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第三章3-3

 どこもかしこも血で染まり、自らも死人と区別がつかないほど全身が真っ赤に濡れている。

「おかあさぁぁん。おかあさぁぁん」

 文也は泣きながら電話で呼び続けていたが、ひっと息を飲んだ。涙に霞む視線の先に死人たちに混じって男が立っていることに気付いたのだ。

 右手には鉈、左手には佐野の生首をぶら下げていた。佐野の目は狂った猿のようにきょろきょろと辺りを見廻している。

 返り血のこびりついた顔を歪めて笑うと男は文也に生首を放り投げた。

 とっさにそれを避け、男を睨みつけた文也は事務室に走り込んだ。蠢いている死体のパーツを蹴散らし、受付カウンターの壁に設置されている鍵掛から屋上の鍵を取ると、後ろから近付いてくる死人たちを突き倒して廊下に走り出た。

 目前に来ていた男の鉈が音を立てて鼻先をかすめる。それに躊躇することなく文也は階段に向かって走った。

 逃げられるだけ逃げるんだ。

 上から落ちながら下りてくる死人たちを踏み越えて階段を駆け上り屋上を目指す。頬を流れていた涙はもう乾いていた。

 後ろからは死人たちと共に男が階段を上がって来る。文也の心を弄ぶようにゆっくりと確実に一歩一歩前進してきた。

 ここから出られるという確証はないが、とにかく屋上に行くことだけを考え、三階の階段ホールまで駆け上がる。

 血の床を内臓を引きずりながら這う上半身だけの死人が手を伸ばしてきた。上手く飛び越えたつもりだったが、足首をつかまれ文也は転倒した。そいつが腹の上に這い上がってきて体を起こすことができない。

 すぐそばまで男が迫っている。鉈を持つ手の甲が盛り上がるのが見えた。

 死人をなんとか振り落として立ち上がった文也は屋上への階段を上がろうとした。

 だが、再び足首をつかまれ動けなくなっている間に、死人たちに取り囲まれた。その中心に立つ男が凝った血のような赤い目を細めて嗤った。


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