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心の鎖  作者: momo
一章 カーリィーン王国
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何となく敗北






 イクサーンへは遠回りとなるが、追手を避ける為に進路を変更せざるを得なくなった。


 これで到着が十日前後遅れるだろうと告げるアルフェオンに、安全の為とは分かってはいるのだがうんざりさせられる。

 何しろこの暑さの中、何日も体を拭いていない。流石に自分でも嫌な臭いが漂い始めたのに気が付かされてしまう。


 怪しい魔法使い、青年騎士に少年とはいえ絶世の美少年と言う男達に囲まれた身としてはどうにもいたたまれない。

 水は命の水なので一滴も無駄には出来なかったが、道すがら水場を発見した際には水筒に水を汲んだ後、こっそりと布を浸し、首や顔を拭って凌いでいた。


 流石に女を捨てるにはイオはまだ若すぎたし、何処にでもいる常識人の娘だった。だから痒い頭を掻きむしるのすら躊躇し、何気なさを装ってわざわざ最後方へ移動して隠れて頭を掻く。


 そんな時だったから流れる水音が耳に届いた時はついに幻聴かと溜息を零したが、それが現実のものだと解ると驚きと興奮で瞳が輝き無言の悲鳴を上げていた。



 森の中に突然現れた水場。

 イオ達の耳に届いたそれは大きな岩の上から流れ落ちてくる滝の音であった。



 まず最初に飛び込んだのはアルフェオンだ。

 この暑さには鍛えた彼にも相当堪えていたのか、上着を脱いで飛び込むなりけして広くはない滝壺を豪快に泳ぎ回っている。次いでイグジュアートが飛び込み、イオは自分の背丈ほどある水場を岩の上から黙って見下ろしていた。


 先に飛び込んだ男二人は冷たい水を堪能している。上半身裸の二人に気後れして、イオは何となくその場に立ち尽くしてしまっていた。

 

 長く一人暮らしだったイオは男の裸などに免疫はない。本当なら今すぐ飛び込んで真水を堪能したいのにそれが出来ないのは、裸の男達と同じ水場に入るのに躊躇してしまっているからだ。


 何となく恥ずかしい。こんな状況でなければ今頃は彼らに背を向け、半裸の男達を視界に入れないようにしていたに違いない。

 背を向けないのはそれほど水に飢えていたからだ。

 本当は今すぐ飛び込みたい―――のに出来ないと、岩場ぎりぎりに立ち尽くし迷っていると…



 ドン――――


 「きゃぁぁっ!」


 突然体を押され、イオは悲鳴と共に水面に叩きつけられる。 

 冷たい水が全身を一気に包み込み、髪の地肌に至るまで浸透していくのを感じたが、同時に口の中にも水が浸入して来たせいで溺れかけた。


 「おいおい、大丈夫か?」


 腕を引かれ水面に助け出された所で足が底に届く。

 ゲホゲホと咳き込みながら目を開くと、水に濡れた逞しい上半身を曝したアルフェオンの胸板が目の前にあって思わず硬直し息を飲んだ。が、彼の裸に反応したのを知られるのが嫌で直ぐ様頭上を振り仰ぐ。


 「何て事するのよっ!!」


 岩の上では相変わらず涼しい顔でイオを見下ろすアスギルの姿。

 暑苦しいローブ姿の魔法使いはイオの非難に困った様に眉を下げた。


 「上手く飛び込めないようでしたので―――」


 だからって突き落とす事はないだろう?!



 アスギルのあり得ない行動で頭に炎が上がるかと思える程に血が上るが、冷たい水の中にあるお陰でたちまち鎮火する。そうすると掴まれた腕が嫌に熱く感じた。


 「どうもありがとうございます。」

 「思う以上に流れが速い、足を取られないよう気をつけて。」


 水を滴らせながら優しく微笑むアルフェオンにドキリとしてしまう。

 今までお互いに余裕がなかったが、思わぬ所で突然現れた水場に一気に和んでしまったようだ。アルフェオンの見せた笑顔は柔らかく整っていて、これがばったり街中であった騎士と普通の娘なら、娘は間違いなく騎士に一目惚れするに違いない。


 手を離してイグジュアートの方へと戻って行くアルフェオンを見送る。

 二人は男同士まるで子供のようなじゃれあいを始め、この一時を堪能している。


 男同士…だよなぁ―――と、イオは我が身を口元まで冷たい水に沈めた。

 

 イグジュアートの美貌が強烈過ぎて今の今まで気が付かなかったが、アルフェオンもこうしてみるとかなりの男前である。背が高く体は鍛え抜かれている様を見せつけられた。溺れかけたイオをそつなく助けてくれた所も加点対象だ。

 水辺で戯れる美男美女、いやいや、美男美少年のカップルは跳ねる水飛沫により一層の輝きを増してくれる。


 何だか同じ空間に存在しているのが申し訳なくなってくるのはどういう訳だろう?

 イオは岩陰に移動し、明らかに自分よりも美しい存在達から身を隠した。





 男連中から身を隠し、水中で衣服に手を突っ込んで体を洗う。

 一応はうら若い乙女だが、女である羞恥心よりも美しいものにこの身を曝す羞恥の方が強いのはどうしてだろうか。


 体はさっぱりしたが何となく重い気持ちで陸に上がると、水も滴るいい男がもう一人いた。


 「まったく、嫌になるわ。」


 水を吸って重くなったローブを纏ったままのアスギルが、イオの呟きを聞いて怪訝そうに眉を潜める。

 何処となく怯えたように見えるのは気のせいだろうか。

 そもそもアルフェオンに対して強気なこの男が、なんで自分の様なちっぽけな娘相手に怯えるのだ?


 「誰も彼もいい男だなって話よ。」


 いい男の二人はいまも水中でじゃれあっている。

 あまり水の中にいると体が冷えて体力が失われると忠告しようかと思ったが、それを知らない彼らでもあるまい。

 イオはアスギルから少し離れた岩場に腰を下ろすと、濡れて冷えた体を陽の光の下で乾かした。 


 









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