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汚泥怪獣オドロ  作者: 彼岸花


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14/19

知性と知識

 米国ワシントン州にオドロ六号が出現した。

 その連絡から五時間後の、翌日深夜一時。提供された映像記録でオドロ六号の姿を確認。基本的な形態は北朝鮮に現れたイヌ型のままだが、五号よりも尻尾が長くて太い。対空迎撃能力が改良されたと思われる。また爆撃に対する防御力も高く、装甲も改善されたようだ――――

 その旨を日本政府、そして米国へと伝えた幸恵は、会議室にいた。椅子にもたれ掛かり、天井を仰ぐ。

 目は、すっかり死んでいた。


「お、お疲れ様です……その、お茶、飲みます?」


 横顔を見た敦が、少し怯えるような顔になっている。その事に気付いた幸恵は、眉間の皺を指でほぐしてから彼と向き合う。


「ええ、ありがとう。頂くわ」


「……ついにアメリカにも現れましたね」


「ついにと言うべきか、いよいよと言うべきか。相手に国境の概念がないなら、多国間に現れるのはおかしな事ではないのだけど」


 三日前には懸念していた事が現実となり、悔しさを通り越して滑稽に思えてくる。

 まさか米国政府も、本気でオドロがアジアにしか出ないとは考えていなかっただろう。出現したオドロ六号に対し、米軍は極めて迅速に展開。既に訓練済みだと言わんばかりに苛烈な攻撃を加えている。米国内の火山の位置から、事前に作戦立案及び部隊移動をさせていたに違いない。

 流石は世界最強の軍隊と言うべきか。しかも米軍は戦術だけでなく、兵器自体も強力だ。北朝鮮は勿論、日本の自衛隊さえ足下に及ばないだろう。実戦経験という意味でも、世界各地で戦争や介入をしてきた米軍には十分備わっている。そして核の運用ノウハウも恐らく世界一だ。

 その米軍でさえ、オドロ六号は打ち破った。

 正確には突破した、と言うべきか。オドロ六号はあらゆる地形を無視して一直線に進行、陸軍空軍からの通常攻撃は全て無視。米軍といえども、通常兵器では歯が立たない。

 唯一可能性がある核兵器も、普通に撃ち込めば迎撃される。

 そこで米軍は、進行ルート上に核を配置する作戦を実施した。一直線に進むオドロ六号が接近したタイミングで、無線により起爆する……という作戦。これならば弾道ミサイルのように迎撃されない。しかも相手が知的な可能性を考慮し、核爆弾が見えないよう地面にしっかり埋めておくという念の入れようだ。

 そう思っていた米軍を嘲笑うように、オドロ六号は核兵器があるルートを()()()()

 オドロは人間達の隠蔽工作をあっさりと見破り、最適な行動を取ったのだ。「そんな間抜けな手に引っ掛かると思ったのか?」と言わんばかりの対応に、米軍は一時混乱したという。

 どうにか立て直し、急いで弾道ミサイルの発射をしたが……予想通り迎撃されてお終い。


「(結局、セントヘレンズ山近隣での爆発を許す結果に終わった。人的被害も核による汚染も、結果的に少なかったとはいえ……これは……)」


「それにしても、オドロって思ったよりも賢いのですね」


 自己嫌悪に浸っていると、敦がそんな事を言い出す。

 どうなら彼は、オドロが核兵器を迂回するとは思ってもみなかったらしい。


「……流石にそれは、見くびってない?」


「えっ。だってオドロって、最初は上陸するだけで一苦労な身体だったじゃないですか。考えなしって感じだから、あんまり頭は良くないのかなって」


「それは単純に無知なだけだと思うわ。つまり地上について知らないだけ。知性はあったって事でしょ」


 敦の意見に反論しつつ、幸恵はふと思考を巡らせる。

 無知なだけで知性はある。

 オドロの行動と適応速度を鑑みるに、恐らくこれは正しい。オドロは地上について何も知らないが、知った事を応用して考えるだけの知性はあるのだろう。

 そしてその知的水準は、恐らく高い。

 理由は米軍が配置した核兵器を迂回したため。弾道ミサイルと核弾頭本体は、見た目からして全然違う。少なくとも外見を記憶するだけでは、それが同じものとは気付かない。

 だとすればオドロは放射性物質の存在を検知し、それを危険だと考えている筈だ。どうやっているかは分からないが、外見ではなく中身で判断している。

 放射性物質自体は自然界にいくらでも存在する。例えば核融合の燃料となる水素の同位体トリチウムや、核燃料になるウランなどは海水中にいくらでも見られる物質だ。海から現れるオドロが、これらの物質を知っていてもおかしくない。

 しかしそれら放射性物質と爆発が関連していると理解するには、核分裂などの知識が必要な筈だ。人間でさえこれらの技術や知識を得たのは二十世紀の話。高い知能と技術水準が必要であり、『野生生物』に出来るとは思えない。ここまで優れた知性があるなら、オドロには理性もあると考えるべきか。


「……理性」


 そこまで考えて、ふと自分の言葉に違和感を抱く幸恵。


「ねぇ、ちょっと訊きたい、というか私の認識が変じゃないか確認したいんだけど」


「え? あ、はい。なんでしょう」


「オドロってかなり理性的じゃない? 今回の核兵器だって、わざわざ迂回している訳だし」


 もしも核を脅威と判断したなら、それを『排除』するのも一つの戦略だろう。例えば対空迎撃用の射撃を遠くから撃ち込むのも一つの手だ。

 誘爆する可能性を考えて控えたかも知れないが……地上に置かれた核兵器と弾道ミサイルのそれが同じと気付いたなら、迎撃しても爆発しない事は分かる筈。攻撃自体を避けた、と考えるのが自然だろう。


「当然だけど、直進する方が目的は速く達成出来るわ。最短距離で向かう癖に、時間を重視してないとかあると思う?」


「うーん。確かに戦闘機も戦車も無視してますから、オドロ自身は攻撃が嫌いなのかも? あれ、でも爆発はしてるし……?」


「爆発が攻撃とは限らないでしょ。以前あなたが言ったように、何かを地中に打ち込んでいるだけかも知れないわ」


 オドロの爆発により大勢の人間が死んでいるが、それは単なる巻添え。オドロは一貫して、人間自体には無関心なのかも知れない。

 或いは、人間という存在を知らないのではないか。


「(だとすると、異星人という可能性はほぼなくなる)」


 地球を外から観察した時、人類の文明が目に入らないとは考え難い。

 別段人類が偉大だなんて、幸恵は思っていないが……現在、地球上の人工物の総質量は生命体の質量を超えているという研究報告がある。夜になれば世界中で人工の明かりが灯され、世界各地に文明(人類)の存在を窺い知れるだろう。

 知的と判断するかどうかは兎も角、繁栄している種族がいる事は簡単に分かる筈だ。他の星の調査や侵略をする時、現地生物の文明力を調べないとは考え難い。

 高度な知性を持ちながら、人類について知らない。つまりオドロを生み出したものは活動圏内にいる限り、人類との接触が起こらない存在なのではないか。

 そんな条件を満たすのは――――


「……地底人か海底人」


「え?」


「地底人か海底人がオドロを生み出した、って私が言い出したらどう思う?」


 幸恵が尋ねると、敦は言葉を詰まらせる。しかし顔は如実に物語っていた。

 コイツ、マジで言ってんの? と。


「まぁ、そういう反応になるわよね」


「……あ、冗談ですか? もう、ビックリさせないでくださいよぉ……」


「いや、六割ぐらいは本気」


「ええぇぇぇ……」


 本気度合いを伝えると、敦の顔が先程と同じものになる。今度は少し不服なので、理由を説明した。


「地底人とかはものの例えよ。つまり海とか地の底に、人間以外の知的生命体がいるんじゃないかって考え」


「それも大分ぶっ飛んでいると思うのですけど……」


「ぶっ飛んでるかもだけど、オドロの行動から推測するとそうなるのよ。流石に異世界人って可能性は、相当低いだろうし」


 現状最も可能性の高い推測。だからこそ幸恵は大真面目に、その可能性を検討してみる。

 地底と海底のどちらがあり得るかを考えれば、恐らく海底だろう。仮に地底人だとすれば、火山やマグマへの干渉でわざわざ地上に出てくる必要はない。海底人だからこそ、上陸しなければならない筈だ。

 本当に相手が海底にいるのならば、そこに交渉団を派遣して、話し合いで解決出来るのではないか? オドロの行動からして人類を攻撃しているつもりはなさそうであるし、理性的であるなら対話の概念ぐらいはあるかも知れない。相手の要求次第では人類との和解が可能ではないか……

 そんな考えが浮かんだが、中々困難だろう。

 まず、人類にとって海底は活動が著しく制限される環境である。確かに水深一万メートルまで潜れる深海調査艇は開発されているが、活動範囲は決して広くない。事故を起こせば乗組員全員死亡が必然で、総理大臣のような国の運営に携わる重要人物をおいそれと乗せられるものではない。

 そして海底人が何処にいるのか、現時点では推測さえ出来ない。オドロが最初に現れたのは日本近海だが、それは日本が試験に都合が良かっただけかも知れない。近くに潜んでいる事を保証するものではないのだ。

 何より、本当に海底人が存在するかも不明だ。オドロの身体になんらかの文明的装置があれば良いのだが、そんなものは未発見。現状海底に文明がある根拠は何一つ存在しない。仮にいたとして、その住民はどんな姿をしているのか? アンコウ()か、メンダコ(軟体動物)か、ダイオウグソクムシ(節足動物)か……姿形が分からなくては探しようもない。


「(調査隊の派遣を依頼しようにも、これじゃあ門前払いね。調査費用も馬鹿にならないし)」


 そびえ立つ障害はあまりに多く、そして険しい。

 証拠もなしに行動を起こすには、「この研究チームの言う事なら信じられる」という信頼が必要だ。つまりオドロに関する大発見がほしい。それも知的生命体の干渉を臭わせるものが。


「(一応、報告は上がりつつある)」


 オドロ一号の出現から今日で十五日目。幸恵達の研究チームでも、そろそろ簡単な成果は出始めている。

 例えばオドロを構成するヘドロについては、『新物質』だと判明した。極めて複雑な有機物であり、タンパク質を多く含んでいるという。タンパク質同士は多糖類により結び付き、さながら『肉』のようにヘドロを固めているらしい。

 ただし多糖類の働きを効率化するには、適度な酸性度と無酸素環境が必要との事。オドロ一号から三号では、酸性度の調整が不十分だったため十分な強度を得られなかった。五号ではこの酸性度がかなり改善されており、抗酸化物質を含む事で酸素環境での長時間活動に適応しているという。

 またこの多糖類を含むヘドロに電気を流すと、全体が収縮するなど反応を起こす。このためオドロの『動かし方』は、電気信号によるものと考えられる。とはいえただ闇雲に電気を流しても単純な収縮にしかならず、おまけにこの多糖類は抵抗が大きい。なんらかの『配線』がなければ全身に電気が回らず、制御は出来ない筈だが、現時点でそのような部位は発見されていない。

 着実に、オドロという存在の理解は進んでいる。だが未だ謎は多く、海底人の存在を示すほどではない。幸恵自身信じきれていないのだから、これで政府に「海底を調べましょう!」と言い出しても精神状態を心配されるだけだ。


「(七号、八号と来るまでに、何か見付かるかしら)」


 未来に期待するには、まだまだ手探り状態が過ぎる。

 また幸恵は、天井を仰ぐのだった。
























「なん、だこれは……」


 白い防護服と防毒マスクを付けた自衛隊員が、唖然とした声を漏らす。

 彼以外にも、此処には大勢の自衛隊員がいる。その誰もが言葉を失い、呆気に取られている様子だ。全身を防護服で覆い、防毒マスクで顔は隠れているのに、全員の気持ちが見ただけで分かるほど動じていた。

 ただ、流石はプロと言うべきか。唖然としながらも彼等は黙々と手を動かしている。明らかに作業スピードは落ちているが、決して止まりはしない。

 粛々と任務を進めるがために、彼等はそれを目の当たりにする。

 大地に埋め込まれた、巨大な『蓋』を……

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