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心の鎖  作者: momo
一章 カーリィーン王国
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魔法使い



 「公爵家の跡取りねぇ…」


 イオは固い寝台にごろんと転がりながら暗い天井に向かって呟いた。


 自分が消えたらアルフェオンに国へ帰るよう説得してほしいと言い残したイグジュアートも心配だったが、彼が突然消えたとしてもアスギルにお願いすれば何とかなるような気がしていた。

 何しろ結界の中の事は手に取るように分かるらしく、イオが森で迷子になり置いて行かれたと勘違いしてしまった時もアスギルには所在が掴めていてちゃんと呼びに来てくれたので実証済みだ。なのでイグジュアートが突然いなくなったり、まして誘拐されたりしてもきっと探し出せるだろうと悠長に考える。


 それよりも何よりもアルフェオンには驚かされた。何しろ公爵家の跡取りと言えば次の公爵様ではないか。

 カーリィーン王国に公爵家は一つしかなく、先代の公爵様は国王よりも力を持っていたと評判だった。何故イオがそんな事を知っているかと言えば、その先代公爵は特に魔法使いへの迫害が酷く、彼の代には魔法使い狩りが日常茶飯事に何よりも率先して行われていたというから死活問題だったのだ。

 まぁ代変わりした今もさほど変わったようには思えなかったが、その直系であるアルフェオンが魔法使い擁護派であったとは…よほど酷い光景を目の当たりにしたのかもしれない。


 イグジュアートの美貌に心奪われたただの騎士と言う訳ではなかったということか。

 

 身分で言うならたとえ認められていなくても、王様の落とし種であるイグジュアートの方に驚くべきなのかもしれないが、ここに来るまでに彼の素性のヒントはアスギルがくれていたので何となく予想が付いていた。だからと言って処刑される所だったとは流石に想像しなかったけれど。


 それにしても処刑される寸前だったイグジュアートをよく救いだせたものだと、その光景をぼんやりと思い描く。


 いくら公爵家の跡取りだからってそんなに容易いものだろうか?

 まさか単身で? 他に賛同者がいたならその人はどうなったのだろう。

 王は血筋に魔法使いが生まれた汚点を隠し通して抹殺しようとしたのだ。それを阻んだアルフェオンはいくら公爵家の跡取りだからとて大きな罪を問われるだろうし、実家である公爵家もただではすむまい。アルフェオンが簡単に身内や同胞を見捨てる性格の様には見えないし、もしかしたら誰かとても力のある人の後ろ盾でもあるのではないのだろうか?


 「って、いったい誰よ。」


 公爵家よりも強い後ろ盾―――王様? 有り得ない。先代の公爵の様に王様よりも力のある人が存在するのだろうか?

 


 「まさか王様自身がアルフェオン様になんて…流石にないわよねぇ…」


 庶民のイオがいくら考えても仕方のない話である。高貴な人たちがしている事なんて雲の上の話、イオが事実を知ったからとて何かが変わる訳でもないのだ。



 結局眠れなくなってしまったイオは窓の外が白み始めるのを待って部屋を出た。

 勿論イグジュアートの事をアスギルに頼んでおく為で、他の二人の前では話ずらいし聞かれるのもどうかと思ったからだ。


 人を訪ねるには早すぎる時間だが深夜よりはまし。ちょっと早起きするくらいが健康的でいいだろうと、細身のくせに大食漢な魔法使いの部屋の扉の前に立つ。


 扉をノックしようとした矢先、イオの目の前でその扉が軋む音を立てて開かれた。


 「何か問題でも?」

 


 感情を纏わない赤い瞳がイオを見下ろす。

 イオがノックする前に扉を開けたアスギルは相変わらず黒いローブを纏い、頭にはすっぽりとフードを被っていた。


 「ちょっと話があるんだけど、出かけるの?」

 「戻ってきた所です。」


 アスギルはどうぞと言って部屋に促し、イオも迷いなく足を運ぶ。

 まさか朝帰りとは驚いたが、いったい何をしていたのかと問うのも憚られる気がしてあえて触れずに用件だけを告げる事にした。 

  


 「もしイグジュアート様が突然いなくなったりしても、あなたになら居場所がわかるかしら?」

 「あなたが望むのであればそのように取り計らいましょう。」

 「そうなの? じゃあよろしくお願いするわね。」


 イグジュアートの事情はイオの口から語りは出来ない。それでもアスギルは何の事なくイオの言葉に頷いた。

 何も聞いてこないアスギルに感謝しつつ、イオは用件は済んだと部屋を出ようと踏み出した所で振り返る。


 「アスギルは何処まで一緒に来てくれるの?」


 彼にも目的があるはずで、いつまでもイオに付き合って行動を共にしなくてはならない訳ではない。もともと成り行きで一緒に行動していただけであって、本来ならとっくの昔に別れている筈だったのだ。

 


 「アスギルのお陰で無事に森を抜けられたし本当に感謝しているわ。このまま一緒に付いて来てくれると有難いのが本音だけど、アスギルは亡命する気なんてなさそうだし、いつまでも頼っていちゃいけないかなって思って。」


 イオの言葉にアスギルは眉を下げ、何処となく悲しそうに微笑んだ。

 


 「私が傍にいると邪魔ですね。」

 「そんな訳ないでしょ!」


 一緒に来てくれると有難いと言っているのに、社交辞令にでも聞こえたのだろうか。


 

 「付き合いは浅いけどとても頼りにしているんだもの。したたかだけど正直いなくなられると怖いわ。」


 

 自分自身がひた隠しにしてきた魔法。その桁違いの魔法を使うアスギルに頼り切ってしまうのも変な話だが、ここまで守ってくれたのは当のアスギルなのだ。守ってもらうばかりでは申し訳ないが、ひ弱なイオが生き残るには頼りに出来る物に遠慮はしていられない。頼りにするそれが突然失われるのはあまりにも心細過ぎる。


 「それならもう少し、せめて目的地までは同行させていただきます。この世界は不安が多い。それに貴方の事も気になります。」


 ほっとして安堵の息をもらすアスギルに、イオの方も安堵して微笑む。

 いい大人の筈なのに子供の様に幼い反応を見せるアスギルは、いつの間にか容易くイオの心に居ついてしまっていた。


 「わたしだって同じく不安よ。魔法使いへの対応がカーリィーンと間逆のイクサーンはわたしにとっても未知の世界だもの。」


 かつて世界を恐怖に陥れた闇の魔法使いを目覚めさせない為に必要とされる魔法使い。この国はカーリィーンと違い魔法使いを人として尊重してくれるという。アルフェオンの言葉が何処まで事実かは知れないが、街に入って魔法使いと思しき人物も時折見かけた。そしてその彼らからはイオ達カーリィーンの魔法使いの様に怯えている様子は見受けられなかった。

 


 封印を守るという役目、魔物に対峙する為に必要な聖剣を作り出す能力。

 闇の魔法使いの行いによって恐怖の対象となった魔法使い達は、今となってはその存在があるが故に生かされ続けている。国によっての強弱はあるにしろ監視付きではあるが、生きる理由を与えられているのだ。

  


 イオは目の前に佇む世間知らずの魔法使いを見上げた。


 「あなたはどんな力を持っているの?」


 何の監視も付かず、魔法使いの常識すらないままのアスギルは生粋の魔法使いに違いない。


 「聖剣を作り出したり結界を敷く他に、わたしたち魔法使いはいったい何ができるの?」


 魔法とは一体何なのだろう?

 隔離された世界に生きて来たであろうアスギルは、イオ達とは明らかに違いすぎる。特殊な力は自他共に危険だが、抑圧された世界を出た事でイオの内に魔法に対する興味が生まれた。


 








 

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