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心の鎖  作者: momo
二章 イクサーン王国
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押し寄せる現実





 イグジュアートがそばにいるとは言っても見知らぬ土地の見知らぬ屋敷、しかも『元』王子が関わる場所に連れてこられたせいでイオの不安は募るばかりだった。

 無表情の男が灰色の瞳でこちらを監視する中でイオはイグジュアートの隣に腰を下ろし、不安で胸をいっぱいにしながらひたすらに時間の過ぎるのを息を顰めて待った。


 深夜を回って夜明けも近いのではないかと思える時刻、開かれた扉に待ちわびた男の姿を疑わずほっとして安堵の声を上げかけるが、現れたのは茶色交じりの金髪に碧眼の男だった。

 左のこめかみに火傷のような一筋の傷跡が目に着くが、それを除けばかなり目鼻立ちの整った青年だ。もしかしてこの人が―――思いかけた瞬間、青年の後ろに今度こそ間違いない待ち人の姿を見つけ感嘆の声を上げる。


 「アルフェオン様っ!」


 これこそ一方的かもしれないが感動の再会。

 見た所は五体満足で拘束されるでもなく無事に現れてくれた事に感謝し、安心したせいで目じりに涙が滲んだ。

 アルフェオンはそんなイオの心中を察すると意図的に優しく微笑んで肩に手を置く。


 「突然の事で不安にさせてしまったようだが安心してくれていい、ここは安全だ。イグジュアート、貴方にもきちんと説明もせずに出て行ってしまい申し訳なかった。」


 軽く頭を下げ二人に詫びると、アルフェオンは後ろを振り返り青年をイオへ引き合わせる。その人が誰なのか予想がついたイオの体がわずかにびくりと反応した。


 「こちらはイクサーン王国の騎士団を率いる御方でレオン殿だよ。」


 優しく背を押され前に出される。

 何だろう? 何故だがものすごい違和感を感じるのだが―――それよりも目の前に立つ青年から与えられる威圧感に後退したくて堪らなくなるのを、アルフェオンが無理に堰き止めているような気分にも陥るのだ。


 どうすればいいのか分からないので取り合えず膝を折って首を垂れる。すると顔を上げるように低い声が掛けられた。


 「そう固くならなくていい、私は君たちの身元保証人だ。カーリィーンでは大変な思いをしてきただろうがこのイクサーンでの生活は何も心配しなくて大丈夫だ。」


 全てお膳立てしてやると口元に笑みを浮かべるレオンにイオはただただ頷き首を垂れる。

 相手はイクサーンの元王子、それもイグジュアートのように隠されて育ったのではなく威風堂々とした青年だ。圧倒されるのは当然だった。だがそれよりも、イオが知る二人の高貴な人たちとのあまりの違いに戸惑う。


 笑っているようで笑っていない。安心させるように見つめながらその青い瞳はこちらを見抜こうとしている。アルフェオンとは旧知の仲かも知れないが、巻き込まれ付いて来たイオがどんな人間かまずは疑ってかかっているように思えた。


 「所でイオ、アスギルがいないようだが?」


 アルフェオンからの声かけにほっとしてイオは体ごと向きを変える。


 「わたしがここに連れてこられるときはまだ戻って来ていなくて。」

 「ちゃんとここへ戻ってくるだろうか?」

 「ここ、ですか?」


 質問の意味を掴みかねてイオは周囲を見渡した。

 安心させるように微笑むアルフェオンに難しそうな顔をしたイグジュアート、終始無表情の騎士エディウからイクサーン王国の『元』第二王子で現在は騎士団長を務めるレオンとは視線を合わせないように上手く反らし、最後にもう一度アルフェオンへと戻ってくる。


 「宿には言伝を残してもらったようですけどわたし達がいない場所には戻らないでしょうから…多分、こちらに直接…来ると…思います。」


 イオの言葉にレオンが僅かに目を見開き視線をアルフェオンに移すと、アルフェオンは小さく目礼してから自信なさげに俯いてしまったイオを覗き込む。


 アスギルが己が敷いた結界の中の状況を手に取るように把握できるのはアルフェオンも知っているので、待っていればアスギルがイオのいる場所へ戻ってくるであろう事は予想できる。だがアスギルはイクサーンの都に入ってから慎重さを増したのか、結界を張った僅かな瞬間すら魔力の痕跡を感じさせなくなっていた。彼にとってここは嫌な土地なのかもしれない。


 「多分というのは?」


 イオはレオンへと視線を向けそうになりながら慌てて足元を見つめなおす。


 「目的地に着くまでは一緒にいてくれるとは言っていたけど―――アスギルは亡命する気なんてないみたいだったから。アルフェオン様やイグジュアート様に続いてわたしまでがこんな場所に来てしまって、もしかしたらそれで役目は終えたと行ってしまうかもって思ったの。」


 ここまで行動を共にして知らない仲ではない、別れの言葉もなくいなくなってしまうなんて事は常識的にないだろうが、イオは同じ部屋にいるレオンの様な存在がアスギルの足を遠ざけるのではないかと不安に感じたのだ。


 「そうだろうか…アスギルは君の事をかなり気にかけているように見えたけど?」


 確かにイオの事も気になるとは言っていたが、それは単に同じ魔法使いとしての同情からだろう。アスギルのように力がある訳でもない、ただ迫害されるだけの状況のイオがこれからどうなるか心配に思ってくれただけだ。

 それよりも感じていた違和感に気付いた。アルフェオンは、恐らくレオンの方が特に希望しているのだろうが、彼らはアスギルの存在を望んでいるのだ。だからなんでもないただの亡命者であるイオに構ってくる。

 いつだったかアルフェオンが教えてくれた、カーリィーンの魔法使いの現状が側にあるように感じてぶるりと身震いした。


 「従属させる気?」


 アスギルの力はとても大きい。手に入れたがる権力者は少なくはないだろう。


 「まさかそれが条件ですか?」


 イオを含め彼らが無事に亡命を叶えるための条件がアスギルだったとしたら―――

 恐ろしくて身震いが止まらない。当てられてもいないのに額に焼印を入れられてしまった気分だ。


 「誤解を与える言い方をした、すまない。そうではなく、アスギルの力を借りたい状況にあるんだ。」


 状況―――?

 イオは今にも泣きそうな目でレオンへと視線を向ける。そこには先ほど浮かべられていた偽りの笑みではなく、難しそうに真剣な表情を浮かべた青年が立っていた。


 「闇の魔法使いの封印が解かれたかもしれない。その事実を掴むために力の強い魔法使いが必要なのだ。こちらは藁にもすがる思いでいる。呼べるなら今すぐにでも呼んで欲しいし、無理なのならそうはっきり答えてくれ。」


 とにかく時間がないのだと詰め寄るレオンにイオは思わず後ずさる。無駄な情報はいらないと言っているのだろうが、権力者の威圧はイオにとって心臓に悪すぎだ。


 「闇の魔法使いって、もしかしてあの闇の魔法使いですか?」

 「そう、世界に破滅をもたらしたあの魔法使いだ。」


 何百年も昔の話だが、イオらカーリィーンの魔法使いにとっては迫害の原因と成り続ける存在。人知を超えた魔法で一瞬にして国を滅ぼし、魔物と言う新たな生命を作り出した想像主ですらある悪しき伝説の魔法使いだ。


 「世界は―――滅ぶんですか?」


 イオの問いにアルフェオンは頭を振った。


 「復活したのか消滅したのか、その事実を知る為にアスギルの力を借りたいのだよ。」


 安心させるように視線を合わせるアルフェオンだったが、その瞳が厳しい色を湛えている事に気付いたイオの不安は更に深まっていった。





 




 


 

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