終わりを告げられた女
──────終わる。と、思った。
「なぜ」
切り落とされた筈の私の首は、已然くっついたままである。
「なぜ」
目の前には、私を斬り捨て、この場へ送った、男が、血を滴ながら、怒りの形相で、私を睨んでる。
「なぜ」
私は、生きている?
「─────なぜ、とはこちらの台詞だ。シア」
男は、怒りと……何故か、悲しげな、様々な感情の入り交じった顔で、私を見ていた。
「何故、お前は一人で逝こうとする?
何故、お前は、助けをのべない?
何故、お前は、冤罪だと、言わなかった?
何故、お前は……君は、俺に、助けてと、冤罪だと、手を伸ばさなかった……!?
俺は、君に、そんなにも信頼されてなかったのか!?」
「レイ……………」
声が乾き、音にならない。
「シア、俺は、ただ………」
男、クロウレイ・リューシォンが、口を開いた。
「君が、一言、一言告げてくれたら、呪縛から逃れれたのに……」
「呪縛………?」
クロウレイは、苦しそうに、顔を歪めると、私を抱き締めた。
「すまない……。俺は、君を守りたかっただけだった。なのに、敵の姦計に陥り、君に……君に、酷いことを告げた。許してほしい、などとは言わない。
先程の言葉も撤回する。君が告げてくれなかったから呪縛から逃れれなかった、など、言い訳に過ぎないから………」
「レイ………」
「アイシア・ルークウェン、君の呪縛も、これでとかれた。形とは言えど、処刑は執り行われた。───シナリオも完成だ。」
「………シナリオ?」
顔をあげる、が白布が邪魔をして見えない。
「これで、満足だろう!?リリー・ルクシェン!」
※※※※※※※※※※※※※※
彼が、その名を呼ぶと、人垣が割れた。
現れたのは、一人の女。
私を陥れ、彼を変え、すべてを引っ掻き回した、女。
今、彼女は地に伏している。
かつて、彼女が陥落させた男たちの手により。
「嘘よ………!こんなの、シナリオにはなかった!!」
「そうだろう。この世界は、貴様が吟うシナリオとやらの通りに動いておらぬ!」
それは、かつて、彼女……リリー・ルクシェンに生涯を捧げると告げた、皇太子。
「好きでもねぇ女に、言いたくもねぇ言葉を言わされ続ける気持ちがわかるか?」
リリー・ルクシェンの体を取り押さえる、彼女のお陰で女嫌いが直ったと喜んでいた、騎士の息子が言う。
「貴女の力に踊ろされ、くるくる廻る我らは、さぞ滑稽でしたろうね」
リリー・ルクシェンを怒りの炎を宿らしながら睨む、引きこもりだった魔法使いの少年は掃き捨てる。
「よくも、大好きな姉様に、酷いことを言わしたね!」
「どっちが悪女か分からないよね!」
リリー・ルクシェンの手と足を結びながら、瓜二つの私の弟たちは、怒りを訴える。
「なんで!なんで!どこで間違ったの!?私は、私は、失敗なんてしてない!!」
リリー・ルクシェンは、キッと私を睨み付けた。
「お前が……お前さえ、ちゃんと悪役を演じれば!!私の私のための私だけのシナリオは………!!」
彼女の瞳は、すでに、男たちを籠絡させていった、純粋で優しげな色はなかった。
「アイシア・ルークウェン……………!!!!!」
「黙れ!リリー・ルクシェン!!この国を掻き乱した、すべての悪の根源よ!お前だけは、俺は、赦さない!」
「レイ……」
「地獄の業火に焼き付くされて、死ぬがいい……!この、悪魔が!」
この日、私の世界が終わるはすだった。
「リリー・ルクシェン!!お前を国家反逆罪で、処刑する!」
が、
「お前さえいなければ…………………!!!」
───────終わったのは、彼女の世界であった。
次で、終わりの予定です。