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模型戦記  作者: BEL
第1章 異世界へようこそ
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第4話 おっさんズ、経緯を聞く その2

召喚は当然外で行う。



「それでは、外に出ましょう」



 今回の召喚はミヤタ模型1/35ドイツ陸軍75mm対戦車砲 Pak40/L46である。

対戦車砲に需要はないが、経験値稼ぎ用に手ごろなサイズなので選んだものである。


召喚した対戦車砲だが、厠の先に6ポンド砲と共に置かれた。

一応城の中なので、一般民衆の目には触れないし、時折街に出没するとされる魔物に見つかることもない。


 大英は並んだ2門の対戦車砲を見ながら



「雨は大丈夫ですかね。まぁ濡れたぐらいで壊れる代物でもありませんが、できれば屋根が欲しいのですが」



 執政官は



「今日中にホムンクルスの方々の宿舎も兼ねた格納小屋の建築にかかります。

完成までは城にてお泊りいただきましょう。

雨については大体大丈夫だと思います。今は雨期ではありませんから。

まぁ雨期でもそうしょっちゅう降るものでもありませんけど」



この土地、雨はあまり降らないらしい。

昨日の道中でも周りに大きな木は少なく、やや乾燥ぎみに感じられる。

魔物の現れる森も熱帯雨林ジャングルと呼ぶのは無理があろう。

木の密度的には普通に日本にもあるような森だった。



「やはり少ないのですか。ちょっと不思議です」


「そうですか?でも、ここは昔からこんな感じです。別に近年雨が減った訳ではありませんよ」



 太陽の高さから、赤道直下とまではいかなくても、相当低緯度だと思われるので、少し違和感を感じたのだ。

ここは砂漠と言うほど乾燥はしていないものの、本来なら熱帯雨林のような気候でもおかしくない。

砂漠近くのサバンナなら、もう少し緯度が高い地域でもよさそうに思う。

違和感といえば、もう一つ。



「それにしても、あまり暑くないなぁ」



 手で影を作り既に真上に近い太陽を見上げながら秋津が言う。

そう、ここまで低緯度なら「めっさ暑いわ」を連呼する事態になっていてもおかしくない。


もちろん、暑いことは暑い。元居た北海道の6月とは比較にならず、もう(北海道の)真夏並みである。

今二人は執事が持ってきた薄い服を着ているから良いのであって、日本での格好のままなら暑くてたまらんだろう。

(大英は自前で薄着が可能だが、夏用の服が無い秋津に合わせて現地の服を着ている)


リディアとパルティアも結構露出度の大きい服を着ているが、別に大英達に媚びている訳では無い。

もちろん、読者に媚びているわけでもない。大体イラストが無いんだからねぇ。

で、理由は単純に暑いからである。


 実はこの辺も中世ファンタジー世界らしくない所である。

中世ファンタジー世界は西欧の中世をモデルとしているから、実は意外と寒い。

だから、皆厚着なのである。


 異世界系ヒロインの多くが薄着なのに、騎士は普通に厚着という不思議ワールドが目立つのは、需要の問題だから仕方ない話としても、正統派であればヒロインも厚着。

ヒロイン以外でも豪華な装飾てんこ盛りのロングドレスに身を包むお姫様なんてのは、寒い地方だから成り立つのであって、暑い地域では無理。


 暖房の効いた部屋で、ダウンジャケットを着て過ごすのが如何に暑いかを想像するとよい。

騎士らしい格好も、僧侶っぽい格好も、涼しくなければ無理である。

そういう意味では、ここの兵士は中世の騎士というより、古代ギリシャとか古代エジプトの兵士やローマの剣闘士を思わせる姿である。


 第1騎士団の精鋭は甲冑を着こんでいたが、アレも上下が分かれており、中世騎士の姿とはかなりかけ離れている。

ま、乗馬戦闘がメインの中世騎士と同じ甲冑では重くて戦いにはならんだろうけどな。

(中世騎士が落馬すると動けないといわれるのは、落馬の衝撃で一時的に動けないのであって、重くて歩けないというのは都市伝説の類。それでも戦いに向かないのは確か。従者の助けがないと、軽装の歩兵に鎧の隙間から短剣で突かれてやられてしまう。)

暑さ対策と軽量化の一石二鳥である。


 とは言うものの、二人はここの暑さより東京の夏のほうが暑かったように思った。

なお、二人は召喚される前は北海道在住なので、実は暑さには強い。


え?おかしいって?


そんな事は無いですよ。

むしろ寒さには弱い。北海道では冬は部屋全体を温めます。

寒い部屋で電気ストーブを付けて、こたつに入って寒さに耐える本州の方々のほうが、寒さには強いと思いますよ。

暑さの事に話を戻すと、二人とも自宅にはエアコンが無いのだから。

そんな家で生活していた昭和生まれの二人ですからね。

暑さには強いんですよ。


 ちなみに出張で東京に行った時、建物の外に出た瞬間の大英の感想は「夏にストーブを焚いている」である。

そこらじゅうの室外機から熱風が出ていることを考えれば、あながち間違っていない見解だと思う。


 そんな中緯度の東京より涼しい低緯度の土地。

異世界の気温は神が涼しくしているのだろうか?

太陽の輝きはまぶしくて地球で見る太陽と違いは見られないが、実は暗かったりするのだろうか?

あるいは可視光は同じだが、赤外線が弱かったりするのだろうか。

ま、熱風を吹き出す「ストーブ」が無ければ、東京ももう少し涼しいのかもしれないが……。



 さて、午後は少し大物を召喚した。

それは午前と同じくミヤタ模型の1/35であるが、いよいよ車両の召喚である。


 ミヤタ模型 1/35 アメリカ陸軍 M21モーターキャリヤー


81mm自走迫撃砲である。


 何か相当偏っている気がするし、どうしてソレを選んだと言いたくもなる。

少なくとも、現時点で遮るものの無い荒野を進んでくるオーク相手に迫撃砲は必要ない。

だが、これには事情がある。


それは、


 完成している模型でなければ現物を召喚できない


からだ。


 未組み立てのキットを使っても召喚できない。

必然的に、既に完成しているものの中から選ぶことになる。

現時点では好むと好まざるとに関わらず、戦術上の要請とは無関係にならざる負えない。


そりゃそうだ。

これまで未知の土地での戦争を想定してキットを制作していた訳では無いのだから。


では、なぜM21が選ばれたのか。


現在召喚可能なのは1/35まで。

完成済みキットのうち車両は

 M21モーターキャリヤー

 T-34/85

 ヤークトティーゲル(ハンティングタイガー)

 ランボルギーニ カウンタック LP400(1/24)

 61式戦車

 74式戦車

 チーフテンMk5


一番楽そうなのはスケールが1/24のカウンタックだが、これはほぼ使い物にならない。

戦力価値はゼロ。単なる車としても、アスファルト舗装道路が無いこの世界ではどこも満足に走れない。

最低地上高が低すぎるのだ。軽自動車の方がマシ。

そもそも年代的にまだ無理。

召喚可能な年代が進んだらガソリン徴収用に召喚するのもありかもしれないが……。


そしてM21を除くと、残りは全部戦車と駆逐戦車。

重量が重く召喚負荷は高いし、優先順位も低い。


74式とチーフテンはカウンタック同様年代的に無理。

61式は年代的にはギリギリ可能だが、ギリギリ過ぎてMPを追加消費するので、今召喚する必要はない。

もう少し経験値を稼げば追加MP消費は無くなるだろう。


と言う訳で、消去法でM21となったのである。

別に英国面的にゲテモノな選択をしたのではない。


……あー、なぜそれを買ったかと問われれば、支援火力が欲しかったという模型を選ぶにはチト変な理由なのだがな。

ちなみに当時※はM7自走りゅう弾砲は未発売だったと思う。


※余談だが、大英がM21を買ったのは中3の時。

受験のためプラモデル禁止をくらったので、在庫となり、その後在庫の増加によりなかなか作られず、完成したのはつい最近。

製造から40年近く経過したキットなため、デカールのでかい白い星をボンネットに貼ったら割れたという。

だが、マークソフターで砕けた欠片も無理やり張ったうえ、割れ目は白塗装で潰したので、見た限り問題は無い。


変色も無い。白い星が黄色い星になったりはしていないし、透明部分も透明なままだ。

もっとも、ベースがオリーブドラブだから、多少色がついても貼ったら見えないがな。

他の小さなものも、問題なく貼れている。


年月の経過でデカールが劣化という話はよく聞くが、劣化した時しか話題に上らないから、劣化についてはそんなに深刻にならなくても良い気がする。

まぁ、でかい奴は劣化の影響を受けやすいかもしれないが。

あと、航空機の下面の国籍マークなんかは透明部分の変色が怖いかもしれない。

ま、そんな場合でも几帳面に切れば問題は少なくなるだろう。



** 閑話休題 **



「明日からはある程度の時間をキット制作に割り当てないといかんなぁ」



しかも、困ったことに大英が自分で制作しないと召喚の対象とはならない。

神曰く秋津が手伝っては条件が満たせないため、二人で並行作業という事も出来ない。


 無事召喚が終わり、軽自動車よりずっと大きなハーフトラックが出現した。



「パルティア、大丈夫?」


「ええ……姉様、大丈夫」



 召喚の際に祈りを捧げる巫女のパルティアはややふらついている。

結構消耗したようだ。

大英も疲れた顔をしている。

一方儀式を取り仕切る神官のリディアは平然としている。

MP?はパルティアと大英だけが消費し、リディアは対象外のようだ。


ちなみに召喚と言っているが、別に元の世界から呼び出している訳ではないので、実体化と呼んだほうが近い気がするが、その場合、元のキットが消えていないので、ちと不適切。

なので、比較的イメージしやすい「召喚」という単語を使っている。

なお、一度召喚に使ったキットは白化(半透明の灰白色に変化)し、もう召喚に使う事は出来なくなる。

触媒のような扱いだが、何度も使えるわけでは無いのである。


 とりあえず、今日は完成直前のSASジープを仕上げることにした。

といっても、残る工程はトップコートのみだがね。


外に置いたSASジープに半艶の透明塗料が入った缶スプレーを吹きかける。

これで終わりである。


続いて大英と秋津は2階の模型部屋に移動し、在庫を前にする。



「初めて見るが、すごい数だな」



そこに積み上げられたキットの在庫数は300は下らない。

いや、400にも手が届きそうだ。

積みプラ群の威容は大英が伊達に年は食ってない事をアピールしているかのようだ。

いや、完成品の少なさを考えれば、逆に伊達に年を食っていると言った方が良いのかもしれない。


挿絵(By みてみん)


で、この在庫、陸海空網羅し、宇宙まであるが、宇宙はアニメものなので、現物ではないため使えないようだ。

さらに食玩系もある。こちらは全てが利用可能ではないが、利用可能なものが多数派だ。

多少追加MPを消費するなど制限がかかる物もあるようだが、召喚対象に成り得る物だけで400以上ある。



「そうか、コレでもモデラーとしては少ない方だと思っているのだが」


「そうなのか?」


「昔ネットでうちらより一回り上の世代のモデラー達の在庫倉庫の画像を何枚か見たけど、こんなもんじゃ無かった」


「そうか」


「20代の頃にPCゲームが無かった世代だからね、お金がみんなキットに向かったんだと思う。

大体同じキットを2つ買うのが普通らしいし、時には3つ買う事もある。そりゃ増えるはずだ」


「同じものを3つ? 何だその石橋勇者」


「ははっ、だよねぇ。個人的には同じキットは3つどころか2つも要らんよなぁ。

作成用・パーツ取用・保存用らしいけどね」


「パーツ取用?」


「パーツを無くしたり、壊した時の保険。

改造時にも使うらしい。自身だけでなく、他のキットの改造時に使う事も多いみたい。

昔はパーツセットとか武器セットが無かったから、艦船の機銃や戦闘機のミサイルを追加するのにキットを買うとかあったらしいからね」


「剛毅な話だな」


「それに、艦艇なら、艦隊を再現しようとして、同じ駆逐艦とか輸送艦を何隻も揃える事があるし、それが複数になれば、もう凄い事に。

モデラーの知り合いには連合艦隊を再現しちゃった人も居て、同型艦が全艦揃っているから、並べるともう区別がつかないから艦名が言えない」


「そりゃまた、えらいことだな。やっぱ日本は海の国だな。

艦隊を再現する奴は居ても、戦車で師団を再現する奴は居ないだろ?」


「確かに聞いたことはないな。

車両はキット化されてないものも多いから難しいだろうしな。

とはいえ、艦隊再現は仕方ないけど、そうでないなら、せめてスケール違いにしてくれ、百歩譲っても別メーカーの別の艦とか別の機体だよな」


「別の艦?」


「同型艦なら一応別物だろ」


「そうか?」



よくあるケースとして同じ駆逐艦を4箱買って、同じ駆逐隊所属の同型艦4隻を一挙建造。

とか、同じ機体を4機買って、同じ飛行隊所属の機体を4機一挙制作。

なんて話はよく聞く。

だが、大英は決してそういう買い方・作り方はしない。

「同じもの」を複数揃えるより、「違うもの」を並べたい性格なのである。


例えば、日本海軍陽炎型駆逐艦を見てみる。(1/700以上限定)


赤島の旧金型不知火が完成済み。

他は在庫だが、ウイニングラン社(WR社)の雪風、赤島の新金型秋雲とバラバラである。


同じく秋月型だと


ダイモの初月(1/200)、富士山の旧金型霜月、同じく秋月が完成済み。

ただし、秋月は武装をWR社のパーツに換装している。見た目だけでも違うモノにしたいらしい。

大抵のモデラーは逆に「品質を揃える」事に腐心するのだが。

そして在庫は赤島の涼月。


例外っぽいのは吹雪型。


ミヤタの綾波、響、初雪の3隻が完成済み。

丘下ホビーの天霧(1943)が在庫。

同じメーカー・同じスケールで3隻になるが、綾波、響、初雪は各々見た目が大きく違うから同型では無いという解釈もある。

(初雪がI型[吹雪型]、綾波がII型[綾波型]、響がIII型[暁型]という分類)


そんな大英なだけに、ミヤタ新金型の島風の購入は、かなり悩んだ模様。

同型艦があれば、どんな残念な戦績(瑞穂とか)や、名前以外違いが無い場合であっても迷うことなくそちらを選んだだろうが、島風には同型艦が無い。

既にミヤタ旧金型の島風を完成させている身としては、買いたくなかったらしい。

富士山の新金型秋月型も「秋月以外にしてくれ」だそうだ。2隻入りで秋月・初月だから、被りまくりである。


おっと、なんか話が脱線しまくっているようだ。

話も長くなったので、今週はここまでとしよう。


用語集


・石橋勇者

主人公はえらい強い勇者なのに「石橋を叩いて渡る」を実践している所がキモになっている小説。

正式タイトルは「この勇者、無敵なのに石橋を叩いて渡らない」。

タイトルはインパクトのために「渡らない」とかなってて、ストーリーでもよく現場から撤退するが、最後はちゃんと渡る。

秋津のお気に入り作品で、主人公が装備の購入時にとんでもない数を求める所から連想したようだ。


・赤島

赤島文化教材社。

昔はモールドが残念なキットで有名だった。

近年は積極的商品展開で有名である。


・富士山

富士山模型。

以前はミヤタ・長谷部・赤島と組んで喫水線シリーズとして1/700艦船模型を発売していたが、のちに袂を分かち、単独でシリーズ展開している。

旧金型は喫水線シリーズ当時の製品。


・ウイニングラン社(WR社)

 コントレイルシリーズという1/700艦船・航空機・車両のキットをリリースしている模型メーカー。

精密感のある密度の高いディテールが特徴の製品をリリースしている。

このシリーズは当初はマイナー艦や外国艦、現用艦がメインだったが、現在ではメジャーな日本海軍艦艇も扱っている。

昔の社名はウイニングラン東海。


・ダイモ

大日本模型。

初月は1/200のシリーズのひとつ。


・丘下ホビー

最近1/700艦船模型に参入した新興メーカー。

最近なだけに精巧さでは他の追随を許さない。

ても、価格まで追随を許さない訳ではないのが嬉しい。

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