「独り唄 『ひとりよがり』」
「これは、わたしの"独り善がり"なんだ」
彼女はそういって、寂しさを漂わせた笑みを僕に向けた。
"独り善がり"。
僕だってそうさ。
あの瞬間からそれはもう始まっていたんだ。
退屈な授業中、寝たフリをしながら隣に座る君を見ていた。
窓の向こうを見つめていた君が、たった一粒、涙を流した理由を知りたいと願った日から、それは始まっていたんだ。
「……どうしたの?」
そう聞くと、彼女は笑顔で答えた。
「なんでもないよ」
彼女の頬をつたう雫は陽の光に反射していて、宝石のように輝いて見えた。
あるとき、僕は問いかけた。
「僕たちは、どうして泣きたいときに笑って、笑いたいときに泣いてしまうんだろうね?」
彼女は答えた。
「欠陥品なのだよ。私たちの心と身体の接着剤はきっと安物が使われているに違いない」
ぼくは笑った。
「きっと僕たちピエロが向いてるね。今度の放課後、玉乗りの練習しない?」
金曜日の帰り道。
君と僕だけの世界。
夕焼け空。
電柱のカラス。
当たりの出ない自動販売機。
季節外れのホットドリンク。
手を振って別れた後に決まってぼくは、あの日彼女が流していた涙の理由を頭のなかで模索する。
本当の答えなんて見つからないことを知りながら。
見つかったとしても、それは僕の独り善がりだと知りながら。
あるとき、僕は彼女に想いを告げた。
一人で抱えきれなくなった思いを、貴女に告げた。
震えた僕の声帯から放たれた3文字を、君は3文字で受け止めた。
「ごめん」
ペコリと頭を下げた彼女は、憂いを僅かに漂わせた笑顔で言った。
「私ね、ある人に恋をして居るんだ。ずっとずっと昔から。だから、キミの気持ちには応えられない」
夕焼け空に照らされた貴女の笑顔は、あの日教室で見たモノと全く同じだった。
「これは……この感情は、私の"独り善がり"なんだけどね」
ぼくはあの日からキミの"独り"に恋をした。
貴女と同じく、"独り善がり"の感情を携えて……
「応援してるよ」
僕は、今までで一番の笑顔で答えた。
友人の作った曲を聴きながら書きました。
聴きながら書いただけなので、作者のイメージとは離れているかもしれません。
よろしければ、こちらもどうぞ。
かつ『独り歌』 https://youtu.be/o10wnH51eLw