堕天は意外と待遇良さげ
(……これで、終わった。)
目の前には滅多刺しにされた人型。敵対勢力最後の神を殺した。彼に残されたことはもう、時間の流れに身を任せて餓死するのを待つだけの筈だった。
「……□□□□?」
「……………………なんで、ここにお前が」
目の前に現れた彼の親友の神によって身柄を拘束されるまでは。彼は不思議でたまらなかった。なぜここにいるのか、と。その後、彼を育て、殺戮兵器……勇者にしてしまった時空の最高神、クロノスによって堕天が決定された。
判決の後、その最高神は泣いて謝った。その様子はさながら、我が子の育て方を間違ってしまった親のようで。彼は、「気にするな」とだけ残して元の世界に堕天した。
この二人に血縁関係はなかったものの、まるで本当の家族のようだと、他の神はよく言っていた。
「……ここが俺の故郷、なのか」
彼はそう小さく呟く。目の前に広がっているのは住宅街と、その端にちょこんとそびえ立っているダンジョンの入り口だった。それを見て、まだ幼くて無垢だった頃の会話を思い出す。
『クロ~!この、ダンジョンってなに?』
『ふむ……簡単に言えば、危険の巣窟だ。元はといえば我らが戦を繰り返すうちに空間が歪んでできたもの。我らとて無視するわけにもいかぬのだ』
『大変だねぇ~』
(……そういえば、俺はどう暮らしていけばいいんだ?)
堕天した時に戸籍とお金はもらっている。戸籍的にまだ高校生なので仕送りもしてもらえるらしい。だが、住む場所がない。拠点を見つけたら生活用品を送ると言われているが、家を借りようにも親のサインがない。というか、親がいない。どうしたものかと立ち止まっていると、後ろから声を掛けられた。
「あの……」
「?」
「道路の真ん中に立つのは危ないですよ?」
「……すまない、感謝する」
「どうかされたんですか?武器もないし、ダンジョン攻略者ってわけじゃないと思いますし……」
「まあ、なんというか……家がなくてな。この近くに宿泊施設はないか?」
嘘は言っていない。ただ神界から堕天してきたことを言っていないだけ。
「宿泊施設ですか……ありますけど、お金とか大丈夫なんですか?」
「ああ。クロ……親代わりの人が月100万?送ってくる」
「100万?!」
「これだけあれば不自由ない生活ができるらしいからな。そこら辺は丸投げしている」
「へ、へぇ~……」
100万という金額に無理矢理笑顔をつくって頬がひきつらないよう努力している少女。そんな様子を見て勘付いてしまった。
(これ絶対普通の金額じゃないな……)
「あの、おにーさん?」
「なんだ?」
「その、少し聞きにくいんですけど……」
「うん?」
「なにか、溜まってたり……しません?」
「溜まっている?」
「人の三大欲求とか、繁栄に必要なこととか……」
(なんのことだ……?)
今溜まっているものといえば、ない。なにか分からないので少女を見つめていると、話をそらすように提案をされた。
「あの、もしよかったら私と同居しません、か……?」
「……お前に利点がなくないか?端から見れば謎の男だぞ?」
「独りは、寂しいので……あと、お料理とかはしてもらいます。お掃除以外の家事が壊滅的で……」
「なぜ一人暮らしをしようと思ったんだ……まあ、そっちの利点は分かった。俺としても文句はない」
「じゃあついてきて下さい!」
「あ、あぁ……?」
妙に押しが強くなった少女に連れられて道を進む。
「私は|睦羅夜宵、15歳高校生です。おにーさんは?」
「俺は……平家明斗15歳。同い年だな」
「え、そうなの!?じゃあタメでいっか!」
「好きにしてくれ」
こうして、世間知らずの元勇者と独りの少女の物語が始まった。
明斗くんは偽名です。本当の名前は物語のなかでわかる。




