初接触
世界各地に出現したオドロの数は百を超えた。
全世界同時襲撃により、各国は混乱状態に陥っている。情報連携どころか現状把握すら不十分な有り様で、一般市民の避難も滞っているという。犠牲者数が把握出来るのは、果たして何時の事か。
今の状況下において、オドロ研究の最前線であるこの施設の役割は重要だ。オドロの行動を解析し、この異常事態の原因や行動パターンの割り出しを行わねばならない。主任である幸恵にはそれら研究を総括し、政府へと報告する役割がある。
しかし今、幸恵は研究チームから一時的に離れていた。他に優先すべき事柄――――未だ殆どが未知のベールに覆われている、オドロという存在を解明するチャンスを掴むために。
「きっかけは、今日の実験後の片付けです」
研究施設の廊下を歩きながら、幸恵の前を進む賢治は話を切り出す。
余程話したかったのか、口調は何時も以上の早口だ。足も早い。彼に付いていく幸恵、それと敦も忙しない足取りで廊下を進む。
「オドロから採取された新種の細菌の培養に成功後、実験に使用したものは直ちに廃棄処分する手順となっています。これはバイオハザードなど、様々な問題が起きるのを防ぐためです」
「ええ、そうね」
「ところが助手の一人が、この廃棄手順を守らず、特定のゴミ箱に捨てていました。全部、纏めて」
「……さらっと問題を報告しないでよ。しかも一発でクビになるような重大インシデントじゃない」
「すみません。今日発覚したもので、今まで報告の機会がありませんでした」
ただでさえ昨今、オドロ研究の進展が遅い(一般的な科学の進展速度からすれば全然そんな事はない)と、世論から突き上げが来ている。ここで問題を起こしたとなれば、更なる批難を受けるのは想像に難くない。
とはいえ、失敗により新たな進展があるというのも科学の世界では珍しくない。この件を美談にする気など幸恵には毛頭ないが、正規の方法だと辿り着けない『真理』は確かに存在する。
「……その助手については後で詳しく聞くとして。で? それからあなたはどうしたの?」
「ルールに則り、報告をしようとしました。そのため違反物の確認を試みました」
隠蔽などはしようともしていない、というのが賢治の言い分だ。実際、彼の性格的にそういう事はしないだろう。
また、話の通りなら捨てられた廃棄品は、復数の実験で使用したものの混合物である。採取場所や培養日も異なり、実験で『再利用』するのには品質が悪過ぎる。細菌大好き人間である賢治が、そんなものを実験に使うとは思えない。
「その時です。廃棄物から物音が聞こえたのは」
「……物音?」
「廃棄物があったゴミ箱から、叩くような音が聞こえました。最初は気の所為かとも思いましたが、音は何度も鳴り、気になって中身を取り出したのです」
ゴミ箱内には、大量のヘドロが堆積していた。
賢治はこれまでに大量の実験をしてきた。そのための申請に幸恵は全て目を通しているので、ゴミ箱にどれほどの量のヘドロがあったかなんとなく想像が付く。この大量のサンプル廃棄が、件の助手の負担となったのかも知れない。だとしても擁護しようのない事故だが。
ともあれそのヘドロには、容器の破片などが混ざっていた。最初賢治は、廃棄時に壊れたのだと思っていたが……そうではないと気付く。
ヘドロがハッキリと、大きく蠢いたがために。
「まさかと思っていたところ、ゴミ箱内のヘドロは私へのコミュニケーションを試みてきました。自分はオドロだと、自ら名乗ったのです。現在ゴミ箱は研究室内に配置し、廃棄手順を無視した者以外の助手達に監視させています」
「……ちなみにコミュニケーション方法は?」
「会話です。拙いですが、日本語での会話を行いました」
会話によるコミュニケーションで、ヘドロこと自称オドロは二つの要求をしてきた。
一つは水分の補充。
そしてもう一つが、この施設のトップとの会談だという。水は少量渡し、そして今幸恵を引き連れているという訳だ。
「出来れば水を与えるのも私の許可を得てからにしてほしかったけど」
「しかしヘドロはかなり乾いていて、オドロは苦しそうでした。万が一乾燥で死なれては困るでしょう」
「それはそうなんだけどね。ま、良いわ。それにしても日本語で話し掛けてくるとは……何処で学んだのやら」
「そこまでの会話は出来ていないので不明です。詳細は主任自身が確認してください」
気付けば、賢治の実験室前まで来ていた。
幸恵は力強く扉を開ける。
……無数のサンプルと試薬が置かれた、理路整然とした部屋。片付けが出来ない幸恵とは違う、モデルルームのように整ったインテリアの中心に、件のゴミ箱が置かれていた。周りには賢治の助手が二名、ゴミ箱を見ている。彼の助手は全部で三人いて、顔と名前ぐらいは幸恵も覚えているので、誰が『不届き者』かはすぐに把握出来た。
等と余計な思考を挟んだところで、そのゴミ箱が突然横倒しになった。
どろりと溢れ出すヘドロ。なんだ、と思ったのと同じくして、漂うヘドロ特有の悪臭に人間達が怯む。
その間にヘドロの中から、小さな『モノ』が歩き出す。
それは、泥人形のような形をしていた。手足があり、頭があり、胴体を持つもの。大きさは三十センチぐらいだろうか。ヘドロを固めて作ったと思われる体色をしているが、崩れる様子はなく、しっかりと二足歩行をしていた。
【とつぜん……の……こと……で……おどろ……かせ……て……もうし……わけ……あ……りま……せん】
そして拙いながら、言葉を話す。
その時点でこの泥人形が、オドロに匹敵する超常的な何かだと幸恵は察した。
「……ええ、少し。だけどそれは、私達とのコミュニケーションを円滑にするためよね?」
【は……い……そのとおり……です】
尋ねてみれば、温和な回答が返ってくる。泥をごぽごぽと泡立たせるような声は酷く不気味であるが、その理性的な言葉が気持ちを落ち着かせてくれた。
丁度よく置かれていた水槽前の椅子に、幸恵は座る。
「はじめまして、で良いかしら。私がこの研究施設の主任である飯海幸恵よ」
ひとまず自己紹介。コミュニケーションの基本から実施してみる。
【わたし……は……なまえ……を……もちません……ですので……にんげん……が……つかう……おどろ……と……よんで……ください】
泥人形はオドロを自称する。あなた達の使う、という言い方から、怪獣オドロと同一の存在と考えて良さそうだ。
一旦その言葉を信用し、幸恵は泥人形をオドロと呼ぶ事にした。
「分かったわ。じゃあ、早速で悪いんだけどこちらから質問してもいいかしら? あなたが本当にオドロなら、訊きたい事が山程あるの」
【はい……かまい……ま、せん……わたしの……もくてき……の……ために、も……まずは、そうご、りかい……が、ひつよう……です……どうぞ……すきな……しつもん、を……し、て、くだ……さい……】
「……成程。じゃあ、お言葉に甘えて。まず一つ目の質問だけど、何故、今になってコミュニケーションを取ってきたの? あなた達の元となったであろうヘドロは、ずっと前からこのゴミ箱にあった筈よ」
【りゆう、は……いくつ、か、あります……たいみんぐも、あり、ますし……なにより……わたしの、いしき、は……かず、の……えいきょう、を……うける……ため、です】
少しずつ言葉の拙さが消えている。上達速度の向上に驚きながら、オドロの回答についても幸恵は思案する。
私の意識は数の影響を受ける。
つまり数が増えれば、オドロの意識が『明瞭』になるという事なのか。今までゴミ箱や試験管から話し掛けてこなかったのは、数が足りなくて意識がなかったのか。とはいえタイミングもあるらしいので、一概には言い切れない。
「もう少し、詳しく教えてくれる?」
【はい……わたし、は、にんげんの、いう……こさいきん、という、せいぶつ、です】
幸恵が説明を求めると、オドロは落ち着いた口振りで話してくれた。
曰く、オドロとはヘドロ内に生息している、とある嫌気性細菌の意思である。
ただし単一個体のものではない。単細胞生物であるオドロに、『一個体』で自我を持つほどの複雑さはないのだから。オドロの意思は、集団により形成されるという。
具体的には、個体間の連結により生まれる。オドロは隣接した同種個体と電気信号のやり取りが可能らしい。この性質は本来集団での活動を行うためのもの。例えば大きな石などの障害物を協力して乗り越える、難分解性の有機物を一致団結して分解する、といった行動のために使われてきた。
しかし集団が大きく、数が増えた事で、電気信号はやがて神経細胞に似た情報のやり取りを果たすようになる。
複雑な情報処理が可能になれば、より効率的な行動が可能だ。危険の予兆を察知したり、餌の場所を学習したりする事も可能となり、もっと大きな集団を維持出来る。
そうして繁栄したのが、オドロという種族だという。
「……ここまでの話からして、あなた達は……人間など別の知的存在に生み出された訳ではないという事?」
【はい、そのとおり、です……にんげんに、わかりやすい、いいかたで、あれば、やせいせいぶつ、というのが、せいかく、でしょう】
知性ある存在を野生生物と呼称するのは気が引けたが、オドロの方は気にせず使う。
極めて聡明な知性だ。傲慢さや、こちらを見下す印象も今のところない。
だからこそ疑問も抱く。
「では、失礼ついでに。あなた達は知能を獲得したというけど、古細菌にそれが出来るとは思えない。嫌気性細菌なら尚更ね。どういう理屈で、知性を得たのかしら?」
話の通りなら、オドロは嫌気性の古細菌……酸素を利用出来ない生物という事になる。
人間を含む真核生物が地上で繁栄しているのは、酸素を使う呼吸――――好気呼吸のお陰だ。酸素を利用したエネルギー生産は、酸素を使わない呼吸よりも遥かに多くのエネルギーを生み出す。具体的には、エネルギー(ATP)生産量で比較すると凡そ十九倍もの差だ。このエネルギーを存分に使う事で、同じ大きさの細胞でもよりパワフルに活動可能出来る。この圧倒的な力により、酸素のある環境では真核生物が勝者となった。
オドロ達の神経伝達の効率が、どの程度のものかは分からない。だが仮に哺乳類と同程度だとしても、その細胞の作り出すエネルギーが十九分の一しかないのだから、働きも十九分の一となる筈だ。よって同程度の働きをするには、十九倍もの数が必要となる。
一体どうやって、このエネルギー効率の差を埋めたのか?
尤も、この疑問の答えは至極単純だろう。幸恵も答えには見当が付いている。
【かんたん、な、りくつ、です……わたしは、とても、かずが、おおい】
十九倍の数が必要なら、その数が集まれば良いだけだ。
そしてオドロが暮らす環境なら、それは難しくないだろう。
「もう一つ質問させて。あなた達が暮らすのは、海底深くであってる?」
【はい……わたしは、にんげんが、しんかい、とよぶ、せかいで、いきています】
深海深くならば、無酸素の領域が存在する。そこに堆積した多量の有機物……ヘドロを糧にして、オドロ達は生きてきたのだろう。
とはいえ少なくとも近年まで、オドロ達はそこまで大勢力ではなかった筈だ。世界中の海を巡る海流により、深海にまで酸素は届いているのだから。つまり生息環境はかなり限定されている。
……一度、オドロ達が人間並みの知性を獲得するのに必要な数を試算してみよう。
人間の脳容量は平均して一千四百ccと言われている。一ccが一立方センチメートルだから、体積換算で一千四百立方センチメートルという事だ。
体積を単純に十九倍にした場合、二万六千六百立方センチメートルで古細菌の『脳』は人間と互角になる。厚さ一センチでも平面なら一辺一・六三メートルは必要だ。古細菌の平均的な大きさが一マイクロメートル、一ミリの一千分の一である事を思えば、仮に十段重ねでも厚みはたった〇・〇〇〇一センチ。これだと一辺当たり五十一メートルもの面積が必要となる。
いくら海底でも、これほどの範囲が安定して無酸素化している事は稀だろう。総面積ならそれを遥かに上回る広さがあっても、連続している環境は少ない筈だ。加えて嫌気性細菌は他にも多数いて、それらとの生存競争もあるのだから、ここまでの範囲をオドロだけで占有するのはかなり難しいだろう。
それに神経細胞というのは、名前の通り神経活動に特化した細胞である。対してオドロ達古細菌は、あくまで生体能力の一つとして電気信号のやり取りをしているだけ。一個体として生きていく能力は備えているが、神経活動は『おまけ』でしかない。つまり知的活動において、体重当たりの『性能』は神経細胞の方が遥かに上の筈だ。
オドロ達が人間の神経と同じ働きをするには、十九倍程度の面積では全く足りないだろう。百倍か、或いはそれ以上の広さが必要になるのではないか。この条件の厳しさを考えるに、オドロが獲得出来る知性は、人間よりも数段下だったに違いない。
……少なくとも、十数年前までは。
【いままで、の、わたしは、あまり、ちせいが、ありません、でした。わたしの、くらせる、かんきょうが、とぼし、かった、ため、です】
「……でもここ最近は違った筈よね。人間が引き起こした地球温暖化、それに伴う海洋無酸素化の進行があるのだから」
【はい。ここさいきん、は、とくに、かんきょうが、このましい、ものでした】
海洋無酸素化の進行により、嫌気性細菌であるオドロ達の生息範囲は広がっただろう。それこそ五十平方メートルぐらいの範囲には、問題なく拡散した筈だ。
そしてその拡散した個体群同士が、接する事もあっただろう。
確かにオドロは、人間の脳よりも大きな体積がなければ知性を得られないかも知れない。だが頭蓋骨より大きくなれない人間の脳と違い、オドロ達はただの集団だ。人間の脳の百倍、二百倍もの体積を獲得する事は、環境さえ整っていれば難しくない。更にヘドロが厚く堆積していれば、高さも数センチ〜数十センチほど確保出来る。もしも人間の脳よりも一千倍、一万倍もの広さまで繁栄したら――――
【じまん、に、きこえる、かも、しれません、が……いまの、わたしの、ちのう、は、にんげん、いじょう、と、なって、います】
人間を大きく上回る『知性』を獲得しても、何も不思議ではないだろう。
……どう見てもこの泥人形オドロに、人間の脳よりも大きな体積があるようには見えないが。何かカラクリがあるのか、はたまた何処かに嘘があるのか。
どちらにせよ衝撃的な情報には変わりなく、幸恵達は驚きと困惑を覚える。
「に、人間以上って……そんな、ただの菌に……!」
「麻原くん。それは聞き捨てなりませんね。菌は人類よりも歴史のある存在です。ただの、と見下す事は賢明とは思えませんよ」
反射的に否定する敦を、賢治が窘める。一般的には敦のような反応が正しいのかも知れないが、生物学的には賢治の意見が正しいだろう。
菌というのは、決して下等な存在ではない。あらゆる環境に分布し、あらゆる資源を利用している成功者。たとえ人類が絶滅したところで、多くの菌は問題なく生きていく。その意味では、どちらがより『優秀』かは言うまでもない。
「……あなた達の存在については、理解したわ。現在の科学的常識に照らし合わせると、少し戸惑いはあるのだけれども」
【むりも、ありません。わたし、も、ちじょうに、わたし、いがいの、ちてきな、ものが、いると、わかり、どうよう、しました】
「知性が存在した事」にのみ言及する物言いは、果たして言葉通りに受け取るべきか、裏を読むべきか。相手が『人外』では、その内面を読むのは困難である。
しかし問い詰める事は出来る。
「その言い方からして、私達人間が知的だと、今は認識しているのよね? なら、なんで地上への攻撃を仕掛けているの? これによって大勢の人間が、命を落としている筈よ」
今の『オドロ』の大侵攻は、一体なんなのかと。
【ひとつ、の、ていせい、と、ひとつ、の、しつもん、が、あります】
「訂正と質問?」
【はい。ていせい、は、わたし、に、にんげん、を、こうげき、する、いとは、ありません。こんかい、の、こうどう、は、わたし、の、もくてき、を、はたすための、もの、です】
オドロが語る訂正は、そもそもこれは攻撃ではない、というもの。
多くの人類は、何を言っていると反射的に怒り出すかも知れない。しかし幸恵はこれについて、ある程度予測していた。人間がアリを踏んでも、人間はそれを『攻撃』と認識しないのと同じ事だと。
目標までの道中にいるから踏み潰しただけ。下手にあれこれ言うより、余程納得出来る意見だ。
【そして、しつもん、は、なぜ、それを、きにするのか、です】
次の質問も、そうなるとは思っていた。
敦は、カッとなったようだが。
「な、何故それを気にするのかって、人間が死んでいるんだぞ!」
【いちぶ、こたいが、しぼう、したのは、りかい、しています。それの、なにが、もんだい、でしょうか】
「何がって、どの人間にも命があって、人生とか、残された人とか……!」
「麻原くん、落ち着いてください。オドロ達には通じません」
興奮する敦を窘めたのは、傍にいた賢治。しかしそれは、敦を一層感情的にさせる。
「通じないって、そんな訳ないじゃないですか! コイツには知能があるのだから命の尊さぐらい……!」
「いいえ、分かりません。いいですか、オドロの意識は無数の古細菌の集まりにより出来ているのです」
そこまで言われて、ようやく敦は押し黙る。ただし納得したのではなく、理解出来なくて困惑したような沈黙だったが。
――――端的に言うなら、価値観の違い。
オドロ達は無数の『個体』が集まって、一つの自我を形成している。つまりオドロの自我にとって、個体というのは代えが利く存在だ。人間が頭をぶつけて脳細胞の一つ二つを失ったところで、大して気にしないのと同じである。
オドロによる死者が数十万人いたとしても、今の八十億もの人類から見れば一万分の一以下の犠牲である。オドロからしたら、ちょっと不快に感じるかも、ぐらいのダメージか。
「……私達人間は、あなた達における一個体で、自我を持ち合わせているの」
【こたい、が、じがを、もつ……なるほど。それは、そうてい、していません、でした】
幸恵が説明すると、オドロはやや驚いたように答える。オドロにとっては本当に想定外の概念なのだろう。むしろ想定外でありながら、すんなり受け入れるのは知能の高さ故か。
【にんげん、の、いけん、は、りかい、しました。もうしわけ、ありません、が、こちら、も、もくてき、が、あるため、こうどう、の、ちゅうし、は、できません。ごりょうしょう、ください】
ただし理解はしても、それが和解となるかは別問題なのだが。
「な、なんでだよ!? 人間にも自我があるって分かったなら、配慮してくれたって……」
【なぜ、わたし、が、にんげん、に、はいりょ、する、ひつようが、あるの、ですか?】
「何故って、それは……!」
「麻原くん。よく考えて。私達人間も、何時、他の生き物に配慮しているの?」
「何時、って……」
幸恵が問うと、敦は黙ってしまう。それは突然の質問だからというのもあるだろうが、何よりオドロの意見を擁護するように聞こえたのがショックだったのかも知れない。
実際、これはある意味擁護だ。その意見は当然だ、という意味で。
これまで人間は、様々な理由で他種を『虐殺』している。例えばステラーカイギュウやリョコウバトは、簡単に捕まえられる食料として乱獲された結果絶滅した。ミヤイリガイは病気を媒介するという理由で絶滅寸前まで追い込まれ、アホウドリも羽毛採取のため乱獲した。
それらの事実を「当時は仕方なかった」や「生存競争だ」と言うのであれば、その時点でオドロの批難など出来ない。オドロだって目的のための行動なのだから人間の巻添えは「仕方ない」事であるし、強いオドロが人間を蹂躙するのは「生存競争の勝者」なのだから許される行いとなる。
また、今の人間は自然や生命に配慮しているというが……実際は刻々と温暖化は悪化し、森林面積は世界的に見れば減少を続けている。開発により絶滅危惧種や絶滅種は年々増えており、漁業資源は枯渇という名の絶滅寸前で、何一つ配慮出来ていない。そもそもこれらの配慮は、環境破壊をすると人間社会の持続性が失われるからやるのであって、本質的には自衛のための行動。これを「他の生命に配慮している」と言い出すのは、傲慢を通り越して愚者であろう。
人間自身がやっていないのだから、オドロを批難するのは身勝手というもの。いや、一方的に要求を突き付ける様は駄々をこねるというのが正確か。
無論、それはオドロの蹂躙を黙って受け入れるという意味ではない。
「次の質問をしましょう。オドロ。あなたが地上に来た目的は、一体何?」
もしも人類を脅かす目的であれば、全力で抗う。それは人間云々の前に、生命として当然の対応だ。
【もくてきの、しょうさいは、まだ、こたえ、られません】
尤も、オドロ側もそこまで都合よくべらべらとは喋ってくれず。
「答えられない、ね。なら、なんのために私達に接触してきたの?」
【それこそ、はいりょ、です。わたしの、もくてきが、じっこう、された、とき、ちじょうに、おおきな、ひがいが、しょうじる、かのうせいが、あります。ちてきせいめいたい、である、にんげんに、そんしつを、あたえるのは、わたしにとって、も、ふほんい、です。そのため、わたしは、けいこくを、つたえるため、せっしょく、しました】
「警告を伝える?」
【はい】
淡々とした、落ち着きある言葉。オドロは何一つ、動揺も悲しみも喜びもなく、言葉を続けた。
【にんげんに、あんぜんな、ひなんばしょを、おしえます。みっか、いないに、ひなんしない、ばあい、せいめいの、ほしょうは、できません】
恐ろしいリミットが三日後に迫っていると、告げるために。




