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コロンシリーズ異聞

MORIKUBO:???? -君、死にたまふことなかれ

作者: 三角まるめ

とある惑星、とある街。ある男のお話。

※この作品は志室幸太郎様主宰のシェアード·ワールド小説企画「コロンシリーズ」参加作品であり、拙作「LUNA:2016 -A PIECE(S) OF A JUVENILE-」のスピンオフ作品になります。

「おい」

 マスターがカップを出しつつ俺に話しかけてくる。隣町に美人の姉ちゃんが引っ越してきたらしい、とか、3丁目のグレイスがまた借金背負(しょ)い込んだ、とか、どうせそういういつもの下らない情報だろうな、と思いながらも、俺はコーヒーを一口啜って答えた。

「何?」

 だが、マスターの口から出たのはかなり予想外の言葉だった。

「ルーセルが落ちた(・・・)ってえのは本当か?」

「! ……ああ、らしいぜ」

 俺はそう一言言うと、また一口コーヒーを口に入れる。俺は軍人だ。そういう情報は民間人である噂好きのマスターよりも先に耳に入る。

 ルーセルというのはこの国第3の都市であり、貿易地として栄えている場所だ。そこが3日前、たったの一晩で消滅した。だが政府が情報統制を敷いていてそんなニュースは国内には流れていない。

「……いよいよこの国も終わりかなあ」

 マスターが少し寂しそうに、皿を拭きながらぽつりと呟いた。

「そのルーセルを落としたっていうの、例の奴なんだろ?」

「……だろうな」

 例の奴、とは連合軍が開発したと言われている兵器の事だ。だけど俺達は、それが一体どんな兵器なのか、全くわかっていない。情報が少しも入って来ないからだ。噂ではそれは、何でも核を搭載した二足歩行の巨大恐竜型ロボットとか、はたまた超巨大戦闘機とか、未知の毒ガスとか、色んな形で伝わっている。

「次はここでも狙われるんじゃないのか?」

「……そうかもな」

 その時俺はカウンターの端っこに座っていた女の子に気付いてつい焦ってしまう。

「あっ……ごめんね、暗い話しちゃって」

 俺に反応した彼女はゆっくりと顔を上げると目を合わせた……あ、可愛い。

 さらさらの水色の髪に青い瞳。ここらじゃ見ない顔だ。旅行か何かでこの街に来ているんだろうか。

「構いませんよ」

 彼女はにこりと笑ってくれた。それを見て俺はまたどきりとする。ちょっと話したいなー、とか思ったり。

「君、ここらじゃ見ない顔つきだよね。旅行ででも来てるの?」

「……そんな感じです。この街を見に来たんです」

「ああ、観光か。色々回れた?」

「いえ、実は今さっき着いたばかりで、ここで食事を終えたら見て回ろうと思ってたんです」

「あーそうなんだ……あ」

 なんて、ここで俺は何とも図々しい事を思い付く。

「だったら俺が案内してあげよっか……なんて」

「え?」

 彼女は戸惑っていた。そりゃそうだよな。見知らぬ男からそんな事言われたら。

「……そうですね。じゃあ、お願いしてもいいですか?」

 だけど意外にも、少し考えた後俺の誘いに乗ってくれた。お、これはラッキー。

「何だモリクボ。ナンパか? ウチは出会い系じゃないぞ」

「ちっ、違うよマスター!」

 いや、そうです。

「お嬢ちゃん、襲われない様に気を付けなよ。がっはっは」

「ちょっ、何言ってんだよ! そ、そうだよ! この娘が襲われない様に俺がボディーガードしてあげるんだよ!」

「モリクボさん……っていうんですか?」

「あ、そう! 俺モリクボ! 18歳! こんなんでも軍人やってるんだよ。だからどんな奴からも君を守ってあげるよ」

「……心強いです」

 くすりと笑う彼女……やっぱり可愛い!

 そういう事で、俺は彼女にこの街を案内してあげる事にした。


 まずは最も栄えているショッピングエリア。商業ゾーンだ。今さっきの喫茶店もここにある。

「女の子ならファッションビルとか行ってみる?」

 何気無く彼女に尋ねると、

「ああ、いえ、大丈夫です。そんなにゆっくり回ってる時間は無いんです」

と彼女はやんわりと断った。なるほど、時間が押してるのか。

「ああごめんごめん。じゃあセントラルタワーとか。上らなくても、間近で見るだけで凄い迫力があって圧倒されるよ」

「セントラルタワー……ですか」

「お? 興味持った?」

「……はい。見てみたいです」

「よし! じゃあ早速行こう!」


 そして数十分後、俺達はセントラルタワーの麓まで来ていた。高さ700メートルはある国内随一の塔。それがセントラルタワーだ。

「どう? なかなかでしょ」

「……そうですね……これは、ただのランドマークなんですか?」

 と言ってるわりにはそれほど驚いていない様に見える彼女……あれ? 俺ミスった?

「……ああ、もちろんただ景色を見るためだけの物じゃないよ。電波塔の役割を果たしてるんだ。放送局と軍と……これを中継させて通信を繋いでる訳」

「なるほど……ここは国軍の拠点があるんでしたね」

「そうそう。南北にそれぞれ。あと東西には支部もある」

「4拠点ですか。多いですね」

「そうだね。多いんだよね、ここ」

 ちなみに、俺が配属されているのは南本部だ。今日は夜勤だから、この観光案内が終わったら仕事だ。

「ここは南部なんですよね」

「ああ、そうだね」

「じゃあ次は北部を見てみたいです」

「え? 北は何も無いよ? 鉱山地帯だから」

「なるだけこの街を見ておこうと思って……」

「そっか……じゃあちょっと時間かかるけど、行く?」

「はい」


 そこで俺達はバスに乗り、揺られる事60分。今度は北部に着いた。こっちは商業で栄えている南部とは違い、緑の多い土地だ。広いスペースが確保できるから工場も結構あったりする。農業や工業で栄えている地域だ。

「フラワーパークとかあるけど……そんなにゆっくりする時間無いんだよね?」

「ええ……こちらにも軍の司令部があるんでしたっけ」

「うん、そうそう。ほら、向こうに山脈が見えるだろ?」

 俺は数キロ先にあるアルカラ山脈を指差す。

「あそこの麓……ほらあそこ! だだっ広いとこ! 塔が何本も突っ立ってる……あれが北本部。俺も合同訓練の時に何回かしか行った事が無いんだ」

「あれが北本部……あの後ろにあるの、全部鉱山なんですか?」

「うん、そうだよ」

「……? ……軍部の前に川がありませんか……?」

「え? ああ、うん、あるね」

 この娘、よく見えるな……と俺は思った。ここからだとわかりづらいんだけどな。俺は北本部に向かうまでわかんなかったのに。

「おっきな川だよ。東部まで流れてってる」

「東部までですか……この街に入る時に通りましたね」

「ああ、東から来たんだ……で、来たはいいけどこっち、ほんと何も無いんだけど」

「次は西に行きたいです」

「ええ? やっぱりもう移動するの?」


 その(あと)西部にも行き(ほんとに行っただけだった)、南部に戻って来たのはもうすぐ日が暮れようとする頃だった。

「かなり移動したね……」

 俺は疲れ気味に言った。いかん、女の子の前でこんな顔しちゃいけない、と思いすぐに表情を変える。こっちから誘っておいてさすがにそれは無いだろう。

「はい。モリクボさんのおかげでこの街の事を知る事が出来ました。ありがとうございます」

 彼女は丁寧にお辞儀をした。

「いやいや、君がつい可愛かったから……あ」

 げ。うっかり本心を喋ってしまった。

「……ありがとうございます」

 少しだけ照れる彼女。うん、やっぱり可愛い。今日一日付き合ってよかった。

 ここで俺はおこがましいお願いをしてみる事にした。

「あ、あのさ、最後にひとつ……いい?」

「?」


「何だよモリクボ、にやにやして」

 その晩南本部の正門の見張りをしていた俺は、一緒に担当していた同僚のハルタから声をかけられるまで上の空だった。

「え? ……へっへっへ~」

 そう笑うとヘルメットを脱いでその中をハルタに見せる。そこに貼ってあるのは小さなプリントシールだ。今日彼女と別れる前に撮影したのだ。

「可愛いだろ?」

「うおっ! マジだ! 何だよ彼女か!?」

「……残念だけど違うんだよなあ……」

「え、そーなの?」

「ああ。今日観光案内をしてあげたお礼に一緒に撮ってもらったんだ」

「へ~。名前は何ていうんだ?」

「名前? ……そういや聞いてなかったな……」

「何だよそれ、もったいない」

「いいんだよ、どうせもう会えないんだろうし」

 なんていつもの様に無駄話をしていた時だ。

 爆音と共に突如中心部の方に火が上がった。

「! な、何だ!?」

 敵襲を告げる警報が響き渡る。て、敵……!? この街に敵が来たのか……!?

 恐怖で体が震える。訓練は何度も行ってきたが、俺は実戦経験などまだ一度も無かった。

〈ハルタ二等兵! モリクボ二等兵!〉

 俺達に本部からの通信が入る。俺はその声を怯えながら聞いていた。

〈君達は第3小隊に加わり迎撃に迎え!〉

「……しゅ、出動でありますか……!?」

〈例の奴かもしれん。幸運を祈る〉

「……っ!!」

 そうして通信は一方的に切られた。例の奴って、あのルーセルを一晩で落としたっていう、あれか……!?

「……行くぞ、ハルタ……!」

「……ああ……!」

 拳を握り締めると俺達は部隊に加わるために一緒に本部内へと走り出した。脚の震えはまだ収まらないし、心臓だってばっくんばっくん鳴ってやがる。けど、これが俺達の仕事なのだ。これでも俺は軍人だ。やってやる……! ロボットだか戦闘機だか知らないが、そんなもん俺がぶっ壊してやる! それに……! 俺はヘルメットをずらしてさっきのシールを見る。

 俺には女神が付いてるんだ……!

 部隊に合流した俺達は戦車に乗り込むと基地から出撃し、市街地へと向かっていった。

 あの娘、大丈夫だろうか。お願いだから、無事に逃げていてくれよな……。


 頼むから、さ。

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