私と僕とあの子
あの子はアイツしか見てない
悔しい
僕を見てよ
僕だけを
やっと、薬を塗ることの出来た優。
満足気である。
「フッ…」
何でドヤ顔なの?
そうきいてはならないような気がして、雪はその言葉を飲み込む。
「…暫く私はここで生活するのか」
「うん、勿論。勝手に逃げたら私は知らないからね」
雪の背後に恐ろしいもの怪物が見えてしまうような気迫。
しかし、優はどうということも言わず、ただ頷くばかりである。
「じゃ、また来るからね、どっちかが」
雪は、優に暇潰し用の本を渡すと、手を振りながら白い部屋から出て行った。
「…」
一人になった優は、読書をしていた。
無表情に、瞬きをして、捲るだけである。
部屋にある時計の針の動く音と、優が本を捲る音だけが
真っ白な空間に響く。
静かに一冊読み終え、また一冊、また一冊とどんどん減っていき最後の一冊になった。
その本は優が一番読みたかった本。
「この本は…」
前に雪に、探している本が見つからないと言っていたことを思い出した。
「…アイツ…本当に何でもするな…」
雪は優の為なら何でもした。
優はそれを最初は友情の好意だと思っていた。
しかし、時が経つに連れその好意が友情のものではないと理解して行った。
それでも優は雪のそばを離れることはなかった。
優は雪の好意を受け入れた上で今まで通りでいたのだ。
つまりこの監禁生活も今まで通り。
優の母親には既に泊まりだと言う連絡がされているのだろう。
でなければ雪は警察に逮捕されている。
そうこうと思い老けている内に、僅かに白い部屋が陰っていた。
「…夕方か…」
午後4時32分とアナログ時計が時を指していた。
そろそろ雪が来るであろうと思い、本を隅に置き部屋の真ん中に座りこむや否や扉が大きな音をたてて開き白い物体が優に飛び付いた。
「ぐっ…久しいな、有希…」
「優!優だ!優がやっと僕と会えた!」
雪と同じ顔、声の有希が騒ぐ。
優の胸に顔を埋めて、上目遣いで優に対して再開の気持ちを全身で表現する。
「今ねぇ今ねぇ!僕、乗っ取り中なの!!」
凄いでしょ?とばかりに胸を張って言う有希。
しかし優は呆れている。
「また勝手に出てきたら叱られるぞ」
「良いんだもん!!暫くは僕の天下さっ!」
優の忠告を気にしせず、跳ねまわる有希だった。
雪と有希は兄弟でも家族でもない、あくまで他人だ。
「雪はねぇ、僕の事優がここにいる時くらいしか出してくれないんだよー?」
「…ふーん」
「それでねー…」
有希は優に対してたくさん話しをした。
昨日何をしたとか何を食べたとか、雪にこんなことをして叱られたなどの日常的なことをたくさん。
優や雪にとっては当たり前事でも有希とってはそれら一つ一つが大切な思い出なのだ。
いつか消されてしまうかも知れないから。
優がどちらかを選ぶ時、二人のうち一人が消えるのだ。




