表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型戦記  作者: BEL
第5章 王国の混乱
104/238

第31話 おっさんズとファンタジー中世騎士団との戦い その5

 タリス湖を飛び立った零観は程なくして海上を航行する船団を発見した。

船団の300メートル上空を一回りして状況を確認後、近くに着水する。


 水上を進み、船団に近づいて行く。

船団は大型の帆船4隻と、それに続く小型のガレー船24隻から構成されていた。



*****



 着水し近づいてくる零観を見て、先頭艦に乗る魔導士は驚くが、船員はそうでもないようだ。



「何だあれは、空を飛んでいたのに、海に降りたぞ」


「何言ってんでさぁ、水鳥なら普通の事でっせ。 神鳥も水鳥なんじゃないですかい」


「そ、そうか」



 近づくにつれ、零観のエンジン音が響く。



「神鳥とは、このような唸り声を上げるものなのか」


「おいらに聞いてますか」


「いや、独り言だ」



 零観は先頭の帆船近くまで来て、エンジンを絞りアイドリング状態とし、後席の登場員が話しかける。

水上なので簡単には止まらないが、近くを維持していた。



「我々はスブリサ神獣騎士隊である。 汝ら船団の所属と目的地、航行目的を教えていただきたい」



 その叫び声を聞き、魔導士は驚く。



「な、なんと、神鳥に人が……」


「ダンナ、返事をしてはどうです」


「お、おお」



 気を取り直すと、魔導士は大声で答える。



「我々は王命により、ザバック辺境伯を討伐すべく進軍しておる。 邪魔立てするならば神鳥と言えども討伐いたす」


「そうでありますか。 ご回答いただき御礼申し上げる」


「なんの、当然の事である」



 正直な司令官である。 まぁ、自分たちの優位を疑わず、欺瞞して奇襲しようという気も無いからねぇ。



「では、進軍は諦めて、お帰り頂く事をお勧めする」


「何故であるか」


「陸上を進軍して来た騎士団・兵団は破れて撤退された。 貴方方だけ単独で進軍しても勝ち目はありません」


「馬鹿な、戯言を申すでない。 そのような偽り事に惑わされたりはせぬ」


「あくまでザバック討伐を諦めぬと?」


「当然である」


「判りました。 その旨上官に報告いたします。 次に神獣騎士隊が来る時は、貴方方が海に沈む時となります」


「そうか、残念だが報告は出来ぬであろう」


「なぜです?」


「それは、そなた達がここで倒れ、帰れぬからである。 弓隊、あの者達を射よ!」



 その号令を受け、乗船していた弓兵が次々と舷側に現れ、矢を放つ。

だが、揺れる船上から放つ矢は、中々当たらない。

たまに当たっても、金属製の機体には大したダメージは無い。

そして、零観はエンジン出力を上げると、あっという間に離れていく。



「おのれ!!」


「ダンナ、魔法は?」


「無駄だ、届かん」



 結局、飛び立つ零観をただ眺める事しかできないのであった。



*****



 滑走中に後席搭乗員はコクピット脇胴体に刺さった矢を引き抜く。



「やれやれ、一歩間違えばやられていたな。 そっちはどうだ」


「問題ありません、下翼に1本刺さっていますが、浅いようなので離水後に落ちるでしょう」


「上翼はどうだ?」


「下からでは何も見えないので、少なくとも貫通している矢はありませんね」


「まぁ、貫通はせんだろうな」



 いくら外板のジェラルミンが薄いと言っても、多くの矢は当たったときの角度が悪く貫通には至らない。

刺さったものも少々あるが、これは発進直前に当たった物だけ。 離れてからでは、刺さる事も出来なかったようだ。

船上での取り回しを考慮した小型弓程度では、金属製の航空機には有効なダメージは期待できないという事だ。

せっかくの大型帆船なのだから、バリスタでも装備または搭載しておけば良いものを。


なお、コクピットはガラスで覆われていないので、乗員を直撃すればダメージはあったろうけど、生憎そんなに都合の良い当たり方はしなかった。



 高度を確保した所で、通信を送る。 曰く「かの船団は敵艦隊と判明。 説得は失敗、迎撃の必要を認む」と。

既に航空基地に戻っていた大英達は、連絡を受け「敵艦隊」を撃破する戦力を動員する。



「相手は海にいるのですが、どうされるのです?」



 マリエルは興味津々だ。



「本来なら船を送って海戦なんだろうけど、生憎無いからね。 飛行機で解決しよう。 ちょうど良い機体が準備出来てる」



 大英はそう答えると、皆と共に外に出る。

水上機は慌てて用意したが、戦闘機については用意が出来ていたようだ。

と言っても、海戦用というわけではないのだろうが。


 滑走路にはシーグラディエーターが発進準備を整えて待機している。

そして滑走路脇に並ぶ航空機のうち、2機の戦闘機が兵達に押されて滑走路に運ばれていく。



「あれなのですか?」


「そう」



 1機は特徴的な楕円翼を持つ単葉機。 スピットファイアMk1である。

その姿を見て秋津は問う。



「ほー、コレをつかうんか。 なんでだ?」


「沢山の機銃を積んでるから」


「なるほどな」



 対艦攻撃なら、爆撃機の出番かと言うと、そんな事は無いのだ。

相手は木造の小型船。 4隻ある大型帆船でさえ、現代の感覚からすれば「小型帆船」に過ぎない。

航空機銃で十分というか、より強い火力があってもあまり意味は無いだろう。

このスピットファイアは7.7mm機銃8門を搭載しており、正に適任という判断だ。


 そしてもう1機は F2A-2 BUFFALO。 ずんぐりとした戦闘機だ。

本来は艦上戦闘機だが、脚に問題があるらしく、海兵隊で運用されていた機体だ。

なので、空母が無い現状でも制作・召喚してあったのである。


 先行してシーグラディエーターが発進する。

続いてスピットファイアとF2Aは飛び立つと、海へと向かって行った。

ちなみに零観は現地上空に留まっており、戦果の確認を行う。 そして戦果不十分な際は、自ら追加攻撃を敢行する想定だ。



*****



 艦隊上空を旋回する零観を見て、魔導士は憂鬱になる。



「うーむ、あの神鳥はいつまで上に居るつもりなのだ」


「待っているのでは?」


「何を待つのじゃ」


「そりゃあ、援軍じゃないですか」


「何っ、あんなモノがまだあると言うのか」


「あるんじゃないですか、王都にも何体も飛んで来たじゃないですか」


「そ、そうであったのか」



 船員は王都で飛行機を見ていたが、魔導士はその時王都に居なかったので、見ていないのであった。

そして、彼らの懸念は現実となる。


 低空から現れたソレらは、各々目標へと向かうと、いきなり発砲した。


 スピットファイアとシーグラディエーターはガレー船に向かう。

200メートルの彼方よりスピットファイアは8門の機銃で、シーグラディエーターも4門の機銃でガレー船を撃つ。

この距離は戦闘機から見れば近距離であるが、船に乗っている者達にとっては、何も届かない遠距離からの一方的攻撃であった。


 撃たれたガレー船は船底板が破砕され、次々と沈んでいく。



「おのれ、そのような遠くからとは卑怯な! 我が魔法を食らうがよい」



 そうしてコマンドを唱え始めるものの、帆船とて無事では済まない。

自らの乗る帆船もF2Aの12.7mm機関銃による機銃掃射を受け、魔導士は詠唱どころではない。

残り3隻の魔導士もコマンドを唱えるものの、一般の魔導士である彼らの魔法では、戦闘機には届かない。



「ダンナ、逃げましょう」


「ま、まて、何処へ逃げると言うのだ」



 さらに被弾した帆船は船底に穴が空いたようであった。



「ダンナ、ダンナ!」


「ええい、どうしたっっっっ、痛っ」



 船が傾き、魔導士は尻もちをつく。



「浸水してるんでさぁ、この船はもう持ちませんぜ」


「ば、馬鹿な、矢を受けたくらいで船が沈むと言うのか」


「知りませんぜ、実際傾いてるじゃないすか」



 機関銃を知らない魔導士にとっては、機銃弾も「矢」だと思っているのだろう。

F2Aの機銃弾は前部船体を貫き、浸水によって前方より沈み始めていた。

後方に居た魔導士は撃たれはしなかったものの、このままでは海の藻屑だ。



「さぁ、海に飛び込んで、隣の船に」


「馬鹿な馬鹿な、わしは泳げんのじゃぞ」


「泳げないのに何で船に乗ったんでさぁ」



 船に乗るのは船乗り、海の男。 船員にとってはそれが常識。

だが、魔導士は海の男ではなかった。


とはいえ、他の船も次々と沈んでいった。


 3機の戦闘機は3隻の帆船と、23隻のガレー船を撃沈した。

残ったのは帆船とガレー船が各1隻。


海に投げ出された船乗りたちは、その帆船に集まるが、とても全員は収容できない。


 次々と船員が乗り込んで定員オーバーとなった帆船は転覆し、結局沈んでしまう。

ガレー船は元々余分な乗員が乗れる余裕は無い。

海を漂う友軍を見捨てて、北へと逃亡をはかるのであった。



*****



 状況を確認した零観から、航空基地に敵艦隊壊滅の知らせが届く。

その知らせを受け、大英はザバックからの連絡員に救助を要請する。



「それは必要な事なのですか」



 話を持ちかけられた連絡員の問いに、大英は「生きてるなら救助するのは当然」と告げた。


 海戦と言っても、船を沈めるのではなく、矢を撃ちあった後乗り移って白兵戦で決するのが、この地での戦い方。

降伏したなら捕虜、泳いで逃げる者は敵側が救助して撤退。

それが彼らの海戦観なので、「船が沈んで乗る船が無い」という状況は想定外なのだ。


 話がかみ合っていない事に気づいた大英は、敵の船の多くが沈んだことを告げる。



「で、では、敵船は皆沈んでしまったと言うのですか?」


「全部ではありませんが、残っているのは1隻だけで、それも離脱してしまったという事です」


「そ、そうですか、承知いたしました」



 連絡員の同意を得て、通信によってザバック辺境伯の城まで要請が送られた。


 こうして海より来寇した敵も撤退した。


 全ての軍が敗れ、討伐が失敗した事を、王も大公も未だ知らない。

用語集


・小型弓程度

別に小型だから矢の速度が遅いとは限らないが、少なくとも同じ文明で同じ技術と同じ素材、同じ原理で弓を作るのであれば、小型の方が矢の速度が遅くなるのは不思議な事ではない。



・装備または搭載

装備という考え方は多分無いだろう。

陸上で使うものをそのまま載せるのが早い。



・7.7mm機銃8門を搭載しており、正に適任

同じ木造船でも近世の戦列艦クラスなら、舷側の木材は分厚いので機銃では済まず、沈めたいなら何がしかの対艦装備が必要だろう。



・脚に問題があるらしく

はて、そんな資料は見当たらない。

大英君の勘違いのような気がするが、次のタイプである「F2A-3」は降着装置のトラブルに見舞われたようなので、そっちと混ざっているのかも。

まぁ、ネットが使えない環境なので、そこまで細かい事は調べようがないわな。



・「船が沈んで乗る船が無い」という状況は想定外

もしザバック辺境伯のガレー船が大公のガレー船と戦ったら、衝角で突かれて沈み、予想外の展開にパニックになった事であろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ