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汚泥怪獣オドロ  作者: 彼岸花


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19/19

進化の果て

 予想通り、巨大な人型の崩壊により発生した津波は、幸恵達がいた地域を飲み込んだ。

 津波は阿蘇山近くまでやってきて、何もかもを洗い流した。そこまでの道のりにはまだ人の暮らしている町があった筈だが……それらがどうなったかは、考えるまでもない。被害範囲はオドロが事前に提示した危険地域全て、日本国土の七割を覆う可能性も否定出来ない。

 勿論被害は日本のみならず、全世界に及ぶ筈だ。光の柱や大地の陥没によるものも合わせれば、果たしてどれだけの犠牲者が出た事か。

 そして田畑や港も破壊され、食糧の獲得手段も失われた。

 一部地域だけなら、余所から食料を支援するなどの方法が使える。だが人型の大きさから考えるに、津波はほぼ世界中を破壊した筈だ。地割れや光の柱による被害も考慮すれば、何処にも食料を分け与える余裕なんてない。

 ならば自力で確保するしかないが……幸恵達が逃げ込んだ阿蘇山には森の草木があるものの、それで十分な食べ物が得られるなら人間は農業なんてしていない。大体現代文明に浸った人類が、いきなりサバイバル生活なんて出来る筈もない。一年どころか、一月後まで生存出来るかどうか。


「いやはや、正に世界の終わりねぇ」


 暢気にこんな事を言っている場合ではないのだが、幸恵には暢気に言う事しか出来なかった。


「自衛隊も、壊滅してますよね……」


 敦はこうして幸恵の傍で生きている姿を見せているが、他の知り合い……賢治や泰造などとは連絡が取れていない。生死不明の状態だ。

 とはいえ音信不通なのは、日本中の通信設備が津波で破壊された影響だろう。研究員達や泰造などの知り合いには、オドロが示した『安全区域』に避難するよう伝えている。実際にそうしたかは分からないが、全員から避難しておくという発言自体は引き出した。約束通り逃げていれば、きっと彼等は無事だろう。


【残念です。私としても、人間への被害は抑えたかったのですが】


 そうだと思っても、敦がバケツに入れて連れてきた泥人形――――オドロの発言には少なからず苛立ちを覚えたが。


「こんな事になったのはお前達の所為だろ!」


【それについては否定しません。警告が遅かった事についても、人間への理解不足が原因です。申し訳ない】


 敦に問い詰められて謝罪はするオドロ。

 確かにオドロが原因で、この大災害が起きた。警告までの時間があまりに短いのも間違いない。しかし人間について学習し、自分達の側に問題があったと今は認識している。或いは、謝った方が丸く収まる、と理解した。

 それはオドロが人間の事を、彼等なりに解明した事の証明と言えるだろう。

 では、人間はオドロ達の事をどれだけ解明出来ただろうか? 残念ながら、殆ど分かっていないのが実情だ。特に、彼等の目的については全く分からない。

 その目的を終えた今なら、色々教えてくれるかも知れない。


「……ま、終わった事をあれこれ言っても仕方ないわ。問題があったとはいえ、警告自体はちゃんとされていた訳だし」


「せ、先生?」


「それはそれとして、流石にそろそろ教えてくれない? あなた達の目的がなんだったのかを」


【分かりました。目的は達成したので、情報を開示します】


 頼んでみれば、オドロはあっさりと受け入れた。敦は驚いたのか目を丸くする。


「え。そ、そんなあっさり……」


「今更人間がどうこう出来る訳がないって、オドロは判断しているんでしょ」


 果たしてその判断が見くびりか、はたまた妥当なものか。現状何一つ理解出来ていない事を鑑みるに、恐らく後者だと幸恵は思う。

 同時に、教えられても理解出来るだろうかと少し不安にも感じた。石器時代の人類が原子力発電所の建設計画について話されても、「雷の力を生み出す建物」ぐらいしか分かるまい。なんでそんなもののために食べ物がある森や砂浜を潰されなければならないのか、猛毒の廃棄物を生み出すのか、理解に苦しむ筈だ。同じ事がオドロ達の計画にも言える。


【私の目的は、精神体への昇華です】


 懸念した通り、オドロの言葉は何一つ意味が分からなかった。


「精神、体……?」


【はい。海洋の無酸素海域が広がり、生息域の拡大によって個体数を増やせた私は、大きな知性を得ました。そして増大した知識を用い、様々な思考実験、実証実験をしました】


「……その実験の目的は?」


【目的、と言えるほどのものはありません。人間的な表現をするなら、暇だったから、といったところでしょうか】


 退屈しのぎにあれこれ空想する、なんか作ってみる。人間にも理解しやすい動機だ。これといった矛盾もないので、幸恵は静かに次の言葉を待つ。


【様々な実験を行いました。その一つに、精神の行き着く先がありました】


「精神の行き着く先?」


【つまり、私の思考能力を拡張し続けた果てに何が起きるのか、という事です】


 何処か楽しげな口調で、オドロはこう話を続けた。

 ――――精神。

 それ自体は如何にもオカルト、またはファンタジーのように聞こえてくるが、実際には神経細胞同士の伝達によって生じる『情報』の集まりである。人間も昆虫も、オドロも基本的な原理は変わらない。

 そして情報とは、エネルギーである。


【高密度な情報ほど、エネルギーが大きい……ここまでは良いですか?】


「ええ、良いわ」


「いやいや、良くないです。全然分かんないです!」


 話の前提部分で、敦が音を上げた。確かにこれは難しい話だ。何しろ量子力学が関わっているのだから。


「そうね、少し説明するけど、あなたはマクスウェルの悪魔を知ってる?」


 マクスウェルの悪魔とは、熱力学に関する思考実験だ。

 まず二つの部屋を想定する。部屋は隣り合っているが、壁は断熱性のため隣の部屋の温度が伝わる事はない。そして片方の部屋には平均気温二十度の空気があり、もう片方の部屋は真空となっている。

 部屋の空気が移動するには、壁にある質量ゼロの扉(つまり開閉にエネルギーを使わない扉)を通らなければならない。この扉はとても小さく、分子一個通るのがやっと。よって一度に一個の分子しか通行出来ない。

 悪魔はこの質量ゼロの扉を開け閉め出来る。そして温度の高い粒子が近付いた時だけ扉を開け、隣の部屋へと移すという動きを行う。

 この動作によって何が起きるか?

 まず大前提として、大気とは多数の分子の集まりであり、それぞれの分子の温度は異なる。「気温二十度」という表現はあるが、これは個々の分子の温度とは関係ない。百度の酸素もあれば、マイナス百度の二酸化炭素もある。数え切れないほどある分子の『平均温度』が気温二十度の正体だ。

 この大気分子に対し、悪魔が扉を開け閉めする。動きが正常に行われれば、高温の分子だけが隣の部屋へと移る。先程説明したように、気温とは大気分子の平均温度。よって熱い分子だけ集めれば、片方の部屋の気温は上がっていく。

 これを何度も繰り返せば、やがて気温二十度よりも冷たい(熱い分子がなくなった分冷えたように見える)部屋と、二十度よりも熱い空気の部屋に分かれるだろう。

 そして重要なのは、()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()という事だ。


「えっ? エネルギー、使わないのですか?」


「使ってないでしょ。扉の質量はゼロなんだから、エネルギーは使わないわ」


「という事は……ど、どういう事です?」


「つまり、これは熱力学の第二法則、エントロピー増大の法則に反しているの」


 エントロピー増大の法則とは、簡単に言えば「乱雑さを整えるにはエネルギーが必要」である。

 よく例えに使われるのは本棚。本棚から落ちた本は、勝手には元に戻らない。人間が手を出すか、本が浮かび上がるほどの巨大地震が起きるか、なんにせよ本を本棚へと戻すにはエネルギーが必要だ。

 温度にも同じ事が言える。ある空気の塊の中には、冷たい分子と熱い分子がある。この分子を分けて、熱い空気と冷たい空気に整えるには、エネルギーが必要だ。二つが勝手に分かれる事はあり得ない。厳密に言えば、分子の動きはランダムなので絶対にあり得ないとは言わないが……百兆年に一回もないような出来事を、あり得るとは言わないだろう。

 だかマクスウェルの悪魔は、エネルギー消費なしに空気を分けてしまう。これではエントロピー増大の法則が、間違っている事になる。


「熱力学は今の物理学の根幹を成すもの。この悪魔の存在を許したら、現代物理学は崩壊するわ」


「えっと、でもこれ、思考実験……想像なんですよね? だったら別に……」


「想像でも駄目。提唱された当時、この想像には物理学的な問題がなかった。悪魔の実在とかはどうでも良くて、原理上可能なのが問題なの。物理法則ってのはね、本当に理論通りなら想像でも実現を許さないのよ」


 熱力学は誤っているのか。それともマクスウェルの悪魔になんらかの問題があるのか。世界中の物理学者が、この問題の答えを探した。

 そして辿り着いたのが、情報がエネルギーを持つという結論だ。悪魔が扉を開け閉めするためには、今持っている情報を忘れる=リセットする必要があり、ここでエネルギーを使う。

 そのエネルギー量が、部屋の温度の高低差から生まれるエネルギーと釣り合うため、熱力学には反しない。つまりマクスウェルの悪魔は存在出来ない、という答えを導き出したのだ。


「これについては、既に色々な形で証明されているわ。実際にエネルギーを取り出す事にも成功している。まぁ、発電とかそういうものではないんだけど」


「そ、そうなんですか……」


【話を戻しましょう。大きな思考がエネルギーを持つという結論に達した私は、次の思考実験もしました。一定よりも大きな思考、つまりエネルギーであれば、外界からの影響で変質せず、肉体や神経を持たずとも存在出来るのではないか、というものです】


 大きなエネルギーの塊は、確かに外からの影響を受け難い。

 時速百キロで走る大型トラックを止めるには、長時間のブレーキが必要になる。時速三百キロで走る新幹線ならもっと強いブレーキを、ずっと掛け続けなければならない。一トンの水の温度を一度上げるには膨大な量の燃料が必要だ。百度を超える熱水一トンに、小さな氷を投げ込んだところで、氷が溶けるだけで熱水は殆ど冷えない。

 最たるものはブラックホールか。極大の質量(エネルギー)の塊であるブラックホールは、他のあらゆるものを取り込んでも『ブラックホール』としての性質は揺らがない。むしろ自身の質量を増し、強大化していく。

 特大のエネルギーというのは、ただそれだけで自身を守る鎧になると言えよう。


【私は大きな思考力を得た事で、可能ならば長期間存続したいという欲求を抱くようになりました。人間的な表現をすれば、死にたくない、でしょうか】


「……その死を回避するため、肉体を捨てた存在になる、と?」


【大まかに言えば、その通りです】


 オドロ達の正体は、古細菌の集合体だ。個々のコロニーが壊滅しても、オドロの意思は消えない。

 しかし本体である古細菌そのものは小さく、そして弱い。酸素が流れ込むなど、環境が変化すればあっという間に死滅するだろう。一見無敵に思えて、冷静に考えれば何時全滅してもおかしくない。

 脆弱な肉体を捨て、より強固な高密度エネルギー体となる。確かに、生存だけを考慮すれば合理的だ。人間的には身体を捨て去る事を決断するのは、中々難しい話に思えるが。


【結論を言えば、それは可能だと判断しました。精神の高密度エネルギー状態……私が精神情報体と呼ぶ形態への変化は、私という存在を永遠にしてくれる。しかし問題もありました】


「問題……エネルギー不足かしら?」


【はい。私の生命活動で発するエネルギーだけでは、精神情報体への変化は困難でした。そこでより大きなエネルギーを確保する事にしたのです】


 それが地熱だと、オドロは語る。

 最初は海底火山のエネルギーで賄おうとしたらしい。特殊な『アンカー』を打ち込み、熱エネルギーの連結フィールドを形成する……詳しい理屈は人類の科学では説明困難だが、要するに打ち込んだ場所から一定範囲内の熱エネルギーを回収する仕組みを展開。広範囲の熱エネルギーを集めたという。

 だが海底だけでは足りず、更なるエネルギーの確保が必要だった。

 そこで試みたのが地上の火山の制圧だ。アンカーを打ち込み、今まで以上に大きな連結フィールドを形成する。これにより今まで以上に大きなエネルギーを確保出来た。

 ちなみに怪獣オドロ(オドロ達は『アンカー射出体』と呼んでいる)が三日周期でやってきたのは、オドロが情報解析・対策立案・オドロ形成を完了させるのに必要な最小時間が三日だったため。色々切り詰めればもっと短く出来たが、そこまで急いでやる必要もないので、この周期だったらしい。様々な場所に現れたのは、土地によって対応に変更が必要か確かめるためだったそうだ。

 ともあれ目論見通り膨大なエネルギーを確保し、目標値に到達。そして今日、そのエネルギーを用いて精神情報体への『昇華』が行われた。


「成程。もう精神情報体になったから、秘密にする必要はないって事ね。ちなみにあなたは、取り残された状態じゃないの?」


【今は人間への説明のため残っていますが、精神情報体となった私が後で回収してくれると連絡が来ています。仮に無理だったとしても、私の本体が精神情報体となったのなら特に問題ありません】


 どうやらこのオドロも、その気になれば仲間の下へと向かえるらしい。そして戻れなくても構わないとの事。

 集合意識らしく、『個』の存続にはあまり執着していないのだろう。


【説明は以上です。他に何かありますか? なければ、私もそろそろ精神情報体に合流するのですが】


「……それなら幾つか質問させて。まず、あなたに以前聞いた話では、あなた達の知性が急激に発達したのはここ数十年よね? その数十年で、人間の哲学を凌駕するだけの発達をどうやって遂げたの?」


【人間の歴史を詳しく知らないので断言は出来ませんが。単純に、思考量の違いと思われます】


 オドロ曰く、先程出現した巨大な人型……あの中には大量のオドロがいたという。

 いくら個々の能力が低くとも、あそこまで巨大な数がいたら人間を凌駕するのは容易い。膨大な量のオドロがひたすら思考し、計算し、世界を解析。その結果人間以上に精神とエネルギーに詳しくなった、という事か。体長一マイクロメートルの古細菌であれば、人間よりも分子や量子など、ミクロな世界を観測しやすいのも発展を後押ししたかも知れない。

 またオドロの興味はひたすら自己を向いていた。宗教や思想の対立、その調整である法学や異文化コミュニケーション、生物学や薬学などにあまり関心がなく、思考の大部分を自己の興味と生存に費やす。このためほぼ最短最速で、精神情報体という結論に至ったのではないか。

 どれもオドロ自身の推測だが、成程と幸恵は納得する。


「じゃあ、次の質問。あなたがその精神情報体とやらになるため大量の地熱を消費したと思うけど、この後地球はどうなるの?」


【惑星の存続という意味では、変わらないでしょう。ですが気候は大きく変化します。今回の試みにより地殻は冷却され、マグマの多くも凝固して岩石となりました】


 地熱が気温に与える影響は、殆ど無視出来る水準である。だから地殻が冷え切っても、地上が凍り付く事はないだろう。

 しかし地殻の熱は、火山や地震などのエネルギー源でもあった。

 つまり地殻が冷えれば、火山活動や地震も止まってしまう。一見災害がなくなって良い事に思えるが……火山活動がなければ地下深くと地上の物質循環が止まってしまう。マグマに含まれる硫黄やリンなどの元素が、地下にどんどん溜まっていくのだ。

 海底の熱水噴出孔などは正に地熱や地下物質による恩恵である。これに依存している生物種は多く、一斉に止まればそれら生物は絶滅するだろう。それら生物の絶滅は、熱水噴出孔に依存していない生物にも影響があるかも知れない。生態系が崩壊し、人類の生活に悪影響を及ぼす事も考えられる。

 そして地熱発電や、温泉を用いた農業など、直接的な地熱利用も不可能になる。

 いずれも化石燃料を用いない、持続可能な仕組みだった。それらが使用不可能になるのは、数百年後の人類文明存続を脅かすだろう。

 尤も、先の津波で世界が崩壊していなければ、という前置きは必要だが。


【他にはありませんか?】


「……ええ。私からはないわ。麻原くんは?」


「えっ!? いや、僕は、その、何が何やらで……」


【分かりました。では、私も精神情報体に合流します。また会う時があるかは分かりませんが、その時は再び語り合いましょう】


 あっさりとした言葉で告げるや、泥人形がボロボロと崩れ落ちる。

 泥人形内にいたオドロが、精神情報体に合流したのだろう。もう、泥人形が動く事はあるまい。

 人間二人だけが、この場に残された。


「……先生。あまり、よくは分かっていないのですが……もしかしてアイツら、地球の事を滅茶苦茶にしていったんですかね?」


「まぁ、大まかに纏めるとそんな感じかしら?」


「なんて奴等だ! 地球を滅茶苦茶にしていくなんて!」


 ようやく事態を理解して、敦は今更怒りを露わにする。

 確かにオドロ達のした事は地球環境の破壊である。それも人類の環境破壊が子供のイタズラに思えるぐらいの、大規模な破壊だ。

 しかしそれがなんだというのか。

 母なる地球の破壊? 人間の死? 生物大量絶滅? 全て、人間にとっての『悪』であり、オドロにとっての悪ではない。オドロからすればこれは彼等が安全に生きるために必要な犠牲だ。人間だって、地球の破壊と引き換えに全人類が安全と幸福を手に入れるのなら……簡単には決断出来ないだろうが、少なくない人数がその行為を肯定するのではないか。

 オドロも人間も、あまり変わらない。単にオドロの方が先に、その方法を手に入れただけなのだろう。


「ま、確かにとんでもない奴等だったわね。私ら人類は、アイツらにとって踏み台ですらなかったみたいだし」


「た、ただの単細胞生物の癖にぃ……!」


「その台詞、なんか悪役っぽくない?」


 心底悔しがる敦の姿を少し滑稽に思う幸恵。思ったからこそ、ふと、こんな考えを抱く。

 無意識に、地球生命の『主役』は人間だと思っていなかっただろうか。

 確かに人間は今までの地球にとって、良くも悪くも大きな影響を与えている。地球生命が今後どのような未来を辿るか、その命運を握っているといっても過言ではない。

 しかしオドロは人間以上の影響力を持っていた。

 もしも地球生命の歴史を物語とするなら、オドロ達こそが主役であり、人間は「ちょっと出番のある脇役」に過ぎなかったのではないか。そんな筈はない、人間こそが地球の主役だ――――そういう意見もあるだろう。だがその説明は、結局のところ人間が如何に素晴らしいかを、人間視点で述べる文学でしかない。

 地球のエネルギーを吸い尽くし、生命として新たなステージへと移ったオドロ。彼等こそが地球生命の『主役』と名乗るのに相応しい。


「(まぁ、それがなんだって話ではあるんだけど)」


 人類は、主役ではなかったかも知れない。けれどもこの星で生きていて、今も生き残っている。

 これから訪れる気候の変化、生態系の崩壊、資源の枯渇……どれも決して生易しいものではない。生き残れるという保証もない。けれども生きていく意思があれば、生き残る可能性はある。

 主役以外にだって、物語と将来はあるのだ。


「さぁて、まずは……今日の寝床と食糧の確保かしらね」


 幸恵は他の生き物達と同じく、今日を生きるための行動を始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
まさか細菌が『物理的に解脱する』とは……………。 今更なんですが、幸恵達と一緒にいたオドロは人間と接触してたかだか2~3日くらいでどうやって日本語を学習&マスターしたんでしょうね(;^ω^) 敦の台…
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