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みんな嘘じゃないですかせ先輩だって

作者: 鈴木美脳

 先輩昨日、私のこと「好き」って言いましたよね。

 帰ってからずっと私、考えてたんですけど。

 えっと、その「好き」ってつまり、「どのくらい」、好きですか?

 「本当に」。「本当に」、好きなんですか?


 もし私が、死んじゃう病気にかかっちゃったら。先輩。

 その病気を治すためなら、百円くらいは払ってくれますよね。

 でも、百万円だったらどうですか? 用意できたら、払えますか?

 一生かかっても払えない金額だったら、借金してでも、払ってくれますか?


 嘘なら答えてくれなくて、いいんです。

 優しい誤魔化しの言葉が聞きたいのではないのです。

 正味な本心、偽らない気持ちで答えてほしいんです。

 だって私、「好き」が「本当」か、確認したいだけだから。


 もし先輩が指一本差しだせば、私の命が助かるなら、指一本を捨てられますか?

 腕一本でもいけますか?

 両目だったらどうですか?

 私、変ですか? でも誤魔化さないで、はぐらかさないで答えてほしい。

 だって、「好き」って言ったの、先輩ですよね。


 私のためなら、死ねますか?

 もしいつか怪獣が襲ってきた時、私を守るためなら身を挺しますか?

 でも先のことなら何とでも言えますから。

 愛を証するために、今すぐここで死ねますか?

 カッターならお貸しできますし、首には太い血管があるらしいですよ。


 新聞で見たんですけど。雪の降る北の土地の話。

 武装解除すれば植民地。

 武装解除をしなければ、石油止められて国民飢え死に。

 世界って怖いですね、先輩。

 でもその話、私、ずっと前にも聞いたことがあるんです。


 習いませんでしたか? 一億玉砕。

 「本土決戦計画」。

 歴史って怖いですよね、先輩。

 でも私、その国には興味ないんです。

 昔の他人よりも、これからの自分が大切だから。


 でも、「一億玉砕」って、笑えなくないですか?

 昔の人達が言ったそれは、嘘でした。

 だって実際、一億が玉砕なんてしていませんから。

 だからそんな歴史は、嘲笑の的でしかないけれど。

 私、笑えないと思うんです。


 だって、百人助けるために自分だけ死ぬならば、それは肯定されうるのに。

 もし一億の死が、百億の命のためならどうですか?

 そんなことは起こりえない、って笑って忘れるなら。

 それって誤魔化しそのものじゃありませんか?


 もちろん私、歴史の話じゃなくて、仮定の話をしています。

 一億玉砕って先輩、それに正当な価値がありうる場合があるんですよ。

 例えば百億の命のための犠牲として、それで足りなきゃ百兆のために。

 でもだからって、一億玉砕なんてできるわけがないじゃないですか。


 だって、夫婦二人が、一つの理想のために心中するのだって、相当な決心ですよ。

 他人と心中なんて、大変です。

 疑心暗鬼で一杯で、合意形成に千年かかります。

 でも先輩、本当に私が「好き」なら、私のためには死んでくれますよね。

 「好き」って結局、そういうことなんですよ。


 じゃなきゃ、「嘘」なんですよ。

 違いますか?

 偽りの甘い言葉で、私を安く買おうとしたんじゃありませんか?

 「好き」じゃないのに「好き」なんて言って。

 何の覚悟もないくせに。

 めんどくさくなれば手の平返す気満々で。

 不運が舞い降りればトカゲのしっぽみたく切り捨てる気、満々で。

 騙せると思いましたか?

 それとも先輩。

 それとも、本当に、「私」のことが、「好き」ですか?


 もし私達が夫婦になって。

 一心同体になって、私達自身以上の何かを「好き」になった時。

 先輩その時、私と一緒に、「心中」、できますか?


 あるいはさらに、一億玉砕、それが正当な時には、それができますか?

 それが正当な時にもそれを肯定できない人が、それが仮に不当な時であれそれを否定してみせたとして、誤魔化し以上にはなりえない。

 先輩って、もし百億の命のためなら、一億玉砕、できる人ですか?

 できない人ですか?


 一億玉砕する覚悟もない人が、どうしたら私を愛せますか?

 どうせ自分の身体は一つだから、死ぬ覚悟は等量ですよね。

 私のために死ねる人なら、必要な時が来れば、天下のためにだって死ねる。

 天下のために死ねない人なら、私一人のためだって死ぬ覚悟を持てるわけがない。

 そんな人がいくら「好き」なんて言っても、それは全部、「嘘」なんですよ。


 世の中全部、嘘ばかり。

 自分可愛さの、優しい誤魔化しでしかない。

 例えば、百億の命のためなら、一億玉砕が正当でありうるなんて、自明な事実。

 そんなアイデア、そんな言葉は、教科書から丁寧に省かれている。

 一番大切な愛の言葉は、教科書のどのページからも省かれている。

 卑怯者が卑怯者のために書いてるってことでしょう?


 だから先輩、私はこの荒野に生まれて。

 「本当」の「愛」を、ずっと探し求めているんです。

 世界のどこかに、一輪。きっとそれは、ある気がするのです。


 一億玉砕の理想に向かう確固たる信念。それが先輩の両目からは感じられない。

 だから先輩が「好き」と言うその言葉も、私には結局、白々しい嘘に聞こえてしまって。

 だから私、先輩のこと、きっと「本当」には「愛」せません。


 軽蔑しないでほしいです。でも、せ、先輩が惹かれたのって、単に私の「身体」、なんじゃないですか?

 だったら、それって、「私」じゃなくてもいいってことですよね。

 私でなくても提供しうるものを私自らが提供する理由とてありえない。

 だから私、応えられない。


 ごめんなさい。先輩。

 私、先輩に、求めすぎてる。

 先輩は何も悪くないのに、嫌な気持ちにさせてしまって。


 だから、先輩。

 私なんて、初めからいなかったと思って。

 私なんかとは、初めから出会わなかったと思って。

 私のことなんて、どうか、忘れてしまってください。

 でも……、「ありがとう」。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鈴木美脳 様 突き抜けている。素晴らしい。 肉体的愛vs観念的愛の話なのか? メンヘラの話なのか? 妄想して楽しい。 物語の延長として、何を想起するか、読者の割合的にはどうだろうか…
[良い点] これならどんな性癖の先輩でもドン引きさせることが出来そうです。笑笑 [気になる点] ジャンル恋愛とありますけど、コメディですよね? 大笑いしながら読んだのですけど、ダメでした? え、、、…
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