普通の高校生が乙女ゲームの世界で究極の選択を迫られる事件
数ヶ月前にふざけて書いた謎の短編です。私にもよく意味が分かりません。
私は市内の公立高校に通う、いたって平凡な二年生。勉強は学年で五十位以内ぐらいだからそこそこだけど、運動は全くできない。それはもう、みんながびっくりするくらい。容姿も中の下ぐらいで、彼氏はできたことがない。
そんな私の密かな趣味は「乙女ゲーム」。かっこいい男性キャラたちに素敵な言葉をかけてもらえたりして、プレイしていると凄くときめく。
ついつい夜更かししてしまうのはちょっと問題だけどね。
あ、そろそろ家に着きます。それじゃあまた今度ね。次は私のお気に入りの乙女ゲームについてたくさ——え?
それは一瞬のことだった。
突っ込んできた車が、私の体を吹き飛ばす。
もしかして私、死んじゃう!? そんな。ちょっと待ってよ。
昨日買ってまだ未プレイの乙女ゲームがあるのに……しかも西洋ファンタジーのやつ……。
『あなたは乙女ゲームのヒロインになりたいですか?』
暗闇の中、得たいのしれない声が聞こえてくる。
ママ? お姉ちゃん? ……いや違う。どちらでもない。
『あなたは乙女ゲームのヒロインになりたいですか?』
声はまた同じことを繰り返した。
乙女ゲームのヒロイン? 何を言っているの?
意味が分からない——けど。
「はい、なりたいです」
まだ死にたくはない。だから私はそう答えた。
あの西洋ファンタジーを未プレイのまま死ぬわけにはいかない!
◇ ◇ ◇
気がつくと、見たことのない場所にいた。白い建物、床は石畳。まるでヨーロッパのお城のような感じだ。
ふと前を向くと、目の前に五人の男性がいた。
全員イケメンで一瞬失神しそうになる。何この状況……。
はっ! もしかして乙女ゲームのヒロインになったってこと!? それで五人もの男性に結婚を申し込まれているのね!?
五人の中の一人、黒い髪にシュッとした顔の青年が、一歩前へ出る。動くたび短い髪がサラサラ揺れてかっこいい。
「お嬢様、俺と結婚して下さい。アストロ王国第一王子アルバートの名にかけて、貴女を絶対に幸せにします」
え、何? この状況どうなってるの?
黒髪の青年はひざまずき、顔だけを上げて視線を合わせてくる。そして動揺している私に向かってフッと笑みをこぼす。
よく見ると服装もいかにも王子という感じで、顔つきも育ちが良さそうだ。
——しかし!
わらじを履いていた。えぇぇ……。
「いやいやー、アルバートとかないない。そんな箱入り坊っちゃんよりオレみたいにワイルドな方が好きでしょ!」
二番目に話し出したのは茶髪の青年。ドレッドヘアで胸元が大きく開いている。目を逸らしたくなる大胆な服装だ。
でも顔はイケメンである。
「お嬢ちゃん! オレと結婚してちょうだい! 百人の子どもと、百匹の犬と、楽しく暮らそ!」
発言が意味不明。
……この人は選ばないな。あまり好きなタイプじゃないから。
そこへ三人目が口を挟む。
ふわふわした緑の髪が可愛らしい印象の青年だ。穏やかそうなたれ目、華奢な体つき。
「僕の名前は〜、キヤコタ・リギニオ・ラニバレ・ザピ・グーバンハ・ダラサって〜いうよ〜。君と結婚したいな〜」
は?
全部料理を逆にしたバージョンじゃない。名前がおかしいでしょ、名前が。
しかもやたら長くて覚えられない。
「じっ、自分がお嬢様をっ、ま、まっ、守るでありますっ!」
四人目に口を開いた男性は、黒い軍服を着ていて厳つい。がっちりした体つきで、顔も四角だ。逞しい系イケメンか。
しかし口調がおかしい。
「じっ、自分はっ、田中又兵衛と申し、まっ、ますっ! け、けっ、結婚っして! 下さいっ」
緊張しすぎ。まず落ち着きましょう。
しかも『田中又兵衛』って日本人……。急に残念な気持ちになる。世界観と馴染まなさすぎだ。
「我輩と結婚してほしい」
最後の一人が急に言った。
スキンヘッドで顎に入れ墨があり、腹の肉がだいぶ弛んでいる。へその上くらいまでしかない白いシャツにハート柄のトランクスという意味不明なファッションだ。
何者だろう……。
「我輩を選ばないお嬢様はいらぬ。選ばれないくらいなら我輩がこのナイフで一突きする」
ちょっと病んでらっしゃる。
「「「「「さぁ、誰を選ぶ?」」」」」
普通に考えるならアルバート? でもそうすると、最後の方に一突きされて命はない。
「「「「「さぁ、誰を選ぶ?」」」」」
私は究極の選択を迫られた。
読んでくださってありがとうございます。