覚醒
沈みゆく太陽が、
閑散とした教室の哀愁を際立てる。
銀に染まった髪が太陽の光でオレンジ色に彩られていた。
窓際で佇むその少年の後方に、金髪の少年が立ち尽くしていた。
少年の手はカタカタと震えている。
夏の風に攫われて煌めく金髪を呆然と見つめて。
蜩の鳴き声も遠く聞こえ、
代わりにカラスが耳障りな鳴き声を発する。
まるで、
俺を嘲笑うように。
一際大きく鳴いたカラスが、
天と窓際の青年の首を繋ぐ赤い糸を咥えて飛び去る。
その瞬間、細い声が耳元で囁いた。
「君だけは許さないよ」
パチンと目を開く。
じっとり汗をかいた体を起こして、荒くなった呼吸を整える。カーテンの隙間から外を覗いて、煌々と照らす月を確認する。そのタイミングで、携帯電話がけたたましく目覚めの着信を告げる。出れば、それは全く知らない男の冷たく低い声だった。
「いつまで寝てやがるクソガキ。早く目を覚ませ」
その瞬間、視界がぐらりと眩んだと思えば、床が崩れて体が落ちる。瞬間、けたたましい汽笛の音と、目を開けていられないほどの眩しい光。
次に目を開けた時には、知らない地面に横たわっていた。
「やっと起きたかクズ」
いきなり声をかけてきた神父を睨みつけると、金髪金眼の神父は気怠げに目を逸らす。
「なあ、これは現実か」
額の冷や汗を拭いながら、神父にそう問いかける。
この短時間で三回も世界が変わるような感覚を覚え、そのせいで全く現実味がなかった為だ。だが、神父は何も答えない。ただ、こちらを見下ろしているだけだ。
「お前がそう思いたいのならそうだろう。だが、お前はお前が誰か知っている。だから、もうここに来るのは最後にしろ」
感情のない声でまるで台本でも読むかのようにそう言うと、神父は俺の額に手を当てる。
「考えろ。己の罪を」
神父がそう告げた途端、激しい頭痛に襲われる。
脳が焼き切れそうなぐらい熱くなり、血液がグツグツと煮えるようで。
また、同じ感覚に襲われながら、瞼を閉じた。
「嶺菓。おい、起きろ。嶺菓」
微睡から覚醒すると茶髪の青年が苛立った面持ちでこちらを見つめている。
「やっと起きたか……」
「悪ぃティグー。寝落ちてたらしい」
「いつもの夢か?」
「……いや、」
あれは夢なのか……?
「まあいい、とりあえず、俺達の仕事をしないと」
黙って頷く。
「じゃあ、とっとと片付けちまおうぜ」
ティグーは言うなり立ち上がる。
「……大丈夫か?」
「おう、大丈夫」
「そうか、じゃあポイントで会おう」
ティグーは手に持ったスマートフォンを指差すと、それを上着のポケットに入れて外へ出ていく。まだぼんやりしている頭を叩いて覚まさせる。一度伸びをして、ゆっくり立ち上がる。
「他人にうたた寝邪魔されるとまだ寝てたくなるな……」
拳銃に銃弾が入ってることを確認して、外へ出る。スマホを取り出して、送られてきたメールに添付されているファイルから地図を表示した。
「さて、と……行くか」