5 常識外れの自給自足
「まあ悩んでたって絶対とれないからな、やるだけやってみるか」
そう考えて外に出る。たった半日で人恋しくなってきたのか、それとも超高速でケイに馴染んだのか、独り言が増えてきた。
日記によるとこの家にはもうひとつ出入口があって、そっちは納屋になっているはず……あったあった。とりあえず目についた槍と網を持ち、一緒にあった背負い袋に網を入れる。弓矢は当たらないだろうし、罠は撒き餌がない上に一日で掛かるとも思えないので、仕掛けるだけ無駄だろう。間違ってケイが引っ掛かっちゃっても可哀想だ。
納屋から出たところで、井戸があることに気がついた。そうだよな、人が生活するなら井戸くらいあるよな。もしかしたら、まだ枯れていないかもしれない。
「水が飲みたいぞー、毒とか菌とか入ってない安全なやつ、できればミネラルがちょっと入ってて美味しいの。俺が好きなのは丹沢山系のおいしい伏流水だけど。喉が渇いてるからたくさん汲みたいなー」
そんな独り言を言いながら、ロープつきの桶を拾って井戸に放り込もうと近づいた時、井戸が一瞬光り……
どっぱぁ〜〜ん! ザバザバザバー!
井戸から水が噴き出した。十メートル以上ありそうな水の柱が現れ、やがてその水は重力に従い落下してきて、周囲を爆撃していく。
「きゃー!」
「うわっ!」
ケイは素早く逃げ、遠くから井戸を警戒している。俺は逃げ遅れて頭からかぶってしまった。
「わー! これじゃ汲むどころじゃない、止まってくれー!」
幸い噴出は数十秒ほどで止まり、井戸から少し溢れる程度に落ち着いた。
「エージ、何びしょぬれになってるのよ」
「俺は猫ほど素早くないんだよ。で何なんだこれは、間欠泉か!?」
「私の知ってる限りでは普通の井戸だったはずよ。前は飲んでも平気だったわ」
井戸から流れ出る水は無色透明で、変な臭いもない。喉が渇いているし、どうせ他に水はない。思い切って飲んでみたらかなり美味しい。まあ井戸水も天然水の一種か。二口、三口、満足するまで飲んだ後、台所から竹筒を持って来てそれに水を汲んだ。
「水だけでも飲めて良かった。よーし、狩りに行くぞ!」
出来たばかりの水溜まりから水を飲んでいるケイに声を掛ける。
「ケイは留守番でもいいぞ」
「……心配だから見張ってる」
ついて来るようだ。
ここで獲れる動物は、主に角ウサギと二頭身イノシシだという。ウサギは体重五キロほどと普通だが、イノシシは体重二十キロ程度だそうで地球の感覚からすればかなり小さい。ただ、二頭身と言っても可愛らしくデフォルメされているという意味ではなく、頭が大きくて体が小さいので食べられる肉が少ないためにそう名付けられたらしい。そして頭が大きいということは、突進の破壊力も大きい。
「初心者としては兎さんの方が嬉しいかな。……あ、いた」
お目当ての兎が向こうから飛び出してきた。お互いに一瞬驚いたが、急いで槍を突き出す。しかし相手は野生動物、素早く身をかわすとこちらに角を向けてくる。二度三度と攻撃するがかわされる、というかそもそも槍が出て行く場所がイメージと違うので、逃げられなくてもたぶん当たらない。そして−−
ガブッ
「痛ってぇ! 噛んだ! このやろ!」
腕に食いついたまま離れない。この間合いでは槍が使えない……そうだ!
腰からナイフを抜き、噛まれている腕を返して腹を上に向けさせると、兎の喉に突き立てる。
「ギュウ……」
角ウサギは鳴き声とも何とも言い難い声をあげながら腕から離れ、ドサッと地面に落ちて息絶えた。
「かわいそうだが、これも自然の摂理。俺も何か食わないと腹ペコなんだよ」
とにかく食材を得たので、廃屋に戻ろう。その前に……
「食いちぎられなくて良かったけど、めっちゃ痛い! 治れ、治れ! できれば消毒したいけど消毒液なんてないもんなあ。傷跡が残っちゃいそうだけど、それくらいは仕方ないか。麻痺したり変に引き攣ったりとかの後遺症がなければいいけどなー」
それまでの独り言と違い、喋って気を紛らわさないと痛くて仕方ない。気休めの消毒で竹筒の水を掛ける。しみるが我慢。傷口が少し光って泡が出てきたように見えたけど気のせいだろう。痛覚神経に強い信号が流れると、それが漏れて視神経や聴覚神経に混信して、星が見えたり耳鳴りがしたりするらしいからな。
幸い出血は傷口相応の程度に収まっているので、大きな血管は無事なようだ。リュックに入っていた布で縛って止血しておく。
「今度こそ帰ろう。ところで血抜きってどうするんだ? 頚動脈は切れてるから、逆さに吊るしておけば何とかなるかな。運んでる間にしっかり血抜きされますように」
痛みは落ち着いてきたが、今度は獲物が光ったように感じたので、まだ大丈夫ではないようだ。町に医者はいるだろうか。保険証がないけど支払いできるかな。
「最初にしては上出来じゃない? その傷ならすぐ治るでしょ」
「そんなすぐに治る訳ないじゃん」
実際にはすぐ治って驚くことになるのだが、この時は全く信じられなかった。