第三章1
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薄暗い蛍光灯が事務室前の廊下をぼんやりと照らしている。
なんでこんなに暗いんだろう。
折り重なる死体や散らばる腕や脚などにつまずかないよう注意しながら文也は玄関に向かって廊下を進んだ。
さっきから数分しか経っていないが、もう何時間も経ったような気がした。感覚が麻痺し無残な死体もむせ返る血生臭さも慣れたと思ったが、血の海にぶちまけられた内臓を見ると吐き気を催した。
玄関ホールに着いた。ガラス扉にはぼんやりとした蛍光灯に照らされた死体の山と文也が映っていた。自分だと信じられないほどやつれた顔は、そこら中に転がる死体となんら変らないように思った。
電源が落とされているのか、自動ドアは近づいても開かなかった。手動で開けてみようとしたがびくともしない。
文也は外の様子を窺うためにガラスに張り付いた。
信号機も街灯もネオンもなぜか薄暗く、立ち並ぶビルやマンションの窓には明かりすら灯っていない。深夜でも交通量のある大通りだというのに一台の車も走っていないし、通行人もおらず、助けを求めようと思っていたが当てが外れた。
静かだと感じた時は男の気配ばかりに意識を集中していたのでその違和感に気付かなかったが、これだったんだ。
外でも何かが起こっているのか。お母さんは来られるのだろうか。
文也は不安でたまらなかったが、母との電話が繋がったことに希望を持った。
でも、あれからかかってこない。
その時ポケットの中で携帯電話が震えた。思わず声を上げそうになるのを耐え、血で濡れた手をズボンの尻で拭ってから電話に出た。




