第31話 おっさんズとファンタジー中世騎士団との戦い その3
戦場上空で状況を監視するOV-10A。
戦果を確認し、各機に対して指示を出していた。
なお、今回は王都襲撃時と違い、後席には普通に機上前線航空管制官が乗っている。
敵司令官に対する爆撃は目標から東南東に約20メートル程外れた位置に着弾。
隠れる場所も無い平原であるため、本来であれば攻撃は有効と判定されるが、至近距離に魔導士が居た事から、詳細な確認が必要と判断し、P-47Dに確認と不十分な際の機銃掃射による再攻撃が指示された。
P-47Dを操縦するジョンソン大尉は高度を下げつつ、破壊された輿の付近を捜索する。
*****
退避中に爆風を受けたハイシャルタットであるが、転んだだけで大した怪我などは無かった。
転んだ際に頭も打ったので、現代世界であれば精密検査を勧めるべきところだが、とりあえず視界にも異常は無いし、頭痛もしないから、急性の障害は無いのだろう。
出血しているから問題は少ない可能性もある。
後ろを振り返ってみると、煙が立ち上り、多くの騎士や兵が倒れている。
ハイシャルタットの様に防御魔法を使えない彼らは、倒れたまま動かない。
少し離れると、倒れた騎士や兵達がうめき声をあげている。
騎士は兵より優れた防具を身に着けていたが、爆発の際に落馬したため、結局雑兵同様すぐには動けない状態になっていた。
さらに離れた所では、パニック状態となった騎士や兵が逃げ惑っていた。
その中、爆心の近くで動く物を見かける。
見れば彼の部下である王立近衛魔法団の魔導士だ。
防御魔法を展開したため、なんとか命を取り留めたようだ。
ハイシャルタットは駆け寄る。
「しっかりしろ、大丈夫か」
「う……あ……だん……団長」
「ああ、私だ」
周りを見ると生きているのは部下の魔導士3名だけ。
少し離れた所にウリューアン卿が倒れているのが見えるが、動く様子はない。
気を失っているのか、亡くなられているのか。
「お前たちは休んでいろ」
そう告げると、ウリューアン卿に駆け寄って生死を確認しようとした所に、爆音が近づいてきた。
音のするほうを見ると、空駆ける神鳥が向かってくるのが見える。
「おのれ、神鳥」
P-47は目標近辺に動く者を確認し、8門の12.7mm機銃を発砲する。
「なっ、馬鹿な」
ハイシャルタットの想像よりも遥か遠方から火を吹く神鳥。
攻撃するには近づいてくる必要がある。 だから近づいたところを雷の魔法で落とせばよい。
彼はその想定の誤りに気付く。
実際に敵を見て作戦を立てたのならともかく、彼は王都で戦闘機とは戦っていない。
部下の話と被害の様子からの想像で考案した戦法は、机上の空論だったのだ。
彼はとっさに防御魔法を展開する。
「うおおおおおお」
P-47の機銃弾はハイシャルタットの防御魔法を突き抜ける。
*****
ジョンソン大尉はOV-10Aに報告する。
「ラッキー1よりホークリーダー、目標に近接する魔導士を確認したのでこれを攻撃し、沈黙させた。 目標にも命中し、反応なし。 目標は死亡と推定。 以上」
「ホークリーダー了解」
OV-10Aは航空基地のM577に「敵司令官死亡、追加爆撃機不要」を伝えた。
*****
総指揮官と上級魔導士を失ったとはいえ、まだ6千人以上の兵力を保持している。
先陣を任されていた騎士団は爆撃により大きな被害を受け、指揮統制が崩壊して混乱状態となったが、それは全体からすれば少数であった。
連携は失われたか、個々の騎士団・兵団単位では、直接爆撃や銃撃を受けていない所では統率は失われていない。
「どうします、団長」
「止むを得ん、撤退だ」
多くの騎士団でこのような会話が為され、諸侯が派遣した騎士団は各々独自の判断で撤退を決めていく。
彼らはウリューアンの部下ではなく、王命によって参加した単なる協力者でしかない。
撤退を決める事は、王命を無視すること。 王に逆らえば懲罰を受けるかもしれない。
だが、彼らは見た。
近代兵器を知らずとも、大きな爆炎と立ち上る煙は彼らに太刀打ちなどできないという絶望を与え、戦意を喪失させていた。
王とその兵よりも「強力な存在」を見せつけられたのである。
特に、スブリサの使節団が王都に行く際に通過した経路上の諸侯は、「神獣」の事を知っており、「神に逆らう」事が何を引き起こすのかを認識したのだ。
しかし、全ての騎士団・兵団が理性的に判断した訳ではない。
一部の者たちは南下を加速する。
「敵は後ろの兵達に引き寄せられている。 今が好機だ。 進めー」
「おのれ、こんな被害を出したまま、おめおめ帰れるか!」
「せめて敵地に踏み込まねば、死んでいった者に合わせる顔が無い」
「よく見ろ、倒された味方はほんの一部だ、攻撃の派手さに惑わされるな! 神獣恐れるに能わず」
「敵が逃げていくぞ、我らの大軍相手には敵わないと悟ったに違いない!」
航空隊が弾切れでその攻撃が一段落し、爆撃機が撤収した事で、勘違いをしてしまう者も現れたのだ。
騎乗している騎士達は、サポートの雑兵を置いてきぼりにして走り出す。
数百人の騎乗兵は、砂漠に突入し、スブリサとの境へと突き進む。
南下する騎士達の姿は、境界を監視するタマン辺境伯の兵にも視認された。
「おい、あいつら一体どうする気だ」
「突撃するようだな。 まぁなんとかなるんじゃないか。 スブリサ兵はほとんど見えない。 神獣が少しいるようだが、僅か数体では防ぎきれないだろう」
「そうだな」
空爆による大損害については、彼らは認識していない。
遠くから聞こえる聞き慣れない爆音だけでは、何か起きたかは推測できないのであった。
そして、事態は彼らの想像を超えた展開を見せるのであった。
神獣の見えるあたりから、火を吹く物体が空に向かって上がっていく。
「な、なんだアレは……」
それは、はるか彼方に居る騎士達に向かって行く。
もし、タマン辺境伯の兵が経路上に居たなら、頭上を飛び越していくように見えた事だろう。
6発のロケット弾は騎士達の集団へと向かって行く。
高台から監視していたタマン辺境伯の兵と違い、彼らには発射する様子は見えていない。
「おい、空を見ろ、何か向かって来るぞ」
「新手か! 皆の者、気を付けよ!」
だが、それは「新手」と呼ぶのは適切では無いだろう。
その6つの飛翔体は攻撃をして来るのではなく、そのまま騎士達の頭上に降り注ぐ。
「うおっ、突撃して来るぞ! 迎え撃て!」
騎士達は馬を降り、剣を抜く。
飛翔体が着地し、獣か人となって向かってくると思ったようだ。
空中では比較する物が無いため、サイズ感が判りにくい。 鳥とは比較にならない速度で飛んでいたのも誤認を助長したかもしれない。
直径15センチしかないのに気づければ、こんな想像はしなかったかもしれない。
そして、そんな彼らの想像を裏切り、ロケット弾は炸裂する。
数名の騎士、数体の馬が即死し、20名を超える騎士達が大怪我を負う。
「ば、ばかな、今のは魔法だったのか」
「見えないほど遠くから放つと言うのか」
「ええい、総員騎乗! 敵は魔導士だ、突撃して斬り伏せよ!」
7キロもの彼方(彼らは距離を測れないが、とりあえず発射する様子が見えないほど遠く)からの攻撃なのだから、冷静に考えれば逃げたほうが良いと思うのだが、もはや正常な思考は出来ないようだ。
そして、1キロちょっと前進し、小高い丘に達した彼らは、遂にスブリサの戦力を目にする。
「あれか、あんな少数の兵で我らを止められると思うたか」
6キロ弱という距離のため、戦車と言えども砂粒のように小さく見える。
それでも、周囲に人員が余り居ない事は判る。
現代人と違い彼らの視力は高いので、数百の兵が居ればとりあえず判るだろう。
その直後、彼らはロケット弾が発射される様を目にする。
「またか、総員下馬! 魔法攻撃に備えよ!」
「いや、敵の姿は見えているのだ! 距離を詰めよ! 急ぎ突撃すべきだ!」
指揮は混乱し、統率は乱れる。
そこへ30cmの大型ロケット弾4発が着弾する。
数は減ったが、炸薬量が違う。
今度は伏せた防御姿勢をする者や、距離を取るべく散開した者も居たにもかかわらず、その被害は拡大した。
隠れる所のない場所故、榴弾の威力はそのまま発揮される。
死者重軽症者と、自身は無事でも馬を失った者の累計は百名を超えた。
それでも、彼らの突撃は止まらない。
今度は見えない所からの攻撃ではない。 敵の姿を確認した今、憎しみをぶつけねば収まらないのかも知れない。
そんな彼らに、15cmのロケット弾6発による第2次攻撃が行われる。
それでも、彼らは止まらない。
どうやら、この程度では彼らの士気は挫けないようだ。
だが、距離が4キロまで接近した時、彼らは恐ろしい物を目にする。
60発ものロケット弾が立て続けに発射されたのである。
これまでのような、目で見て数えられる数ではない。
実は1発のサイズはこれまでより小さい(4.5インチ)なのだが、流石に数が多い。
それは正に鉄の雨となり彼らを襲う。
被害は倍増し、彼らの戦意も失われた。
左右に逃げる者、その場でひれ伏し許しを請う者、後方へと逃げ去る者。
もはや騎士団としての体は成さなくなっており、それは双眼鏡で戦果を確認する兵も理解した。
*****
度重なるネーベルヴェルファーによる攻撃に続き、T34カリオペ M8を搭載するM4シャーマンのロケット斉射により、敵の進軍は止まった。
こうして、スブリサ討伐のために街道を進んできた兵団は、その目的を達さぬまま、敗れ去った。
だが、戦いはこれで終わってはいなかった。
ヌヌー伯領の偵察より戻った93中練から、予想していなかった報告が届いたのである。
用語集
・出血しているから問題は少ない可能性もある。
外で出血しているから、中では出血していない……などどいう事は言えないが、とりあえず外の出血は重大事態ではない。
逆に頭蓋骨内部で出血すると、危険である。 大量ならくも膜下出血なんかと同様で、すぐ命にかかわる。
僅かづつの場合、日が経つにつれ脳が圧迫される。
頭痛や吐き気が無くても、数日たってから急に麻痺が出たり、認知障害をすっ飛ばしていきなり認知症が出たら、脳を検査すべき。
とはいえ、年配の人が心配する症状なので、まだ若いハイシャルタットは大丈夫であろう。
……心配する意味があるかどうかは別として。