第三章3-1
3
出口を探せと言ったまま母の声は聞こえなくなったが、通信が途切れたわけではなさそうだ。
文也は携帯を耳に当てたまま、もう一度ドアが開かないか試してみたがやはり無駄だった。外の状況も確認してみたが、さっきと変らずパトカーが来る様子もない。
電話が繋がっているだけでも心強いが、本当に母は来られるのだろうかと心配になった。
はっとあることに気付き、文也は顔を上げた。
ドアが開かないってことは、あの男もまだこの中にいるんじゃないか?
その時、目の端で何かが動いたように見え、慌てて振り返った。
こんなところで見つかれば逃げることもできないし、隠れることもできない。全身の皮膚が粟立つ。
約束を破ったことが今になって悔やまれた。
だが、男の姿はなかった。何が動いたように見えたのかわからなかったが、文也はほっとして、母の言った通り出口を探そうと廊下を戻り始めた。
携帯に話しかけてもノイズばかりで母の声はしない。仕方なく繋げたままの携帯をポケットに入れ、死体につまずかないよう注意しながら一つ一つ窓の開閉を確認していく。
だが、クレセント錠を開けていても一ミリの隙間さえ開かなかった。
四年クラスの前を通り過ぎる。中では乱雑に転がる机や椅子と一緒にたくさんの死体が折り重なっていた。
宮島があの中にいるかもしれないが確かめる勇気もなく、そのまま五年クラスの前を過ぎ、廊下の突き当りまで来た。
非常口も期待はしていなかったが、とりあえずノブのつまみを開錠して回してみる。やはり開かず、きっと二階の非常口も同じだろうと思った。
なす術もなくとぼとぼと四年クラスの前まで戻っていくと入口に宮島が立っていた。
全身が血で真っ赤に染まっているが確かに宮島だ。
助かっていたんだ。
ともに逃げる仲間がいたことに喜び、文也の目に涙が浮かんだ。
「宮島――」
だが、呼びかけても親友はじっと突っ立ったままだ。
何かがおかしいと感じた瞬間、宮島の首がゆっくりと胴体から離れて床に落ちた。
首のない胴体が手を伸ばし、文也のほうに近づいてくる。
これは全部夢だ。だって、死んだものが動くはずないじゃないか――そう、僕は今教室で居眠りしてるんだ。で、もうすぐ先生に起こされてこっぴどく叱られて。
きっとそうだ。そうに違いない。なーんだ。はじめっから全部夢だったんだ。
笑顔を浮かべながら文也は靴越しに触れる何かを感じてうつむいた。芋虫のように蠢く一本の手指が血の付いたスニーカーの先を打診している。
これも夢だよね。
微笑んだままぼんやりと見つめていた文也だったが、靴をよじ登り足首に触れてきた指の感触にぞっとして思わず脚を振り上げた。
高く飛んだ指が音を立てて血溜まりに落ちる。
文也の意識がはっきりと戻った。
これは夢じゃないっ――
目の前にまで迫っていた首のない宮島を突き飛ばし、文也は玄関に向かって走った。
廊下に転がっていた死体も動き出していた。歩く死体に這う死体。腹から飛び出した内臓までもが意思を持つ生き物のように蠢き、すべて文也のほうへと進路を向けている。




