに使っていたのは、例外だ。

というか、ティアマトは神であって天使じゃないし。


 で、話は本題へと進む。

早い話が、大英が行っている召喚に力を貸して欲しいという事。

具体的には大英とパルティアの2名が供給している起動魔力が今後不足するので、ハイシャルタットも加われという事だ。



「なるほど、承知致しました。 しかし、大英殿はよろしいのでしょうか」



 アキエルの説明で名前を覚えたハイシャルタットは、懸念を示す。

天使の指令に従うのは問題ないが、当事者は敵対した相手を受け入れられるのかという事だ。



「そちらに遺恨が無ければ問題ないですよ」


「なるほど、それでは遺恨が無い事を証明するためにも、何か私の行動を規制するようなものがあれば、頂きたいのですが」



 ハイシャルタットはアキエルの方を向いて語る。

叛逆の意思を持つと締まる首輪とかの類だろうか。



「なるほどねー、貴方はそれを必要としているの?」



 昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵。

権謀術数が乱れ飛ぶ合理主義の欧州では立場の変更など当たり前の事で、以前の立場など誰も気にしない。

一方、アジアでは「恨の国」に代表されるように感情と道徳が支配しており、一度敵対した者は決して赦される事は無い。

どんなに正しかろうと、敗者は絶対悪として死者に鞭打つ所業が当然の事とされている。


 この地では、まだどちらでもない。

いや、「まだ」という言い方は良くない。

転向者を無条件で受け入れつつ裏切ったら黙って消すとか、絶対許さないと声を張り上げる方向が終着点と決まった訳ではない。



「私は受け入れてもらう側ですので」


「じゃ、貴方が受け入れる側だとして、相手にそれを求めるの?」


「いえ、求めません。 仕える相手が変わったからと言って、いちいち忠誠を疑っていたら、代替わりの度に年単位で停滞が起きるでしょう」


「さすがは魔導士、論理的ね」



 魔法は論理で使う「技術」。

信仰とか信念で使う「呪術」ではない。

よって、魔法の使い手は論理的思考を得意としているし、日ごろから論理的に考えて行動する癖が付いている。



「謀反に対処する手があるならな」


「まぁ、安全のためにはそうだね」



 秋津は基本的に敵を許すという考えをしないが、相手が個人的事情(恨み)で敵対していたのではなく、立場上行っていた「業務」であるのだから許すも許さないも無い。 頭ではそう判っているが、気分は乗らないという所だ。

大英は危険を徹底的に排除する思考をするので、安全第一である。


 なお、ハイシャルタットは大公が実権を握る前から魔法団団長であり、その地位も実力故のもの。

政治的工作や人脈に拠ったものでは無い。



「そうね、ちょっとアレだけど、大英君と秋津君に関しては安全よ。 み使いには手出しできないように自動防護が働くから」



 と、なかなかに悩み深い事をアキエルは言う。

こうなると二人はOKと言いずらい。 自分たちだけは大丈夫で、仲間だけがリスクを負うという話だからねぇ。



「ま、いいんじゃない。 裏切るって事は、母様の信頼を裏切る事だもの。 神を裏切るとか、ヒトの命一つじゃ償えない事よ」


「そうね、他の事ならともかく、み使いと協力者は天界の監視下なんだから、どんな術者でも秘密裏に陰謀を巡らすなんて出来ないしね」



 さらりと怖い事を語る幼神と天使。

結局、ハイシャルタットを受け入れる事で合意となった。

ま、神がお膳立てしたのだから、その通りにならないという道は初めから無い。

後は、皆が納得するかしないかだけなのだから。



「それじゃ、よろしくね!」



 と、ハイシャルタットに笑顔を向けるリディア。

ハイシャルタットもやっと緊張が解けた感じで応える。



「はい、神に救っていただいたこの命、皆さんと共に神の為に使わせていただきます」



 こうして、ハイシャルタットの参加が決まり、彼は城の中に一室をあてがわれる事となった。

なお、この後、アキエルからリアライズシステムについての教習を受けるという、疲れるイベントが待ち受けていた。

一流の魔導士と言えども、近代兵器の知識がないため、なかなかに大変だったようである。



*****



 赤土は不機嫌な顔をしている。



「ふーん、そのオッサンが軍隊を動かすんだ」



 西夏を見ての第一声であった。

自分は兵器を調達するだけで、指揮を執るのは別人。

頭ではわかっていても、軍関係者と言うだけで反吐が出るというのが彼の感情だ。



「ああ、西夏清だ。 よろしく」


「どれもこれも大事な兄貴の形見なんだ。 壊すなよ」


「それは約束できない。 戦う以上損害は覚悟してもらう必要がある」


「ちっ」



 あからさまに不満が顔に出ている様子を見て、西夏は疑問に思う。



「君はどうしてそのような態度を取るのかね」


「あん、軍に関係してる奴なんて人間の屑だ。 軍人だけじゃないぞ、軍が好きな奴も一緒だ」


「私はミリタリーライターをしている者だ。 好き嫌いの前に、仕事としてやっている」


「同じだろ。 関係してる奴じゃないか」


「私も日本の軍事政策や自衛隊については一言以上思う事はあるが、誰彼構わず嫌って屑呼ばわりはどうかと思うが」


「へん、小難しい事を言って騙そうったってそうはいかない。 今回は神様からの頼みだから兄貴の形見を任せるけど、気分が悪くなるから近づくな」



 それだけ言うと、赤土は家に籠ってしまった。



「なんという……」



 予想外の展開に二人を引き合わせたマリエルも困惑して言葉も出ない。

本当は召喚の優先順位や期間など召喚計画について打ち合わせをしようと思っていたのだが、コミュニケーションは断絶されてしまった。

兵器の模型を持つ者と兵器を運用する者が仲違いするなど想定外であった。



「まぁ、良いでしょう。 実際の軍指揮官も装備調達計画に口を出せる事はありません。 私は与えられた装備で任務を果たすだけです」


「そうですか」


「まぁ、全体像が見えないのは辛い所ですが、必要数が揃ったら作戦を立てましょう」



 装備調達者と運用者でコミュニケーションが取れない事は、当然の様に後々問題となるのだが、事の大きさには、まだ誰も気づかないのであった。


用語集


・晒し者にして

市中引き回しの上……な感じですか。

よく聞く話だとこの後に磔獄門とか言いますが、磔と獄門は別の刑罰で、物理的に共存できないようです。

磔は槍で刺して処刑、獄門は首を斬る処刑なので、両方を執行する事は出来ない模様。

意味は全く違いますが、絞首電気刑みたいな感じですかね。

絞首刑の時点で死んでるから、電気椅子は意味ない。逆順でも同じ。



・起動魔力が今後不足する

スケールが細かくなると、リアルサイズが大きい物も対象になる。

その拡大速度は成長速度を上回るという事だ。

これまではスケールが変わっても、召喚する装備に大きな差は無かった。


1/35の戦車も1/72の戦車も同じ戦車。

1/72でしかキット化されないような巨大戦車とかはあまり聞かない。


飛行機は少し事情が変わるが、1/144の多発爆撃機程度ならやはり戦車と大差ない。

離陸重量という最も重い状態で言えば、B-29で60トン超なので重戦車並み。 B-52では220トンにもなるけど。


だが、1/200とか1/250になると艦船が出てくるから、いきなりでかくなるという訳だ。

大戦中の駆逐艦でも2千トンとかあるから桁が2つ違う。

(いや、B-52みたいな100トン越えは例外な)


なお、排水量は純粋な質量を計測したものでは無いが、計算上求められるもので、実際の質量との差は誤差の範囲と思って差し支えない。

詳しくはネットで調べると良いでしょう。

ましてやリアライズシステム上の質量による召喚負荷の判断で言えば、排水量をそのまま使う事に全く問題は無い。

あぁ、基準排水量だと計算が違うから、満載排水量を使う必要があるけどな。




2023-04-22 誤字修正

以前の立場なと誰も気にしない

 ↓

以前の立場など誰も気にしない

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