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心の鎖  作者: momo
一章 カーリィーン王国
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告白



 「あいつは私の為に全てを捨てようとしているのだ。」


 イグジュアートの悲痛な声がイオを現実へと引き戻す。

 いけない、あまりの美しさに見惚れて妄想の世界へと突き進んでしまう所だった。


 イオは何度か瞬きを繰り返し、悲嘆に暮れているイグジュアートから視線を外す。このまま直視していると呑まれてしまいそうになるほどの美貌なのだ。一人苦しそうに悩める横顔ですら、一般人のイオには破壊的な魅力であった。


 

 「それほどあなたの事が好きなのでしょう。全てを捨ててまで一緒にいたいという気持ちでいるのでしょうから、何もかもが自分のせいだと思わなくたっていいんじゃないですか?」 


 イグジュアートがアルフェオンの事を嫌いであるなら本当にいい迷惑だろうが、そうでないなら何もそう落ち込む事もないだろう。

 そんなイオの言葉にイグジュアートは意外そうに目を見開いてイオを見つめたが、間もなく自虐的に小さく微笑んだ。


 いったい幾つかは知らないが十代に入って間もない少年のする表情ではないと、イオはあまりに破壊的な微笑みに思わず目眩を覚える。

 ここが薄暗い部屋で良かった。これで日中の相手がよく見える明るさだったら間違いなく卒倒ものだ。


 「私とアルフェオンの付き合いはほんの一月程で、そなた達と大して変わらない。」

 「怪し―――知らない者同士の旅だったんですね。」 


 それほど浅い関係だとは全く見えなかったが、イグジュアートがそう言うのだから間違いないだろう。たとえ短い付き合いだったとしてもアルフェオンがイグジュアートに心からの忠誠を誓っているのはイオの目にも良く解った。騎士が主に向ける忠誠は時間とは全く関係がないのだろう。なにせアルフェオンは常にイグジュアートの動向を気にして見逃さない。森に入って傍を離れるのは食料調達の時くらいで、時には長い付き合いの様に気さくにさえ振舞う姿を見る時もあったが、彼にとってイグジュアートは何があっても守るべき人だというのはイオにさえ見て取れるのだ。


 「知っての通り、力は封印されているが私は魔法使いだ。そんな私が一族の中で生かされたのは父の唯一の子が私しかいなかったからだ。だが父の側室が待望の男子を出産した事で私の役目は終わった。闇に生まれ闇に封印されようとしていた私の前に突然現れたのがアルフェオンで、私の前に跪くと忠誠を誓い私を外界へと連れ出してくれたのだ。」


 苦痛に満ちた声と表情で話すイグジュアートに、イオは少しばかり申し訳なさを覚える。

 それも仕方がない。ここにきて解ったが、彼の言葉は平民であるイオには使いなれない口調で、尚且つ一つ一つに説明が入ってこないのだ。

 首を傾げう~んと唸り考え込んだイオは、ここまであえて目を逸らしてきた事柄を口にした。


 「イグジュアート様は王子様ですよね?」

 


 するとイグジュアートはイオの言葉に首を振る。


 「私は正式な子とは認められていない庶子だ。いや、立場的には庶子とも言えない存在だろう。」


 魔法使いを迫害するカーリィーン王国に魔法を使える血など忌まわしいだけだった。王家にその血が存在する事すら許されないだろう。

 それでもイグジュアートが魔法使いの烙印を付けられる事なく生かされたのは、単に王に後継ぎとなる男子の存在がなかったからにすぎない。正妃でなくとも側室妾に男子が生まれた時点でイグジュアートは用なしとなり、存在を抹殺されるのを待つのみだった。


 極秘に育てられた忌まわしき血を引く子は処刑の日を目前に、突然現れた一人の騎士によって幽閉の場より救い出され、イオの傍らに腰をおろしている。


 成程。そう言う訳でイグジュアートの額には所有印がなかったのか。

 王に子が出来なくても他に王位継承権を持つ者はいるだろう。それでも王自身の血を引く唯一の男子として力を封印され、隠され生かされた。確率的にはほぼないにしても将来王になるやもしれないイグジュアートに迫害の象徴で生涯消える事のない所有印を付ける訳にはいかなかったのだろう。


 「それで私が姿を消した後、アルフェオンにカーリィーンへ戻るよう説得してほしいのだ。」


 亡命は一人でする。アルフェオンがカーリィーンに戻っても今ならまだ地位も名誉も守れるだろうというイグジュアートにイオは首を振った。


 「無理だと思いますけど。」

 「アルフェオンは逃げる私を単身追った事にすればよい。」

 「いえ、そうではなくてですねぇ―――」


 魔物に襲われ瀕死の状態だったイグジュアートの生を、全くあきらめていなかったアルフェオンの姿を思い出す。彼はけしてイグジュアートを残して一人国に戻ったりはしないだろう。


 「背負うのが怖いですか?」


 地位や名誉があり、将来有望な騎士一人の人生を台無しにしてしまうのだ。それがたとえ押しつけの忠誠だとしても重く思わない方がおかしいのかもしれない。


 はっとして碧い眼を見開いて視線をよこすイグジュアートにイオはまいったなぁと頭を掻いた。

 短絡的な自分に対して悲観的なイグジュアート。彼に言っても分かってもらえないだろうが、突然消えられて困るのはイオだって同じだ。見知らぬ国に来てもっとも頼りになるだろうアルフェオンに去られても困るし、彼は何があってもイグジュアート中心で動くに違いないのだから、イグジュアートにはこのまま穏便に旅を続けてもらいたかった。


 「別に背負わなくたっていいじゃないですか。アルフェオン様だっていい大人なんです。いくら…そのぅ…イグジュアート様が王様の子供だからって、身分を取り上げられても付いてきてくれる人を信頼はしても、拒否する必要ないと思いますけどね。」


 そのまま受け入れて甘えていればいい。だって今はそうしなければ生きていけないのだし、アルフェオンのおかげで生き延びた命なら、これからも守ってもらっていいんじゃないだろうか。


 「それに何時か必ず恩を返せる日は来ますよ。」


 にこりと笑って見せるイオに対して、イグジュアートは複雑そうに眉を寄せた。


 「しかし…だが―――あいつは公爵家の跡取りなのだぞ―――」




 それはまたでっかいもの捨ててきましたね―――

 

 貴族での最高位を耳にし、思わずイオの頬は引き攣り言葉を失った。

 


 






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