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6 燃え燃え窮クッキング

 廃屋に戻ってきた俺は、獲物の兎を前に困っていた。そりゃそうだ、狩り方以上に捌き方なんて知っているはずがない。

「参ったなー、早く食べたいんだけどな。えーとまずは毛皮を剥ぐぞ! 売れるかもしれないから傷をつけないように、それでいて肉が残らないよう綺麗に!」

 独り言はさらに増えているが、口に出して言った方が気合いが入ってうまく行く気がするので、直さないことにする。気のせいか、ナイフの光沢も増している気がする……よし、初めての割にはいい感じにできたぞ。

「この角は何かに使えるかもしれないな。取っておこう」

 力づくで折り取って、毛皮と一緒によけておく。

「次は内臓を取り出して、と。本当は残さず食べてあげたいけど、さすがに野生動物のモツを食べる勇気はないからパス。あーしまった、これは現場で解体して捨てて来るんだった。ここで捨てると匂いで肉食獣が来ちゃうかもしれない」

 失敗した。そう思ったが

「呼んだ? いらないなら寄越しなさい」

 肉食動物なら最初からいましたね。

「え、お前こっち食うの? 大丈夫?」

「当然よ。そもそも猫にとっては普段から食べてる物よ、敬遠する理由がどこにもないわ」

「そ、そうか。まあ俺はいらないから、食べたいなら好きにしてくれていいけど、責任はとれん。ノークレームノーリターンでよろしく」

 もともと断る理由もない。むしろ都合いいし、ケイだって腹が減っているだろう。


「あとはどうしたらいいかわからないから焼肉かなー。あ、火……」

 そうだ、考えていなかった。日本だとボタンひとつで点くからな。さてどうしよう。普通なら種火を用意しているのだろうが俺は持っていないし、何年も放置されていた家に種火があるはずもない。火打ち石での着火法は俺が知らない。そうするとあれだな、木の棒を回して摩擦熱で……などと考えながら薪を組んでいると、ケイが食事を中断して俺の隣にやって来た。

「しょうがないわね。ちょっとどいて」

「え?」

 ケイは竃の方を向き、尻尾をピンと立て、全身の毛を逆立てたかと思うと、一声叫んだ。

「フニャッ!」

 ボフッ!

「うわっ! 火ぃ吹いた!」

 その火は吹いたというより、まるで竃に吸い込まれるかのように動き、一番小さな小枝を着火させた。

「火吹き猫……な訳ないよな。ああ、魔法で火をつけてくれたのか!」

「そうよ。感謝なさい」

「いやマジで助かったありがとう」

 人間以外の動物も魔法を使えるのか。詠唱あれでいいんだ。

「なら覚えればいいのに。このくらいエージならすぐよ」

「すぐかどうかはわからないけど覚えたいものだな」

 そう答えるとケイは微妙な顔をし、兎ホルモンの山に戻っていった。


「そういえば調味料が見当たらないんだよなー、せめて塩だけでも残ってないかな。塩、塩、湿気てない塩が欲しいぞー」

 しかし調味料の棚を探しても、塩に限らず粉は何もなかった。残念だが仕方ない。そう思って鍋の前に戻ったところ、目の前の棚に何やら鉱物が置いてあることに気付く。うっすら赤く、少し透き通った感じだ。その隣にはご丁寧にもヤスリが。

「これはひょっとして……」

 ゴリゴリ。鉱物をヤスリで少し削り、削りカスをなめてみる。しょっぱい。

「そっか岩塩を使ってたのか。道理で粉を探してもなかった訳だ」

 ゴリゴリゴリ。

「でもここにこんなのあったっけ。覚えがないんだけど、まあいいか」

 ゴリゴリゴリゴリ。


 必要と思われる量の塩が削れた頃、いい匂いがしてきた。よし、そろそろ焼けたかな。

「ま、肉を焼いて塩を振っただけだから味は期待できないけど、気分だけでも変えるか。美味しくなぁれ、萌え萌えキュ〜ン!」

 言うだけならタダだ。いや、タダでもオッサンに言われたくないだろうけど。あ、今は少年か。それでもナシだな。いかん、涙で肉が光ったぞ。塩気が追加された。

 気を取り直して。

「ウサギさん今日の食事をありがとう。いただきまーす。……あれ、案外旨いぞ」

 もちろんそれなりの味ではあるが、思っていたほどの癖もなく、覚悟していたよりもだいぶマシだった。多少のことなら兎のためにも自分のためにも我慢して食べるつもりだったが、その必要がなくなって良かった。


 三分の二ほどを食べたところで、残りは明日の出発前に食べることにし、寝る準備を始める。日が落ちたら真っ暗なので寝る以外にすることがない。豆か何かを運ぶ用の大きな麻袋があったのでそれに潜り込み、身を横たえる。

「もう寝るわ。お休み」

「そう。おやすみ」

「今日はいろいろありがとうな」

「大したことはしてないと思うけど」

「お前凄いんだな。俺、魔法なんて初めて見たよ」

「は? あんなの普通よ」

 ああそうか、この世界は魔法があって普通なのか。俺も早く使いたいな。


 栄二が「今日のことは全部夢で、目が覚めたら元の失業者に戻っていたらどうしよう」なんてことを考えながら眠りについた頃、ケイはまだ起きていた。夜行性だからというのとは別の理由で。

(魔法を初めて見たなんて嘘よ! エージってば今日だけで何回魔法を使ったと思ってるのよ! しかも全部とんでもない高威力だし! 私の火なんて足元にも及ばないじゃない!)

 ある確認を忘れたせいで、栄二はとんでもない勘違いをしているのだが、まだ気付いていない。

(だいたい私が会話できてるの、私じゃなくてエージの魔法よ! めちゃくちゃ流暢だし、まだ解けないし、こんなデタラメな魔法、私こそ見たことないわよ!)


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