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心の鎖  作者: momo
一章 カーリィーン王国
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後ろめたいので





 誰か嘘だと言ってほしい―――


 突然向けられたイグジュアートの視線から逃れるうち、自分が何処にいるのか全く分からなくなってしまった。

 イオはあたりを見回すがどこもかしこも同じような大木ばかりで、下を見ても自分が歩んできた足跡を見つけ出すのすら困難だった。

 耳を澄ましても水音は聞き取れず、川辺に戻るのも難しい。むやみやたらと歩き回るのは利口ではなかったが、そうでもしないと気が狂いそうなほど不安でたまらなかった。


 もしかして置いて行かれたのだろうか?


 何の力もない女なんて邪魔でしかなく、こんな状況では見捨てられてもおかしくはない。それにうたた寝から目覚めてよりずっと変な事ばかりだった。


 なにかと棘のある物言いをするアスギルとアルフェオンが二人して食材探しに出たのも変な話だったし、いつも寡黙でイオと会話すら交わした事のなかったイグジュアートが饒舌なのもおかしかった。枝を探しに川辺を離れた時もイグジュアートはしきりにイオを気にして視線を向けていたのだ。

 

 あの視線の意味はこれだったのか?


 イオが気持ちよくうたた寝をしている間に三人によって話し合いがなされ、足手纏いはここに捨て置くと言う判断がなされた。しかしイグジュアートは良心に苛まれ最後まで残ったが…やはり見捨てて彼らの下へ戻って行ったのではないだろうか。


 嫌な妄想にイオは大きく頭を振る。


 そんなことある訳がない。

 だって少なくともアルフェオンは恩義があるから見捨てないと言ったではないか―――実際に彼の大事なイグジュアートを救ったのはイオではなくアスギルだが、確実にそう言われた記憶がある。

 心許ない言葉だったが今のイオには希望の欠片だ。それにアスギルは何処からどう見ても怪しい魔法使いだが、出会ったばかりの他人でもそう簡単に見捨てる様には………見捨てないと、思う。多分。


 ああ嫌だ、後ろ向きな思考で頭がいっぱいになる。

 イオは頭を振り、腕に抱えた枝をギュッと握り締めた。



 絶対違う、彼らの所に何が何でも戻ってやる!

 迷子になったのならその逆も有りき。もう一度もとの場所に戻るのも絶対に可能な筈だ!


 腕の枝を抱え直し、気合を入れ突き進もうとした時。

 ガサガサと枝が揺れたかと思うと鼻先を何かが掠め、落下した。


 「ひっ―――!」

 

 後生大事に抱えていた薪を辺りにばら撒き散らす。その足元を長くて太い茶色と緑の生き物…巨大な蛇がゆっくりと体をくねらせ森に紛れて行った。


 大蛇―――そう呼ぶに相応しい蛇に紫の目を見開いたまま硬直していたイオは、ある重大な事実に直面する。

 蛇は魔物でなく、イオを襲わなかったので腹も空かしていなかったのだろう。しかしどうだ? この森には魔物以外にも人間を脅かす獣がわんさかいて、その獣相手にアスギルの結界は効力を持たない。そして何よりやみくもに歩く事でイオ自身がアスギルの結界を出てしまう結果に陥ってしまうのではないだろうか?


 獣に食われるが先か、魔物に食われるが先か―――

 


 その時ポン―――っと、イオの左肩に何かが落ちて来る。


 その何かはひんやりした冷気を放っており、たった今目の前を通過して行った蛇を思わせる体温だった。

 呼吸が止まり緊張からか体が痺れたが、イオは己の肩に有るそれを目視すべく痺れる体を軋ませながら首を回した。


 「ギャ―――――――――っ!!」


 「同じ所ばかりぐるぐる回って、どうしたのです?」


 赤い目が怪訝そうにイオを見下ろしていた。








 *****



 アスギルには結界の中で起きている事が手に取るように分かるらしく、イオの居場所も常に掴めていたらしい。同じ場所ばかりぐるぐる回っているので不審に思いながらも放置していたが、そろそろ食事の時間なので迎えに行くようアルフェオンに言われたのだそうだ。そのような理由も手伝い、アルフェオンは獲物を探す手間を省くためアスギルを連れて狩りに向かったのだと言う。

 

 イグジュアートの視線から逃れるうちに迷子になってしまったと思っていたのはイオだけであった。

 そんな特異な魔法聞いた事もないと声を大にして叫びたかったが、自ら無知を曝すのもどうかと思うので口を噤んでおく。


 アスギルの背に付いてもといた川辺に戻ると既に火が起こされ、焦げた肉のいい匂いが漂っていた。するとイオに気付いたイグジュアートが駆け寄って来ると申し訳なさそうに頭を下げた。


 「不快な思いをさせてすまなかった。」

 「あ、いえそんな―――」


 イオも慌てて頭を下げる。意味不明な視線をよこし追ってきたのはイグジュアートで、イオはそのせいで迷子になってしまったのだ。ここは苦情の一つでも言っておきたかったが、見捨てられたと思いこみ、彼らを非道扱いした手前後ろめたいので黙っておく。


 「非力なれどアルフェオン達がいない以上は私が守らなければと思ったが、結果それがそなたの事情を邪魔したようで本当にすまなかった。それで女の事情とやらは無事にすんだのか?」

 「……は?」 


 話が通じないんですけど?


 言っている事が解るようなわからないようなイグジュアートの言葉にイオは首を傾げる。

 すると肉を焼いていたアルフェオンが盛大な溜息を落としたかと思うと、大股で歩み寄ってイグジュアートの腕を掴んで火の傍に戻り「あなたと言う人は―――」と何やらくどくど諭し始め、イグジュアートの方も相槌を打ちながら真剣な表情で聴き入っていた。


 良く解らないけど無事戻れたし、肉の焦げるいい香りにつられ急にお腹が音を立て出したので焼くのを手伝おうと腰に手を当てふとアスギルを垣間見ると、彼はだらだらと涎を垂らして肉を凝視していた。

 


 








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