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8 町へ向けて出発

 朝食を済ませた俺は、町に向かうための荷造りを始めた。と言っても、そもそも荷物なんて殆ど持っていないから簡単なものだ。昨日使ったリュックに戦利品の毛皮と角、それと納屋にあったロープ数本を入れ、小型の鍋一つと食器少々、岩塩も少し割って貰って行く。地図のタペストリーを壁から外して丸め、ついでにサイズの合う着替えを二着ほど頂戴することにする。竹筒二本に水を汲んで、これはリュックの外側に装着する。昨日見つけた銀貨一枚と銅貨二枚を小さな革袋に入れて腰につけ、槍を持てば完了だ。

 だいぶ持ち出してしまうことになるが、これでも最低限だ。可能なら近いうちに返却したい。もし他にもここに転生して来る人がいるなら死活問題になってしまう。


 最後に、潜り込んでいるケイごとリュックを背負い……って、え!?

「おいケイ、そこから出ろ。猫が袋の中を好むのは知っているが、誘拐するつもりはない」

「それでいいのよ。ここは嫌いじゃないけど、猫が私しかいないのよね。もうすぐ結婚シーズンだから、町まで婚活しに行きたいの」

「でも自力じゃ森を抜けられないから俺について来ると。一緒に来たいというのは構わないが、なら自分で歩け」

「嫌よ。人間は猫に仕えるために生きているの。私と旅ができることに感謝なさい」

 そういえば猫を飼っている人の何人かがそんなことを言っていたな。

「俺はお前の下僕になった覚えはないし、むしろクロネコこそ荷物を運ぶ存在じゃないかと」

「エージの目は腐っているの? 荷物を運んでいるのは猫じゃなくセールスドライバーさんじゃなくて?」

 だめだ、勝てる気がしない。


 やむなくケイが入ったままリュックを背負い、いよいよ町に向かって獣道を歩き始める。

 幸い起伏はそれほど多くなく、道も沢沿いに進んで行くだけなので迷わない。その点では順調であったが、そうは言っても森の中、足場は悪く決して楽な道ではない。時には倒木が道を塞いでいたり、土砂崩れで沢の流れが変わっていたりする中、珍しく黙々と歩き続けていた栄二だったが、やがてその沈黙を破るものがあった。

「げっ、二頭身イノシシが現れた!」

 その目と鼻先はまっすぐ俺の方を向いていて、その口元には長い牙が見える。兎の歯であれだけ痛かったのだ、あの牙にやられたら痛いだけでは済まないだろう。

「栄二が身構えるより早く、二頭身イノシシは襲いかかってきた」

 一切の躊躇なく、猪がこちらに突進してくる。

「猪の攻撃! 栄二は身を躱した」

 立ち木を間に挟むようにして直撃を避ける。なんとか食らわずに済んだが、木に少し抉れた跡ができている。


 手に汗を握っている時、背中から聞こえた声は何とも間延びしたものだった。

「さっきからエージは何を実況しているの? 客観的に状況を把握したいなら失敗ね、全然冷静になれてないわよ」

「何でわざわざ危ない時に出てくるかな」

「あんなの危なくないわよ、ただの獲物じゃない。あれ倒さないとお昼抜きよ」

「いや確かに倒さないと食べる物がないけどさ! それより危なくないっていうならケイも手伝ってくれよ!」

「私が捕まえられるのはネズミかせいぜいハトまでよ。私より大きいやつは対象外」

「あーもう! わかったよ倒せばいいんだろ!」

「頑張ってねー」


 一度通り過ぎた猪は、既にこちらに向き直って再度突進の構えを見せている。

 ケイの心のこもっていない応援を受けた俺は、あの猪をどうやって倒そうか考える。

  ◇たたかう

   さくせん

   こうたい

   にげる

 あの速度で走る奴が相手では逃げられそうにない。交代はケイに拒否されているし、一人なので作戦もへったくれもない。そうなると必然的に戦う以外の選択肢はなくなる。それに肉は食べたいし、ケイにもそう言ってしまった。

  ◇ぶつり

   まほう

   どうぐ

   ぼうぎょ

 まず防御は却下。楯なり鎧なりを装備しているならまだしも、こちらは布の服一枚だ。これでどう防御しろというのか。そして道具も戦闘に使えるようなものは持っていない。ゲームならアイテムをとりあえず使ってみることもあるが、命の危険がある時に「地図を天に掲げた! しかし何も起こらなかった」なんてやっている場合ではない。万一やるとすれば、よっぽどテンパっているかよっぽどの間抜けか、でなければよっぽど余裕か、そんなところだ。いずれにしてもまともに戦うつもりがあればこれは選ばない。

 一見無難そうに見えるのは物理攻撃だけど、俺の攻撃を見誤ってはいけない。兎にすら当たらなかったのに、もっと速い猪に当たるだろうか。いや当たらない。


 あとは……魔法? そうか魔法か。ぶっつけ本番だけど、発動さえしてくれれば槍よりは当たる気がするし、直接殴りに行くよりは間合いを確保できるので相手の攻撃から逃げやすいな。ダメもとで一回やってみるか。火は出せたから、それがいいかな。

「よし、あの猪を焼く! 十ミリリットルのメチルアルコール、CH3OHの滴を四個準備、太陽光を収束させて高温により着火、両目と鼻の穴に当たれー!」

 パフッと小さな音がして四つの炎が現れ、猪に向かって飛んで行く。アルコールの炎は青く透き通っていて見えにくいので、うまく行けば……


「ブオオオオー!」

 期待通り、炎に気付かなかった猪は避けることなく突撃を敢行し、そして目を焼かれ、鼻の穴からメタノールを吸い込んだ。見当外れの方向に走り、転がってのたうち回り、謎の踊りを始める。もうこちらを目指して攻撃して来ることは不可能になったから、あとは弱るまで体当たりされない所で見ていればいい。

 呼吸の度に大きな鼻の穴から炎を噴き出す様は少々シュールだったが、当の猪にはたまったものではない。思った以上に効果は抜群だったようで、猪はすぐに動かなくなった。念のため槍で首から上をメッタ刺しにする。どうせ頭の部分は食べられないので、血抜きを兼ねてこの場で切り落としてしまうことにした。

「二頭身イノシシをやっつけた! ケイ、どうだ、ちゃんと倒したぞ」

「それは認めるけど、あまり人には見せられない方法ね……」

「方法がまともじゃないのは認めるけど、失敗すると俺の方が狩られちゃうからな、負けないことを最優先にさせてもらうさ」

「そうじゃないんだけど、まあいいわ。さて、長居すると血の匂いで猛獣が来るわよ。食事にするにしても少し移動してからにしましょう」

「だな。地図によると少し先に開けた所があるらしいから、そこまで行くか」

 猪の後ろ足にロープをかけ、リュックの更に上に背負って、また歩き始めた。

「ちょっと、重いんだけど!」

「昼食までの辛抱だ。お前の餌でもある。嫌なら自分で歩け」

 ケイは相変わらずだった。


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