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模型戦記  作者: BEL
第5章 王国の混乱
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第31話 おっさんズとファンタジー中世騎士団との戦い その4

 今回の戦いでは大英達は航空基地で指揮を執っていた。

基地に建てられた小屋には、大英・秋津・ゴート・ビステルそしてリディアとパルティアという神獣騎士隊の面々と賓客のマリエルだけでなく、第3騎士団団長のアラゴン、ザバックから来た連絡員そして執政官までもが集まっていた。


 まぁ、主力が航空隊だから、城で指揮を執るよりこっちのほうが便利なのですよ。

なお、小屋に隣接する形で作られた石造りの頑丈な台があり、そこにスロープを介して指揮車であるM577が登ってきている。

小屋の屋上には出入り口があり、階段でM577と行き来できるようになっている。


 元々のイメージとしては、小屋の上にM577を置けば小屋や格納庫が邪魔にならないし、高さもあって見通しも良いから好ましいという事だが、頭の上に装甲車が鎮座しているのは精神衛生に宜しくないので、小屋は隣接する形になった。


 航空隊が侵攻軍を撃破している様子は、随時観測をしているOV-10AからM577へ報告が届き、それはすぐ階下の会議室に届けられた。

そんな中、迎撃作戦とは別の動きをする航空機があった。

先代宰相の領地、ヌヌー伯領の状況を確認するため、93式中間練習機を派遣していた。


 この機体は複座で風防も前だけという特性から、タブレットを使った写真偵察機として重用されているのである。

今朝も燃料補給を行い、飛び立っていった。


 街道沿いにヌヌー伯領まで飛び、ヌヌー伯領への道は封鎖されているものの、封鎖している騎士団は進軍せず、特に戦いは発生していない様子を確認した93中練は、Uターンして帰路につく。

帰りは海岸沿いに飛んだ。

行きと帰りで同じところを飛ぶより、違うところを飛んだ方が良いという大英の指示である。

そして、その指示が功を奏した。



「なんだ、あれは……」



 93中練の後席に座る航空兵が、海上を南下する船団を見つけた。

上空から見ると小さな棒の集まりだが、双眼鏡で見れば船の様である。



「おい、高度を下げろ、あの船団を調べたい」


「へいへーい」



 高度3000フィート(約900メートル)から、1200フィート(約360メートル)まで一気に高度を落とす。

船上では、93中練に気づいた者たちが右往左往している。

そして、タブレットを取り出して船団を撮影し、再び高度を上げて帰投した。



 基地ではOV-10Aと前線の戦車隊からの報告を受け、戦勝気分となっていた。

帰投した航空兵は直ぐにタブレットを持って会議室へと走る。

そして、その報告は戦勝気分をかき消す事となる。



「閣下、緊急の報告がございます!」



 無線を積んでいないという、偵察機にあるまじき性能なので、帰ってくるまで連絡出来ないのだ。

大英達は撮影してきたという写真を見る。

そこには4隻の大きめの帆を持つ船と20隻以上の小型の櫂船が写っていた。



「これは、帆船とガレー船か?」


「だな」


「これが南下しているのか。 どれくらいでザバック沖に現れる?」



 大英に問われた航空兵は難しい顔をしつつ答える。



「余りに速度が遅いのと、きちんとした測量をしていないため概算となりますが、12時間から24時間程度ではないでしょうか」



 帆船は風の影響で速度が変わるが、手漕ぎのガレー船と艦隊を組んでいる以上突出する事は無いだろう。

艦隊を維持すべく速度を調整すると思われる。

大英はザバック辺境伯領から来ている連絡員に聞く。



「こういった船団がやって来る事はよくある事でしょうか」


「いえ、この絵に描かれているような船団が来た事はありません。 大抵は1隻、多くても4隻程度の船団しか見た事はありません」


「となると、やっぱ敵かな」


「この時期この行動だからな、敵じゃないのか」



 秋津はもう敵認定である。



「艦隊があれば臨検すれば良い話なんだが」



 流石に1/144の艦艇キットに持ち合わせは無い。

世の中には1/35のボートなんてものもあるが、彼は持っていない。

ザバック辺境伯の水軍はもちろんあるのだが。



「ザバック卿の水軍でやってきた理由を問いただす事は出来ませんか」


「それは無理です、全船出陣しても、こちらの方が寡兵です」



 アラゴンの問いに、連絡員は「とんでもない」という表情で答える。

敵意が無いなら問題ないが、侵攻軍であれば、戦闘になり、おそらく殲滅される。

敵意の有無を確認するために、水軍一つを犠牲には出来ない。


 結局のところ、空から見ただけでは詳細は判らない。

戦時中だからと言って、向かって来る者を誰彼構わず攻撃していたのでは問題であろう。

何千人の大軍勢とかなら、遠くから見ただけで敵軍だと判るが、大規模とはいえ軍用艦と民間船に見た目で違いが無い時代である。

問答無用で攻撃する訳にもいかないと言うのが、大英の結論であった。



「しょうがない、1機新しい奴を用意しよう」



 そして大英は秋津に後を任せると、ドイツ兵が運転するサイドカーに乗って自宅まで戻る。



「コレだな」



 二階の部屋で積みあがっている中から小さな箱を2つ取ると、工具箱と共に直ちに航空基地に戻る。



「何もないと思うが、何かあったか」


「いや、何もない」



 大英の問いに秋津が答える。

そして今度は逆に秋津の問いに大英が答えた。



「何持って来た?」


「コレだ」



 それはいわゆる食玩の箱。

2つの箱は各々

「M-toys 1/144 FLOATPLANE COLLECTION 零式観測機一一型」

「M-toys 1/144 PLANE KIT COLLECTION 15 零式観測機11型」

であった。



「おお、水上機か」


「これから、話を聞く事も出来るし、ヤバくなったら逃げられる」


「なるほどな」


「ヘリも考えたけど、アレうるさいから会話にならんだろう。 その点、水上機なら近くで着水すれば静かになる」



 実際にはエンジンを止める訳にもいかないだろうが、アイドリング程度ならヘリよりはずっと静かだろう。

あと、飛行艇と違って凪いだ海で無いと降りられないが、外洋航行能力の無いガレー船がやって来るほど静かな海なら、問題なかろう。

なお、飛行艇の食玩もあるのだが、結構工数がかかるので今回はパスする事とした。

というか、1/144の大型機は流石に召喚負荷が高すぎる。


 早速FLOATPLANE COLLECTION の零観の組み立てに取り掛かる大英。

この食玩、比較的初期のものなので、デカールは無い。 塗装もマーキングも全て最初から完了している。

なので、組みあがれば完成である。


であるのだが。



「うーん、入らん」



 驚くべきことに組み立てるべきパーツは機体とエンジン(のカウリングとプロペラ)の2つだけ。

既に主翼もフロートも機体に付いた組み立て済みの状態でパッケージに入っている。

だが、その機首にカウリングが入らない。


 接着剤を使わない食玩ではよくある事なのだが、パーツの合いが厳しすぎるのだ。


 工具箱からやすりを取り出し、削って入るようにする。

思いの外面倒であった。

一応ダメだった時の保険として、「PLANE KIT COLLECTION 15」の零観も持ってきたが、そちらは普通に「塗装済みキット」なので、工数はかなりかかる。


 苦闘の末完成した所で、近くにある湖へ向かう事とした。

だって水上機ですよ。 砂漠の飛行場で召喚しても、飛べませぬ。


 大英は指揮所を秋津に任せ、道案内のビステルとリディアとパルティア、それにマリエルを連れ、ジープとサイドカーに分乗し湖へと向かう。



*****



 海上を進む艦隊。

魔導士の乗る帆船が4隻、大公配下のガレー船が12隻。他に臨海諸侯から出させたガレー船が12隻あった。

ガレー船は人力で航行しているので、24時間走り続ける事は出来ない。

日が暮れる前に港に入り、日の出と共に出航。 時折諸侯の船が加わり、この艦隊が構成された。

本当は陸から進軍する大軍とタイミングを合わせて進軍したかったのだが、まともな測量も出来ないのだから、連携するなど無理な話である。

そして、彼らは陸から進軍した大兵団が解散・撤退した事を知らない。


 旗艦となる帆船では、魔導士と船長が話をしている。



「先ほどのは神鳥なのだろう。 何もせずに飛び去ってくれたが、また現れるかもしれん」


「魔導士殿は心配症だな、我らの大船団を見て恐れをなしたにちげーねぇでしょ」


「そうであれば良いのだが、あんなに高くては魔法も届かない」


「そうなんすか、でも向こうも手出し出来ねぇなら、気にする事も無いんじゃねーの」


「そうだな、やる気なら近づいてくるだろうから、落としてくれましょう」


「そーそーその意気でさぁ」



 艦隊指揮官という概念が無いため、「船団」の指揮は形式上最も身分の高い魔導士が執っている。

だが、魔導士は海戦の事は何もわからないので、実際の行動は船長達に任されていた。

とはいえ、水軍同士の海戦など誰もが未経験。

なので、事実上指揮官が居ない状態という事を、誰も問題視していないのであった。



*****



 流石に車で移動するとあまり時間はかからない。

大英達は15分ほどで湖に到着し、サイドカーを降りたビステルが手を広げ紹介する。



「ここがタリス湖です」


「これは小さい」


「そうですか」



 長い方でも数百メートル程度しかない楕円形の小さな湖。

面積で言えば、小さすぎて道民以外には知られていないウトナイ湖の1/5程度だろうか。

まぁ、小さいと言っても、水上機の運用が出来るサイズであれば問題ない。


 大英は湖の岸に零観と牽引用台座を分けて置く。

一発で台座も召喚するが、台座に乗った状態で出現されても降ろせないので、台座は岸に、本体は水上に現れるように調整出来るか問う。



「大丈夫、まーかせて」



 リディアは笑いながら応える。

そうして、無事召喚は完了。

座礁しない程度に離れた場所に零式観測機一一型が出現した。

台座は岸に現れている。

一括で召喚したが、両者は20メートルは離れた位置に出現していた。



「なるほど、このような微妙な調整も出来るのですね」



 マリエルは感心している。


 そして、大英が飛行兵にミッションを伝えると、零観は船団に向かって飛び立つのであった。

用語集


・小さな棒

床に置いた1/700の内火艇を立った状態で見ると、イメージが近いかと。



・偵察機にあるまじき性能

いや、練習機だってば。



・1/35のボート

アメリカ海軍 PBR31Mk.2 ピバーなるものがミヤタ模型より出ている。



・見た目で違いが無い

実際には大公のガレー船には衝角が付いているから、陸に上げれば違いは見える。

とはいえ、普段の荷物輸送にも使っているから、現近代の軍艦と同じ扱いは難しいだろう。

近世のガレオン船でさえ普通の商船が武装しているからねぇ。



・塗装もマーキングも全て最初から完了している

この FLOATPLANE COLLECTION は後のパート2と違い、箱に何のキットなのか明記されている。

ただ、2種類あるバリエーションのどちらかは判らない。

零観なら、濃緑の神川丸搭載機と、明灰白色の第19飛行隊の2つだ。

デカールが無いので、ダブると全く同一のものが被る事になる。

後のシリーズだとデカールでもバリエーションが出せるため、完全に被る可能性は低くなっているが、制作の手間は増えた。



・相当凪いだ海で無いと降りられない

外洋では母艦が円を描いて航行し、波を抑えた着水に適した海面を作り出すという話である。



・飛行艇の食玩

二式大型飛行艇とか、九七式飛行艇とか、PBY-5A CATARINA とか、サンダーランドとか。

一番小さいのはMBR-2bisとかいうソ連の飛行艇。

実は飛行艇のシリーズでは無く大型機のシリーズだったりする。



・苦闘の末完成

備えあれば憂いなし。

つまり、備えなければ憂いあり。

事前に制作しておけば、時間に追われる事も無く楽だったのにね。

まぁ、大英君にとっては、載せる艦も無いのに艦載機を作る気にならなかったという話である。

見通しが甘い。 カクカクの忍者に言われるぞ「修行が足りん」と。



・解散・撤退した事を知らない

中世までの海軍では普通の事。

本国同士が講和しても、連絡が付かないから遠くの海域で海戦が起きるなんてのは当たり前。



・ウトナイ湖

北海道苫小牧市にある湖。

詳細は検索するとよろしい。

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