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模型戦記  作者: BEL
第6章 軍事ライターの憂鬱
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第34話 ライターとモデラー、異世界に招かれる その4

 いつものようにネタ探しの立ち読みを済ませ、赤土大理(あかど だいり)は帰宅する。

残念ながら新たなネタは得られなかったが、ネタが無いのはいつもの事だ。


 オリンピック開催を批判する記事はあったが、スポーツ観戦は彼と今は無き兄の共通の楽しみであり、ネタとしては使っていない。


 夕食を済ませ、ネタは無いかとテレビを見ていると、突然部屋が揺れる。

同時にテレビの画面が消え、部屋の明かりも消える。



「な、なに、地震? 停電?」



 急な事に驚く赤土。


 固まっていると、揺れは直ぐ収まった。



「ふっ、大した事なしか、でもこの程度の地震で停電とか、何やってんだ電力会社は」



 地震だとしても、通常赤土の家が震源な訳ではあるまい。

自分の家の揺れが大したこと無いから、地震自体大したことないという理屈は成り立たない。

電力会社に悪態をつく前に、ラジオを探すべきだろう。


 もっとも、この揺れは地震では無いし、停電が発生しているのも彼の家だけの限定現象である。

その事を知らせるべく、いつもの声がかけられる。



「応えよ」


「は?」



 停電で音の無くなった部屋に響く、聞き慣れない老人の声を聞き、赤土は間抜けな声を出す。



「応えよ」


「な、なんだ」



 声のする方を見るが、部屋の中は暗く、誰かが居るとしても、まるで判らない。

すると、部屋が明るくなった。

だが、電気が復旧したのではない。

部屋の中に淡く光る雲のようなものが広がり、辺りを照らしたのだ。



「だ、誰だ! おま……え?」



 赤土は不審者を追及しようとして声を詰まらせる。

そこには、ローブを着た老人風の人物が居たのだが、あろうことかというか、毎度の事ながら宙に浮いている。

なんとも常識を逸脱した様子に、赤土は反応を返すことが出来ない。



「ワシは神である。 名はロディニアじゃ」


「かみ……だと?」


「いかにも」



 その後の展開はいつもと異なり、意外とすんなりいった。



「ほう、異世界召喚について記した書物があると申すか」


「ああ、ところで召喚なんだよな、実は死んでいて、転生するという話じゃないんだよな」


「安心せい、召喚じゃ。 そして用が済んだら帰還も出来る」


「判った。 で、僕は何をすれば良いんだ」


「そなたには、戦に使う武具の用意をしてもらう」


「武具? なんだ? 武器屋をやれというのか?」



 いや、誰も店をやれとは言って無いだろう。



「武器を売るのではない。 生み出すのじゃ」


「は? 何で? そんな仕事なら他の奴に頼めよ。 どうせチート与えて働かせるんだろ、誰でも出来るだろ」


「何じゃ、チート? もしかして権能の事であるか、残念だがそのような『無から武具を生み出す権能』なぞ無いぞ」


「何だよ、魔法があれば何でも出来るんじゃないのか」


「それが成り立つのは、お主の読む異世界を描いた書物の中だけじゃろう。 物語と現実は違う」


「じゃあ何で僕なんだ? 武器工場で働いた事なんて無いぞ」


「そのような経験なぞ不要じゃ。 必要なのは、模型である」



 レリアル神は模型からの召喚について説明した。



「そんな事が……いや、まて、あれは大事な兄の遺品だ。 戦争のために使う事なんて出来ない」


「そうなのか、戦う相手はお主の嫌いな種類の人物なのだが」


「嫌いな種類? 何だそれは」


「お主同様、この地より召喚された天使じゃ。 戦に詳しく、我らは幾度も辛酸を嘗めておる」


「ミリオタか、人間の屑だな。 判った、屑を始末すると言うなら、喜んでやろう」


「お主に戦いに赴けと言う話ではないぞ」


「判ってるよ、どうせ僕は兵器の使い方なんて知らない。 別の召喚者が使うんだろ」


「察しが良いな。 今候補者を絞り込んでおる」


「行くよ。 その戦いに参加しよう」



 こうして、赤土の家はミシエルの基地に隣接する広大な地下倉庫の中に出現した。

何度も基地と家を行き来するのに便利で、地下なので上空に偵察機が飛んできても隠蔽システムを使う必要が無い。


 赤土はミシエル達に紹介され、体制が決められた。

基本的にマリエルが彼の傍に付く事になった。


 さて、召喚に応じた赤土であったが、いきなり躓く事になる。

試しにT-62を召喚しようとしたのだが……。



「無理無理、やろうとしただけで気が遠くなる」


「そうなのですか」


「欠陥あるんじゃねぇの、全然出来る気がしないぞ」


「判りましたわ、今日はこれでお休みください。 明日までに調べておきます」


「そうか……、そうしてくれ」



 赤土はT-62の模型を回収すると家に戻っていった。

マリエルは事の次第をモリエルに報告し、失敗理由の調査が始まった。



*****



 レリアル陣営が次に向け準備を進めている頃、大英達はある問題に直面していた。


 1/200の秋月型駆逐艦「初月」を前に、大英と秋津は困惑している。

海に面したザバック辺境伯領で召喚すれば、海軍を創設出来る状況になった訳だが……。



「うーん、行けるんだけど、やったら死ぬなコレ」


「死ぬとはまた話がでかいな」


「スケール的には大丈夫になった。 だけど、2700トンのフネは重すぎる」


「さらに経験が必要って訳か」


「とはいえ、1/200の戦車や戦闘機なんて、ほとんど無いからなぁ」


「こっちはどうなんだ? まぁ聞かなくても判る気がするが」



 秋津が指し示したのは 1/200 の「護衛艦みねぐも」だ。

サイズ的には2100トンだから、初月よりやや小さい。



「そりゃまだダメだろう。 60年代だし」


「だよな」



 経験値稼ぎも大変なようだ。



「とりあえず、1/144中心に召喚を進めるしかないかな」



 難易度が低い召喚から得られる経験値は相対的に少な目になる。

なので、新しいスケールが「開放」されたら、そのスケールのブツを召喚対象とするのが効率的なのだ。

とはいえ、キットには偏りがある。

そうそう都合の良いものは無いので、次点として1/144を進める事とした。 という話だ。



 その日の午後、司祭が秋津に話を聞きに来た。

王都の開放と新体制について話を聞きたいとの事。

大英とゴートも同席し、城の会議室で話が始まった。



「それで、先王……いえ、もう先々王ですね。 先々王ティワナク2世陛下の容体は判りますか」


「ああ、王都開放から3日ほどして意識を取り戻したぞ。 詳しい事は判らんが、何か魔法の薬でずっと眠らされていたみたいだ」


「なんと、一体誰がそのような薬を」


「飲ませていたのはお付きの女官だが、やらせていたのは大公……いや、今は大公国の……って同じか。 とにかく大公が黒幕だろうってさ」



 これについてはゴートも補足する。



「当時の先王が健在だと、王を傀儡にするのがやりにくいし、意識不明の責を当時の宰相に負わせつつ、生かさず殺さずという企てであろう」


「なるほど。 うーん、難しい権力闘争ですね。 これを子供たちにどう説明したものか」



 そもそも司祭が話を聞きに来たのは、教会で行う説話のネタ集めだったりする。

学校の無いこの地では、教会で行われる説話は、大切な教育活動なのだ。



「では、話を変えて、60年前のタワンティン=サンの追放は『無能な兄を追放』ではなく『弟による王位簒奪』という事でよろしいのですよね」



 この問いにもゴートが答える。



「ああ、その通りである。 タワンティン=サン、いやピスカ=アーリアの貴種流離譚として語るのが良いであろうな」


「やっと汚名を雪ぐ事が出来て、嬉しゅうございます」


「同感である」



 その後もいくつかの話が行われ、終わると司祭は帰って行った。

司祭が帰った後も大英達は会議室で雑談をしている。



「そうか、女王陛下のお爺さんは無事名誉を取り戻せるんだな」


「そうだな、『歴史が書き換わる』って事だ」


「良い話だ。 大抵の『悪役』は名誉を取り戻せないからな」


「そうだなぁ」


「吉良なんてテロで殺されたうえ悪人呼ばわりだからな」


「あー、あれな。 実際はそんな悪人じゃなかったって話だよな」


「それが物語で悪役として描かれたせいで、リアルでも悪人だとされてしまったという」


「ひでー話だよな」


「大英殿、その『きら』というのは何者なのであるか」



 話が見えないゴートに、毎年12月にTVでドラマになる例の話について、説明する。



「なるほど、現実と物語は異なるという事であるか」


「歴史資料も色々出てきて、一部の人の間では『吉良こそ被害者』という認識もあるのですが、世間一般には浸透していません。 一度ついた悪評はなかなか消せないのです」



 まぁ、「部下をいじめたパワハラ上司がざまぁされた」という「気持ちの良い話」だから、中々これは消えない。

歴史バラエティなんかで「新説」として紹介される事はあっても、「綱吉は実は名君」という話と同様に、世間的には「意識高い系歴人(歴女)」が語る「珍説」の域を出ないのだ。

それこそ、革命とかそれに近い歴史的スーパー大事件が起きたりしない限り、この流れは変わらないだろう。



「でも、コレってヤヴァイ事なんだが」


「ん、そうなのか」


「たとえば、300年後、岸ちゃんの事がなんて伝えられていると思う?」


「あー、そうか」


「マスゴミの記録だけを参照していたら、『とんでもない大悪人』って事になる。 それこそ現代で言えば『戦前にあったものはすべからく悪』がまかり通っているのと同じだ」


「あー、そうだな。 マスゴミは『真実なんてかんけーねー』な奴らに支配されてるもんな。 岸ちゃんネットや草の根では名宰相なんだけどな」


「そんな庶民の声なんて記録には残らないか、残っても『信憑性に欠ける』となるだけ」


「確かになぁ。 1ちゃんのネラー発言なんて証拠能力ゼロだもんな」


「実際、岸ちゃんを誹謗中傷する『権利』とやらを求めて裁判まで起きてるし」


「なんだ。ソレ?」


「アレだよ、選挙妨害した連中を警察かSPが排除したら、「言論の自由を侵害した」って裁判所に訴えたっていう」


「あーあれか、岸ちゃんの演説を妨害した奴が逆切れしたアレだな」


「そもそも『誹謗中傷権』なんかを主張してるんだから、受理しちゃダメだろう」


「流石に敗訴するだろアレ」


「だと良いけどな。 地裁はどうかしてる奴が多いから判らんぞ」


「そう言われると心配になってきたな」


「アレが勝訴なんて事になったら、警察もSPも『仕事したら責任問題』なんて事になるから、萎縮したり体制を縮小するだろ」


「やべーぞ」


「テロだってやり放題だぞ」



 何やら熱くなっている二人を見て、再びゴートが口を開く。



「何か難しい話のようであるが、説明してもらえると助かる」


「ああ、すいません、置いてきぼりでしたね」



 現代日本の出来事はゴートには判らない。

そのため、二人はゴートにも判る様解説するのだが、基盤となる知識がないため、解説に解説が必要となり、その解説にまた解説をする。

なんて事になる。


もっとも、説明しても「意味不明」な事もあるのだがね。

その原因は、ゴートにとっては「言語明瞭意味不明」な事がいくつもあったりする事だ。

説明は理解した。 だが意味が判らん。 という話。

その最たるものが。



「なぜ『自らの身を守る事』が悪い事になっておるのだ?」



 まぁ、これは時代が違うという話ではない。

現代「日本」でだけ通用する概念であり、同じ現代でも「日本以外」では通じない。


 もうこれは「そういう事になっている」として了解して貰うしかない。

でないと、昭和初期からの長い歴史の講義を始める事になってしまう。

もっとも、どこぞの組合の教師に洗脳された人では無いから、その講義を聞いても「やっぱり意味が判らん」となると思うけどな。



 時にはこの様な「戦後処理」的な活動もこなしつつ、これからに備える大英達なのであった。

用語集


・毎度の事ながら宙に浮いている

レリアル神は現代日本では家の中で靴を脱ぐという習慣を知っている。

だが、靴を脱ぐ気は無いので、床を汚さない様に、浮いている。

……という配慮を神がする訳が無い。

単に「人間ではない」事を素早く相手に知らしめるためである。



・2700トンのフネは重すぎる

2700トンは基準排水量。 召喚する際は満載状態だからもっと重いし、そもそも排水量は実際の重量とは違う。

だが、重すぎるのは変わりない。



・ピスカ=アーリア

メーワール女王から見ると祖父に当たるタワンティン=サンが使った偽名。



・岸ちゃん

本作はフィクションのため、現実の人物とは無関係です。

本作は「小説家になろう」の規約を遵守し、第二次大戦期以降の実在の人物について、登場人物として扱う事はありません。


大英達が召喚される数年前まで、「彼らの住む日本」で総理大臣をしていた人物を、彼らは親しみを込めてこのように呼んでいます。



・誹謗中傷する『権利』とやらを求めて裁判まで起きてる

大英達が召喚された翌年に判決が出ましたが、それについては本作の内容とは無関係なので、ここに明記する事は致しません。

一言、大英の読みは当たり、その後の社会的影響の推測まで「当たった」とだけ記しておきます。



・テロだってやり放題だぞ

TVドラマとかアニメなんかだと、社会的事件によって自粛したり、延期したり、お蔵入りしたりします。

本作はそれら多くの人々が見る作品と異なり、見ている人数が少なく社会的影響が無いので、本文は当初の予定通りの内容でお届けしています。


赤穂事件に関係する話は前回「加害者編」と今回「被害者編」の2回で一組です。

本来はどちらも「悪人」でも「悪役」でも無く、単に加害者と被害者が居るだけなのですが、忠臣蔵として物語にするため一方を「善人」もう一方を「悪人」とした結果、ああなったものと推測されます。


ここで被害者を善人とすると「善人が殺された話」になってしまい、悲劇になるのですが、そういう話はよくある話。

きっと関わった人たちは逆張りして「善人が復讐を遂げた話」にして「スカッと」したい庶民の心を掴めると考え、それを実現したのでしょう。

しかも最後は「善人が切腹」なので「お涙」まで頂戴できる。

今も昔も「ざまぁ」は大人気ですネ。


さて、当初の予定と違うのは前項で「当たった」と記している行だけです。

本来は


大英の読みは当たってしまう。

裁判所が間違うと一般ピーポーにはどうする事も出来ない。 「人民をいじめた極右政治家にざまぁ」なんて事を企てる輩が現れるというバタフライが発生しない事を願うのが精いっぱいだ。


といった感じになるハズでした。

残念な事に現実になってしまいましたが、本欄は「小説家になろう」の規約を遵守し、特定の政治勢力に対してどうこう語る事は致しません。

また、件の裁判はリアルでも存在して同じ判決を出していますが、本欄も本作も作者も現実の2022年03月25日に出た地裁判決と、2022年07月08日に発生した元首相暗殺事件との関りを主張するものではありません。

(もちろん無関係だと主張するものでもありません。)

単に主張しないだけです。


ここは本作に関する事を書き記す場であり、リアルワールドで発生した事象について素人の憶測を主張する場ではないので、もし判断が必要なら、各々読者が自身でご判断ください。 また、判断しなくても本作を読むうえで何の問題も無いので、余計な事を考えたくない場合は、判断しないのが良いでしょう。

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