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汚泥怪獣オドロ  作者: 彼岸花


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13/19

怪獣快進撃

 オドロ五号の出現予想日――――の翌日。幸恵達研究チームのメンバーは、研究施設の会議室に集まった。

 会議室には幸恵達研究員だけでなく、自衛隊員達も数多く集まっている。その中には先日テレビ通話で話した、藤岡の姿もあった。

 藤岡は陸上自衛隊の三等陸尉。この階級は幹部に相当する。そんな身分の人物が、わざわざ熊本にあるこの施設にやってきた訳だ。


「こちらが今日、韓国政府から提出された資料だ」


 藤岡はそう言いながら、一枚のディスクを取り出した。

 ディスクは自衛隊員が受け取り、ノートパソコンへと投入。ノートパソコンはコードによって映像機器(テレビ)と接続されており、自衛隊員が操作する事で映像が映し出される。


【〜〜〜! 〜〜〜〜!】


 何か映像が出る前に、人間の叫び声が聞こえてくる。

 何を言ってるかも分からないぐらい、必死な叫び方だった。何度も何度も叫ぶ声は不安を煽り、だけど必死な感情だけは伝わるものだから、聞くだけで心が乱される。

 それでも意識して耳を傾ければ、その声が『朝鮮語』の類だと理解出来た。

 韓国・北朝鮮で使われている言葉だ。幸恵はそちらの言語に詳しくないので意味は分からないが、緊迫しているのは間違いない。

 そこまで理解したところで、ようやく映像が映し出される。

 どうやら撮影場所は、市街地らしい。あまり裕福そうには見えない平屋が多いので、田舎の農村部だろうか。映し出される人間……兵士の服装は質素で、体型はかなり痩せているように見えた。景色が明るい事から、朝か昼間に撮影されたのだろう。

 その市街地から少し離れた位置を、猛然と駆け抜ける『何か』がいる。

 『何か』は、建物を小石のように蹴散らす。確かに立派な建物ではないが、人間よりも遥かに大きな物体が、何十メートルもの高さまで浮かぶ勢いだ。中に人間がいたなら、どう考えても助かるまい。撮影者も通り過ぎた際の余波で突き飛ばされたのか、映像が大きく乱れた。

 改めて映像が向いた時、『何か』は遠く離れた位置にいた。

 蹴散らされた家の高さを三メートルと仮定すれば、『何か』の大きさはざっと百五十メートルはあるだろう。体表面の色は黒く、見た目は少しどろっとした質感がある。

 通り過ぎた後の姿のため『何か』の背後しか見えず、正確な姿は不明だが……どうやらイヌに似た形態をしているようだ。四肢は最早ふらつかず、本物のイヌが走る時と同じく大きく前に後ろにと振られる。それだけ激しい動きをしているのに、表面から剥がれるものは確認出来ない。

 背中には大きな、翅のような突起物が二つあった。形は甲虫の翅に似ており、背中側の大部分を覆っている。百五十メートルもの巨体とイヌのような体型からして、飛行能力はないだろうが……しかし防御としては役立つ筈。実際しなやかに動く身体と違い、翅のような部分は殆ど曲がらず、硬さを誇示していた。

 尻尾は長く伸び、五十メートル近くある。数は三本。先端がやや丸みを帯びており、見間違いでなければ『穴』が空いているように見える。


【ゴボボポボォオポポオォ!】


 変わりないのは、口から放たれるおぞましい声ぐらいか。


「オドロ五号……」


「その通り。昨日、北朝鮮に出現したそうだ」


 敦がぽつりと漏らした言葉を、藤岡はハッキリとした口調で肯定した。

 オドロ五号出現の一報を、幸恵達は今此処で初めて聞いた。

 四号までの出現パターンを当て嵌めれば、五号は昨日のうちに北朝鮮に出現する筈だった。しかし出現予想日に連絡が来なかったので、予想が外れたのか、或いは情報が隠滅されていたのか判断出来なかったが……こうして映像が出たからには、後者だったのだろう。


「(入手経路は恐らく韓国政府。スパイ活動か、賄賂か、はたまた中国経由か。ま、それは私達が気にする事ではないわね)」


 現在の韓国政府は、オドロの事を相当気にしているらしい。機密であろう映像を、翌日には日本政府に渡しているのだから。

 もしくは恩を売ってるつもりかも知れないが、実益があるのは確か。国益だのなんだのは外務省(専門家)に任せれば良い。

 映像記録にはまだ続きがある。政治的な考えは一旦脇に寄せ、オドロの専門家である幸恵は再びテレビを注視する。


【〜! 〜〜〜!】


 撮影している北朝鮮兵士の声か。誰かが何かを叫び、映像はオドロから離れた地上へと向けられる。

 映し出された場所では、何かがチカチカと光った。

 恐らく戦車、それか歩兵の武装だろう。予想を裏付けるように、オドロ五号の胴体側面で爆発が生じた。人間と言わず、大きな建物も簡単に破壊出来そうな爆発だ。

 更にパパパパパッ、という破裂音も聞こえてくる。機銃による攻撃か。戦車砲と比べれば豆鉄砲だが、人間ぐらいなら簡単に殺せる。何千発何万発と撃ち込めば、相応の攻撃力となるだろう。

 だがオドロ五号はこの猛攻に怯みもしない。

 それどころか体表面には、目立った傷さえ確認出来なかった。オドロ三号時点で十分発揮されていた防御力は、更に強化されたらしい。

 これでは駄目だとばかりに、空からは航空機が攻撃を始めた。

 機銃のみならず、大きな爆弾の投下――――つまり空爆も行った。オドロ五号は非常に素早く(時速四百キロは出てきそうだ)走っていたが、操縦士の技量か、はたまた単調な動き方だからか。兎も角落とされた爆弾の半分ぐらいは外れずオドロ五号の背中に着弾。戦車砲よりも遥かに大きな爆発が起きる。

 しかしオドロ五号は止まらず、そのまま駆け抜けていく。映像記録を見た限り、頭部は多少の欠損があったが、胴体部分は目立った傷を負っていない。恐らく背中の翅が装甲の役割を果たしたのだろう。そして泥の塊であるオドロにとって、なんのためにあるのか分からない頭よりも、動く手足のある胴体の方が重要。走行速度は全く落ちず、どんどん突き進む。

 空爆への適応も果たしたとすれば、いよいよオドロを止める術は一つしかない。

 恐らくその攻撃が間もなく始まる……幸恵がそう思った時、オドロ五号は奇妙な動きを見せた。いきなり立ち止まるや三本ある尻尾をもたげ、空に向けたのである。

 ()()()()()()()()()

 黒い塊だった。一個や二個ではなく、一秒に三連射はしているように見える。それが絶え間なく、三本の尻尾全てから放たれているのだ。

 放つ行動はしばらく、三十秒ほど続いただろうか。五号はすっと、まるで目があるかのように頭上を見上げる。


【ゴポポォォ】


 果たしてその声の意味はなんなのか。

 幸恵には分からない。分かるのは、しばらく経った後映像に映ったものだけ。

 バラバラと降り注ぐ、金属片らしきものがなんであるかだ。


「……本当に最悪の適応をしてるじゃない」


「え? ど、どういう意味です?」


「今し方映像に破片らしきものが映ったのを見たか? あれは恐らく、弾道ミサイルの残骸と思われる」


「弾道、って……」


 藤岡の補足により、敦や他の研究メンバーも理解した。賢治のような一部を除いてその顔を青くした事からも明らかである。

 オドロ五号は『対空攻撃システム』を獲得したのだ。恐らく仕組みとしては長射程の機銃(弾丸はヘドロだろう)を撃ち込み、破壊するというものか。

 核兵器というのは、基本的には誘爆しない。現在主流のインプロージョン型は起爆のプロセスが複雑なため、迎撃時の爆発ではその条件を満たせないからだ。使う側からすれば安全な仕組みは、迎撃する側の安全性も担保する。壊れた核弾頭では、降り注ぐ放射性物質以外にオドロを傷付ける術はない。

 とはいえ、飛んでくる弾道ミサイルを撃ち落とすのは簡単な事ではない。弾道ミサイルとは長距離を飛ぶミサイルであり、その速度は音速の数十倍に達するほど速い。そんなものを撃ち落とすとなれば、高度なセンサーと照準精度、そして射程距離が必要だ。

 日本や米国の迎撃システムでさえ、弾道ミサイルの撃墜成功率は試験でも百発百中とはいかない。実戦でどうなるかは未知数。人類最先端の技術でも困難な技を、オドロ五号は難なく成し遂げてしまった。

 そして恐らくこの能力は、核攻撃への対策として身に着けたものだろう。核攻撃を物理的に耐えるのは無理だから、迎撃能力を会得したのか。

 だとしたら、あまりにも的確過ぎる。ランダムな変異の積み重ねである進化では考えられない『適応』だ。核攻撃の性質を理解し、自身の限界を知らなければ、このような改善は起きない。


「この後北朝鮮は更に数発の弾道ミサイルを発射。だが全基迎撃され、オドロ五号は白頭山に到達。自爆を許したらしい」


「……現状迎撃率百パーセント。サンプル数の少なさに目を瞑れば、人類以上の技術ですね」


「ああ。最早長距離核攻撃は通用しない。いや、あの射撃を戦闘機に向けるようになれば、まともな戦闘すら出来ないだろう」


 弾道ミサイルよりも戦闘機の方がずっと遅い。オドロ五号の射撃を使われたら航空戦力は簡単に全滅する筈だ。なのに航空機の破壊に使わなかったという事は、オドロ五号にとって航空戦力は既に脅威ではないのだろう。

 航空支援は効果がなく、核兵器も届かない。こうなっては軍事的手段でオドロを食い止める事は、事実上不可能だ。核さえ使わなければもう何回かは凌げたかも知れないのに……と悪態を吐きたいところだが、核攻撃以外でオドロを止める手段を閃いていない以上、こんな意見になんの正当性もない。

 映像はぷつりと終わったが、誰も口を開かない。ざわめきさえもない。話を先に進めるためか、藤岡は小さく息を吐いてから、幸恵に問う。


「こちらから聞きたい事は二つ。一つは、恐らく三日後に現れるオドロ六号の戦闘能力は如何ほどか。今回と同程度で済むと思うか?」


「思いません。オドロ四号の映像記録がないので、正確には分かりませんが……オドロ五号の防御力は、熊本の防衛線を突破した三号よりも向上しているように見えます。三号の時点で、通常兵器に対する防御力は十分だった筈です。それを改善しているのですから、六号も様々な部分が改善されるでしょう」


 実際は、そう単純ではないかも知れない。強化・改善すればその分様々な『コスト』も増す。何処かで採算が取れなくなれば改善は終わる筈だ。

 だが、それがどのラインかは分からない。そもそもオドロ側がコストを気にしているかも不明だ。次も改善される、という最悪を想定しておくべくだろう。


「では次の質問だ。次の出現箇所の予想は?」


「出来ません。少なくとも最寄りの火山を狙っている訳ではないと思います」


 これまでにオドロに狙われた火山は、高火島、阿蘇山、そして白頭山の三つ。

 太平洋上に浮かぶ高火島と九州地方の阿蘇山の間には、桜島という有名な火山がある。オドロが単純に火山を狙っているのであれば、阿蘇山の前に桜島を襲撃する筈だ。阿蘇山から見た場合でも、白頭山より桜島の方が近い。

 今のところ法則性が掴めない。もしもオドロの気紛れであれば、今後も予測なんて出来ないだろう。もう何度か襲撃があれば『好み』ぐらいは分かるかも知れないが。


「……分かった。ではここで一つ、残念な知らせがある」


 幸恵の答えを聞いた後、藤岡は本当に残念そうな表情を浮かべる。


「と、言いますと?」


「米国から、北朝鮮とオドロ研究の連携はしないよう要請があった」


「なっ!?」


 語られた言葉は、残念なんてものではなかったが。

 オドロは出現を重ねる度、明らかに体質が変化している。

 だからこそ最新世代のサンプルが重要なのだが、米国の『要望』はその最新サンプルを手にするなというものだ。それどころかオドロ研究の連携をしないという事は、市民の避難など人命に関わる情報さえ共有出来ない事を意味する。

 確かに米国と北朝鮮は、仲が良いとは言い難い。北朝鮮が言うように、敵国といっても過言ではないだろう。日本にとっても北朝鮮は好ましい国ではなく、実質敵国のようなものである。

 だがオドロは国など関係なく襲撃し、市民を踏み潰していく。世界的に協力して克服すべき事態なのに、それをするなとはどういう了見なのか。


「言いたい事は理解する。だが私個人も米国と同じ立場だ。あの国が世界のために協力するとは思えない。オドロの研究データを利用し、自身の体制強化に使うだろう」


 怒りを抱く幸恵を、藤岡は淡々とした口振りで宥めた。

 それが立場上のものなのか、本当に個人の意見かは判断出来ない。しかしその言い分が、全くの出鱈目と言えない程度には幸恵も北朝鮮という国を疑っている。

 口では平和や協調をいえども本心はこんなものと思うと、自分の情けなさから幸恵は言葉が出なくなった。


「無論、米国とて最新サンプルの重要性は理解している。様々なルートから狙っていて、確保出来れば、日本にも秘密裏に提供すると言っている」


「……それ、米国側もオドロの研究を独占しようとしていませんか?」


「私の立場からは言えない」


 その態度が如実に物語っている。幸恵はもう、尋ねるのも嫌になった。

 だが予測出来た展開でもある。

 オドロは驚異的な存在だ。もしもその仕組みの一端でも理解出来れば、軍事や産業などで大きな技術進歩があるかも知れない。日夜競争を繰り広げるのが現代の国際社会。飛び抜けた力が手に入れば、安保・経済の両面で繁栄を享受出来るだろう。

 そして何処かの国がその力を得ようとするなら、自分達も得なければ不味い。競争に勝ち抜く力がなければ、衰退は免れないのだから。だからライバルとは協力出来ない。


「(危機感が湧かない、というのもあるんでしょうけど)」


 オドロは現状、アジアの二ヶ国にしか現れていない。太平洋を挟んだ国であるアメリカからすれば、遠い場所での出来事に思えるだろう。

 確かにオドロの目的も、行動範囲も分かっていない。アメリカやヨーロッパが活動圏外という可能性は十分あり得る。

 あり得るが、果たして本当にその程度の存在なのか。


「(……忌々しいけど、人死が出るよりは間違いなくマシ)」


 人口三億超えの大国でオドロが暴れたら、犠牲者はどれほどのものになるのか。いくら当事者意識を持ってほしくとも、人が大勢死ぬのは幸恵としても望んでいない。

 出来れば本当に、オドロの活動範囲が狭いものであってほしい。

 その願いは三日後――――オドロ六号がアメリカ・セントヘレンズ山を襲撃した事で、呆気なく打ち砕かれた。

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― 新着の感想 ―
オドロの進化スピード、まるでシンゴジラみたいですね(;^ω^) そしてついにアメリカにも上陸…………他に火山がある国と言えば、アイスランドかギリシャか…………。 というか、なんでいきなりアメリカ本土?…
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