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第二章4
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佑子は自転車を漕ぎながら携帯電話を操作した。違反しているのはわかっていたが致し方ない。
だが、何度かけてもさっきかけた時以上に繋がらなかった。
電池の残量が充分ありアンテナも三本立っているのに発信音すらしない。110番するためにやむを得なかったとはいえ通信を切ったことを悔やんだ。
しかし、いったい何が原因なのか。警察や健夫とはいとも簡単に繋がったというのに。
佑子の中で苛立ちが募る。それは勢いよくペダルを踏むエネルギーとなった。
電話の向こうで聞き覚えのある風の音がし始めた。
思わず自転車を止め、その音に全神経を集中する。音はすぐに止み、がりがりという激しいノイズの中で弱々しい呼出音が鳴り始める。
文也に繋がった証しだと佑子の心は躍った。