第32話 おっさんズと王都への道 その4
その日は王の名のもとにスブリサ討伐として、8千人規模の大軍を派遣してから結構な時間が過ぎていた。
秋も深まる……と言いたいところだが、四季らしい四季を持たないこの地では多少気温が下がっただけで、王都もその周辺の自然もあまり変化はない。
そんな折、王は宰相に問うた。
「ムガルよ、そろそろザバックやスブリサの討伐は終わったのではないか」
ムガル=アンティル。 マウラナ大公領領主(マウラナ卿)であり、これまでは大公と呼ばれていたが、宰相となって王の傍に付くようになったため、今では名前で呼ばれていた。
「ははっ、仰せの通りで、頃合いではありますが、未だ吉報は届きませぬ」
「もしかして、神獣相手に苦戦しているのではないか」
「まさか、神獣は王立近衛魔法団の一般魔導士でも屠れるモノ。 団長たるハイシャルタット卿の敵ではありますまい」
「そうであったな」
流石に大公も「根拠なき空想からの『そんなばかな』」をやらかす程間抜けではない。
ちゃんとデザートシボレーを撃破した実績を元にした推測である。
残念ながら、シボレーはソフトスキン。 防御能力という点では最下級の車両だったのだが。
それから数日、敗戦を伝える兵が王宮に到着した。
その報告に王は絶句し、大公は驚愕して兵に問う。
「馬鹿な、あの大軍が全滅したと言うのか! ウリューアン卿は何をしていたのだ!」
「全滅はしておりません、ですが、ウリューアン卿が神獣の前に成す術なく倒され、我が王立第1騎士団は幹部と主要な兵を失いました」
「第1騎士団だけがやられたと申すか」
「はい、そしてその様子を見て諸侯は兵を引き上げてしまいました」
「何と言う事だ……」
諸侯との連合軍であったが、総司令官を失ったため崩壊してしまったのである。
それを聞いて王も問う。
「なぜだ、どうして諸侯は戦を継続しない」
「それは……おそらく神獣に恐れを成したのだと……」
「王命より神獣が上だと言うのか」
「それが……諸侯の判断のようです」
「なんて事だ、王家の威光を蔑ろにするとは、恩知らず共め、どうしてくれようか」
だが、大公は疑問を持つ。
「おかしくはないか、ウリューアン卿は多くの者を従える指揮官としては有能であったが、先陣を切るような勇猛な男では無かったと思うが」
「はい、軍団のうち、騎士や兵の集団の一番後ろにて指揮をとられていましたが、空から神鳥がやって来て、直接ウリューアン卿を狙ってきたのです」
「神鳥だと、まさか神鳥が大軍でやってきたのか?」
「いえ、数体飛来しましたが、第1騎士団に向かってきたのは1体だけです」
「1体だと? 馬鹿な、それこそ王立近衛魔法団の思うつぼでは無いか」
大公とハイシャルタットの見積もりでは「神獣は数が少ない。 魔法兵団の力を持ってすれば、各個撃破出来る」となっていた。
「残念ながらハイシャルタット卿ですら手が出せず、神鳥の力で一撃でウリューアン卿は倒され、ハイシャルタット卿も生死不明であります」
「そんな、馬鹿な……」
「我が同胞も多数が命を落とし、生き残った者も大けがを負いました。 伝令役として本隊から離れていた私は難を逃れたため、彼らの応急手当をし、戦いの結果を見届けた所で伝令役として、まかり越した次第でございます」
「そうか、ご苦労であった」
「陛下、他に尋ねたいことがございますかな」
「いや、無い」
大公は兵に向き直るとその名を問う。
「あー、そなた、何と言ったかな」
「はっ、バルバドス=パイライトであります、閣下」
「うむ、パイライト卿、大義であった。 下がってよろしい」
「ははっ」
バルバドスは去り、王が座り大公が立つ謁見の間を重い空気が覆う。
その時、王都の空に再び轟音が響き渡る。
「な、何だ、この音は」
「まさか、神鳥か!」
王と大公は外が見えるテラスに出る。
そして彼らは見た。 信じがたい巨大な神鳥の姿を。
その巨大な神鳥は城のすぐ上を通り過ぎると、港へと向かう。
その途中の森に1発の爆弾を落とす。
王都の人々が見た事のない火柱が上がる。
以前王都が襲撃を受けた際は、小型の爆弾を使っていたため遠くの人にはその威力は伝わらなかったが、今回は違う。
港に居た人々はその爆発音と倒れる木々、立ち上る煙を見てパニックになり、散り散りに逃げだす。
状況をよく見ようと、王と大公は城の中に戻り、最も高い所まで登る。
神鳥は港上空に到達しても何もせず、そのまま港を通り過ぎて海に出る。
そして、ゆっくり旋回して港上空に戻ってくる。
その間に人々は逃げおおせ、港はもはや無人となっていた。
いや、唯一例外があった。
壊滅した大公艦隊の生き残りが一隻、戦場を離脱して今まさに入港しようとしていたのだ。
その目の前で神鳥は胴体から何発もの爆弾を落としながら飛び続け、港の倉庫、桟橋、船が次々と爆発に巻き込まれる。
近くに落ちた爆弾からの爆風を受け、ガレー船の上は修羅場と化す。
船員たちは、ある者は怪我を負い倒れ、またある者は意識を失ったまま海に転落する。
やがて浸水が始まったガレー船は、ゆっくりと波間に姿を消した。
必死に逃げ地獄の戦場から首尾よく離脱した彼らを、港が見えてやっと安堵した彼らを、運命は見捨てたのだ。
うまく逃げて陸にたどり着いた者は、ほんの数名だった。
爆炎と轟音、そして煙に彩られた破壊の様子は城の高い所からも見えた。
王は腰を抜かし、大公は立ち尽くす。
最終的に9発の爆弾を落とされた港は炎上し、その機能は半減してしまった。
破壊を振りまいた神鳥は再び城へと向かう。
「う、うわぁぁぁぁぁ」
王は失禁しながら走り出す。
階段を転がるように駆け下り、何処へともなく、逃げる。 逃げる。 逃げる。
一方、大公は一歩も動かず、いや、動けず立ち尽くして震えながら、空を行く神鳥を見送るのであった。
*****
これまでの航空機とは比較にならないサイズの4発重爆撃機 BOEING B-17G FLYINGFORTRESS は王都爆撃のミッションを無事遂行した。
王や貴族たちを威圧するため、比較的低空(200m)を飛んだが魔導士による妨害などは無く、作戦は完了した。
「閣下、B-17より入電です、ミッションは成功。 妨害無し。 これより帰投する。 との事です」
「おお、ありがとう」
「やったな」
航空基地からの連絡を聞き、大英・秋津は作戦の成功を喜ぶ。
秋津は王都に向けて出撃を決める。
「よーし、これで準備は整ったな、予定通り明日出発しよう」
「おお、頼んだ」
王や大公との交渉もあるので、王都へ向かう軍はゴートが総司令官に任命されている。
そして現地での判断が必要という事で、秋津が召喚軍指揮官として侵攻軍に同行する。
「B-17の爆撃を見て、さくっと降伏してくれれば楽なんだがなぁ」
「まぁそうだねぇ。 一応1日1回連絡機を飛ばすから、状況報告よろしく」
「おう、任せとけ」
今回は通信用に車両を配置する事は行わない。
その代わり、連絡用の航空機を近くまで飛ばすので、そこで通信をするという事だ。
ヘリではないので着陸して……と言う訳にはいかない。
まぁシュトルヒなら適当な平地に降りられるかもしれないが、残念ながら持ち合わせがない。
一応王都までの街道に関してはどの諸侯も通過を認めると、わざわざスブリサに使者を送って知らせてきている。
行き掛けの駄賃で神獣に蹂躙されては困るという事だろう。
大英はその「好意」を全面的には信頼していない。 だからこそ、連絡用の車両を配置しない事にしたのである。
こうして、以前王都に向かった車列よりもずっと多数の車両からなる集団が、王都に向けて出発する。
*****
王都に敗戦の報せが届く前日、ヌヌー伯領前で街道封鎖をしていたバラ辺境伯領の騎士団を率いるテン=ルペリアンの元にも情報というか、命令書が届いていた。
曰く「王の軍勢は神獣の前に敗れ去った。 ルペリアン卿は現任務を辞し、配下の全軍を率いて帰投せよ。 他の諸侯や王の軍が妨害する場合は、実力を持って排除する事を認める」との事であった。
バラ辺境伯領は南部諸侯のため、簡単に元の信仰に復し、王の軍からの離脱を決めたのだった。
そして、南部や街道沿いの諸侯に限らず、中部・北部に関しても現王家に対する離反の流れは進むのであった。
用語集
・ソフトスキン
装甲を持たない車両のこと。
一方、装甲を持つものはAFVと言う。
なお、こういった説明もある。
AFV及び装甲戦闘車両とは異なり、重火器で武装をしていても装甲がなされていない軍用車両のことを表す。
(出展:ピクシブ百科事典)
マテ、AFVと装甲戦闘車両は同じものだろ。
実際、ピクシブでも
AFV
AFVとは装甲戦闘車両(Armored Fighting Vehicle)の略語である。
詳しくは装甲戦闘車両の項目へ。
装甲戦闘車両
「Armored Fighting Vehicle (アーマード・ファイティング・ビークル)」の訳語。「AFV」とも呼ばれる。
(出展:ピクシブ百科事典)
なのでこの説明は、例えば16式機動戦闘車の説明を
TANK及び戦車とは異なり、装輪式で……
と言うようなものでは無いかね。
fighter及び戦闘機とは異なり……
コミックス及び漫画とは異なり……
謎説明である。
・巨大な神鳥の姿
高度200メートルという低空を飛んでいる。
従って、相当デカく見えた事だろう。
・小型の爆弾
以前P-47が使ったのは250ポンドや500ポンドの爆弾とロケット弾。
今回B-17が落としたのは1000ポンド爆弾。
なお、10発搭載状態で召喚されており、全弾使い切っている。