再
漸く仕掛けの謎を解き、漸く追手を振り切って辿り着いた時には、
教祖は既にその扉を開けていた。
荒い息を吐きながら、必死に叫んで走る。
だが、数秒後にその体は幾本もの杭によって貫かれた。
痛みはなかったが、虚無が体を支配していく。
「ようこそ。絶望よ。これが我々の原典。『Baptisma《バプティスマ》』だよ」
黒いマントから生えるように手広げて、呪文を唱える。
ダメだ。それだけは……。
血だらけの手を伸ばしても、もう届かない。
声の代わりに吐き出されるのは、血液だけ。
教祖の詠唱に呼応するように、金で装飾された迷宮が形を変えていく。
何かを喚ぶ
何かを解放する
何かを……呼び覚ます
「絶望しろ絶望よ。私が希望だ。希望になるのだッ」
割れるように痛む頭に手をやり、壁に手をついてなんとか立つ。
「や、……めろ……」
「ククク……キミのその顔、本当に好きだよ」
独りでに捲られていく魔導書の光の中から、ソレは召喚された。
何千年の封印を。解き放つ。
『俺我を喚んだのは貴様か。黒鍵の教祖よ』
「これはこれは……憶えて頂いていたとは光栄の至」
「ククク……畏まらんでも善い。俺我は貴様と対等に、頽唐にこの世界を代えたいのだ」
青い光はやがて人の形をとると、徐々に美麗な悪魔へと変化する。
頭部には、片側は3本の水晶、もう片側は二本の角が絡まりあった角。
腰より長い、氷のように透き通る青白い髪。
隻眼の青い瞳。
ぽっかり穴を開けた片目は、そこから亀裂が入るように顔の半分を氷に変えている。
「……彼是が貴様の話していた神父か」
「嗚呼、何度も私の邪魔をした愚かな神父よ。託宣に身を投じ、愚かな神に愚かにも従っている可哀想な奴隷だ」
教祖が嗤う。酷い冷気に体が凍ってしまったように動かない。
……これが、冥王の力。
「ふん、余興にヤツから代えてやろう。屈辱的で本望的な来世を与えてやる」
「よかったな神父、貴様の新たな希望の始まりだ。貴様はやっと願い続けたものを手に入れるのだ」
言っている意味がわからない。何をするつもりなんだ。
第2関節から伸びる金の爪のような金具のついた手袋をした手が、こちらに向けられる。
「問おう。貴様はどんな罪を望む」
その手に持たれた林檎が堕ちる。
冥王の口が動いたあと、
視界は黒く塗り潰されて。
意識は暗い悪夢の中へと堕ちていった──