第三章3-2
事務室の前では割れた額から赤い粘液を垂らした河津が立ち上がって文也を待ち構えていた。
胸から腹まで縦に裂かれ腸を引き摺りながら塚田が事務室から出て来る。胴だけでなく顔も斜めに打ち砕かれ、左の眼球がぶら下がっていた。その背後に宮島と同じ首のない死体がついてくる。ネクタイの柄が佐野だと示していた。
文也は力の限り河津を突き飛ばした。
仰向けに倒れた河津を踏み越えて塚田がよろよろと両腕を伸ばす。それも思いきり突き飛ばすと真後ろにいた首のない佐野とともに血溜まりの中に倒れ込んだ。
文也は顔に跳ねた内臓の汁を手で拭った。
玄関ホールは死人たちであふれていた。立っているものは床を這うものを踏みつけながら所在なげに歩き回っていたが、文也に気付くと一斉に進路を揃えた。
その中に真奈香がいた。体の真ん中、頭の先から下腹部まで無惨な縦の切れ目が入っている。濁った左右の瞳がそれぞれ違うほうを向いていたが、文也を見ると焦点を合わせた。
一歩二歩と真奈香が近づいてくる。その度、分断された箇所がずれ、目の前に来た時には左右真っ二つに割れた。粘った音を立てて内臓が床に散らばる。真奈香の左右ばらばらの体は時計の針のように床をぐるぐる回り、それ以上こっちに近付いてくることはなかったが、それぞれの目だけは文也を見つめ続けていた。
押し寄せる死人を突き飛ばし、母の姿を期待して玄関から外を確かめたが、母どころか車も人通りもまったく見えず、さっきと何一つ変わっていなかった。
携帯電話を取り出し呼びかけても、ノイズばかりで母の声は聞こえない。
血と脂の臭いを撒き散らしながら次々と迫ってくる死人はいくら突き飛ばしてもきりがなかった。
ただ、映画で見るようなゾンビとは違い、噛みついて来ないのだけが救いだ。
でもこの先どうしていいのかさっぱりわからない。




