決行
やっぱりダメだか
もう君は僕を見てはくれないね
「お待たせぇしましたー」
「おおぉ!」
いつになく目を輝かせる優。
目の前にある肉じゃが。
まるで子供のようだ。
「いただきます」
「召し上がれ」
美しい箸使いで肉じゃがを突く優はいつものクールな表情を崩し満面の笑み。
いつもこうなら可愛げがあるのにと、思う有希だがその言葉は有希の声として出ることはない。
「ん〜…腕を上げたな」
「え?そうかな、前より美味しい?」
「あぁ、美味い」
最後の晩餐になるかも知れない食事をゆっくりと取る優は有希の企みになど気付きもしない。
ただ笑顔で肉じゃがを頬張っている。
「ご飯が終わったら話があるんだ」
「?今でも良いだろう?」
「行儀良くないよ、口の周りにご飯粒付いてるし」
母親のような物言いで優の口の周りをタオルで拭く。
どうしてこれを食べる時だけはこんな風に口の周りを汚すのか、ある意味有希の悩みであり、喜びのようなことである。
食事を終えた優は有希によって敷かれた布団に横になった。
「…満足…満足…」
「あ、コラ。食べてすぐ横にならないの。消化に悪いから」
「む、有希が敷いたのが悪い。」
「そこに布団があるからみたいに言わないの」
駄目人間の物言いの優に思わずツッコミを入れる有希だが、止めても無駄だと思い言うだけ。
「…寝る」
思い瞼を擦りながら布団に潜る優。
「ハイハイ、お休み…」
優は有希の企みに嵌るように眠りに就いた。
「…んむ!?」
優が起きた時、寝ていたはずの布団はなく白塗りの椅子に縛り付けられ、口は布で猿轡をされていた。
それも、体を動かせないほどきつく、けれど体を傷付けないように布で腕などを保護してあった。
雪、否有希の仕業かと思考を巡らせてると扉がゆっくり開いた。
「あ、起きたんだ」
小さなナイフを片手に持った有希が感情を含まない声で言う。
「優はさ、絶対雪を選ぶでしょ?絶対僕を選んでくれないもんね。雪しか見てないもんね。そこでさ、僕考えたんだ」
ナイフと優を交互に見て淡々と語る。
有希の言葉を聞いて優はただ下を向いていた。
「人間って命が一番大切なんだ。だから、命を掛けるとそれに従うし、一生懸命になる」
ゆっくりと優に近づき口の布を解く。
「…だから、一体何だ」
予測していなかった事。
優の声は震えていたが、目には強い意志が灯った。
「少しずつ切ってあげる、優が僕を選ぶまでやめない」
悲しげに笑いながら有希は優の左腕に赤い線を刻み込んだ。
優は顔を歪めながら声を殺していた。
「痛いでしょ?ずっと続くんだよ、僕を選ぶまでね」
「…思っていた以上に…っ…お前は狂っていたんだな」
「当たり前じゃん、僕も消えたくないし、優が好きなのは雪と同じなんだから、同じ体にライバルが居るんだもん強行手段だよ」
会話をしながら切る、切る、切る。
優の左腕はもう血だらけだった。
白い床に赤い斑点ができ、どんどん大きくなって行く。
「…うっ…」
「痛いよね?もう左腕動かせないんじゃない?どう?考える気になった?」
顔を歪めながらも、優は痛みになど負けず有希に言い放つ。
「あり得んな、私はずっと前から雪一択だ」
蔑む声に似た音に乗った言葉は有希を頂点にまで追い込んだ。
現に有希の顔は悲しげな表情など消え去り、憎しみと怒りの入り混じった顔を歪めながら優の胸にナイフを刺した。
「あっそ、じゃあもう良いや。殺して雪のものにもならなくしてあげるよ!」




