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心の鎖  作者: momo
一章 カーリィーン王国
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王都へ




 瞼を閉じても綺麗としか言いようのないイグジュアートの寝顔に、イオはほっと安堵の息を漏らした。

 

 イグジュアートは頭をイオの肩に預けたまま眠ってしまったのだ。この様子だと連日悩んでいたに違いない。日も高く昇り始めたばかりの時間、これから今日を迎えようとしている世界に反して深い眠りに落ちた少年に、イオは温かい眼差しを向ける。


 まだ子供…本当に少年なんだ。

 生まれがどうあれ、いや、迫害される者と威圧する者の両者の血を引いてしまったせいで、必要以上に沢山の思いを抱え込んでいるに違いない。



 「正直、君がいてくれて助かったという思いが強くあるんだ。」


 やはり最初は厄介者だったのかと、申し訳なさそうに目を伏せるアルフェオンにイオは苦笑いを浮かべた。


 「こんな訳有の王子様をつれていたら邪魔に思われても仕方ありませんよ。」


 当然とばかりに答えるイオにアルフェオンは瞳を瞬かせた。

 

 「邪魔というのは誤解だ、君がいたから彼は命を取り留めたのだから。」

 「助けたのはアスギルですよ。」


 あの場で真っ先に無理と諦めたのはイオだった。それが覆されたのは今思い出しても奇跡としか言いようがない。尤もアスギルからすれば奇跡でも何でもないのかもしれないが、イオからするとまさに神技、あり得ない出来事なのだ。

 アルフェオンはイオ同様、あの日を思い出しやはり君のおかげだと首を振った。


 「君はアスギルを少なからず怪しい男だと警戒したはずだ。にも関わらず扉を開きアスギルを受け入れてくれたお陰でイグジュアートは命拾いし、私たちはここまで辿り着けたのかもしれない。」

 

 そもそもアスギルの名を知ったのも旅の途中だった。急な出来事に命の危険を感じて逃げたと言っても、同行者の名を知らないなんてどこまで焦っていたのかと、今更だが驚いてしまう。


 「それにしてもアスギルはいったいどんな男なのだろうな。」


 アルフェオンは眠りに就いたイグジュアートを見下ろしながら腕を組んだ。

 

 「………なんかよく解らないけど、放っておけない感じがしませんか?」


 とても大きな力を持っている。けれどどことなく幼くて、赤い瞳はぼおっとしていることが多く、時に縋られているような感じさえするのだ。

 そんなイオの言葉にアルフェオンは驚き思わず目を見張った。


 アルフェオンがアスギルと出会った当初は禍々しく、嫌に研ぎ澄まされた何かをその身に感じた。状況が状況であっただけにそれに構っている暇はなく成り行きで行動を共にしたが、あの切羽詰まった状況でなければ絶対に隣に立つ気持ちにはなれない空気をまとった魔法使いだったのだ。

 魔物の巣食う森に立ち入り、無事にここまでたどり着けたのにはアスギルの力が大きい。食料調達と称して二人で行動を共にした時もそういった事情に慣れていて、こちらの動きの先を読んで行動を起こしてくる。助かるが…正直気が抜けないとも感じた。


 「君に見せている姿はそうかもしれない―――」


 行動を共にするには不安があるが、だからと言って手放すには惜しい存在なのである。それにアスギルがイオに向ける態度に偽りはないようだし、何よりもイオが言うようにイグジュアートの命を救ってくれたのはアスギルなのだ。何の見返りも求めずに力を揮ってくれた事実は、カーリィーン育ちのアルフェオンからすると有り得ない慈悲とすら思えるものだった。


 「やはり君にはもう一度きちんと礼を述べるよ、どうもありがとう。とても感謝している。そして…これからも世話になると思うがよろしく頼む。」

 

 イオが恐縮しないよう立ったまま頷くように頭を下げると、イオはほんのりと頬を染め視線を反らしてとんでもないと頭を振った。


 「こちらこそ何もかもお世話になります。正直、置いていかれてるのが一番困ってしまうので。」


 二人に関わるのは自分の為だからと、淡い紫の瞳が後ろめたさに揺らぐ。


 ああ、本当にあの人と同じ色だと思いつつ、そんなイオの正直さにアルフェオンは喉を鳴らして小さく笑って見せた。




 

 その後はもう一日宿で過ごし、一行は王都を目指して歩き始める。

 イグジュアートは一通り曝け出して落ち着いたのかあれ以来アルフェオンを遠ざけようとしなくなったのだが、ふと気がつくとイオをじっと見つめているのだ。どうやらイオと母親を重ねているようで肉体的な距離も縮めてくる様に初めは躊躇していたイオも、誰の目から見ても綺麗な少年に懐かれる快感に目覚めつつあるようで笑顔で迎えていた。


 アスギルは時折姿を消しては戻ってくる。イオがどうしていたのかと聞くと魔物を消してきたと答える。毎度のことなので何時しか当たり前になって聞かなくなったし、道中野宿する夜があっても一度たりと魔物に出くわす恐怖を体験せずに済んでいたのですっかり安心してアスギルに頼り切っていた。




 そうして無事に辿り着いたイクサーン王国の王都。


 華やかで活気溢れる異世界にイオは驚き目を瞬かせ、イグジュアートは緊張から無意識にイオと手をつないでぎゅっと握り締めた。

 

 そんな二人と反し、アルフェオンは民衆の中に紛れる騎士や魔法使いの多さに眉を顰め、漆黒のローブを纏うアスギルはそっと瞼を伏せて気配を落とした。



 






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